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キンプリオタクの『あんスタ』ミリしら感想 第15話 夢と理想と矜持と信念 皆が輝く天の川

2019年10月25日

芸術家 斎宮宗の目指すもの

ライブの後、噴水のそばで突っ伏す斎宮の姿。
Valkyrieは得票数ではfineに後れを取り敗北。あれだけ勝ち誇っていると(視聴者としては)最早フラグと感じるレベルではある。

エレメントでも斎宮は一瞬だけ深海と一緒にいたし、(奇人は基本的に友人関係にある中で)比較的仲が良いのでしょうか。

自分達の方が優れたパフォーマンスをしたという点は譲らず、fineは芸術を解さない俗物ファンを大量に抱えているだけだと吐き捨てながらも、それを語る斎宮の顔は憂いに満ちていて悔し気でもありました。

何だかんだ言いつつも他人に認められて勝利したかった純粋な願望の表れか、前述した芸術性とエンタメ性の融合がまだ一歩及んでいなかったことへの悔しさか。どちらにせよ、口で言うほど彼は大衆を軽んじていないし、自分の実力不足と真摯に向き合っていると感じます。

「それでも…」

それが分かっているから、深海は彼のことを褒めます。
泣き事と強がりで本音を隠してしまうことで、自らを肯定できず他人からの肯定も受け取ろうとしない斎宮のことを慮って、彼は励ましの言葉をかけて行きます。

「あの舞台で何か凄いことが…とんでもないことが起きているのは、皆心のどこかでは理解できたはずです」

確かに大衆は物事の芸術性を理解し語ることはできません。
知識と経験を持たない受けるだけの人間には受け止めて感じたことが全てであり、それ以上にはなり得ない。だからこそ与えるもの足るアイドルには、芸術家とは違った意味と力があります。

ですがどんな人間でも感じることはできるのです。
目の前で行われていることが凄いか凄くないか、面白いか詰まらないか、そういったことは誰にだって判断できます。そしてその大衆評価が大きく芸術的な評価と乖離しているわけでもない。本当に良いものの良さは、誰にだって伝わるというのが現実です。

だからこそ深海は得票数ではない心の動きは必ずあると、それはその人達の心と記憶に刻まれて、いつか花開く時が来るのだと訴えた。芸術を解さない俗物が芸術を解すキッカケが、Valkyrieのステージになる可能性だってあるわけですからね。

そして何より、同じステージに立つ者として道を究めているfineの面々には、特に彼の体現したものの良さが伝わっているはずだと。

数字で上回っている以上は自分達の方が上であると考える表現者は二流。一流に座り更に上を目指す者であるなら、より優れたもののこだわりの真贋を見極めて正当に評価することができる。その評価軸を持って芸術家は芸術家足り得ると言えます。

斎宮が彼らにどう思われているかを、直接知れる日が来るのかは分かりませんが、事実としてはValkyrieのステージはfineに大きな衝撃を与え、それはfineの変化を促したでしょう。そしてfineを変えるということは、夢ノ咲学院全体を変化させる可能性さえあるのです。

歴史の渦の中では決して中心人物とはならないながらも、その存在が確かに渦の動きを変える役割を果たす。それが真の芸術家であり、その観点で見ればValkyrieは既に十分芸術家としての役割を果たすに至りました。

でも斎宮宗はそれだけで満足する男ではないのでしょう。
より高みを目指し、よりエンターテイナーとしての自分を洗練し、学院の中心人物を目指すはず。

今後の彼の活躍に期待です。

天祥院英智の全てを見届ける存在

Valkyrieのステージを見て、異なった衝撃を同様に受けたfineのメンバー達。

英智は独りで、耽ることを選びました。
あのステージを体現した斎宮と、彼の体現したこだわりの全てを反芻し、受け入れようとしていたのです。

我を忘れ、彼を探し出してくれた渉の言葉も聞かずにただただValkyrieのステージについて語り続ける英智。自分にはないものを持っている斎宮のことを本当は認めていて、それもあってまた学院で彼らにライブをして見せてほしいと願ったのでしょう。

自分の見たかった以上のものを見せてくれたValkyrieについて、子供のようなテンションで斎宮のこだわり1つ1つを見抜き、指摘し、評価して行く英智の姿は、正に斎宮が望んだ自分の芸術性を理解する存在その物です。

あんな出会いでなければ、この2人…引いては奇人と英智は良き友人になれたことだろうと、改めて思わされる1シーンです。

「渉…本当に君達は狡いね…。神様に愛されている…」

一通り語り尽くし、力なく倒れた英智は、今度は自分の胸中を渉に語り始めます。それは皇帝となる前…何者でもない1人の人間だった頃から、ずっと英智が抱いていた根源的な想いでした。

奇人と呼ばれた人間達は、学院の中でもやはり特別。凡人が努力して努力して努力して、やっとのことで辿り着く境地に、その独創性と表現力でいとも簡単に辿り着き抜かしていく。だからこそ彼らは、才能ひしめく学院内で突出した存在として語られるに至りました。

「僕はね、昔から君が…君達が羨ましくて仕方がないんだよ…」

英智のような存在を凡人と呼称すべきかはさておき、英智自身は少なくとも自分のことをそう思っている。何故なら、誰かを率いて頂点に立つ才能は間違いなく持っていても、それは英智のなりたかったアイドルの才能とは少し違っているからだと解釈しました。

