無間人形というファンタジー存在によって、無事自分たちの意思と思いを確かめ合えた紬と丞。
冬組がGOD座に挑んで行くに当たって、経験者である2人がコミュニケーションを取って行くことは絶対条件とさえ言えました。MANKAIカンパニー七不思議である彼(?)も、その危機を悟って2人の元に舞い降りたのかもしれません。
脚本も完成し舞台の方向性も固まり、4話目にしていよいよ彼らの創り出す演目の話に入って行きます。
基礎稽古を終えて、1本の舞台に向けて走り出してからがトラブルに見舞われやすいもの。そんな彼らのやり取りを見守る第22話。今回もしっかりと紐解いて行きましょう。
目次
微妙な距離感が生むズレ
過去3組と同様に鹿島から指導を受ける冬組。彼らに与えらた評価は「今までの中では一番出来上がっている」という思いの外に高いものでした。
経験豊富な紬と丞に加えて、多種多様な個性を持つ"濃い"メンバーが揃っている座組です。今回彼らが演じることになった『天使を憐れむ歌。』のような浮世離れした演目では、その個性が上手い具合に機能してくれているのだと思います。
癖の強さは芝居の多様性を下げますから、初回からリアリティ重視の演目を彼らがこなすのはかなり難しかったと思います。結果的に神木坂レニがGOD座の得意分野で攻めてきたことが、冬組にとっては追い風だったということに。皮肉な話ですね。
鹿島からそんな冬組に与えられた改善策は「座組の距離を縮めること」でした。人間的な距離感が芝居の端々に反映されてしまっていることが彼らの弱点である、とのことです。
実際、冬組はまだ全員で行動しているところがほとんど描写されておらず、視聴者的にも謎が多いまま後半戦を迎えています。全員がこの活動に納得はしているのは分かるものの、"仲良し"と言えるかは微妙なところです。
故に相手への遠慮があるのでしょう。芝居において「こうしたら迷惑じゃないかな?」「ちゃんと受けてくれるかな?」と考えることは、やり取りの不自然さやいらない隙間を生みます。それが残っていると、何となしの気持ち悪さが観客に伝わってしまいます。
場合によっては、これは仲が悪いより大きな問題になり得ます。
例えば万里と十座のような関係性だと無遠慮な芝居ができますし、それが真に迫ることも少なくありません。一方で冬組の持つ距離感は、単純に芝居への悪影響を与えるものだと言えます。
冬組は全員が成人している大人ですから、そういった気遣いもどうしても相互に生まれやすいはず。逆に言えば気遣いで何とかやれてしまうのが、微妙な距離を生み出す原因となっています。
「飲み」の重要性と必要性
真に迫った芝居をするためには、腹を割って話すことが必要。別に理由があって距離を取っているわけではない分、理由がないと近付こうともしないという現状が冬組にはありました。
だから「お前ら、全員で飲みに行ったか?」という一見トンチンカンな切り出しが、実は本当に重要で貴重なアドバイスだったりするのです。僕も過去の経験の中に、「あの時飲みにでも行っておけばな」という後悔が残ったものが存在しています。
酒の話題によって話が展開されるというのが、既に他の座組にはない表現。今までは学生演劇の発展に近い雰囲気で話が進んでいましたが、冬組は「大人が改めて演劇を始めるとすると」が全体的なテーマにもなっているなと感じました。
ちなみに役者というのは半分は遊び人と同等の存在なので、「酒・タバコ・ギャンブル」という駄目人間三種の神器が当たり前のようにコミュニケーションに利用されます(男性間では夜遊びが含まれることも多い)
その中で最もライトな酒から話が始まることは多く、鹿島くらいの年齢の芝居人がいきなりクソ真面目に「飲み」を提案してくるのがリアルで笑えました。
断っておくと僕は酒は飲み会以外ではほぼ飲まず、タバコとギャンブルと女遊びはしません(謎アピール)そのせいで役者仲間からは「超真面目な奴」と言われていました。世間的に見ると十分遊び人の枠なんだけどね…。
飲みの席で語られたのは、なんと各キャラクターの恋愛にまつわるエピソードです。
冬組は数多くのキャラがいる中で年齢もそこそこの座組。恋愛経験がない方が不自然ではありますが、女性向け作品で直接的に恋愛トークをするシーンがあるとは思わなかったので普通に驚きました。
この辺りはキャラの項でまとめて触れるとして、記事は先の物語に進みましょう。
神木坂レニの姑息なやり口
冬組がに今回訪れた試練は、神木坂レニの謀略による内部分裂の危機でした。
何らかの方法で調べ上げた身辺情報と謎の工作員によって、レニは彼らの"知られたくない部分"を的確に煽って行きます。
