不穏な展開続きで始まった『アイドリッシュセブン Thrid BEAT!』も第3話を迎えます。
どの作品の時も書いているのですが、アニメにおいて3話は大きな出来事が起きやすい話数で、ここで作品の方向性が固まるイメージがあります。
『アイナナ3rd』もやはりその例に漏れず、なかなかにセンセーショナルな一話となりました。第3話「亀裂」。その内容をキャラ感情に寄り添いながら紐解いて参ります。よろしければお付き合いください。
新企画スタート
1周年を迎えてライブだけでなく、冠バラエティ番組「キミと愛なNight!」も絶好調なアイドリッシュセブン。その節目を利用し、新たな企画にチャレンジしようということになりました。
1年と言うと、様々な活動を経てそれぞれの長所短所が見えてきた頃合い。視聴者である僕も、その姿を隣りで見届けてきました。無難な企画だけではなく、彼らの個性を反映した独自性の高い内容を取り入れることもできるようになるでしょう。
各々の得意不得意を確認しながら、新たな企画のテーマに決定したのは「楽器演奏」です。環がふと思い付いて提言したものがそのまま満場一致で採用され、企画会議はそのままサクッと終了します。優秀。
他のメンバーはあくまで「1意見」と捉えたような雰囲気でしたが、環にとっては「自分の意見が肯定・採用された」という非常に大きな意味を持つ時間になったと思います。
環はアイナナのみんな(特に壮五)に褒められて認められることにすごい喜びを感じるようになっているので、彼がこの企画に懸ける想いは人一倍強いものになる気がします。特に今回は「みんなの役に立った」という事実もあるので、その大きさもひとしおと言ったところでしょう。
自分の提案がすんなり通ったことに、ちょっと意外そうな顔を浮かべた環がやけに美麗で印象に残っています。彼にとって、この企画が思い出に残るものになってくれたら嬉しいです。
…しかし楽器演奏という提案に繋がった背景には、大和の「俺らが揉めるようなことが起きれば良いんじゃないですか?」からナギのポジティブな言い換えまでの一連の流れが存在しています。つまり、彼らの仲の良さからの衝突を前提とした企画ではあるというのが気がかりです。
3話終盤の展開を考慮すると、最初から楽器演奏一枚岩で挑めるわけではなくなりそうで。とは言え、番組の収録は彼らのいざこざとは関係なく執り行われてしまいます。
そのズレがこの企画までも、悪い方向に進めないでいてくれると良いのですが…。悪い想像ほど見当外れであってくれないことが多いという経験則に、胸が幾何か締め付けられる思いです。
2人の新キャラクターたち
今回は新たに2人のキャラクターが登場、それぞれの個性を発揮してくれました。それぞれの第一印象について、順番に語っていきましょう。
狗丸トウマ
良い人。
過去にブラホワでTRIGGERに敗れたユニット「NO_MAD」のメンバー。ユニットはその敗北経験などを誘因にして価値観のすれ違いを引き起こし、遂には解散に。現在はそのショックに打ちひしがれている最中といった趣きでした。
自分(たち)の歌やダンスの技術力に自信があったようで、それよりも劣る技術で勝利を収めたTRIGGER、それを打ち破ったアイナナを目の敵にしている様子です。
「人気=実力」ではないという価値観で行動していながらも、結果を出せていないことには悔しがるところから逆に「人気」への執着を感じさせるキャラクター。実力があるから良いという達観は持っておらず、相応の評価を求めているということでしょう。
大衆文化とは単純な技術力で人を惹きつけるものではなく、人柄や個性なども含めて"愛される"ことが重要です。技術のみで評価されたいのであれば、一部の人に求められる仕事人になる他ありません。その辺りの認識がまだ若々しく、自分の中で折り合いがついていないところが彼の1つの魅力となっています。
『アイナナ』はアイドル活動を"仕事"と捉えてのプロ意識を持つキャラが多く、歌やダンスの技術で戦うキャラは確かにいなかったと思わされました。こういったところにも、3期の新しい方向性が見えるなと思います。
