数々の女性の心を救ってきた『Fairy蘭丸』も、名残惜しいことに残すところあと2話となりました。
十訓をサブタイトルに据えたエピソードの回収を終え、クライマックスは全く視聴者が想像することができない物語に。
その前半戦を飾る禁忌其の拾壱は「憎悪」。十訓に記載されていそうでいなかったその項目。隠され続けてきた天狼院シリウス――チルカを巡る物語の内容を、紐解いて参りましょう。
目次
王国にまつわる事情
第11話は今まで秘匿されてきたことが一気に禁忌解放される情報過剰の一回です。「これを待っていた」とも言えますし、「どうしてこうなった」とも言えますね。
チルカと名乗る謎の夭聖の執念。封印された蘭丸の記憶。それらを語るには、まず彼らが過去に何をしていたかを整理せねばなりません。そしてその情報はほぼ全て、この第11話に詰まっていたのです。おい菱田ァ!!
蘭丸とチルカはその昔、女王を含めた3人で愛著回収の使命に当たっていたことがある夭聖でした。
当時の彼らはそれぞれ、ベテルギウス(蘭丸)シリウス(チルカ)プロキオン(女王)と名乗っています。
人間界に舞い降りた時は、3人にまだ明確な上下関係はなかったように見えました。誰の意思でどのような経緯で3人が愛著集めに当たったのは、今のところは劇中では明かされていません。
その中では愛著回収の総指揮を執ったのが今の女王 プロキオンです。彼女は人間界に存在するアイドル文化に目を付け、シリウスとベテルギウスを「Winter Tri-Angels(ウィンタートライアングル)」(※以下「WTA」)というアイドルユニットに仕立て上げました。
プロキオンはそのまま、プロデューサーとして彼らを導く側に回ります。しかし名称の「トライアングル」は「Tri-Angels」と書いてそう読ませるそうで、そこにはプロキオンもユニットの一員であるという意思が込められているようにも感じられます。
彼女の計画は理想通りに進行し、「WTA」は瞬く間に人気アイドルユニットへと登り詰めます。計画を練るだけでなく、その舵を自分の手で取って理想的に運用する実行力。そこまで含めて、彼女は建国の女王たる器であると示されているのだと思います。
プロキオンの作戦
プロキオンがアイドル活動を通じて愛著回収を行おうとしたのは、夭聖の力を一気に多くの人に行き渡らせることができるからです。
1人1人の人間と向き合って回収できる愛著は1つずつですが、一度に多くの人間の心を救うことができれば、短時間に何十倍何百倍何千倍もの愛著を集められます。多くの人を集められてかつ、その人たちの心に平等かつ均等な光をもたらすことができる行為。そのベストな方策としてアイドル活動が選ばれました。
過去のエピソードを見る限り、愛著は人の心に巣食った邪魂を祓った際、その浄化された心から発生しています。そう思うと「WTA」の愛著回収方法は、一見すると今まで描かれてきたセオリーには反しているような気もします。
僕はこの点について、人気アイドルのステージには日々の生活で抑圧されて、鬱屈したものを抱えたまま訪れる人も大勢いる。彼女たちはその邪気をライブを見ることで晴らし、清々しい心で真っ当な生活へと戻って行ける。この一連の流れによって、愛著を発生させることがのだろうと解釈しています。
この方法によって凄まじいスピードで愛著を回収したプロキオンは、そのリソースを活用して夭聖界に王国を建設。これが"女王陛下"を中心に五行の部族が集う、『Fairy蘭丸』の世界観のベースとなった王国誕生の歴史でした。
王国の繁栄と崩壊
3人はその後も人間界で愛著集めを継続し、それらをリソースに王国は繁栄を極めて行きます。
しかし、長く続く平和と安定はさらなる問題を引き起こすものです。
王国に属する5つの部族は、役割を逸脱して自分たちの利益を追求し出します。その結果政治の腐敗や権力闘争を招き、徐々に王国はその栄華を失って行くこととなりました。
その状態に陥った王国を維持するために、シリウスとベテルギウスはより多くの愛著を集める必要に駆られます。そこに後述する、シリウスの心情変化に起因した脱退及び堕天の申し出。それに連なった彼の離反が巻き起こったことで、王国は一転して抗争の時代に突入します。
首長であった焔の父親を(禁忌を破ったとは言え)一方的に処刑された火焔族と、同じく長であった寶の父を殺害した者が実権を取った金鋼族の2属性は、同じタイミングで王国からの離脱を議決。王国は正に満身創痍の状態に陥ります。