実力や規模だけで考えてもまず間違いなく勝てるMANKAIカンパニー相手に、この意地汚いやり方は実に器が小さいと言わざるを得ません。戦術的な万全を期す…と言えば聞こえは良いですが、実態は多大な無駄金と労力を割いた弱い者イジメでしょう。
実力が拮抗しているならまだしも、このタイマンACTのためにバレれば100%悪になるリスクを背負うのは得策ではないはず。にも関わらずそう行動させてしまうほどに、神木坂レニの中にはMANKAIカンパニーへの強い憎悪があるようです。
しかし周到に用意されたその作戦によって、冬組の中には確実な不和が生まれて行くことになります。まだまだ強い信頼を構築できているわけではなく、"大人の関係"で歩んでいる状態の彼らにはこの攻撃が覿面に効きました。
彼らがここまで上手くやれていたのは、トラブルが起きないように気遣いあって進んでいたからです。トラブルを乗り越えながら来たのではない故に、1つのトラブルが全体のバランスを乱してしまう危険性は常にあったのです。
レニがそこまで見越してやったとは思えない(誰が相手でも同じことをしていたはず)ので結果論にはなりますが、冬組を壊して勝つのを目標にするなら"正しい"やり方だったと言えるでしょう。
そんなどうしようもない問題が、
今回活躍したキャラクター達
さてではここで毎度お馴染。今回注目したいポイントについて、各キャラごとにしっかりと見て行きましょう。
月岡紬
今回は比較的サブ気味な立ち回り。
恋愛では演劇を辞めてから1人の女性と付き合い、演劇を再開したいからという理由で別れたというエピソードを披露。
「ちゃんと話したら彼女も理解してくれた」といけしゃあしゃあと言っておりますが、一般論で考えたら「そんなわけないだろ」と言いたくなってしまう状況。恋愛の形は千差万別なので必ずしもとは言えませんが。
そもそも"ちゃんと話す"という状況が必要な時点で向こうは納得していないと見るのが妥当です。恐らくあまりにも紬が頑固なので「"分かった"と言わざるを得なかった」可能性の方が高いでしょう。
言い方的に演劇を再開すると言ったら反対されたわけでもなさそうですし、別に演劇をしながら付き合う選択自体はあったのではないかと。それを紬の意思で二者択一にしたのだとしたら、かなり罪作りな男だなぁという印象です。
割と自信無さげ憂いのある可哀想な人に見えなくもないのですが、こと人間関係の紡ぎ方を見ているとかなり身勝手なところがある青年。丞とセットで似た者同士、類は友を呼ぶところもかなり大きそうです。
芝居面では細かい所作や感情表現に長けており、その点は丞も一目置くほどの技巧を見せてくれました。逆にオーバーな芝居は得意分野ではないからこそ、GOD座に適合しなかったのだろうとより強く感じました。
演技の良し悪しと言っても色々あるもので、MANKAIカンパニーの求めるお芝居は紬の質に適合したものだと思います。
この舞台が彼が役者としてもしっかりと自信を取り戻す、初回公演がそんな機会になってくれたら良いなと。
高遠丞
圧倒的に生々しい恋愛トークを披露したモテ男。色々大丈夫か。ただ「女なんて何もしなくても寄ってくるだろ」みたいな価値観になっておらず、誠実なお付き合いに終始している様子なのは好印象です。
不協和音パートでは売り言葉に買い言葉に近い形で東を煽ってしまい、その後に「そんなつもりで言っていない」と切り返すなどかなりの無神経さを発揮。やはり論理的に見えて、感情的に物事を解釈する傾向がありますね。歴代の彼女もかなり苦労してきたことだろう。
物事を論理的に解釈できる力がある人ほど、感情に支配された時の物言いが苛烈になりがちです。本人は頭の中に浮かんだ言葉を何となく吐いただけでも、思っている以上に相手の心を抉っていることも少なくないでしょう。
そういう「失敗だと思っていない失敗」は彼には多いと思うので、そこに自覚的になれたら良いのだろうなと思います。ただ、その人間性を含めて「超の付く役者気質な人間」と言われると本当にそうだなと思わされますね(論理を感情でアウトプットできる人ほど演技は上達しやすい)
芝居面では、GOD座仕込みのオーバーすぎる芝居を抜くのに苦労している姿が印象的。彼が踏んできた舞台は大勢の観客を入れて行う大舞台なので、技術的なアプローチがそれ用で固められてしまっているようです。
対して今回立つのは比較的小さめで観客との距離が近しい舞台。そのせいで箱と芝居のサイズ感が合っておらず、滅茶苦茶に浮いてしまうのです(※MANKAI劇場自体は決して小さい劇場ではない)周りはほとんどが素人同然の役者と細やかな芝居を得意とする紬なのも、それに拍車をかけています。
