6話までしっかりと積み上げてきた関係性を活かして、7話からより深く重い作風へとシフトして行く『SK∞ エスケーエイト』。
1話完結型ではなく1つに繋がったストーリーの中で、毎週しっかりと感情を刺激する名シーンを展開。視聴者のボルテージを毎週のように底上げし続けてくれています。
この記事では1~6話の感想記事の内容を踏まえ、7~9話の見所を1話ごとにお届け。来るべき最終回に向けて、今一度彼らの挑戦を振り返って参りましょう。
目次
第7話 つりあわねーんだよ
「S」の創始者である愛抱夢に見初められ、その実力とポテンシャルの高さを確実に界隈へと見せつけているランガ。
期待のルーキー「スノー」と言えば、もはや知らない人はいないレベルにまで成長。彼をスケボーの世界へと招き入れたレキも鼻高々です。
周りからの評価、実際のビーフにおける成果は、ランガの胸に確かな自信を宿らせます。そして人間とはこういった自信を持つ自分の存在に気付いた時にこそ、今までにない急激な成長を遂げていくものです。
自分はできる、周りから認められるほどの力を持っている。その心の変化は行動に反映され、より大胆かつ物怖じしない滑りを実現しています。元々持っていた素質とバックボーンがそれをより強固なものとし、一気に「S」のスターダムを駆け上がらせました。
チェリーやジョーも認めるほどの逸材へと進化を遂げていく中で、表情や人間性もより晴れやかなものに変化して行きます。1話の頃を考えれば本当に見違えるほどです。誰よりもまっすぐな、夢と希望を感じさせる少年に成長しました。
しかしそれによって変わってしまう関係もありました。初心者に教える側だったはずのレキは、気付けばランガの後ろをついて行く一般人になり下がってしまったのです。
"スノー"という新進気鋭のルーキーから彼らを知った者にとって、重要なのは"今"目の前にいる彼らです。そこに至るまでの"過去"の話は大した意味を持ちません。
スノーは愛抱夢に認められるほどの存在だが、隣りにいる奴は「どうして一緒にいるのかも分からない」ような"雑魚"。気に留める必要もない相手。強い者に注目したいだけの外野にとって、それだけが記憶しておくべき事実でした。
別に彼らはレキを貶めたいと思っているわけではないでしょう。ただ、スノーに興味を向けるに当たって、レキは必要ではないと判断しているだけ。悪意さえもない無関心。向けられる感情の格差が、スケーターとしてのレキの心を蝕みました。
「いつの間に俺たち…こんなに差がついてたんだ?」
ランガはまだスケートを始めてたった3ヶ月。ずっと前から努力してきた自分が、そんな相手に簡単に追い越される。それだけでも劣等感を刺激されることなのに、その相手は自分が指導した存在で。しかも今では掛け替えのない友人にまでなった、大切なパートナーです。
いくら気にしたくないと思ったとて、それはどこかで気になり出してしまうのが必然でしょう。そして気にし出したら最後、今まで気になっていなかった言葉や事実までも気になるようになり、「あの時も」「この時も」と自分と相手の差を探すようになってしまいます。
自分の心を最も強く苦しめるのは、避けようのない自己否定です。いつも前向きだったレキも、一度その沼にハマれば抜け出すことは容易ではありません。
むしろ前向きだったからこそ藻掻き苦しみ、抜け出せなくなってしまうのでしょう。そんなレキの苦悩のことなどいざ知らず、周りの評価は否応なく彼の傷口に塩を塗りたくってきます。
いつしかその劣等感はレキの中に大きな壁を作り出し、ランガのことを避けるようになってしまいます。それでもランガはレキのことが前と変わらず好きなままで。それ故に彼から向けられる好意が、より大きな重圧となってレキの心を締め付けました。
「ランガ…届かねぇよ…俺には」
ランガならいとも簡単にやってのけることが、自分には1回足りとも成功できない。自分も横に並び立てる。その資格がある。その自信と事実が欲しいだけなのに。現実は無慈悲に、彼らの間にある差をレキに突き付けるのです。
俺はついてけねぇから
愛抱夢が主催するトーナメント戦。
その開催と参戦を喜々としてレキに伝えるランガでしたが、レキから返ってきた言葉は想定外のものでした。
「愛抱夢とはもう滑らない」
友人としての約束を盾にして、自分の感情を発露するレキの姿からは、追い詰められ尽くした彼の心の闇が表現されているようでした。
「暦もスケーターなら分かるだろ?
