1話から大胆な演出でネット界隈を興奮の渦に巻き込んだ新アニメ『Fairy蘭丸』。
菱田正和監督の作品らしいカレーや入浴シーンに加え、耽美な(?)変身シーンに突然謳われるムード歌謡など、今まで見たことがないような演出の数々で魅せてくれました。
しかしながらただの面白映像アニメに終始した…というわけではなく、社会風刺ネタなどで物語性も担保。情熱的な台詞や視聴者の感情を鼓舞するシーンが随所に見受けられたりと、「見続けたら何かが起きるかも?」と感じさせてくれる作品でもありました。
その1話から受け取った予感に、提示される1つの整った答え。それをこの2話は確かに描いてくれました。
まだ様子見…という人が「面白い気がする」と思えるような、そんな熱く激しい憤怒の物語。切り拓くのは火焔の夭聖 歩照瀬焔。彼のキャラクター性と生き方に迫って参ります。
一致団結とは程遠いチーム
どんな作品であれ、第1話はひとまず総合的な作風や展開イメージを視聴者に伝える必要があります。
何をするのか・どんな作品なのかを提示しないままに、冗長に物語を創ることは現代風ではありません。それ故に、要素の多い作品はストーリーを薄めてでも「全てを語り切る1話」がまず最初に創り出されるのです。
要素が多すぎる『Fairy蘭丸』はそのセオリー通り、全てを放出するのに1話を全て使ってしまいました。結果がアレです。この記事を読んでいる方も「めちゃめちゃ面白そうな感じはするが、物語については何とも言えない」という印象の方が多かったのではないでしょうか。
つまりはここからが本番ということ。
第2話は第1話で見せつけられた全てを"理解"する心の準備を持った状態で、我々も作品を楽しむことが可能です。『Fairy蘭丸』が本当に面白いかどうか。それを判断するために最も重要な回こそが、この2話だと言っても良いでしょう。
愛著を集めるために人間として日々を過ごす夭聖たち。一足先に蘭丸が1つ目のそれを女王に献上しましたが、当然、他の者たちも後に続かなければなりません。
しかし彼らは蘭丸が愛著を手に入れたことに、さほど大きな感情を抱くことはないようでした。5人間での仲間意識やライバル意識と言ったものには、さほど頓着がないメンバーが多いようです。
それどころか、一部のメンバーには仲が良いとは言えないような関係性もある様子。特に今回の当番キャラである火焔族の歩照瀬焔と水潤族の清怜うるうは、極めて対立的に価値観を違えています。
「火と水」「熱血と冷静」という極めて分かりやすい要素を持つ両名に、分かりやすい対立構造。誰もが飲み込みやすい構図故に、ここからどのような発展と展開があるのかが気になるところ。今後関係性面では、作品の味が反映されるポイントとなりそうです。
また4人を学院に送り込んだ雅楽代寶は、全体のまとめ役を買って出る振りをして遊びたい放題サボりたい放題。十訓を大胆に破っていく色欲魔人。
確かに関係者を学校という檻の中に閉じ込めてしまえば、少なくとも登校時間中の行動はフリーとなります。その辺りを打算的に捉えて周到に行動しているとしたら、裏に他の目的を持っている可能性も出てきます。
「毎日毎食カレー」「人間界ではカレー食っておけば問題ない」と言っていますが、カレーは一括で大量に作り置いておける料理なのは押さえておきたいところ。これも時間を捻出するための詭弁だと、そう捉えておいても良いのかもしれません(深読み)
寶は2話にして明確すぎる裏切者として描かれているものの、"あまりにも分かりやすすぎる"ことが気がかりです。こちらも焔とうるうの関係同様、どのように調理されて行くのかで作品の面白さが大きく左右されるように感じます。
他にも女王陛下も何かを隠している素振りを見せていたり、関係者全員をひっくるめて一致団結しているとはとても言えない夭聖チームの面々。果たしてこれから、これらの引っ掛かりがどのような化け方をして行くのか。期待しながら物語を眺めて行きましょう。
椎菜と焔の出会い
第2話にて回収すべき愛著の持ち主となったのは、ある女性漫画家と担当編集者の2人でした。