役者として明らかに演技が上手い人が、演目において最も評価を受けるわけではなく。その場と役柄に合わせた振る舞いができて初めて「良かった」と言ってもらえるものです。TVドラマに出ているのに1人だけ演劇同然のオーバーアクトをしていたら、視聴者には引かれてしまうイメージです。
丞にとってMANKAIカンパニーでの経験は、今後の役者人生で大きな糧となることでしょう。才能のある彼ですから、色々なスタイルの芝居を経験してより幅広いステージで活躍できる役者になってほしいですね。
御影密
見た目は子ども、その実態は滅茶苦茶な酒豪。
相当に酒を飲んでいてもダーツを余裕で狙い通りに投げられるほどにザル。もしくは、酔っ払っていても狙い通りに投げられる超平衡感覚の持ち主かも?しれません。
未だに分かっていることはほとんどないのですが、とりあえず寝ている時間より起きている時間の方が長くなっただけでも凄まじい進歩でしょう。
誉の努力の賜物なのか、密自身の心情変化によるものなのかは不明と言ったところ。しかし芝居を一丸となって創り上げて行くという面では、今まで以上に協力的な態度を見せてくれるようになりました。
さらに今回は「密入国者ではないか」という情報も開示されました。とは言え誰がどのような経緯でその情報を知り得たのが謎であり、捏造された内容である可能性も否めません。
ですから最大の問題となっているのは、現在の彼がそのような「好き放題言われてしまう立場」にあるという事実でしょう。今の彼には確固たる拠り所となるステータスが必要不可欠です。
そこで誉から提案されたのが、MANKAIカンパニーで自分の立場を作り出すことでした。
今までの彼のことは誰にも分からなくても、これからの「御影密」は積み上げて行くことができます。それが最終的には自信となって、彼の人生はもっと彩のあるものに変化して行くかもしれません。
特に行き場もやることもないから、何となくMANKAIカンパニーにいる。それだけの青年だった密は、具体的な目標を得てどのように変わって行くのでしょうか。残り2話で、その片鱗だけでも見られたら嬉しいですね。
雪白東
明らかに青少年少女の教育によろしくない関係性を持っていそうな雰囲気を匂わせている東さん。まぁ第一印象からそういう気はあったので、別段不思議でも何でもないのだが。
しかし彼自身はその生き方に100%納得しているわけではない様子で、添い寝屋をしていることにも何となしな引け目があるのが見て取れます。それを踏まえると、バーでの匂わせも嘘である可能性が一応あると考えておいても良いでしょう。
ポイントだったのが、丞に煽られて割とすぐに怒ってしまったこと。
ミステリアスで一歩引いたところにいるイメージでしたが、こと図星を突かれると受け流さずに感情的に捉える一面もあるようです。
今回のやり取りから、想像していたよりも人間らしい人間であることが見えてきました。水商売関連を弄るのが彼にとっての地雷だとしたら、余計に抱えている過去への興味が湧いてくるというものですね。
後半では誉に「芝居においてその経験は武器になる」と指摘されたことで、考え方に1つの変化が生まれたように感じました。実際、水商売のノウハウが何かの役に立つ活動や職種は限られるので、お芝居は彼にとって1つの救いとなる文化なのかもしれません。
多くの人が避けて通りたがる道を歩んでいる者は、表現の世界では他の者にはない魅力を持っていることになり得ます。
秋組の時に「万里や十座のようなリアルヤンキーにしかできない芝居がある」といった旨の内容を記載したのと同じようなイメージです。東にとっても、演劇が心から自分を肯定できる場所になることを願っています。
余談ですが、前回までの記事内で東の現状を「求職中」と記載しましたが、正しくは「休職中」だったようです(メッセージをくれた方、ありがとうございました)アニメでは一応どちらの解釈も可能だったため、一旦そのままにしておきました。
今回で明らかに「休職」が正しいと思われるやり取りが展開されたことを踏まえ、このタイミングで勘違いをしていたことを公開しておこうと思います。
七尾太一
自業自得の地獄。
初心者に突然の難題。赦されるための代償は大きかった。この経験を機に、是非衣装班として2人で頑張って行ってほしいですね。
有栖川誉とまごころルーペ
第22話でフィーチャーされたのは、詩人の有栖川誉です。
意図しなかった不協和音を取り除くために解決案を提示したつもりが、逆にメンバー全員の心を強く傷付けてしまうという失態を犯してしまいます。
当然彼は悪意を持ってそのようなことを言ったわけではなく、本当に良い方向に話を向けようとした結果が大失敗だっただけのことです。しかし、それは言われた相手には悪意として受け止められかねないもので。仲間の反応は、誉の心をも深く傷付けました。
