"アイドル"達の饗宴 サマーライブ
6人の挑戦が実るサマーライブ本番の時間。
巴日和の指示で6人体制のパフォーマンスを余儀なくされるTrickstarの面々。と言っても、彼らは嫌々従っていたようには見えません。取り巻く空気感は「共にステージを創り上げる存在」として認め合っているようで、和やかなものでした。
しかし、Eveの楽曲に乗せて始まるサマーライブのステージはTrickstarにとってはアウェイそのもの。ライブを取り囲む客の多くはEveのファンであり、彼らが組み上げてきたパフォーマンスもEveを引き立てるものでしかなかったのです。
Eveの2人は自分達が主題歌を務めるゲームの発売イベントを利用し、ライブのことを宣伝。確実な見込み客を獲得した上でこのライブに備えていました。前回のゲームのくだりが、Eveの策略に繋がるのはスマートです。
そして日和の指示するステージプランは日和の世界でしか機能しない。Trickstarの個性溢れる4人の輝きは、完全に押し込められてしまいます。
Trickstarは自分達をレベルアップさせてくれる日和の指導を信じ込んで練習を重ねていたのでしょう。それは実際、彼らのレベルアップには繋がっていますし、「ステージを成功させたい」という日和の想いが本物であることも理解していたからこその信頼だと思います。
しかしたとえどれだけ個々がレベルアップしたとしても、最も自身を魅力的に見せる動きを封じられては意味がない。それでは今のTrickstarと言えど"誰でもない1人"でしかなくなってしまうということです。
Eveは最初からこの展開を目指して動いていたのです。
Trickstarに餌を吊るして罠に嵌め、自由を与えず、絶対的な敗北を与えるための容赦ないプランニング。
このEveのやり方は"絶対に勝たなければならない"玲明学園の風土によって培われたもののようです。
Eveの覚悟とTrickstarの誤算
Eveが所属する玲明学園は、ほんの一握りの特待生のために他の生徒が尽くし、彼らを成功に導く完全な縦社会集団。
その特待生も失敗すればその枠組みから外れ、元のポジションに戻ることが非常に難しい立場に置かれてしまうとのこと。
ほんの一握りの人間が活躍できる…という点は過去の夢ノ咲学院と同じくしていますが、それが結果的に生まれた社会性なのか、初めから戒律として存在しているのかでは意味合いがまるで違います。
Eveの2人はその中で生き延びてきたアイドルであり、今もなお誰かにその身を脅かされるかもしれない緊張感の中で戦い続けているのです。だからこそ、勝ちに固執した戦法を取らざるを得ない。それが一側面において卑怯に映る方法だとしても、そうせざるを得ないのです。
彼らはそれを理解した上でアイドルを演じている。だからこのサマーライブはSSの前哨戦でイベントだったとは言え、Eveにとっては同様に負けが許されない1回戦。
持っている覚悟と決意の大きさが、今のTrickstarとは桁違いだったのは間違いありません。純粋にそれが純粋にEveとTrickstarのアイドルとしての格の違いとして体現されてしまったと言えるでしょう。
「のう嬢ちゃんや、ちぃと今回は失敗してしまったのう…」
Trickstarを離れ別のアイドル達を全力でプロデュースしていたあんずの元に、朔間が現れ声をかけます。
サマーライブは1つの練習試合のようなもの。だからこそTrickstarはEveと共同で練習することを選び、あんずはSSに向けて別行動を取ることで自らのレベルを上げようとした。
でもそれこそが大いなる間違い。
EveはこのライブでTrickstarを叩き潰すための最適解を持って、このサマーライブに挑んできた。それに格下であるTrickstarが手を抜いて戦いに臨んでしまったら、凄惨な結果が待っているに決まっている。
それを朔間も読み切ることができず、Trickstarもあんずも意識することができなかった。きっと夢ノ咲学院の全員がそこまでの意識をこのサマーライブに求めていなかったはずです。
ただ一人、天祥院英智を除いては。
「どんな獅子でも、谷底から這い上がるぐらいのことは出来る」
因縁の朔間と邂逅を果たし、レベルが高そうで本当は低い口喧嘩を繰り広げる両名。この結末を予期していながらサマーライブを提案し、その過程を静観した英智のやり口には流石の朔間も引き気味というところ。