悪いことには悪いことが重なるものと言いますが、やはりそこには重なる理由が存在して然るべしです。女王となったプロキオンの敷いた治世は、決して全ての者を満足させる内容ではなかったのでしょう。そしてそのことには、彼女自身が最も自覚的なのではないかと思います。
女王として玉座に就いた直後の彼女は、王国を「多くの人間を笑顔にする場所」と位置付けていました。ですが最終的には彼女自身から笑顔が消え、無感情な態度へと移り変わり。人間を蔑む発言も散見されるようになります。地位を得たことによる様々なしがらみが、彼女を変えてしまったことを示唆しているように見えました。
5つの部族は動乱の最中でそんな女王の元から離れ、自分たちの身を守ることを最優先に考えました。シリウスの反乱によって滅茶苦茶になって行く王国を、遂には守ろうとはしなかったのです。
女王もその現実を受け入れて全てを終わりにする気持ちを固めていたようですが、彼女の元に仕えていた若かりし御守豊穣(※衝撃の姿。しかも一人称が「拙者」とツッコミどころが多い)の機転により窮地から離脱。五行の力を利用し、現在鎮座している空間へと引き篭もることとなりました。
そうしてその空間の中で王国復興が可能となる機運を待ち、現在に至る。と言ったところでしょうか。今でも彼女は女王としての態度を崩さず、自身の王国に執着する態度を示しています。
ですがその実、蘭丸たちが個人と向き合った上で1つずつ愛著回収を行うことを容認しています。何の反省もないのであれば、彼らにも不特定多数にはたらきかける方法を取らせたはずでしょう。
そこに過去の出来事を悔いる女王の意思、プロキオンとしての良心が垣間見える。そんなようにも思わされるのです。
世界観設定の疑問点
ここまでで押さえておきたいのは、現代までの時間の経過と全体の流れがどうなっているのかについてです。
豊穣の成長ぶりを見ると、時間としては50年~60年近い時間が経過していそうな雰囲気はあります。しかしその一方で、女王は幼い姿の自分をキープし続けています。シリウスやベテルギウスも少年の姿のままですし、夭聖の肉体変化が必ずしも人間界の時間の経過とリンクしているとは限らないようです。
そして問題なのは「WTA」の活躍時期。
これがアイドル黎明期と考えると、(現実の男性アイドル文化と繋げて考えるならば)長期に見積もっても40年ほどしかありません。
ですが仮に40年前だとすると、観客が振っているペンライトが明らかに現代風であることや、ドーム前の客にスマホで撮影を行っている者がいることとの辻褄が合いません。
王国はBAR Fの"親世代"の時に最も栄華を極めた(豊穣談)ことを考えると、統治も数世代に渡っていたとするのが自然です。とは言うものの、劇中でシリウスが女性と出逢って堕天を決意するまでの時間は、1年ほどであったと明かされています。
シリウスが女性と出逢ったのは王国がピークを迎えた後なため、やはりどう考えても時間は絶対的に不足していると言える状態です。
ここから憶測すると、「夭聖界と人間界の時間の流れが大きく食い違っている」or「夭聖の体感時間が人間の何倍も早い」としておくのが筋でしょうか。
この辺りは設定の開示が不完全にしか行われていないため、断定ができない情報となります。「何となくこうかもしれない」程度に留めておくのが良いでしょう。
加えて五行の部族は途中で王国を見放していますが、現在は王国復興のためにBAR Fの5人を派遣する程度には関係性が復活しています。
例えば寶は金鋼族の復権ありきで女王に仕えていますし、水潤族のうるうは女王の言伝は絶対だと認識しています。見放して終わったというわけではなく、時間の経過はそれらの関係性も立て直させたのかもしれません。
どこまでが劇中で回収されるかは分かりませんが、最終回の内容(及び解釈)にこれらの情報は必要になるかもしれません。是非とも頭の片隅に留めた状態で、最後まで『Fairy蘭丸』を楽しみましょう。
揺れ動くシリウス
王国の誕生から崩壊までの趨勢をそばで見守ってきたシリウスは、終わりのない愛著回収の先で1人の女性と出逢います。
そこまで人間1人1人と向き合うことはなく、ステージという壁を隔てて多くの人から愛著を集めていたシリウスは、そこで初めて個人の持つ気持ちに触れることとなりました。初めて彼が"心"というものを理解した瞬間だったのではないでしょうか。