彼は過去の経験から自身の持つ欠点に自覚的なようで、故にどうしようもできない自分自身の現状を憂いています。分かっているのに直せない。これは本当に強く本人の心を強く圧迫しますし、何か同様の過ちを犯す度に自己肯定感を大きく削いで行くものです。
誉もそのジレンマにはまっていて、陰ながら独りで苦悩する青年でした。極端に合理的か芸術的な判断しかできない"らしい"という事実。確かに劇団に加入を決めた時も、ギャグのような思いっきりの良さとラフさだったのは記憶に鮮明です。
今回はその胸中をいづみに曝け出せた辺り、昔の彼からは大きく進歩していると考えてあげるべきなのだと思います。それだけ自身を変えたい気持ちが強いことの表れですから。
そんな悩みを抱える誉の元にやってきたのは、なんとまたも「劇団七不思議」の一角。他人の考えが読めると言う荒唐無稽存在の"まごころルーペ"でした。まさかまたファンタジー存在に出会うことになるとは…。いや名称まで公開されていたんだから察しておくべきだったか…。
最初はルーペに懐疑的だった誉も、実際に支配人に使ったことでその効能を確信。ルーペの存在は仲間たちとの再度の対話に消極的だった彼に前を向かせ、ありのままの気持ちを伝えようと一念発起させるまでに至ります。
欠点を才能へ
誉の持つ最大の欠点は、相手の気持ちや考えていることに対する"回答"を見誤ってしまうことでした。
場を乱してしまった原因はその全てが図星だったからに他ならず、それは転じて彼が心の読み解きに長けている証明だと思われます。
つまり相手の本心が直接伝わってくる状況においては、彼の欠点は極めて適切なアドバイスを届けることができる才能へと変化するのです。
まごころルーペは有栖川誉の才能を最大限活かすために、最も必要なアイテムだったと言っても過言ではありません。
そして誉は恐らく自分の個性を能力だとは思っておらず、忌むべき欠点であるとして忌み嫌っていたはずです。皆の前でかつての恋人の話をしようとしなかったのも、その表れでしょう。恋愛の失敗は、それだけ大きなトラウマを心に残しますから。
それがまごころルーペを通したことで、決して無くした方が良いものではないことに気付くことができた。使い方をしっかりと身に付ければ、逆に周りの人たちに幸せを届けることができる才覚だと感じ取ることができたのだと思います。
「…………」
だからこそ、誉はもうルーペの力に頼ることをやめました。元あったところにしっかりと返却し、自分に色々なことを教えてくれた"彼"に感謝をするような優しい笑顔で蓋をしたのです。
「いつか…私だけの力で…」
それは今までの自分を全否定せず、自分自身の在るべき姿を受け入れて行く意思表示。どうしようもできない自分から脱却し、必ず自分の殻を破ってみせると前を向いた、有栖川誉の新しい第一歩です。
浮世離れした感性と感覚があるからこそ、彼は詩人としての成功を成し遂げたはず。共感力が欠如しているから体現できる世界観はあり、それはこれからも変わらず誉の表現力の素地となってくれるものだと思います。
その彼が共感力をも得て、新しいフィールドで羽ばたくとしたら。より誰にもできない世界を体現できる表現者へと昇華するのではないでしょうか。
冬組の不協和音の解消は、彼の書き出した新作の序詩に当たるもの。演劇という新世界で見た景色を、情感豊かに書き起こしてくれることに期待しています。
おわりに
プライべートなことから演劇の話まで。冬組の4話目は、その全体像に大胆に切り込んで行く物語でした。かなり多くのことが判明し、ようやく座組のことが何となく理解できてきた気がします。
それぞれに人には言い出しにくい抱えるものがあり、その1つ1つと折り合いをつけて前に進もうと頑張っている。
一見大人びているようで、どこか子供っぽい執着を見せる彼ら冬組。そんなメンバーだからこそ描ける、情緒的な物語の迎える先を見せてもらいましょう。
終盤では早くも初回公演がスタートし、物語のエンジンもフルスロットルに。ここからタイマンACTに勝利(勝手に確定)するまでがどのように描かれるのかに期待しています。
今回は本当にわずかな時間でしたが、演劇関連でもかなりディープな話題に突っ込んできているので、次回以降でその辺がどうなるかも楽しみです。
さぁいよいよクライマックス。『エーアニ』は年初に始まり延期したことも踏まえると、2020年を丸っとお付き合いした作品になりました。終わりが見えてきたのも、相応に感慨深いです。残りも全力で駆け抜けて行きましょう。それでは。
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