「絶望的な悲劇を味わいながらも、華麗に生還するような奇跡的な存在にこそ――」
けれど英智とて考えなしに動いたのではない。
これから始まるTrickstarの戦いは決して生易しいものではなく、普通に挑めば完全敗北は確実なもの。それを心と体で理解させるために、英智はこのサマーライブを企画した。
「――用があるんだよ」
それは彼らならきっと乗り越えられるという期待と愛情の裏返し。やり方に極端なところはあるものの、今の天祥院英智は決して理不尽なことはしない。そう思わせてくれる魅力が彼にはあります。
遊木真 心の叫び
罠に嵌められ、無残な敗北が確定。
普通ならステージをやり切ることすら難しい状況。
そんな中で、Trickstarは心折られることはありませんでした。いえ、むしろ彼らは輝きを保ったまま、笑顔で与えられた役割をこなし続けていたのです。
「凄いね、Eveって!」
ライブ中に話しかけて良いという夢ノ咲学院の隠れた常識(この世界の常識ではなかったのか…)に則って、ジュンに声をかけたのはTrickstarの遊木真です。
ステージ中に仲間と囁き合って、コミュニケーションを取り合って、1つのステージを創り上げる。それが自分が好きなやり方なんだと、それができている今は決して悪い時間ではないのだと、ジュンに語り掛けていきます。
「独りぼっちよりそっちの方がたくさんたくさん…"生きてる"って感じがする!」
その真の言葉は、ジュンが今まで勝ちに執着して見て来れなかった新しい世界の扉を開きます。
眼の前にいる観客の歓声、共に立っているアイドル達の呼吸。多くの人達が集うことで自分達のステージが完成されていることを、ジュンはここで初めて理解したように見えました。
「あんたらはなんでそんなに楽しそうに…罠に嵌められたって、もう理解してるはずなのに…」
けれど勝つことが全ての彼には、その真意を理解することができません。負けは確定で自分達は客の印象に残らず、他校生の引き立て役として恥を晒してこのライブを終える。
その"結果"だけが残るこのステージが、Trickstarにとって楽しいことなわけがない。残ったものが全てという玲明の校風がそれ以外の価値観を認めません。
「僕達はちょっと前まで、誰からも見向きされない何者でもない僕達だった」
そのジュンの言葉に、真は一切の迷いなく晴れやかな表情で答えて行きます。
DDDの時、英智の謀略にハマってもTrickstarをやめることを一切考えなかった真。
スバルでさえ北斗と真緒の心情変化を感じ取っていたのに、ただ一人だけTrickstarが無くなることを微塵も考えなかったのがこの真です。
「でも今は…こんな大観衆の前で、歌って踊れてる!」
そんな彼が代弁する、ここに集う4人が同じくする気持ち。もう決して違えることはないであろう、1つになったTrickstarの在り方。
「それだけで十分…幸せなんだ!」
革命を夢見るだけだったただの高校2年生が、数ヶ月の間に学内トップの称号を手に入れて、真なる革命を果たした。天狗になってもおかしくない状況で、彼らの気持ちはいつまでもチャレンジャーのまま。自分達が優れた存在だなんて微塵も思っていない。
「おかしいでしょ? でもそれが――」
ただ目の前の人に向けて最高の笑顔を。最高のパフォーマンスを。最高の体験を。それを届けられる自分達ならば、どんな形だって構わない。だってそれこそが――
「僕の大好きなTrickstarなんだ!」
"アイドル"
「ふぅん…あんたらはそういうアイドルなんですねぇ」
玲明学園では決して出会えなかったであろう、自分達のことを全く考えない他人のために存在する彼らの在り方に、ジュンも感銘を受けたようです。
「わざわざ遠出してきた甲斐が…あったってもんだ!」
通じ合った真とジュンが見せる輝かしい決めポーズに、他のTrickstarの面々も感化されて行きます。
動きは制限されているとは言え、自分達にできることはある。その中で最高を突き詰めて行けば、輝きを放つことはきっとできる。
それぞれの想いを胸に、今だからできる最高のパフォーマンスをぶつけるTrickstar。常に前を向き仲間と共に在る彼らは、最高にカッコイイ存在です!