しかし多面的な魅力が求められる芸能活動と言えど、最終的には技術の高い者が評価される土壌があることに変わりはありません。正しいプロセスを経て光り輝く存在になれた時、トウマは他の誰よりも脚光を浴びる実力を備えている(※彼の主観情報)とも言えます。
見たところ悪ぶってイキっているようですが、その本性にはかなり強めの善良性が見て取れます。恐らく根は真面目な青年故に「柄が悪くあること」をロックだと認識し、その振る舞いに憧れているのではないでしょうか(辛辣)
なかなかそういうのって自分が思ってるようには行かないですよと言いたくなるものの、そこの"ズレ"はアイドル活動における良い意味でのギャップとなり得る要素。
それを受け入れて多くの人に愛される魅力に昇華できれば、「人気」を獲得することもワケはなさそうです。その辺りがどのように描写されるのかが、今後の気になるポイントですね。
毛嫌いしていた陸とも何だかんだ良い感じに打ち解けてしまい、3期の新キャラとしては初めて光を感じさせてくれる存在に。先の展開でも良心として在り続けてくれるのか、はたまた想像もしていない活躍を見せてくれるのか。期待は高まります。
御堂虎於
はちゃめちゃなイケメン。御堂グループの御曹司で生まれにも恵まれている。
生まれが良いキャラは壮五や楽など他にもいるのですが、虎於はそのバックボーンを(恐らく)自由に活用できている初めてのキャラなような気もします。表情や態度がやけに自信満々なことも、彼の人生が恵まれていることの裏付けとなっていそうです。
『アイナナ』には実は、全てにおいて自分に自信を持っているキャラが今まで1人も存在していませんでした。あの九条天でさえ、虚勢で何かを覆い隠している空気をまとっています(ナギは…自信とは違うような…)
そう考えると最初から異常なほど堂々としているキャラとしても虎於は異質で、そのせいか彼は現状作中でダントツの妖艶さを放つ存在になっています。
キャラクターとして色男を演じさせられている龍之介とは対照的、素の自分が既に"それ"であるという天然もの(?)八乙女社長が龍之介の活動の参考になる相手として彼を召喚したのも納得と言ったところです。
虎於が今後アイドルとして活動することになれば、龍之介が座っているポジションをそのまま掻っ攫って行けるポテンシャルの持ち主なのは間違いありません。まともにやり合っても、龍之介はセクシー路線のトップから陥落させられてしまうのかもしれません。
その上で彼の裏には月雲了の暗躍があるようで、恐らく「十龍之介の嘘」はTRIGGERの失墜に直接的な影響を及ぼすと思われます。虎於はツクモの目指す芸能界掌握プランの中枢に関わるキャラクターになると予見され、今後の彼がどのような人間性を見せてくれるかには要注目と言ったところです。
龍之介はああやって人を信じ込みやすいのは玉に瑕なものの、TRIGGERの2人の本質性を見抜いてバランスを取っていたりと、基本的には人を見る目があるタイプです。その彼が虎於のことを「信じる」と言っているのだから、虎於もまた根っからの悪人というわけではない気がします。
了との電話では龍之介のことを「千葉サロンの幹部」と呼んでいることもあり、(現在の情報上では)了から嘘を伝えられてる可能性もあります。とすれば、了に「嘘を伝えないと動いてくれない相手」と思われていることにもなるので…と推測はこれくらいにして、今後の活躍シーンを待ちましょう。
役に染まり行く大和
第3話は2話から引続き、二階堂大和の抱える闇が物語の中心に位置しています。
現在撮影中の映画の役は、奇しくも親への強い憎しみと恨みを持って猟奇的な人生を辿った死体コレクターです。役の感情を想像して理解しようとすることは、蓋をしていたはずの大和の負の感情を解放することにも繋がっているように感じます。
もちろん、役の感情が完全に大和と同一というわけではないはずです。しかし恐らく今回の一件において、大和は考えることを避けていた自分の本音に差し迫ることを余儀なくされたのだと思いました。
