Linked Horizon 4thシングル『真実への進撃』
『進撃の巨人』関連としても4枚目となる今作が、6/19(水)に封切りしました!
ちなみに6/19はLinked Horizon及びSound Horizonの主宰にして作詞作曲編曲演出ボーカル国王などを務めるRevo陛下の誕生日でもあります!おめでとうございます!
(※この記事では敬称を略させて頂きます)
TVアニメ『進撃の巨人 3rd season』の前期では、それまで担当してきたOPではなくEDテーマとして起用されたことも話題を呼んだリンホラが、今作では再びOPを担当することに。Revoを持ってして集大成と豪語させる楽曲「憧憬と屍の道」に度肝を抜かれたファンも多かったようです。
ちなみに僕は「憧憬」については、OPサイズが販売された日にそのままレビュー(感想)を書かせて頂いています。
進撃3期OP「憧憬と屍の道」が微妙だったので音源版を買ってみたら評価が逆転した
多くの人に読んで頂けているようで嬉しいです(タイトルのせいもあるかもしれませんが、ありのまま書いたので許してください…)アルバム『進撃の軌跡』以降、何かとリンホラの記事を書かせて頂いている関係で、僕について「いつもの人」というイメージをお持ちの方もいらっしゃるようです。ありがとうございます。
少し遅くなりましたが、今回も珠玉の2曲について書かせて頂きます。お楽しみ頂けたら幸いです。
楽曲紹介&レビュー
3曲を使い1つの世界観を表現していた前作「楽園への進撃」とは異なり、OP主題歌「憧憬と屍の道」と、ショートPVが先行公開されていた「13の冬」という2曲のみを収録した真っ向勝負のCDがこの「真実への進撃」です。
アルバム『進撃の軌跡』から世界観表現に突出したCDを打ち出してきたリンホラの「集大成」を語るにはシンプルな構成ではありますが、凝縮された1曲1曲の重みは圧倒的な音楽体験として我々の心を鷲掴みにしてくれました。
1曲ずつしっかり見て(聴いて)行きましょう。
憧憬と屍の道
――それは…
誰の悲願か 誰の夢か悲しみ 憎しみが 交わって
紅蓮の矢は 互いを目指す
※この曲については、上記した楽曲感想記事の内容を一部参照して参ります。特に音楽的に感じたポイントは前記事に書いています。まだお読みでない方は、目を通して頂いた方がよりこの記事を楽しめます。
言わずと知れた代表曲「紅蓮の弓矢」を踏襲したスタートでありながら、どこか物哀しげな音使い。前のめりで理想と自信に満ち溢れていた"あの頃"との違いを明確に感じさせてくれる開幕でこの楽曲は始まります。
特徴的な構成としてA→B→C→サビとTVサイズの時点でメロ部分が3種類存在しているのが楽曲的な裏切りである…と書きましたが、解禁されたフルサイズは一度でもTVサイズを聴いた方のおよそ100%が「!?」となったに違いない、とんでもなく挑戦的な構成の楽曲に。
それもそのはず。
メロが3パターン存在しているというより、この曲はメロからサビに飛ぶという一般的な構成の楽曲ですらなかったのですから。「サビが来ると思ったら来ない」という現象はLinked Horizonでも初めてのこと。アニメOP曲という括りでもほとんどない展開ではないでしょうか?
