新たな発展と共に大きくなるファンの声。
9割以上が応援を意味するものの中で、ほんのわずかな悪意ある声がアイドルたちのの心を苦しめていきます。
1つ1つは個人にのみ影響を与える小さなもの。しかし積み重なれば周りもそれに巻き込まれ、やがては全体を巻き込む極大の脅威へと変貌行ってしまう。
その侵食を途中で食い止めることができるか否か。それぞれの闇が大きく膨れ上がって行く中で、最悪の事態を避けることができるのか。その過程を描いていく物語が、始まろうとしています。
すぐにどうにかできることではない。動くことがプラスにはたらくとは限らない。それでも何かを変えて行かなければ、乗り越えることは決してできない。
誰も悪くない。でも本人たちは苦しくてしょうがない。その言葉が意味するものを実感する第7話。その一幕を今回も紐解いて行きましょう。
陸と一織の距離
陸はSNSに届いていたファンからの声を受けて、自然と一織と距離を取るようになってしまいました。
その空気を感じ取った一織は陸に対して苦言を呈します。2人を比べる声は当然ながら一織の元にも届いているでしょうし、それを踏まえて彼が陸のことを案じないとは思えません。一織は陸が落ち込んでいる可能性を常に考えて、2人の時間を過ごそうとする少年だと思います。
ですが、露骨に距離を空けられてしまってはどうしようもないもの。この難所を乗り越えて行くには2人が適切なコミュニケーションを取り、関係性を乱さない努力をすることが重要です。そのやり取りを拒絶されてしまったら、思うように事は運びません。
陸の態度はその一織の気持ちに反するものであり、一織が胸に秘めた厚意を無下にする行いでもあります。さらに言えば、一織からすれば「本心を言ってもらえてない=陸は自分のことを快く思っていない」可能性が残り続けてしまいます。
それらを全て包含して「裏切者」という言葉が出たのだとすれば頷けもします。それに一織は徐々に柔軟になってきているとは言え、自分の考えたプランを正確に遂行したいという気持ちが強いことに変わりはありません。この一連の動き自体が、一織にとって感情的になりやすいものなのも逆風でしょう。
しかもそれは、一織が承認される側だから言えることです。
一織の元にも「お前が陸くんからセンターを奪った」という類いの暴言は届いているだろうとは言え、それによって彼が受ける存在否定は陸と比較するとどうしても劣るはずです。
元々「七瀬さんを救うため」に動いた一織と「自分の不甲斐なさで仕方なく」動かざるを得なかった陸ではスタートラインも異なっており、頭の回転力を考えてもダメージの総量では陸が遥かに上だと考えられます。
もちろん本来は比較してどちらが上と言うべきことはありません。この論拠は同じ攻撃を受けていても、「潤沢な体力を残したまま防御を張っていた者」と「ギリギリの体力かつ無防御でタコ殴りにされた者」では結果が異なるというだけのことだと思って下さい。
それを同じラインに並べて「それくらい予想しておけ。自分だって辛い」と言ってしまうと、2人の関係性はどうしてもギクシャクしたものになってしまいます。ですから、ここは一織が陸の気持ちをより深く慮って、陸の痛みや苦しみを受け入れて歩み寄ってあげるのが"正解"だろうと思っています。
しかし、それを一織に求めるのは酷というものです。
一織にも抱えるものがあり、部分部分では陸を上回る負担を強いられているところもあります。ここで彼が判断を誤ったとするのはあまりにも無情であり、一織を責めることが"正解"であるとはとても言えません。
何より陸自身が、そういった想いで一織とやり取りしようとしているはずです。「これ以上、一織に迷惑をかけられない」という想いから、一織と距離を空けてしまっているのが現状でしょう。一織がこうなることを予期して構えていたかどうかは、陸には分からないことなのですから。
これら全てが当人の"良心"から来るものには違いなく、周りが当事者を責めたところで解決する問題ではありません。
とは言え、指摘されずに本人たちだけで解決するのは大変に難しい袋小路に入ったのもまた事実です。
この項の中だけで凄まじい数の接続詞を使っていることから、僕が彼らの関係性の複雑さに手を焼いていることを感じ取って頂けるかもしれません。いやでも…だから…しかしですね…そうであっても…という話し方しかできないほどに、彼らの置かれている状況は混迷を極めている。そう言わざるを得ないのです。
ただ想い合っているだけなのに、それがお互いを傷付け合う結果になってしまう。
そんな厳しい現実を前にして、彼らは真に強い絆を取り戻すことができるのでしょうか。そして彼らに的確に手を差し伸べてくれるものは現れるのでしょうか。今はそれを願って見守って行こうと思います。
生真面目すぎる逢坂壮五
陸と一織のファンの軋轢は確実に拡大し、他のメンバーたちにも伝わります。
どちらが悪いという話ではもちろんなく、かと言って言い争っているファン(民度があまりにも最悪)に言葉をかけるわけにも行かない。明確な解決策がない中では、実質的に部外者である他のメンバーができることは何もないと言わざるを得ません。