感覚で演じられない領域に到達するには、綿密な分析と言語化が必要不可欠だと思います。それを行うことで役者として求められているものに辿り着けたのは、ひとえに大和の才能と達観力のおかげでしょう。しかしその能力ので人間「二階堂大和」の心は、今まで以上に深く暗い水の底まで落ちて行ってしまうのです。
それが普段通りの彼であれば上手く乗り越えることもできたのでしょうが、同じタイミングで自身の出生と千葉サロンに向き合わざるを得ない事情が発生しています。と言うより、映画のオファーを受けた時点でそれは必定の結果だったと言えるのかもしれません。
初めて得た大きな映画の大役が、たまたま自分の半生とリンクしてしまうものだった。それと否応なく向き合うことになる現場で、不幸にも精神状態を悪化させる役にキャスティングされてしまう。大和の"空気感"がその役にピッタリなのだと考えられたのだとしたら、全てが全て皮肉以外の何物でもありません。
そしてその場に居合わせる大和の現在と過去を知る者――千はあくまでも「表現者」の同胞として彼にアドバイスすることを選んでいます。それは大和をとりあえず前向きにさせる要素を孕んでいるとは言え、根本的な解決を促すものではないでしょう。むしろどちらかと言えば、状況を悪化させかねない内容とも言えます。
さらに迷走する大和の心には、畳み掛けるように新たな試練が降りかかります。悪いことには悪いことが重なり、最低の精神状態を作り出していく。それが人生というものかもしれません。
今最も尋ねられたくないことを、最も尋ねられたくない仲間の口から聞くことになる。向き合いたくないものと向き合わされる過酷さを、大和は全て同時に味わうことになってしまいました。
ひび割れる関係
ただ彼はいっぱいっぱいで、後回しにしたいだけだった。
もっと良い煙の巻き方があったに違いないのに、どうしても今は直接的な物言いで話を終わらせてしまいたかった。いつもならできていた手間を、今ばかりはと惜しんでしまう。その一瞬の甘えが、いつだって最悪の展開への引き金となるものです。
大和と三月の言い合いは、正にそういったすれ違いによって齎されたものだと僕は感じました。
そもそもの話をしてしまえば、これは大和が今まで懐疑的に見られる点を誤魔化し続けてきたことが問題で。柳のように何となく受け流していたとしても、周りの人たちの疑問が無くなるわけではありません。それは解決しない限りは1つ1つ負債となり、徐々に積み重なっていくものなのです。
「ちゃんと答えてくれよ大和さん。あんたが待ってくれって言うならちゃんと待つから。誤魔化したりすんのはやめてくれよ…!」
仲が良い時は「まぁ良いや」で済ませられることも、疑心と不信が大きくなって来れば堪らずボロボロと溢れ落ちてしまいます。後回しにする時は小さな厄介事でも、解決する時には取り返しがつかないレベルに膨れ上がっていて。相手の感情の爆発と共に避けようもなく本人に浴びせられることになります。
それは相手のことを信頼できないから言うのではありません。逆に相手のことをちゃんと知っておきたいと思うくらい大切に感じているから、"ほどほど"で終わらせたくないからこそ向き合おうと考えます。
「…メンバーなんてそんなもんでしょ」
その爆発からさえも目を背けてしまうのであれば。
そのやり取りは決定的な軋轢となり、取り返しのつかない結末を招いてしまっても仕方がありません。
三月は大和が辛そうにしていることを案じて、その原因が彼の"隠し事"にあるのではないかと推察しました。その内容に関わる重要なワードを聞いてしまったことが仇となり。それを問い詰めることが問題の解決になると考えての行動でした。
「勝手な説教してんじゃねぇ!お前に俺の気持ちが分かるかよ!」
「分かってほしいなら伝えろよ!」
ですがその内情には、「自分が話してもらいたい」「他の人が知っていることを自分たちが知らないのが嫌だ」という自分本位な感情が必ず入り混じっています。三月が悪いことは決してなく、友達であれば誰だってそう思うのが普通でしょう。
三月は最初、大和が自分から言い出してくれることを待つと言っている立場でした。そのスタンスを翻らせるに至ったということは、相応に強い葛藤とそれに伴う苦しみを感じていたはずです。