音楽界隈ではプログレッシブ・ロックと呼称される、いわゆる「定まった展開のない音楽」に極めて近い形です。
RevoはSound Horizonにおいて物語音楽というジャンルで活動し、音楽で1つのストーリーを紡ぐことに挑戦し続けてきたことからこういったスタイルは得意ではあるのですが、それでいて楽曲進行には整った流れが確かに存在するため、プログレと呼ぶのが正確かは分からない独自性の強いバランスの音楽を創ってきていると思います。
今作はその中でも特に楽曲単体の印象がプログレの方向を向いた一曲に仕上がっていると言え、4分半という時間の中で2回以上登場するメロディがCメロ(20秒程度が3回)のみという大胆な創り。慣れていない人がこの曲を聴いて即座に「最高だ」と言えるかどうかを考えると首を傾げてしまうのが本音です。
しかしこの楽曲はあくまで『進撃の巨人』という作品の世界観を表現するために創られた楽曲であり、その作品を彩ってきたリンホラの「集大成」を体現した楽曲。それを踏まえて聴いていくと話は変わってきます。
音楽的展開には全く定まったものがない楽曲ですが、『進撃』の世界を知っていれば1つの壮大な解答に辿り着くことができるように創られているのです。
「憧憬」はTVサイズでは1分半かけて前に進まなければならないエレン達――調査兵団の気持ちを一心に語り切った音楽になっています。ところがFULLでは(便宜上)Cメロの直後にサビ(だと思っていた部分)をキャンセルし、がらりと違った音楽が流れ出す構成になっています。
その後は共通したCメロを合計三度挟みながら、その後に違ったフレーズが別々に挿入されるという分かりやすい(?)サンドイッチ構成。そしてこのCメロは調査兵団全体を総括したテーマの部分でありながら、団長であるエルヴィンの個人的な想いが強く反映されたパートです。
「この壁の向こうに何がある?」 幼き日々に憧れた
真実がすぐそこにある 屍の道の先に――
自分が原因で死に追いやってしまった父の無念を晴らし、真実を知りたいがためだけに調査兵団の団長にまで成り上がり、"自由"を免罪符に数多の仲間達を犠牲に突き進んできたエルヴィン。強気な彼の裏に隠された思惑は、決して褒められたものではなかったかもしれません。
それでも彼に導かれた仲間達は決して不幸ではなかったはず。
彼の意思は壁内人類の希望となり、彼の遺志は前を向く力になった。彼の思惑とは裏腹に"エルヴィン・スミスの存在"は、"調査兵団全体の意志"として語られるに足るものに昇華されていた。3期の展開と照らし合わせればそうするべきであるとしてこの曲は創られた。そういったメッセージを感じました。
そしてその意志と対になる形で語られるのは、これから彼らを待ち受ける世界の真実です。アニメではまだ語られていない、「知らない方が幸せだった」とすら言える壁内人類にとって残酷な現実、その背景が無慈悲に突き付けられます。
嗚呼…
可能性に満ちていた筈の 少年達の器に
運命はそれぞれ 何を吹き込んだ?
外の世界にあるのは、得体の知れない巨人と戦い続けてきた彼らの進撃とは全く違った命のやり取り。狭い世界からの脱却を望んだ彼らを待っていたのは、ただ「生きる」ことだけを目的として強いられるより大きな世界の理でした。それは、彼らが忌み嫌った壁内で安寧を享受する者達の在り様を肯定するとも言える真実です。
壁を蹴破り壁内を混乱に陥れ身内を殺したベルトルトやライナー、アニに大猿の巨人達。彼らがどんな意志を持って"進撃"してきたのか。その一端を(極力ネタバレにならない形で)込めたメロディが反撃するかのように差し込まれています。それがTVサイズのサビをキャンセルし「勢いを止めてくる」というのが非常ににくい演出。
この空の向こうに何がある?
幼き日々に囚われた 昔日の灯が照らし出す
屍の道の先を――
それを押し返すように再び《調査兵団の意志》(と書いて「Cメロ」と読む)が流れてくる。楽曲内で意志と意志の戦いが行われているというのが、この「憧憬と屍の道」を単一の楽曲を超えた構成に仕上げている大きなポイントです。
そして2回目の《調査兵団の意志》が響き渡った直後には、壁外に存在するもう1つの意志が顔を出します。それは彼らが辿り着いたエレンの家の地下室に眠っていた真実。グリシャ・イェーガーが遺した、世界の理に反する"進撃"の理由とその証です。
空の上から見たら 一体 何が見えるのだろう?
