第7話から新展開。
春組の初回公演を大成功で終えたMANKAIカンパニーは次の公演に向けての準備を始めます。
夏公演は春組は補佐に回り、新たなメンバーを迎えての全く新しい公演。より大きな劇団へと歩みを進める新進気鋭の古株劇団。
新しい物語を読み解いて行きましょう。今回もお付き合いください。
「夏組」結成
今回からメインを張るのは「夏組」と位置付けられたキャラクター達。OPも一新され、スタッフロールのキャスト一覧でも夏組の面々が上に来るなど、作品面でも新たな物語が始まったことが示唆されています。
キャラが変われば展開される物語の質も、取り扱われるテーマも変わるもの。そういった観点で見て行くと、夏組の注目点も見えてきます。
まず夏組は、春組よりも年齢層が低めに設定されていることがポイントだと思われます。春組が高校生〜社会人だったのに対し夏組は中学生〜大学生と、学生を中心としたユニットになっています。
年齢層が若いことで、キャラクターの精神性もまた全体的に未成熟です。
春組は個々が抱えている問題はあれど、自分の生き方や方向性に一定の達観や割り切りがあるメンバーがほとんどでした。対して夏組は、色々な意味で"子供"な部分がある人間によって構成されています。
まだまだ自分のことしか考えられない、他人の心を慮れない幼さがある彼ら。春組のように価値観の折り合いを付けて進むと言ったレベルにすらおらず、それぞれの価値観をしっかりと形成して行く段階から始めなければなりません。
しかしそれがまた演劇の面白いところでもあります。
成長の場としての演劇
演劇は大人が恥も外聞も捨てて熱中できる歴然とした文化ですが、その一方で学生の演劇部や児童劇団、レクリエーションなど、人格形成の場としても大きく社会貢献している側面もあります。人生で一度も“劇”というものに触れたことがない人は、ほぼいないのではないでしょうか。
演劇は皆で創るものです。
優れた人間が1人でどうにかできるものではありませんし、綿密なコミュニケーションと時間をかけた稽古によって初めて成立します。
だからこそ、相手の気持ちを考える・自分の意志とは違うものを尊重するといった人間力が求められます。スポーツなどのチームメンタリティとも少し異なる、言葉を伴った完全なる心と心の共有。それは若くして日常生活で得ることが難しい、純度の高い人付き合いを学べる環境です。
春組は大人になってから演劇を嗜むことで得られる一体感や共有感、年甲斐もなく心が熱くなる瞬間を伝えることに全力を注いだ形で、自己実現の場としての演劇の魅力と可能性を最大の輝きで見せてくれました。
その春組では完全には見られなかった、成長の場としての演劇の魅力を「夏組」は見せてくれるのではないかと思っています。
初回公演で成功を収めて一皮剥けた春組のメンバーが、一気に大人びて見えてくる対比構造が成立しているのも印象が良いです。1クールアニメの前半後半でメインキャラが完全に切り替わる作品は珍しいと思いますが、春組への愛着がより強くなるように夏組の面々が設定されていることでその違和感を回避。その流れをしっかり練り込んでいる原作の丁寧さが光っているなと感じました。
夏組のキャラクター達
では7話で理解できた範囲で、夏組の注目点を1キャラずつ見て行きましょう。
皇天馬
夏組のキーマンにして個人的にも最注目株。
プロレベルの実力(と言うか実際にプロ)でありながら、何故か素人集団のMANKAIカンパニーを自分の居場所に選んだ男。この作品で初めてとなる、加入前から演技経験を積んでいるキャラクターでもあります。
全体的にイキり傾向があり、年齢や経歴でマウント取りたがるところに精神的な未熟さが見られます。大きな挫折を知らずに成功を収めてきた才能の持ち主で高校生。そういうお年頃ですし、人間として自然な男の子という感じ。
また映像中心の役者で舞台経験がないのもポイント。
わざわざそこが強調されたということは、そこに彼が直面する問題があると考えるのが自然です。
映像と演劇は「演技をする」という一点については同一の文化圏ですが、その「演技」の中で求められるスキルは全く異なっています。映像でついている芝居の癖が演劇では仇になることも少なくありません(※逆も然り)オーソドックスに考えれば、玄人であるが故にそこの違いに戸惑うことになるでしょう。
口も態度も悪いですが演技の実力は本物で、芝居にかける熱意も人一倍大きい彼。演技の幅を広げるために演劇への挑戦を考えたとのことですが、そうしたいと思わせる何かが過去に存在しているかが気になります。
劇団探しにも余念がなく、MANKAIカンパニーのような明らかに自分のキャリアと不釣り合いな劇団の公演も、真贋は自分の目で見て判断する。そんなストイックさも垣間見得ました。
そしてその中からわざわざMANKAIカンパニーを選んだのにも理由があるはずです。しかも「協調できないなら下ろす」といづみに言われた時に素直に引き下がったことから、相当に執着していることが窺えます。
素人集団から始まった春組の公演は、世間的に考えれば「そこそこのクオリティ」程度の舞台で、プロを唸らせるものではなかったと推察します。にも関わらず、自分の居場所を吟味していた彼は、その公演に大きく魅了されたようです。