たくさんの愛を向けられても、一方通行の愛情では満たされない想いがあります。
そしてそれを知ってしまったら最後、もう知らない頃の自分に戻ることはできません。
1人の女性と逢瀬を重ねて"愛し合う"喜びを知ったことで、シリウスはたった1人の心を救い・救われる関係性を渇望するように。そしてその心の動きは、プロキオンの掲げた活動方針とは全く相容れないものとも言えました。
彼女と一生を共に在りたいと感じたシリウスは、プロキオンに「WTA」の脱退と人間への堕天を申し入れます。この時はプロキオンの喋りが完全に女王化している(※女王になった後も人間界で活動していたのは衝撃)ことから、3人の関係性にもかなり変化が起きていると考えられます。
「咲くか散るか。散る桜 残る桜も 散る桜。その時は…その時さ」
その決意を心から心配するベテルギウスを尻目に、シリウスは全く屈託のない表情で彼の想いをかわします。
この時は実際に彼女から断られることになるなど、思ってもいなかったのでしょう。「その時はその時」と言いつつも、本心はそうではなかったのではないかと僕は感じています。
桜散るか
全てを捨てて1人の女性と添い遂げることを選んだシリウスを待っていたのは、他でもない彼女からの強い否定の言葉でした。
「ごめんなさい。私、アイドルで夭聖のあなたが好きだったの」
人間とは身勝手に個人の感情を他人にぶつけ、それに応えてくれる相手のみを欲している愚かな生き物です。特に立場や特別さを持っている人間(夭聖)の周りには、すべからくそれを利用しようとする悪人が引き寄せられてしまうものです。
「ありがとう。あなたの心だけ、いただきますw」
シリウスはその人間の心の複雑さに気付くことができず、目の前で交わし合ったやり取りを実直に"真実の愛"だと信じ込んでしまいました。でも実はそれは彼が双方向の愛だと想い込んでいただけ。実際は自分からの一方通行の愛情に過ぎなかったのです。
その誤解によって今回の悲劇はもたらされました。ですがそれをシリウスに求めるのはあまりにも酷というものです。誰だって最初は目の前の存在から向けられる好意を、疑ってかかることなどできるわけがないのですから。
この経験があったからこそ、チルカは自分と同じように人間を愛した焔を強く否定したのだと思います。それと同時に、特に因縁がないはずの「火焔の子」を不意打ちにて殺害しようとしたことも、この部分の私情が如実に反映された行動だったと理解できました。
彼女に捨てられ、「WTA」を抜け、女王の元から離れることを選んだシリウス。元々は立つはずだったステージの客席で自分自身を見詰め直しているところに、ベテルギウスから衝撃の一報が告げられます。
「――死んだ…?」
それは一度は愛した女性の訃報。
捨てられた女性への想いを清算する時間さえ与えられず、シリウスはその情愛に永遠に囚われることとなってしまいます。
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恐らく交通事故で亡くなったと思われるシリウスの想い人の死地には、多くの白百合の花が手向けられていました。
何故彼女がこのタイミングで死ぬことになったのかは分かりません(※そもそも死んだのが彼女であるという確定的な情報もない)しかしシリウスは、感傷に浸る自分を遠目に嘲笑した女性――プロキオンが自身のを嘲笑うために彼女を殺したと断定してしまいました。
女王として玉座に座る彼女に向かって、シリウスは敵意と悪意を剥き出しで刃を向けて仁王立ちします。対するプロキオン(女王)も、「何のことだ?」と言いつつもやはりシリウスの選択を否定。一貫して彼のことを嘲笑います。
ですが女王も一度はシリウスの意思を尊重して堕天の選択を許した身。そしてシリウスが悲劇を迎えるその瞬間、彼を慮るかのような素振りも見せていました。
現状では女王がシリウスの想い人を殺したという確定的な証拠はないということは押さえておかなければなりません。
彼女としてもシリウスが自分を捨てて、別の人間を選んだことは簡単に許せることではないでしょう。ですが想い人と決別することになってしまったシリウスは、夭聖として再び活動する方が幸福であることは間違いない。それに配慮できない女王でもないはずです。
「元に戻りたいと言うのであれば、土下座すれば許してやるぞ」
