いよいよこのアニメも20話の大台に入ってきました。
厳密には総集編を含めると21話目には当たりますが、公式の打ち出した数字で"20"というのは「いよいよ佳境だな」という気にさせられます。
そんな後半戦の最初を彩るのは「オータムライブ(後編)」です。
「前編」では遂にベールに包まれていた最後のキャラクターが登場。そしてその隠された内面が大きくフィーチャーされて行くこの「後編」。
それはSSに向けて大きく成長したTrickstarの前に、なおも大きく立ちはだかる(アニメでは恐らく)最後の試練となりました。
秀越からの甘い誘い。衣更真緒の挫折。最強の敵Edenの片翼、Adamを前にして彼らはどう動くのか。その先の物語を紐解いて行きましょう。
目次
今回活躍したキャラクター達
今週はまずキャラクターの読み解きから!
前編から大きく印象の変わったキャラも多く、その辺りの変化を中心にしっかりとしたためさせて頂きます。
伏見弓弦
今回、秀越の茨と個人的な繋がりがあることが分かりました。過去に同じ組織?に所属していたことがあるようですね。
伏見は茨のやり口にかなり精通しており、それはあらかじめ彼の作戦に想像を巡らせて対策できるほどの理解度。ここから、過去の2人は相応に密接な関係性にあったことが予見されます。
「サマーライブ」で幼少期から姫宮と行動を共にするシーンが挿入されていたことを考えると、茨と時間を共にしていた時期や詳細についてモヤがかかっていると言ったところでしょうか。
察するに、伏見はお家の事情で姫宮一族と深い関係にあるものの、一度はそこから離れようとしたことがあるのではないかと思いました。そしてその先で茨と出会い、意気投合した期間があると。
「誰に強制されるわけでもなく、自分の意志で」という台詞から、「結果的にお家事情の内側に入ったが、それは最終的に自分で考えた結果であってその他の事情は関係ない」といった背景が想像できます。
その結論は自分の意志で全てを切り開いてきたものからすれば甘えに見えなくもないし、茨にはそう見えているのかもしれません。あらかじめ選択肢が用意されている、というのは恵まれているとも言えますので。
伏見は今まで"仕える者"として少し距離感を保った関係性を築いているように見えることが多く、ごく個人的な繋がりが見えたのは今回が初めてという印象。
現在の姫宮との関係について闇があるとは思いませんが、その光に行き着くまでに体験した闇の方に興味が湧いてくるキャラクターですね。
巴日和
Adamと同じEdenのメンバーでありながら、今回はTrickstarに協力する形での登場。
嫌味ったらしいところはあるとは言え、敵対する相手であっても自分を頼ってくる者の熱意を無下にしないのが日和のストイックなところ。
前回の記事でAdamとEveの違いには少し触れましたが、今回は日和とジュンが登場したことでその対比がより分かりやすい形に。しかし凪砂は「相手を下げるより自己を高めたい」と自分の想いを吐露している通り、根本的には友人である日和寄りの考え方をしているよう。
凪砂との過去の関係から、財団の出身でありながらアイドル業界に身を置こうと思うようになった理由が凪砂にあることが判明。この2人は想像していた以上に深い関係にあったようで、そのコンビネーション能力の高さが旧fineの二枚看板と称されるのにも影響したと見えます。
Trickstarに肩入れするのも、「凪砂を歪んだ環境から救い出してほしい」という私情が入り混じっているように思いました。それだけ彼のことが好きなのでしょう。
逆に、茨についてはビジネスライクな関係を徹底。
Edenというユニットで活動はしているが、彼のことは仕事と情報以上のことを知り得ない立場のようです。
旧fine時代にビジネス関係で動かされたことで辛酸を嘗めた彼ですが、Edenでもビジネスライクな関係性を貫いているのが面白いですね。やはりビジネスの世界に身を置く血筋故の居心地の良さがあるのでしょうか。
そう考えると旧fineでの関係性自体は、日和にとっても凪砂にとっても決して悪いものではなかったと捉えることも可能です。
どんなに居心地の良い場所も、人間が合わなければ最悪な環境に様変わりしてしまうのが現実。「サマーライブ」で英智がTrickstarに過去の自分達とのズレを見たのも「全員にとって悪くないものだったはずなのに」という思いがあったからなのかもしれませんね。
明星スバル
唐突に闇。
「"父さん"と言い合えるのは羨ましいよ」というなかなか意味の分からない台詞。過去に英智から「あの明星の息子」と呼ばれたり、彼の父親がアイドルであったことは明かされていたものの…。
もちろん、親子関係にあまり良い事情がないことは想像の範疇ではありましたが「父親を父親と呼べない」レベルとなると、またその闇の深さも質も変わってくると言わざるを得ません。
ただ、それでもスバルは父親のことが好きでアイドルをやっているようですし、どんなに事情があるのか想像もつかないというのが正直なところ。
今回で凪砂と彼の父に大きな関係があることも分かり、それらがアニメ終盤にどう関与してくるかが鍵を握るのは間違いなさそうです。
1クール目で「Trickstarを繋ぎ止め完成させる」という主人公的な役回りに徹して以降、あまり個人的な話が語られないままここまで来てしまっているスバル。最後にデッカい花火を打ち上げてくれることに期待しておきましょう。
Trickstarの作戦
今回Trickstarのメンバーは「それぞれが相手の策略にハマったと見せかけて対策を練る」という、理知的な方法でAdamに対抗していることが分かりました。これには僕もまんまと引っかけられてしまいましたね!