他の才能を振りかざすことで、持たざる才能を埋めて最強の地位に立っているとしたら、それは英智の努力の賜物であると言えます。それはそれで尊いに違いない。

しかし、その努力をしなくても良い純然たる才能が最初からあれば、どれだけ良かっただろう。才能なんて欲したものでなければ、ないのと同じ。彼はそう考えるのかもしれません。

「…私達も貴方のことが恐ろしくて愛おしいですよ、英智」

でも渉はそんな彼を否定せず、肯定で包むことを選びます。そういった"持たざるもの"を手に入れようと努力し足掻き、もがき続ける人間達がいたからこそ、世界は進歩した。それは"魔法"という不確かな概念を淘汰して、"技術"という確かなものへと挿げ替えて行くに至った。

どこの世界の住人か分からない物言いですが、実際に現代に存在する技術の多くは、数千年前の人間からすれば全て魔法に等しいでしょう。英智はそういった世界を切り拓いた者の1人に数えられると彼は言うのです。

「本来、そういう人の為に天国はあるはずなのですけど…」

できる者ができることだけをする世の中だったら、世界はここまで変わってこなかった。そしてそれは夢ノ咲学院も同じ。革えようとする者がいたから良い方向に良い方向に歩みを進めてきた。英智から始まった物語はTrickstarに…何者でもなかった者が常にこの学院を革えている。

「…貴方は好んで地獄を彷徨って…。夢よりも美しい現実が、何時だってこの世界には拡がっているのにね…」

大きな目的を持って、1人のために誰かが不幸にならない世界を求めて、英智は"全"を目指しました。でもそれは別に彼が背負わなくても良いものだったし、彼自身が罪人なって、人に嫌われてまでやることでもない。

誰かがやってくれるのを待つことだってできたでしょうし、そうやって他人任せでふて腐れている人達の一員になっても良かったのです。英智は別にアイドルにならなくたって将来の地位と立場は約束されているようなもので、自ら泥を被りに行く必要なんて全くないんですから。

「――それを私に教えてくれたのも…貴方でしょ?」

それでも自分でやろうと、動こうとして、誰にもできない結果を彼は導きました。

それは完璧に学院全体を納得させるものではなかったとしても、その結果は今のより良い結果まで繋がっている。英智が動かなければ決して存在しなかった美しい現実が、今の夢ノ咲学院には溢れています。

それを渉は認めているし、英智の行動の是非問わず、その結果は称賛に値するものであると判断している。ですがその全てを評価する者はもう彼の周りには残っていません。だからこそ渉は今、英智のそばで彼を支える選択を取っているはずです。

誰も知り得ない天祥院英智の物語の全貌を知り、彼の功罪の生き証人となる。それが2人が共にある1つの目的。

最初は興味から始まったであろう渉から英智への矢印は、今はどういったものに変化しているのでしょうか。

それはまだ日々樹渉という個人の物語が伏せられている以上は判断できませんが、きっと良いものであることを祈っています。

おわりに

なげーよ。
※初稿で10,000字を超えた記事は2分割しています。

この「七夕祭」、今までのエピソードで最も"完成度が高い"という感想。

全ての中心キャラクターの感情と価値観が緻密に交錯することで1つの物語が練り上げられています。話の筋書きが全てキャラ依存で進んでいて、とにかく圧巻の一言。

これだけ多くのキャラが活躍しながら全てが無駄なく一繋がりになっていて、見終わった後に残っているものの多さにはびっくりさせられる1回。正に彼らの夢と理想と矜持と信念が生み出す天の川めいた輝きです。

原作の書き込みが膨大なことになっているのは容易に想像でき、この完成度の高い話を25分にまとめ上げる手腕、暴力的情報量の整理は、やはり菱田監督の為せる業か。

結果、1つでも書き漏らすと話が繋がらなくなってしまうので、「誰かの話をするためには全てのキャラの話を書き切らなければならない」というジレンマに苛まれることに。長文記事になった理由は、省略を許されない内容だったから。

このアニメ自体省略できる箇所はありませんが、あくまでこの感想記事はストーリーの中心線を辿って行くものとして書いているので、という感じです。だから全てを中心に寄せないでくれ、その構成は俺に効く。

正直初見の時点で「これを記事にするのか~~~……www」と良い意味で頭を抱えてしまい、滅茶苦茶良かったのに「滅茶苦茶良かった」とツイートすることさえせずに、黙々と記事化への道を模索しておりました。

その分、書き終わった今の達成感もひとしお。
ここまで楽しんで頂けていたら嬉しいです。

次回からはまた前後編仕様の「サマーライブ」ですね。「七夕祭」もでしたが、タイトルからは何も内容を想像できないタイプのエピソード。せめて「記事化に優しい内容でありますように…」と短冊に願いを込めて締めさせて頂きます。

また次回の記事で。
お読み頂きましてありがとうございました。

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はつ

『超感想エンタミア』運営者。男性。二次元イケメンを好み、男性が活躍する作品を楽しむことが多い。言語化・解説の分かりやすさが評価を受け、現在はYouTubeをメインに様々な活動を行っている。

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