「君達って本当に面白いねぇ…」
その姿勢に夢ノ咲のやり方で巴日和も応えます。
完膚なきまでに叩きのめしたはずなのに、壊れるどころか痛めつけられた素振りすらない。Eveが今まで罠にかけた中で、こんな反応をした相手が他にいたのでしょうか。
「打てば打つほど鍛えられる鉄か…ううん、凝縮されてより強固になる宝石。なかなか意外と頑丈だねぇ」
その在り様に最大限とも取れる賛辞を送るのです。
日和は身勝手で人を見下す人間ではあるけれど、不当に人を下げるわけではないし、自分が良いと思ったものは素直に良いと認めるタイプの少年でもある。
「アイドル! 嗚呼…愛おしいねぇ!」
そして自分が認めた存在は、すべからく美しく愛しいものであるとも思っている。徹底した上から目線ではあるものの、そこには人間としての善良性を滲ませています。
もうEveにとってtrickstarは取るに足らない存在ではない。
共に切磋琢磨するライバルとして認識されたのです。
「僕が認めるアイドルが増えてくれて嬉しいねぇ!」
今日の経験を胸にTrickstarの描く軌跡。
SSを迎えるその日まで、見届けさせてもらいましょう。
「頭がクラクラするような猛暑だけど! I'm fine thank you!」
おわりに
しんどい。
(書くのが)
後半がこんなに長くなる予定じゃなかったんですが、真のところを書いていたらテンションが上がってきて色々込み上げてきてしまいこうなりました。
正直なところこの「サマーライブ(後編)」、1回目見た時はそんなに盛り上がっている話には見えず、方向性さえ定まれば(方向性が定まらなかった)記事に書くことはあまりないだろうと高を括って書き始めました。ジュンの項をやたら丁寧に書いているのは、後半への尺の調整のつもりでした。
結果的にこのブログを読みに来て頂いている方々にとっては良かったんじゃないかと思っています。サービスサービスゥ。僕はしんどかったです。もっと感想を書きやすい話にしてくれ(特別意訳:楽しんでいます)
本当はラストの英智の部分も拾いたかったのですが、記事構成的にどこに入れるのも難しかったのでこの形です。在りし日の旧fineが、背中で別々の意志を持っているのが伝わるように描き分けられてるのがとても良かったということだけは付け加えておきます!
初見の印象が微妙だったのは恐らく本当にTrickstarがへこたれていなさすぎるのが、絵的に平坦な話であるように見えてしまったからだと思います。ですが、しっかり読み解いて行くとむしろ後半に書くことが多すぎて大変エモい回であることが分かってしまい、書きながらちょっと泣きました。
この辺りは僕の初回の読み解きが不誠実だったということなので、反省しています。ですがそういう人は多いのではないかと思う回なので、主に初見の方はこの記事を読んだら是非もう1回アニメを見て下さい。何なら読みながら見て下さい。多分楽しい。
「サマーライブ」はTrickstarの今までと今後を深める非常に趣き深いストーリーでした。後半に向けて、ここで培ったものがスーパーノヴァして行く様が見られるのを楽しみにしています。
そして次回はいよいよKnightsの登場です。
ジャッジメント!厨二心をくすぐる最強ワード筆頭。単発の話になるようですが、どれだけ濃密な物語になるのか…。期待と恐れを抱いて見させて頂きます。
今回も長文をお読み頂きありがとうございました。
次週も何卒よろしくお願い申し上げます。
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