女性漫画家 椎菜は、自分の描きたいものを描きたいと担当編集者 新塚を必死に説得しようとしていました。しかし自分の思ったものしか描かせたくない新塚は、椎菜の言うことを聞かないばかりか、彼女の作品をロクに見ようともしません。
漫画家と編集者は運命共同体。良い作品を創るためにコミュニケーションを取るわけですが、その実、最終的に漫画を発表できるかどうかの決定権は編集者に委ねられています。
漫画家はまず、編集者に面白いと思わせないとスタートラインにも立てない。漫画を描く力よりも、編集者を納得させるための営業力こそが重要。そんな風に現状を揶揄される事も少なくありません。
もちろん実際は良質なコミュニケーションを取れる人の方が多いのでしょうが、怠惰で身勝手な編集者の犠牲になる作家は必ず一定数存在してしまいます。椎菜は、その中でも最も悪辣なハズレを引いてしまった漫画家なのでした。
新塚は自分の感性こそが正解だと思い込み、私利私欲を満たすために行動している編集者のようです。自分の思い通りになりそうな漫画家を選んで、自分のお抱えにしてきたのかもしれません。
ですから、自分が面白いと思えない漫画を描いている=才能のない漫画家という指標で全てを判断しています。実際は彼の感性の外にある面白さもあるわけで、椎菜が実力のない漫画家であるとはこの関係性からは全く断定できません。
そうやって才能の芽を潰され、買い殺しにされているところに焔が遭遇しました。人気のないシャッター街とは言え、白昼堂々やることとは思えない衝撃のやり取り。社会人としての良識さえも著しく欠如している。
「――人助けなんてくだらねぇ」
焔は元々、あまり夭聖としての使命自体にやる気があるわけではない様子。しかし1話での発言を鑑みるに、人間界にて何かしらの目的を持っていることが示唆されてもいます。
2話冒頭で語られたその生まれや父親との関係性。父親にかかった濡れ衣(?)の正体などが、彼の物語を知る上での大きな要因となりそうです。
自分の目的以外のことには、従いこそすれ大した関心を持たない。そのような態度を一貫しようとしている焔。その心を動かしたのは、椎菜の目から零れ落ちた1粒の涙でした。
熱い心を持った火焔族の少年は、目の前で挫かれる者を見て放っておくことなどできはしなかった。
ついつい感情のままに手を差し伸べてしまい、転じてそれは焔の生き方を大きく動かす一幕の始まりへと繋がっていきました。
「十訓…一つ…
絶対に困った人がいたら助けなければいけない」
使命にまっすぐな蘭丸にその場を見られてしまっては、中途半端に放り出すことも最早叶わない。何より、焔自身が困っている彼女を助けてあげたいと思っている。そんな空気を感じさせながら、1つの作品を巡る焔と椎菜の物語は幕を開けたのです。
禁忌解放!愛!爆燃!
自分の漫画の主人公のモデルになってほしい。
椎菜は焔から受けたインスピレーションを元に、新たな創作を始めました。
あくまでも自分の描きたいと思ったものに真剣かつ実直に。何を言われてもそれだけは曲げずに、彼女は一生懸命に連載の獲得を目指しています。
椎菜は焔に、自分が求めていた理想のヒーロー像を見ていました。それは彼女にとっては漫画の題材であり、見た目を中心とした価値基準による評価だったのだと思います。
「忘れるな焔。火は正義の力だ。
火焔族はこの夭聖界を救うヒーローなんだぞ」
しかし夭聖である焔は、過去の経験から全く違う感情を想起していました。
自分たちをヒーローと言いながらも、何かの原因によって処刑の憂き目に遭ってしまった実の父。それを信じていた焔にとって、ヒーローという概念は信じてはいけないもの、存在するはずのないものとなってしまっていました。
その自分が誰かの信じるヒーローになる。自分自身が否定した感情。それをまだ信じている誰かの元に、皮を被った自分が現れて力を与えることになる。その事実は、焔の心にえも言われぬ違和感を表出させたことでしょう。
そしてそれが、彼に新たな価値観を授ける原動力ともなるのです。人間界に来たばかりの時には持っていなかった新たな情熱が、すでに彼の中に芽生え始めているようでした。
正しき怒りの肯定