そういった「彼らへのイメージ」によって物語の構成・キャラの動きに"ハメられる"というのは、それだけ僕が『あんスタ』のキャラのことを分かってきたことの裏返しでもあるでしょう。「Trickstarがそんな小器用なことができるなんて…」という感慨も含めて、楽しめているなと思います。
スバルは前回「茨のことをいきなりあだ名で呼び、スキンシップを図る」という方法で茨の油断を誘う作戦に出たと解釈しています。これは普段の彼のイメージから大きく離れていないやり方で、僕も「相手によっては初対面からこういう感じか」と普通に思ってしまいました。
論理と戦略で相手を懐柔する茨に対し「初対面から心を許す」のは彼の完璧さを裏付ける流れとも言え、効果的かつ悟られにくい対応策です。策士策に溺れる状況さえ生み出しやすいはず。
スバルがそこまで織り込んだとは考えにくい(自分にできることをしただけ?)ですが、結果として彼の初対面ムーブによってTrickstarは開幕から戦略的優位性を得られたと言えるでしょう。やるじゃん!
氷鷹北斗
うわぁ!ゲッ!!
ほっちゃん!ちゃんと喋って!
話には何かと登場していた顔が激似の父親が初登場。今までにない狼狽ぶりから、父親に対し様々な感情が入り乱れているのが分かります。年頃の男子なので、友人の前に父親がいるということ自体むず痒いと思いますし、それが著名な人間なら尚更大きいことでしょう。
「小学校の授業参観にも来なかったくせに!」という台詞がありますが、冷静に考えると授業参観は母親向けの行事。父親が来る方がまだまだ稀な世の中です。そもそも、全ての学校の行事について「父親が来ない」ことは別に珍しくはないんですよね。
だからこそこの類いの苦い思い出は沢山あるだろう北斗の中で、あえて「授業参観」がピックアップされてくるのが気になるところ。その時の参観日に、父親にどうしても来てほしい何かがあったのかなぁなど想像が膨らみます。
氷鷹誠矢
ヤベー奴。
北斗の父親にしてアイドル界の生ける伝説。玲明学園では教鞭を執りながら現役でなお活躍と活動の幅も広い。
事前に提示された情報から歳相応の落ち着いたイケメン系を想像していましたが、蓋を開けてみたらバリバリのキラキラ系アイドル。確かにこれは(色んな意味で)生ける伝説なのは間違いないと言ったところ。
そのパーソナリティと天真爛漫さ、息子のためであればコネを全力で使うことを惜しまない親としての優しさなどを併せ持ち、決して悪い人ではないのは見て取れます。
しかし、父親でありながら過去の息子について「あの頃は可愛かった」といきなり言い出して思い出に耽る辺り、今の北斗と誠心誠意向き合っているとは言い辛い。少なくとも子育てに参加しているわけではないでしょう。
どちらかと言うと祖父母が孫に対して向ける目線や対応に近く、父親然としていない。寧ろおばあちゃんの方が今の北斗とまっすぐ向き合ってくれている、というのがなかなかに皮肉が効いている。
多忙故に家にいる時間が少なく、子どもが自立を始める年齢になってからは交流する時間もまともに取れなくなった。だからこそ過去の幻影に今でも縛られている、というイメージ。父親としては赤点だろうなと。
それでも北斗は父親のことが大好きみたいだし、今ではアイドルとして尊敬さえしているはず。その背中を追いかけているのは明らかです。
それが良くないことだとは思いません。
その距離感があるからこそ、北斗は父親に対してポジティブでいられる気もします。でもその分、親子として…引いては人間としてしっかり相対することができる日は、まだまだ遠いのだろうと感じます。
親子から男対男として話せるようになるまでも滅茶苦茶難しいことだったりするのに、氷鷹親子には更にアイドル同士という壁がある。味わい深いですねぇ。
遊木真
敵を欺くにはまず味方から!
想像していた以上にキレ者で驚いた!