春組の公演で他より優れているところがあるとすれば、恐らく圧倒的な熱量とそこに懸ける想いの大きさだろうと思います。彼がそれに強く惹きつけられたのだとしたら、そこに今の彼が芝居に求めるものが眠っているのではないでしょうか。
夏組は彼だけではなく、メンバー全員が「春組の公演を観て演劇の魅力を知った」ことを共通項としてスタートしています。尖った魅力を持った春組の芝居ですから、感じ取った魅力の方向性に大きな差異はないはずです。
それがきっと、まだまだチグハグな彼らがまとまっていくための大きな鍵になるだろうし、転じて春組の魅力もより深く感じられる展開が待っていると予想しています。その拡がりを見て行くのが今から楽しみです。
瑠璃川幸
衣装担当として春組公演から関わっていた幸くんが、夏組として板の上に立つことに。
あくまで興味があるのは衣装であり、その延長線上にある勉強の一環として演劇への挑戦を了承した形。この作中で今のところ唯一の演劇が自己表現の中心にない演劇人(※至は表現者ではなかった)です。
勝気な性格の中学生ですが、自己本位というわけではなく協調性を重んじるタイプ。ただし嫌なことは嫌と我慢せずに言い切ってしまうので、唯我独尊型の天馬とはぶつかりが堪えない間柄になるでしょう。
その裏で天馬の演技の素晴らしさに心を奪われてしまったところもあり、彼が衣装だけでなく演技に強い興味を示すとしたら天馬の影響が強く出ることと思います。
関係性としては夏組の王道コンビであろう天馬と幸。2人のぶつかり合いは、物語の進行にも深く関わってくるだろうと感じます。
向坂 椋
幸の同級生。
演劇経験は一切ないが演劇に興味を持った引っ込み思案の男の子。
『A3!』のキャラクターは演劇に慣れている(抵抗がない)人が中心で、そもそも演劇適性が高い人が演劇に臨んでいる姿がフィーチャーされています。
その中で椋は明らかに演劇に向いていないのに挑戦してみたいと感じている少年で、他のキャラとは全く異なった苦悩を抱えているように思います。
技術や度胸は、演劇に触れることで後から徐々について行きます。大事なのはそれを楽しむ心と、芝居にまっすぐ向き合いたいと思う熱意。それさえあれば必ず役者はできますし、その性格もやがては役者としての味になるのです。
上述の通り、演劇は人間の成長を促す側面がある文化。彼のような社交性に乏しそうな人間が、その文化に触れることで大きく人生を変容させることも少なくありません。かく言う僕も、演技に触れる前は目に光がないガチガチの陰キャでした。今では目立ちたがり屋です。
今後彼の成長は、他のキャラとは全く違う希望を見せてくれるはず。夏組公演まで壁にぶち当たり続ける3ヶ月になると思いますが、健気に頑張る姿が見られたら嬉しいです。
三好一成
つづるんの先輩。
誰よりも役者っぽいのに一切の演技経験が無く演劇に興味もなかった三好さんが満を持して(?)演劇にトライ。
コミュ力オバケすぎて逆にコミュ障なのではないかと思えるほどのノリの軽さは、間違いなく演技への高い適正を示すものです。しかしその実この手の役者は周りと合わせることが著しく苦手なため、舞台全体を引っ掻き回しかねないリスクがあります。まぁ集団演劇だとこういう変わり者がだいたい1人はいる。
劇物は用法用量を守って使えば他に替えが効かない魅力を持つ反面、1つ誤れば全てをぶち壊しにしてしまうものです。三好はそんな使い所が限られるものの、上手く使えばその圧倒的な存在感で演目のスパイスとなってくれる存在だと思います。
その辺りをいづみが上手く料理するのか、はたまた彼自身が何かを学習して変わって行くのか、その辺りに注目が集まります。
しかしこうやって見て行くと、夏組のとっ散らかりっぷりは春組の比にならないなぁと…。
斑鳩三角
おにぎりオバケ。
三角じゃないおにぎりを与えるとどうなるのか気になる。
個人的なアクが強くまとまりが見えない夏組の中でも特にぶっ飛んだ存在。シトロンが可愛く見えてくるぜ。キャラが負けちゃうヨ。
アクロバットプレイが得意で、運動能力は全キャラ中間違いなく最高。この夏組の中で彼の尖り方が一体どのような様相を呈すのか。今はほぼ言うことがありません。今後に期待です。
立花いづみ
だんだん演劇を基準にしてしか物事が考えられなくなってきた。
良い傾向です。カレー食べて落ち着いてね。
おわりに
春組とは全く違った尖り方が魅力の夏組。
何だかんだ言って同じ方向を向いていた春組と対照的に、全員が別々のものを見据えて演劇と向き合おうとしている。そんな危うさを感じさせられます。
ですが胸に秘めた想いは同じくしているのです。春組の熱意ある芝居に心打たれた彼らの内側には、それと共鳴した熱意が存在しているはず。それが彼らの関係性を良いものへと動かしてくれることでしょう。
それがどのような過程で良くなっていくのか、またどんな到達点を描くのか、それを1話ずつ想像しながら楽しんで行こうと思います。後半戦、このブログ記事も是非とも楽しんで頂けたら幸いです。よろしくお願い致します!
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