ああいう凄い奴と滑るの、わくわくするって!」
そしてランガが屈託なく発したその言葉が、レキの心を決壊させることになってしまいました。暦は誰よりもスケートを愛しているから、きっと自分の興奮を分かってくれるはず。その想いが、今のレキには決して届きませんでした。
「俺はこえーよ…」
技術よりも何よりも、心のレベルで決定的な差を見せつけられた。愛抱夢とのビーフは、レキにとってはそんな余裕のあるものではなく。自分が感じていたのと同じように、きっとランガもあれを脅威に思っているはず。だから「もう滑らない」と約束させたのに。
「なんで楽しそうにできんだよ!
ワケわかんねーよ…!!」
実際にランガとレキが抱いていたのは、全く真逆の感情で。「恐い」なんて微塵も思っていないような光に満ちたランガが、レキには受け止めきれませんでした。「初めから住む世界が違う存在だった」そう否応なく自覚させられた衝撃は、我々の想像を絶するものだったことでしょう。
「勝手にしろ。お前ら頭のおかしい天才同士で好きなだけ滑ってろよ」
きっとレキもそんなことが言いたかったわけではないはずです。本当は同じようにランガと盛り上がって、同じ喜びを分かち合いたかった。でも、それは自分には到底味わうことのできないものだと分かってしまいました。
「俺はついてけねぇから」
そうやって自分の弱さで友を傷つけてしまうことも、より本人の劣等感を増長させます。言いたくない、言ってはいけないと頭では分かっていても、言わずにはいられない。「あぁどうして自分はこうなんだろう」そんなことを思いながら、闇の中をただただ落ちて行くことしかできないのです。
「俺とお前じゃもう…つりあわねーんだよ」
ただその一言だけは友の前では飲み込んで。独り言のように小さく口にしました。認めたくない現実。それをたった独りの中で噛み締め、誰とも分かち合おうとしないままに。
第8話 宿命のトーナメント!
幕を開けた「S」のトーナメント戦は、エントリー多数のため予選を行うことに。4つのグループから上位2名に残ることができれば、本戦に出場することが可能です。
元々"何でもアリ"のビーフにおいて、バトルロワイヤルにさしたる意味はありません。過去に結果を残してきたメンバーが順当に本戦へと歩みを進める。それは分かり切った事実でした。
故に彼らの戦いは"自分自身"の中にこそ存在します。それぞれのメンバーが自身の滑りに集中し、順位以上の結果を追い求めるべく奮闘します。
先のレキとのやり取りのこともあり意気消沈するランガは、妨害工作を乗り越えるエキセントリックな勝利を収めても心躍ることはありませんでした。レキは今回参加を放棄してランガの前に姿を見せておらず、それがランガのコンディションに関係していることは火を見るよりも明らかでしょう。
そして愛抱夢と過去に因縁があるチェリーは、今回の戦いを彼と改めて対話する場として考えているようです。予選での愛抱夢のタイムを追い抜こうと流麗な滑走を見せましたが、タイムはわずかに及ばずでした。
愛抱夢にMIYA、スノーにジョー、チェリーと実力者が本戦に進む中で、シャドウのグループでは謎のキャップマンが善戦する番狂わせが発生。ちゃんとシャドウも8強の候補者に名前が上がる存在だったことに謎の安堵感を覚えた後、しっかり噛ませ犬にされる辺りに逆の安心感があります。
そのキャップマンの正体は愛抱夢の表の姿 神道愛之介の秘書を務める菊池忠。
ここに来て驚きの伏兵現る。表では愛之介に忠誠を従う使用人でありながら、「S」の世界では愛抱夢に反旗を翻す存在になりました。
「スネーク」を名乗る彼は愛抱夢にスケートを教えた張本人であり、予選では愛抱夢を上回るタイムを記録するなどその実力を見せつけます。そして自分の目的が「愛之介にスケートをやめさせること」だと、本人の前で毅然と言い放ったのです。