結果として女王の発言はシリウスを諫めるような物言いになるし、その中で「人間に裏切られた」事実への訓戒も述べているに過ぎません。
実際「女性を殺したのが女王ではない」という前提の上で台詞だけ見れば、決して酷いことを言っているわけではありません。むしろ絶望感に寄り添って「人間は愚か」とする方が、今のシリウスには響くと慮ってさえいたのかもしれません。
「下衆野郎――ぶっ殺してやるッ!!」
しかし女王のその思惑はこの場において全て悪手。「女王が彼女を殺した」と完全に思い込んでいるシリウスには、ただの下劣な煽りにしか聞こえない言葉ばかりです。
怒りで我を見失ったシリウスはそのまま女王に襲いかかり。彼女を亡き者にするためだけに、憎悪の剣を奮ったのです。
ベテルギウスの叫び
そのシリウスの刃を払ったのは、女王の側近で在った豊穣ではなく、彼の最高のバディであったベテルギウスでした。
シリウスもまさか、「彼女を殺した女王」側にベテルギウスが付くとは全く思っていなかったでしょう。彼女が死んだことを伝えてくれたのは他でもない彼であり、状況を考えればその背景事情の全てを知っているのが自然です。
だとすればベテルギウスは絶対に自分の肩を持たなければおかしい。1人の人間――まして自分の想い人を殺害してまで"報い"を与えようとした最低な女を、率先して庇うなどあってはならないことだ。シリウスはそう感じたに違いありません。
その行動を持ってベテルギウスもまた、シリウスにとって「最低な方法で自分を裏切った夭聖」の1人になりました。その憎悪は今でも尾を引いており、過去の物語で見せた執着へと繋がったのだと思います。
しかし恐らく、ベテルギウスはこの時違う意味で「全てを知っていた」のではないでしょうか。
彼はシリウスが彼女に拒絶されるシーンも隠れて見届けており、その後は彼女が死んだこともいち早く聞きつけてシリウスに報告しています。この間に、女王の意思を確認するタイミングがなかったとは思えません。
「ベテルギウス!お前こそ真の臣下じゃ!」
故にベテルギウスは、この場における全ての真実、さらに全ての誤解を知り得る立場にありました。そしてそれらが全て、各々の「愛」に依存している故に交わらないことを分かってしまっていました。
「俺の邪魔をする気か…!どけぇ!!ベテルギウス!!」
本当はこうなるべきではないと分かっているのに、その全てを止めることができないことも知っている。だから彼はシリウスと刃をぶつけ合いながらも、その顔から滂沱の涙を流すのです。
「―――――――!!」
ただ慟哭の叫び声を上げ、誰よりも愛した目の前のバディを打ち払わなければならない。その業を背負ったままに、ベテルギウスはこの時代での役割を真っ当しようとしているのでした。
禁忌冒涜!愛!凌辱!
全てを蘭丸に語り聞かせたチルカは、彼の中の失われた記憶を利用することを考えていました。
蘭丸はベテルギウスの記憶を失ったのではなく、ただ女王の手によって封印されているだけ。だとするならば、その眠った記憶は女王に対する強い負の感情を持っているはず。
今なお自身を道具のように扱い、都合の良い存在として奉仕させている最低最悪な夭聖のことを、不快に思っていないわけがない。その女王への憎悪を自身の力によって引き出すことで、彼女の抱えている邪魂=秘匿されたプロキオンの元へと辿り着くことができる。
これがチルカの考えていたプロキオンへの復讐を果たす方法で。そして、豊穣が蘭丸とチルカの接触を絶対に避けたがっていた理由だったと思われます。
チルカは今なおベテルギウスのことを怨んでいるのは確かですが、その実、彼が女王に良いように使われていることを哀れに想う気持ちは本物でしょう。
チルカがプロキオンに対して持っている強い劣情は何よりも強く大きなものである以上、それと同じ方向を向いている感情に彼は心の底から強く共感することができます。言葉巧みに蘭丸の心からその邪気を表出させることができれば、一転してチルカはこの場における蘭丸の"最大の理解者"です。
「お前の心…いただくよ…」
蘭丸たちが他の女性たちを助けてきたように、蘭丸の心に潜む負の感情に寄り添って清算する。1人の心を助ける、愛し愛されるという自身が望んだ関係を、こんな歪んだ形でしか解消することができない。"チルカ"という存在が抱えている悲哀を、象徴するかのようでした。
「禁忌冒涜!愛!凌辱!