その中でも逢坂壮五は、人一倍その事実に気を遣ってしまう青年でした。大好きな叔父が身内に罵倒されていた時に、何も擁護できなかった自分を重なってしまうようです。
実際には「できない」と「しようがない」は別問題。トラウマを抱える彼が同一視してしまうのは理解できるとは言え、今の立場で壮五が気にし始めても、ただただ心を疲弊させるだけの事柄なのも事実です。それを考えすぎてしまうところから、改めて逢坂壮五という人間の生真面目さを感じます。
彼はそんな自分を「無難なタイプ」だと評していましたが、こういった個性的な面子の集まりにおいて、意外とそれは窮屈なステータスになってしまうものです。
無難とは言ってしまえば「八方美人」ということ。誰に対しても当たり障りない対応を心掛けているから、人を不快にさせることがないのだと解釈できます。
そしてそれは、彼の努力があって初めて成立する価値観で。気を向けるべき対象が増えれば、それだけキャパシティの圧迫に繋がってしまうのです。
現に壮五は、たまたま出会っただけの女の子(環の妹?)の「誰にも言わないでください」という要求をしっかり守っています。彼女は、もう会うかも分からない他人です。そんな相手を気遣うより、彼女のことを環に共有した方が今の壮五にとっては遥かにメリットが大きいでしょう。
しかしそうであっても「何か理由があるのかもしれない」と考えて、赤の他人の言いつけさえ律儀に守ってしまう。これは逢坂壮五を理解する上で、結構大きな歪みなのではないかと考えています。
そもそも環の妹であるという確証もないので、「黙っている方が変に環を刺激しなくて良い」という保守的に考えたところもあったかもしれません。どちらにしても、メリットを得るよりデメリットを回避したい気持ちが強すぎるという印象です。
現実的に考えると、この世の全てのデメリットを回避することはどうしてもできません。そればかりか、回避を優先しすぎたせいで前に進めず、結果どうしようもない行き止まりに閉じ込められてしまうリスクは常に残り続けています。
壮五が環との間に滲ませる微妙な噛み合わなさと、不可抗力でできてしまった環への秘密。これが組み合わさることで、何か大きな問題に発展…しなければ良いのですが…。
ムードメーカーである三月が他の壁にぶち当たっており、賑やかしであるナギはそちらの対応でいっぱいっぱい。アイナナの間にはどうしても暗澹とした空気が漂います。
そのせいもあり、どうしても不穏さを感じてしまう現状。悪い予感は当たるものとは言いますが、外れることを祈って今後の物語を追いかけます。
二階堂大和の勇み足
この状況に誰よりも頭を悩ませる者がもう1人。アイナナの最年長にしてバランサーの二階堂大和です。
彼は非常に状況をよく見ていて、今のアイナナが抱える問題の全容をしっかりと理解しています。三月が苦悩している理由にもほぼ完璧に勘付いており、物的な事実だけではなく他人の感情に至るまでを正確に読み取って判断できています。控えめに言って凄すぎるぞ。
その情勢を冷静に見極めて彼が実行した打開策は、MEZZO"の2人の関係性を取り持つことでした。壮五に黙って環に都合の良い話を吹き込み、環から壮五への矢印を補強しようとしたのです。
実際、壮五は環のことを悪く思っているわけではないのですから、大和の取った選択自体は"現状のベスト"と言って良いものだったと思います。「裏でこう言っていた」という話を聞くと、本人から直接言われるよりも肯定された気持ちが強まるのも事実です。
それでもそのやり方はマズすぎた。どんな内容であれ、大きく事実と反さないとは言え、やはり「言っていないことを言ったことにする」のは悪手です。それはどう転んでも"嘘"であり、それがバレた時に本人の心を深く傷付けるリスクを孕みます。
ここは本人が「キャパオーバーだ」と言っているように、限界ギリギリでのどうしようもない判断だったのだと思います。ですが本人が「もう少しでキャパオーバー」だと感じている時、往々にして既にキャパオーバーになっているもの。今回はそういった彼の焦る気持ちが、リスクの高い自分の行動を容認してしまったのかもしれません。
この行動によって環は壮五との関係をより良いものしようと思うようになり、こういった外部からのテコ入れによって「MEZZO"はより良い関係を築くことができる」ことも分かりました。第7話時点での結果だけ見れば、大和の行動は今までにないプラスを生み出しました。
ですが客観的に見れば環は今、「壮五に隠し事をされ」「大和に嘘をつかれている」状態。しかも2つ目は壮五と大和の間も意思の疎通が取れていない始末。割とデカめな爆弾を2つ抱えたままスピードを上げてしまっており、見ていて全く安心感がありません。
第7話において唯一の心温まるやり取りがこの辺りなのですが、正直とてもそういう気持ちで見ていられません。尋常じゃないほど首の後ろ辺りがゾワゾワします。そしてここを疑って見てしまうと、第7話は最初から最後まで徹頭徹尾完全な地獄です。どうして?
何もないはず…何もないはず…でもどうせ…何か…あるんだろうなぁ…。それが率直な感想です。このアニメは第何話から明るい気持ちで見られるんでしょうね。