焔をモデルにし、自信満々に新塚のところに完成した原稿を持って行く椎菜。
しかし新塚はその表紙絵を見ただけで彼女の努力を一蹴。世間に求められているものではないとし、原稿を片手に去って行きました。
その後彼は椎菜の原稿の主人公を美少女キャラに書き換えて、いわゆるTHEアキバ系の作風に置き換えて雑誌へと掲載します。
萌え系の女の子キャラ"のみ"を「面白い」と感じる感性を相手にすれば、男性キャラが主人公の作品は全て「詰まらない」ことになる。新塚に作品を見せることは、そういう理不尽に遭うこととイコールでした。
物語の軸を変えずに主人公と作風を変えれば、見るまでもなくその作品はチグハグなものになります。椎菜が想定していたターゲットはおろか、美少女系が好きな者にだってウケるはずがありません。それは、双方のファンに対する冒涜行為に他ならないからです。
「プロになりたいんなら自分が楽しんで書くな」「君の個性なんていらない」
そう言い放った新塚こそが、自分の楽しみを優先して他人の作品と目線を捻じ曲げる悪辣漢であった。
そうと分かったとしても、傷付けられた心に救いがあるわけではありません。椎菜はあくまで"まだプロになっていない"女性。自分の作品を仕事上のパートナーに否定され続ければ、真実と関係なく自己肯定感を失ってしまうでしょう。
作品を本質を捻じ曲げられて使われたとしても、その一部は自分の分身のまま。
それが望まぬ形で衆目に晒されて叩かれれば、独りで乗り越えることなどできるはずがありません。
「憤怒の念を出せぬ者は、その炎で自らを焼き尽くす。
その炎は、悲しみの涙で消すことはできない。
そしてこの世から…消えていくのだ…」
外に向けて怒りの念を放つこと。
それは感情を発散し、自身の思考を整理することでもあります。
怒ることもできず、ひたすらに自罰的な対応をし続ければ。その感情は自分の心を責め続け、後悔と自身への落胆がじわじわと内側を焼き焦がし、崩壊させていくでしょう。
それが外からでも分かるほど、誰の目から見ても明らかなほどに傷付いてからではもう遅い。心の中身は既に灰となり果てて、二度と取り返すことはできなくなってしまうのです。
「…怒れよ」
だからこそ、そんな時には身近でその感情を汲み取ってくれる人が必要で。
「怒りたい時は…怒れ!怒って良いんだ!」
内側で燻っている感情を外に出し、自分の代わりに燃え上がらせてくれる誰か。
それこそが孤独な心に救いを与えられる、唯一にして絶対の存在になるのだと思います。
「お前の後悔…俺が抱く。
俺が、お前を救う!」
それは偶然がもたらしただけの他愛ない出会いの1つ。それでも、彼女にとってはそれが自分の信じていたヒーローに出会えた瞬間でした。
納得できない自分、前に進めない自分。そこから脱却するキッカケをくれた少年だからこそ、歩照瀬焔の言葉は他の誰から向けられるものより強く重い。少なくとも「漫画を描く」という分野において、椎菜が今最も頼れる存在は彼だったことに違いはありません。
ヒーローなんてこの世には存在しない。そう思うしかなかったあの日。けれど自分はそう思っていたとしても、それでも世の中には変わらず、ヒーローを求めてしまう人たちがいる。
そして自分にそれを幻視する誰かがいるのだとしたら。束の間の時間、その理想になり代わることくらいは、できるのかもしれない。
1つの決意を胸に、飛翔するのは火焔の夭聖。父の姿にそれを見たあの時の自分に応えるように、椎菜だけのヒーローとなって彼は戦いの舞台に立ちました。
「禁忌解放!愛!爆燃!
火焔の夭聖 焔、降臨!」
憤怒の代行者 歩照瀬焔
女が流した涙 漢が燃やす運命さ
一度賭けた命ならば 悔いなどありゃしない
お前が流した涙 俺が許しはしないさ
馬鹿な俺の一人芝居 燃え尽きてやるさ
焔が降り立った心象世界は、萌え萌えきゅ~んな女の子キャラに埋め尽くされた異様な空間でした。
いかにもどこかで見たことがありそうな萌えキャラが突っ込んでくるも、それを躊躇なく1人ずつ爆殺して行く焔くんは正にヒーロー…ヒーロー?これ絵的にめちゃくちゃ問題がありそうだけど本当に大丈夫ですか?