暗闇の夭聖 チルカ、降臨!」
蘭丸の心に触れたチルカが行うのは、禁忌解放ではなく禁忌凌辱。散る桜 残る桜も 散る桜。
人間に堕ちたのではなく、夭聖として全く違った姿と生き方を選んだ天狼院シリウスのもう1つの姿。
全ての動きが蘭丸と対照的で、今なお元光輝族の輝きをどこかに滲ませます。心を締め付ける彼が目指すのは、憎むべき仇敵の姿。そして、自身を絶望の淵に落とした人間界の滅亡。
全てを怨み全てを亡き者にしようとする、チルカの戦いがついに幕を開きます。
ただ女王を御守りするために
光を避けて歩けば 誰もいない闇の方へ
嗚呼、この世のすべて愛し合い
愛の為 ただ愛し合い
蘭丸の邪気を辿って女王への道を辿ったチルカは、ヘブンズ空間ではなく女王の待つ空間そのものに着地しました。彼女のいる空間自体が、1つのヘブンズ空間ということなのかもしれません。
ですが女王も決してチルカの来訪を拒むことはなく、彼のことを恐れることもありません。むしろそうなることが必然であったと思っているかのように、その憎悪を全身で受け止めて威嚇してみせたのです。
「待たれよ!」
それは彼女がシリウスを失ってからの長い期間で、また1人心から信頼できる臣下を得ることができていたからなのでしょう。
焔たちに真実の説明を終えて女王の元に舞い戻った御守豊穣は、昔のような幼くか細い少年ではありません。より多くの苦楽を共にしてきた、女王が「お前だけは絶対に裏切らない」と信じている最大の臣下です。
禁忌解放!愛!豊潤!
産土の夭聖 豊穣!降臨!
彼が禁忌解放した姿は、シリウスから女王陛下を護ろうとした時の出で立ちと同じもの。歳を重ねてもそのスタイルは変わらず、産土の夭聖としてただ実直に彼女の元に添い遂げてきました。
「この命…女王陛下に捧げます!」
今この場においても、女王を護ることだけが彼の宿命。そして彼自身がそれで良いと思える、果たしたいと願える使命の形でした。
「報われぬ愛に命を賭す…。なんと無駄なことを」
かつて同様に他人を想い、そして捨てられ裏切られたチルカには、豊穣の選択は酷く哀れに見えるでしょう。
生きている以上は、人も夭聖も自身の行動に正当な対価を求めてしまうのが道理。その中でどうあっても応えてもらえぬ者に執着するなど、何よりも愚かなことです。
後になってから悔いたところで、そこに割いた時間と心が返ってくることはありません。最後には自身の不幸に喘ぎ、失意に打ちひしがれながら、絶望を感じるより他はない。チルカの目には、豊穣のその末路が幻視されているのだと思います。
「それが私の生き方です」
ですがその気遣いこそが余計なお世話。世界には誰かに強制されるのではなく、自分の意思で他人に尽くしたいと考える人もいる。見方を変えれば他人から馬鹿にされる生き方であっても、それにこそ強い充実感を覚える者がいます。
豊穣はそんな夭聖だったからこそ、女王の想いを誰よりも深く汲み取れた。そして最も辛い時に、彼女のそばでその心に寄り添えた。
そのおかげで、彼らは誰とも違った唯一無二の絆を紡ぐことができたのです。
そーれ!
天晴れ天晴れ!
天晴れ天晴れ!!
天晴れ天晴れ!!!
女王を逃がし大地から大いなる壁を峙たせ、豊穣は確実にチルカをその場から後退させて彼の足を止めさせます。
「…時間稼ぎか!!」
豊穣には1つの狙いがあります。未だその内情が語られていない、寶に与えた1つの使命。女王にも内密だった、彼が今回の愛著回収に五行の夭聖を揃えた理由。それこそが今回の戦い最大の鍵を握るでしょう。
5人が心を1つに揃え、封印を解除する時。
それだけを御守豊穣は待っているようでした。
だから彼はその時が来るまで――阿以蘭丸、歩照瀬焔、清怜うるう、陸岡樹果、雅楽代寶の5人が、心を1つに通わせてそれを成し遂げるまでの時間を、ただ準備すれば良いだけのこと。
勝つことが目的ではない戦い。それは豊穣にとって、最悪の結末を招く戦いになる可能性もあるはずです。
けれどそれこそが彼の生き方で。
この時のために自分は生きてきたと、彼はそう忌憚なく言い放つのでしょう。
チルカに利用され闇の中を彷徨う阿以蘭丸。彼が自身の真実と向き合い、仲間たちとの絆を結ぶその瞬間が、きっと豊穣の望んだ未来を結実させます。
残された時間はそう多くありません。ただその希望を託された5人は、きっと彼の想いに報いてくれるはず。
来るべきその未来の形を、最終話「愛」にて見届けさせて頂くことに致しましょう。理想の大団円は、もうすぐそこまで迫っているのですから。
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