「私は貴方に勝ちます」
「やってみろ…!犬は主人には勝てないと、その身体に教えてやる…!」
今までにないほど神道愛之介としての激情を露わにして吠える愛之介の姿からは、並々ならぬ過去の確執を思わせます。故に2人の関係こそがこの『エスケーエイト』の物語の核心に位置するものであると、多くの視聴者が直感的に感じさせられてしまったはずです。
俺にはぶん殴りたい奴がいる
第8話は、「家族」や「大人と子供」といった概念が細かくフィーチャーされる1回でした。
少年たちだけでは決して抜け出すことができない闇の中。そこから脱却する糸口は、やはり先を行く大人たちのアドバイスにこそあるものです。彼らも同様に闇に落ちたことがあり、その時に他の大人によって救われてきた過去があるからでしょう。
闇の連鎖を断ち切ることはできないからこそ、先を行く者が後人を救い出すその過程もまた連鎖する。最後には本人が動くことでしか解決することはできないけれど、その意志を持たせることは周りの人間にしかできないことだと思います。
そんな心温まるやり取りが数多展開される中で、MIYAに対する大人ポジションはまさかのシャドウ。彼が一瞬カッコいい姿を見せたのも、なかなか捨て置けない魅力がありましたね。第8話のシャドウは振れ幅が大きい。おっさんではない。
だからこそ政治の名家という出生と育ちによって歪んでしまった、神道愛之介の存在は際立ちます。「S」で誰よりも異彩を放つ彼は、有名政治家となった今なお家柄に縛られる人生を送っている男性でした。
彼はきっと、目上の大人からレキやランガのように手を差し伸べてもらうことがなかったのでしょう。周りの期待と重圧に応えるためだけに"大人"になり、自分で何とかするしかない人生を駆け抜け続けてきた。
愛之介という男は今でも闇の中にいて、その闇を受諾する形で自分の人生を作り上げてしまっています。それができるだけの強さを持った青年であることが、ある意味では幸せであり、ある意味では不幸だと言えました。
本作に登場するキャラクターの中で、誰よりも"子供"のままなのは愛之介なのかもしれません。
愛を抱き夢を見る。かりそめの自分に縋って生きている、未成熟な精神。表と裏を使い分ける彼の在り方からは、そんな彼の人間性が幻視されるのです。
「スケーターってのは本当馬鹿だよなぁ。金が貰えるわけでも、世間から褒められるわけでもねぇ。ちょいとこければたちまち大ケガだ」
どこかできっと、愛之介にも引き返せるところがあって、闇から抜け出せるチャンスがあったはず。彼に声をかけてくれる誰かが、本当に"彼自身"を慮ってくれている存在に出会うことが、人生の中で全くなかったわけではないはずです。
「なのにやめられねぇ。
こんなの馬鹿としか言えねぇだろう」
けれどそれは受け取ることができなかった想い。誰よりも大きな家柄と責任。それを持っている愛之介には、横や下からの言葉が届くことはなかったのだと思います。
「馬鹿だからさ、友達作んのも、喧嘩も仲直りも、何でもスケートでやるようになっちまう」
友達というのは酷く曖昧な存在で。普段の自分を忘れて馬鹿になれる。そんな心の拠り所になるにも関わらず、友人同士で共有し合う情報は決して多くはありません。
その時その場で最も必要とする相手で自分を補い、事情が変わればすぐに疎遠になる。仲が良い期間とは実は長くはなく、その多くは思い出の中に埋没して行く。その中から"本当の自分"を曝け出せる相手など、簡単に見出せはしないでしょう。
数少ない友人も、誰もにとって人生単位で大切な存在であるとは限りません。心の扉を開けるかどうかは、本人の意思に委ねられています。固く閉ざす理由があれば、永遠に開かれないことだってあるはずです。
「俺にはぶん殴りたい奴がいる。目を覚ませって」