当然ながら、萌えキャラを好みそれに執心すること自体は決して疎まれるべきことではありません。ただ心がそれ一色に染まり切り、他のものを許容できなくなる・蔑ろにしてしまうことこそが大いなる問題なのです。
新塚はその感性を暴力にして他人を傷つけ、他のものを貶し続けてきました。自身のみを正義とする傲慢さ、その人間性こそが唾棄すべき対象です。
他者を否定してはいけない、他人に怒りの感情をぶつけてはいけない。それは平常時であれば守るべき正しい価値観です。全ての人が守らなければならない、本能のコントロールとも言うべき理性的訓戒でしょう。
「お前の怒り…俺にくれ…!
お前の怒りを全て…奴にぶつけるんだ…!!」
しかし相手にそれを向けられている時はその限りではありません。残念なことに、全ての人がそれを守れるわけでない故に。自分の心を守るためには、刃を持たなければならない時もある。激昂して反論して、跳ね返す。そういった対応が必要とされるのがこの世界です。
「お…お…おまえの……」
本当は怒りたい、立ち向かいたい。そう思っていても、独りでは決して動けないのが人間で。だからこそお前は独りじゃない。お前は怒っていい。お前に怒ってほしい。そう言ってくれる人の存在に、人の心は救われる。
「お前の作る話…
すごくキモいんだよォォーー!!」
多くの言葉は必要なく。0を1に代えるたった1つの大きな叫び。それが、彼女と共に在ろうとする者の心に届いて行きます。
不安なのは焔とて同じことです。「怒れ」と言っているのは自分だけで、本当は彼女はそれを望んでいないのかもしれない。全ての想いが自分の独り善がりにすぎず、不要なお節介なのかもしれない。そこに確証が持てない以上は、どこかで本気になり切れないところがあって然るべきでしょう。
「お前の怒り!俺が引き受けた!!」
その不安の全てが払拭されて、真の意味で椎菜の憤怒の代行者となった時。彼の夭聖としての真の力が発揮されました。
目の前に立ちはだかる妄想たちを薙ぎ払い、その奥で鎮座しているだけの卑怯者に正義の鉄槌を。心の扉を開き、無防備になったところに渾身の一撃を放ちます。
「GO TO…
HEAVEN――――――――!!」
必殺演出は蘭丸と同じく、一連の流れは2話にして早くも"お約束"の安心感を放つように。1話の時には「???」で満たされた演出の数々ですが、既に心の奥底で"求めてしまっている"自分の存在を自覚せざるを得ません。
「焔くん…貴方は私の…ヒーローよ…」
人間ではない彼らが、使命を果たす過程で誰かの特別になって行く物語。彼らが体現する光は同じように自分たちの元にも返ってきて、行く行くは全員の大いなる成長に繋がっていく。そんな未来があってほしいと思っています。
おわりに
第2話ではしっかりとストーリー・キャラ感情重視の物語が展開され、強い熱量で我々を魅せてくれた『Fairy蘭丸』。
1話を見終わった時の印象とは打って変わって、「意味不明な作品」という印象は一気に薄まって行ったような気がします。
特に今週は火焔族の当番回でもあったことで、ひたすらに情熱的で訴えかけてくるものが多い方向性の1回。こういった作風の見せ方がとにかく秀逸な、菱田監督の味が発揮された物語だったのではないでしょうか。
個人的に青葉譲脚本は「こまけぇこたぁいいんだよ」と言いたげな大胆なアニメ的展開の中に、視聴者の感情を煽るリアリティある台詞が挟み込まれているのが面白さだと思っています。
今回も印象的な一言一言が数多くあり、「そうそうこれこれ」と言った気持ちで視聴することができました。
来週以降も監督の持ち味と、スタジオコメットの繰り出す独特な映像のマリアージュを楽しめればと思います。是非とも3話以降の視聴を続けて行きたいと思います。見て見ぬ振りはできません。
この感想記事が、皆さんの『F蘭』の解釈の助けとなるものでしたら嬉しく思います。「超感想エンタミア」のはつでした。また次回の記事でお会い致しましょう。
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