相手の気持ちを考えて、考えた上で何もしないというのはとても苦しいことです。自分の日常生活も圧迫されますし、ふとした時にその相手のことばかり考えてしまうでしょう。
そうして考えたところで「何もできない」ことに変わりはない。その繰り返しで鬱積された負の感情は、「伝える」という選択をした瞬間に正しくない形でアウトプットされてしまうことも少なくありません。
三月の中でそういった「相手を想う気持ち」と「相手を責める気持ち」がごちゃ混ぜになってしまったことが、口から出る言葉と実際の語気(態度)に致命的な誤差を発生させてしまいます。
「あんたが犯罪者だったとしても、今更嫌いになんてなってやるかよ!」
三月は頭の中で大和を心配しているつもりでも、その姿を見ている大和には「責められている」と感じさせてしまう。
「あんたにしてもらったこと、忘れるもんか!」
故に大和はその三月に心を開こうとはせず、より頑なになって彼の"糾弾"を退けようと躍起になってしまいました。
「うっせーなもう…!」
本当は心の奥底では、三月の気持ちと向き合いたいと思っているはずなのに。普段の大和であれば、もう少し冷静で上手い切り返しができていたはずなのに。大和にしては珍しく、感情に感情で返してしまったことが最悪の展開を引き起こします。
大和も「触れられたくない部分」に触れられては、一度露わにした感情を自分の意思で封じ込めることは難しいに違いなく。言い合えば言い合うほどに2人の感情はすれ違って、「こんなはずじゃなかった」だけを導き続けてしまいます。
三月は大和の心を救い出したいと思っていて、大和は三月やみんなのことを傷付けたくないと思っている。そしてそのお互いの気持ちは、間違いなく互いの心の内にまで伝わっている。にも関わらず、今のままではそれが絶対に交わることはない。
「大和…あなたの望み通り、三月の顔は見えなくなりました」
視聴者目線では、その全てが分かってしまうからこそ辛いのです。決して憎み合っているわけでも幻滅しているわけでもなく、各々が心の底から相手を想う気持ちを正しく表現できないでいる。たったそれだけのことだからこそ、解決が異常に難しいということまで。我々の心は、その彼らの感情を受け取って感じ取ってしまいます。
「――Are you Happy?」
ただし、その善良性がある限り、きっと彼らの行き着く先は明るいものになって行くと。その可能性だけを信じて、しばらくは二階堂大和の心の動きに付き合って行くことに致しましょう。
器用そうに見えてまるで不器用で、強そうに見えて実は誰よりも強がっているだけ。そんな君のことが僕はとても愛おしい。二階堂大和とアイドリッシュセブンの未来に、幸多からんことを。
「こんな光景は…この部屋では見たくなかったのに…」
おわりに
第3話はとりあえずメモリアルな1回になったことは間違いないのですが、聞き及ぶに「そんなこともあったね」と言いたくなるような展開が目白押しとのこと。これは「序の口」だそうです。まぁまだ第3話だからそりゃそうだよな。おいコラおい。
1期2期の積み重ねによって生まれた彼らの絆や関係性をストックしているせいで(おかげで)、1つ1つのシーンから受け取る痛烈さもよりスケールアップと言ったところです。
全てのキャラの心情をできるだけ細かく受け取ってあげようと考えていると、滂沱の感情が自分の中に流れ込んできて涙を抑えることが難しくなってしまいます。そのあられもない姿が動画の方に収められていますので、よろしければそちらもお楽しみ頂ければ幸いです(※下部にリンクあり)
元々2期中盤くらいから露骨に心を殺しに来ている作品でしたが、第3話で早くもそれを"楽しむ"スイッチをONにされた感覚です。というわけで4話以降も動画に記事にと勤しみます。今後ともよろしければ一緒に楽しんで頂けると嬉しいです。
それではまた。超感想エンタミアのはつでした。また次回!
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