それでも、彼との思い出を大切に持ち続けてくれる者もいて。その時間を、人生で最も大切なものの1つにしてくれる相手もいます。
「だから――」
改めて想いを交わし合う場が与えられるのなら、全力を懸けてそれを掴み取る。その強く重い意志を持って、ジョーはスノーと決闘に臨みます。
「――俺が勝つ!」
愛抱夢がどう思っているかは関係ない。大事なのは今、自分たちがどう思っているか、ただそれだけで。
作中で初めて魅せるジョーの全力の滑り。誰にもできないパワープレイで、新進気鋭のスノーを圧倒しにかかります。
第9話 あの時、俺たちは特別だった
いよいよベールを脱いだジョーの滑りは豪快そのもの。
カーブに減速せずに突っ込み壁を蹴り抜く「パワーブレイク」を筆頭に、ボードと並行になるよう身体を持ち上げて空気抵抗を減らす「ミサイルスタイル(※シャドウ命名)」など、正直言って意味不明な技のオンパレード。本当に人間か?
そのスタイルは圧倒的な身体能力を過信し切ってはおらず、「如何に活かすか」がよく練り込まれた内容。ただの筋肉馬鹿ではなく、自分に合った最適解を導き出せる聡明さも含めてジョーの武器だと言えるでしょう(それもチェリーからすれば「無駄が多い」ようですが…)
一方のランガは、そんな格上を相手にしても一切燃え上がることがありません。視聴者目線では理由は明白と言ったところですが、当の本人は自分の心の在り様に自覚的ではないようです。ジョーとの実力差を感じ、戦意を喪失するほどに消沈してしまいます。
そんな彼の心に炎を再び灯したもの。それは今まで共に歩んできた喜屋武暦の一言でした。
いくらスノーが期待のルーキーとは言え、彼はまだ「S」に現れて数ヶ月。長きに渡って名を馳せてきたジョーを相手にすれば、誰もが「勝てなくて当たり前」と評価するでしょう。
だから外野にとってはこの結果は当たり前で、何の驚きも感慨もないものに過ぎない。ただそこに素っ気ない反応が残るだけ。周りが見ているのは結果だけであって、彼がどのような人間であるかはどうでもいいのですから。
けれど、レキはそれがどうしても許せなかった。誰よりも長く彼に付き添い、その成長と実力を目の当たりにしてきた彼には、ランガが実力以下の不当な扱いを受けることがどうしても看過できませんでした。
「――ランガァー!!」
ただ一応、負い目を感じて何となく見に来ただけのつもりが、ランガを前にすると居ても立っても居られなくなる。爆発した想いはたった一言の言葉に乗り、確かにランガの胸へと届きました。覚醒したスノーによる世紀の番狂わせは、レキの存在なくして決して為し得なかったことでしょう。
お前と並んで滑りたい
レキの存在が、ランガの心に火をつける。それが確定的な事実なった裏で、レキ本人はランガの勝利に喜べない自分を自覚していました。
自分の応援によってランガがジョーに勝利したとは思っていないでしょうが、あの時に応援したいと思って動いたレキの気持ちは真実です。ですがいざ勝利"されてしまう"と、今度はまた自分との圧倒的な差を意識せざるを得なくなってしまうのです。
友人として彼の味方で在りたいという想いと、スケーターとしての劣等感と嫉妬心。その気持ちの間に割り切りを見出せぬまま独り苦しむレキの姿には、人間の心の複雑さが在り在りと現れています。
「そうか…悔しかったんだ」
故にこの時の彼は大変に魅力的で。もがきながらも前に進もうとするその姿に、多くの人が心を打たれたことでしょう。
「俺…やっぱり応援なんて嫌だ…」
ランガのボードは暦にしか作れない。彼に技術を教えたのも暦。メカニックとしても指導者としても、応援するパートナーとしても、彼はランガにとって替えの利かない唯一無二の存在で。その事実だけでも十分に、彼らは横に並んで共に歩く理由を持っています。