【ここ】ではない【どこか】へ 行ってみたかった
グリシャにはグリシャの奮い立つ目的があった。
それは決して軽んじられるものではないし、彼の過去を切り捨てて良いわけでもありません。
それでも「彼が自由を夢見た代償」によって、より多くの犠牲が生まれることになった。死ななくて良い人が死ぬことになったのかもしれません。結果論ですが、それが無ければ新たな殺意や悪意は生まれず『進撃の巨人』の物語は紡がれなかっただろうとさえ言えるほど、グリシャの行動や目的には大きな意味がありました。
だからこそその真実は、ある人間にとっては尊重すべき同胞であり、ある人間にとっては憎むべき仇敵となり得た。それはあらゆる困難を乗り越えて団結してきた調査兵団の面々であっても、意見が分かれてしまうほど強烈なものだったはずです。
それがどんな結論であろうと、たとえ道を別とうとも、彼らは前に進み続けるしかない。ここまで積み上げてきてしまった屍の数を想えば、今更もう進撃の歩みを止めることはもうできないのは明白です。
卓越した演奏陣による長い間奏が魅力だった過去のリンホラ曲から一転、極短い時間に収められ、それ故に強い意志を加速させるような間奏を挟んで、《調査兵団の意志》は三度その旋律を響かせます。
罪の重さを背負うほど 踏み出す明日に意味がある
悪魔は低く呟いた 屍の道を進め
しかし、その先に待っているのは次なる世界の真実ではありません。最後を飾るのは、全てを知った上でなお前に進もうとする彼らの意志だけがひたすら前のめりに体現されたメロディ。OPテーマにも引用された「集大成」を感じさせるあのメドレーフレーズです。
誰もに戦う《理由》がある。
果たすべき《使命》がある。
追い求め続ける《理想》がある。
全てを賭して進撃する《目的》がある。
晴らさなければならない《無念》がある。
>ー《紅蓮の衝動》が駆け抜けた軌跡→
そのどれもが等しく尊いものであるのならば、全ての"最後"に我々が見届けなければならないのは他でもない、放たれた「弓矢」の《物語》である。
>ー《自由への覚悟》を散らして→
何年もかけて、作品の登場人物ですら知り得ない全てを――意志に殉じた者達の「軌跡」を見てきた我々が、最も強い感情を向けられるのはきっと「自由への進撃」を胸に秘めていた「翼」の姿なのだろう。
>ー《捧げられた花弁》を束ねても→
あるかも分からない「楽園」の存在を信じて、目指して、最期には辿り着けなかった、捧げられた「心臓」の重みと共にあろうとすることは、決して薄情なことではないはずだ。
>ー《手向けるべき真の暁》には早すぎる→
「真実」に向けて進撃し続ける彼らの終わりなき戦い。その行き着く果てへ共に歩み、散っていった全ての魂に凱歌と「鎮魂歌」を届けること。それこそが『進撃の巨人』であってほしい。…そんな"1人のファン"としての願い。
>ー太陽はまだ沈んでいないのだから→
公式に近い人間でありながら「1人のファンである」というスタンスを決して崩さないRevoだからこそ、様々なものを作品から感じ取った上で、この「集大成」を調査兵団の戦いの歴史で彩ることを選んだのではないか、と僕は感じました。
>ー進み続ける波の彼方へ――
物語を一気に駆け抜け、世界の真実との対峙を表現したこの楽曲は、最後に先を感じさせる余韻を残して終了します。集大成でありながら、終わりではない。それを表現した楽曲になったのは、アニメスタッフ側からの要望であったようです(ラジオ情報)そのために楽曲が高速化したため、Revoの滑舌にしんどい曲になりました。…心臓を捧げよ!
このメドレーフレーズですが、FULLサイズになりTVサイズ音源版から大量にSEが追加されていることで、音のミックスに調整が入っているようです。かなり聞こえ方が違います。楽器的なこだわりに重点して聴いてみたい場合は、TVサイズ音源の購入をオススメします。
FULLサイズでは最後のドラムのツーバスの音にヘリのプロペラ音が重なるように創られていて、最終的にSEとツーバスの音が混合されることで「地上に飛空艇が近付いてきている」感覚を音楽単位で感じることができるようになっており、これも今までにはない物語的なアプローチ。楽曲全体で世界観を練り上げようとした工夫がこういったところからも感じられます。
正しく『進撃の巨人』とLinked Horizonの"ここまでの集大成"と呼ぶに相応しい楽曲として打ち出されていると思います。