それで満足する人もいるでしょう。その自分を受け入れて、納得して自分を誇れる人もいるでしょう。でも喜屋武暦は決してそうはなれない人間でした。少なくとも今はまだ、1人のスケーターとして共に歩むことしか考えられない、そんなまっすぐさを捨てることはできなかったのです。
「俺はお前と並んで滑りたい…」
そのレキの気持ちを誰が否定できましょうか。
周りに聞けば「諦めた方が良い」「そうするべきだ」と言う人が多いかもしれません。それでも彼自身がそう思わないのなら、その想いを侵すことは何人たりともできはしません。
自分の本当の気持ちを自覚できた。まずは今回はそれが大いなる収穫です。それはとても素晴らしいことですが、同時にここからが本当のスタートです。
まだまだ自分と向き合い、ランガと向き合う。その苦悩と共に過ごす時間が、本当の意味で乗り越えるためには必要になることでしょう。
それでも、2人ならきっと前向きな結果を掴み取れる。過去に"そうできなかった"経験を持つジョーの言葉の重みもまた、見た目以上のものでした。
俺は本当のお前を知っている
「悪いな虎次郎 …愛抱夢は、俺が取る」
奇しくも初戦にて愛抱夢と当たることになったのは、ジョーと共に因縁のあるチェリーでした。幾多もビーフの誘いを断り続けてきた愛抱夢も、大会であれば闘らざるを得ません。そしてこの一戦はチェリーにとって、愛抱夢の本当の心を確認するための戦いでもありました。
若き日を共に過ごした戦友が、何故自分たちとの決闘を断り続けるのか。チェリーはその理由を「愛抱夢は自分たちを傷つけたくないと思っているから」と結論付けたようでした。
どれだけ今の愛抱夢が変わり果ててしまっていても、その根底にある想いは変わっていない。自分たちを"特別"と形容して素顔を見せてくれた彼の日から、自分たちは特別なままだとそう思っていたのです。
何の根拠もない、極めて非合理的な結論。ただ「チェリーがそう思いたいから」以外にそれらしい理由が見つからない、そんな全くCherry blossomらしくない想いを持って、彼は愛抱夢と相対することを選びました。
しかしそれこそが、桜屋敷薫の本質なのでしょう。
どこまで論理を突き詰めても、最後には自分の感情を優先して動いてしまう。それを知っているから、ジョーは彼と共に在ろうとするに違いありません。
「俺は本当のお前を知っている…」
誰にも見せていなかった素顔を知っている。そうしてくれるほどに本音で語ってくれていた。
それは彼らの人生において決定的な思い出ではあるものの、客観的に見ればたったそれだけのこと。
過去の思い出を拠り所に、今の愛抱夢を否定する。それがどれだけ無理のあることかに、チェリーは気付いていません。気付こうとしていないのかもしれません。
劇中で語られている情報を見るに、チェリーとジョーは神道愛之介のことをさして知っているようには思えません。にも関わらずチェリーはどこかで何か大きな間違いがあっただけで、きっと自分の見ていた姿こそが「本当の愛抱夢」であったと決めつけています。
変わってしまった原因が自身の想像を絶するほどの経験で、もう決して元には戻ることはないかもしれない。その可能性が、チェリーの中で全く考慮されていないのです。その点ではジョーの方がまだ、今の愛抱夢を冷静に捉えているように感じます。
「愛抱夢…お前は俺を潰せない!」
その"一方通行の想い"は、決して愛抱夢の心に届くことはありません。
今なお闇の中を彷徨う愛抱夢にとってそれは、彼が最も遠ざけておきたい有象無象の感情と同じなのだから。
「――甘いよチェリー?」
計算され尽くされた論理の中にある、情という名の綻び。もし過去の愛抱夢がチェリーと本当の意味で親密であったのなら、彼はきっとその存在さえも知った上でチェリーを解釈していたはずです。
「教えてあげよう。
僕が君の決闘を受けなかったのは――」
それならばその滑りも、向けられている感情も、愛抱夢にとっては全て判り切ったこと。確認するまでもなく、時間を使うほどの価値もない。残酷にもそんな余裕は、もう"本当の彼"に存在しているわけもありません。
「――ただ詰まらないからさ」
故に彼と勝負する理由はなく。
その意味をあえて考えるとすれば、「その思い違いを正してやること」くらいのもの。
そう考えるとラフプレーで愛抱夢がチェリーにとどめを刺したのは、彼の優しさだったと解釈することもできるのかもしれません。あまりにも歪んだ形だと、そう言わざるを得ませんが。
俺たちは独りぼっちじゃない
「今の愛抱夢は独りぼっちで滑ってる」
薫と愛抱夢の決闘をそばで見届けた南城虎次郎は、確かに今の愛抱夢の本質を見ていました。やはり人を見る目という点では、彼の方に分がありそうな気がします。
「あいつはすごいスケーターだけど、でも、幸せじゃないんだろうなぁ。だからあんなスケートになる」
愛抱夢の中にある満たされないものの存在を、虎次郎は見抜いているようでした。それだけ彼は過去の愛抱夢に縋ることなく、今の愛抱夢を変えてやりたいと思っているということでしょう。
大切な過去の友人を想う気持ちは同じなのに、そこから何を見出して何に辿り着こうとするのか。そのプロセスは全くは異なっている。
どこまで行っても"犬猿の仲な"2人だと思わされます。
「でもな、俺たちは独りぼっちじゃない」
そんな2人だからこそ、彼らはパズルのピースを埋め合うように2人で歩いてきました。失ったものを共有しながら、在りし日の思い出を分かち合いながら。今の彼らは、繋がったまま時を共にすることを選んでいます。
「そうだろう? …薫」
本当はそこにもう1人、加わってほしかった。
その気持ちは2人にとってきっと同じもので、今からでもそうなりたいと望んでいる。
それが彼らの愛抱夢に向ける感情だと思います。それが愛抱夢の元に届くことは、果たしてあるのでしょうか。
その実現の難しさと、自分たちの欲深さをきっと彼らは理解している。転じてそれが2人が今の関係を、物凄く大事にしている理由にもなっているのでしょう。
3人では歩めなかった時間も、2人で歩いてきた虎次郎と薫。対してその時間を孤独に歩むしかなかった神道愛之介。彼らの描く到達点が、幸せに満ち溢れたものであることを願って止みません。
おわりに
本当に面白い。
それに尽きる。
1話ごとに加速度的に面白さを増すその姿は正にスケートボード。アニメの人気もそれに比例して増していますし、SNSのフォロワー数も確実に上昇傾向。
『SK∞ エスケーエイト』は昨今のオリジナルアニメとしては、相当に素晴らしい伸びを見せている作品になるのではないでしょうか?僕自身最初は全くノーマークであり、2話辺りでフォロワーさんからメッセージを頂いて見始めたのですが、本当に手を伸ばしてみて良かったです。
ただ派手なだけでなく、複雑な人間模様が全く過不足なく描写されており、違和感も唐突さもない洗練された創りです。見事に題材を活かし切っていて、非常に巧みな作品に仕上がっていると思います。
いよいよ今週末で最終回を迎えますが、11話まで息つく暇のない展開が連続しています。その最後を固唾を飲んで見届けた後で、最終話までの記事を執筆したいと考えています。
男性としても非常に胸が高鳴るアニメで、『エスケーエイト』には興奮しっぱなしです。ここまで読んで下さった方々。これも何かのご縁ですので、よろしければ最後まで僕の記事にもお付き合いくださいませ。
それでは「超感想エンタミア」のはつでした。また次回の記事でお会い致しましょう。
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