前回の記事で「Trickstarのためになることを常に考えている」と書きましたが、その点については疑うべくもなく。より深いところで考え、ユニットの利になることを考えて行ける少年でしたね。
やはりサマーライブでEveの戦略をギリギリで読み切れなかったことから、情報収集と分析の大切さを学んだというところでしょうか。そういったブレイン的な役割はキャラ的に北斗が担いそうなものですが、Trickstarでは真がその素養を伸ばしてきてくれました。
しかもどこまでが許されるのかをしっかり見極めた上で、潜入捜査に近い大胆さも持ち合わせている。気弱なイメージが強かった真からは想像もつかない行動力。元々得意だったというより、克服して成長した先で身に付けられたノウハウと見るべきかなと。
北斗と真のやり取りから見るに、元々Trickstarは「あえて罠にハマった振りをする」という前提条件を共有して動き始めたわけではないようです。各々が秀越にきな臭さを感じている…その感覚の共有を持って行動の示し合わせを行わずに敵地で動いていたと見ています。
これは互いが互いを信頼し切っていないと為し得ないことであり、成功を導くのも難しいリスキーな選択です。しかし、それができたからこそ茨の戦略を見極めて回避することができたのでしょう。
もし全てを事前に打ち合わせして段取り通りに行動していることがあれば、その思惑は茨に見抜かれて、更なる対策を練られてしまったはずです。
論理的な辻褄合わせでは読み取れない動きを個人個人が取っていたからこそ、策士である茨に「ハマっている」と思わせることができた。それが実現できたのは、最も深いところで彼らが信頼し合って同じ価値観を共有することができていたから。
「Trickstarは一致団結すると、異様に強くなるという解析結果があったからバラバラにしたのに…」という茨の台詞の通り、一致団結した彼らは戦場での経験さえ上回ったのです。
バラバラに行動していても心は一つ。
最初から、彼らはずっと一緒に歩み続けていたわけですね。
そしてそれを強く感じさせてくれたのは、今回も遊木真くんなのでした。
あんず
「豚のように」と言われてアイスコーヒーしか頼まなくなっちゃうところ推せる!
Adam
「オータムライブ」初登場のAdamについては、例のごとく項を分けてお届けします。かなり込み入った話題の多い2人でしたので、後半に向けて丁寧に見て参りましょう。
七種茨
突撃!侵略!!制覇!!!
Trickstarに毒を仕込み、コズミックプロダクションに抱き込もうと目論むも今回は失敗。
戦略的な敗因は旧知の仲である伏見弓弦に作戦を読まれて対応されてしまったこともそうですが、何よりも大きな失敗はTrickstarの個別評価を侮ったこと。今回はその点では、噛ませ犬的な役回りに落ち着いてしまったと言えます。
しかしながら決してその失敗について動揺することなく、中途半端に踏み込まずに撤退(Trickstarに悪意的に襲い掛からない)を選ぶなど、何手も先の状況を考慮に入れた上で落ち着いた行動ができる聡明さを見せました。
Trickstarの懐柔はあくまでも保険。
単純な実力勝負でもAdam引いてはEdenに分があるのだから、リスクある選択をしてまで思い描いた最良を目指す必要はないと判断したのだと思われます。
不確定な利益は追い求めずに、常に確実性の高い選択を。勝つよりも負けないことを考えて動く、正に"軍師"と言って良い存在です。
プロデューサーとしての立ち回り
またリーダーである乱凪砂について、ステージ上での振る舞いまでも茨が掌握していると思わせるやり取りがあり、総じてAdamはほぼ茨が牛耳っているものと捉えました。
ここから「凪砂を人形のように扱っている悪人」と揶揄することもできますが、後半では逆に凪砂の意思を尊重して予定を即座に変更する対応を見せています。
あくまでもAdamを理想的に動かすのに必要な戦略、凪砂を最も輝かせる演出を考えているだけで、最終決定権を持っているのは凪砂であると思っているのでしょう。もちろん戦略家の彼のことだから、その上で凪砂が極力自分の思惑に沿うよう、普段からコントロールしている可能性はありますね。
芸能界では本人の意思とは違うところで、第三者の用意した理想のキャラを演じて活動している人は沢山いて、その中には大成功を収めている人もいます。それもいわゆるプロデュースの正解例に違いありません。
つまり茨はそういったプロデューサーの役割を担っているに過ぎず、凪砂に対しては酷いことをしているわけではないのだろうと感じます。アニメ的には悪意のある人間に見えるところもあるのですが…。
亡くなった権力者――ゴッドファーザーの事業を一部継ぐなど、経営や運営に近いポジションに身を置いている彼。
生い立ちも含めてなかなかの苦労人にであることは想像に難くなく、その背景には止むに止まれぬ事情も多そうです。
乱凪砂
生い立ちがあまりにも壮絶。
ゴッドファーザーに匿われていた=出生が不明ということでもあり、最初からずっと闇属性。人生や人間的な生き方を嫌悪する価値観は、自身の出生と生い立ちに大きく影響されていることが分かりました。
幼少期を隔絶された環境で育ち、まともな教育も受けず多くの人と接することなく、人間としての当たり前を一切経験せずに多感な時期を迎えざるを得なかった少年。そのことから「自分で考えず誰かに言われた通りに振る舞うのが楽」と思うようになったのも頷けます。
過去の経験から誰彼構わず全人類を恨んでもおかしくないようなキャラですが、彼はその真逆。自分以外の他人にさほど興味を持たない人間に成長したようです。
厭戦的で他人を下げることを良く思わない。
自己を磨き、個を高めることを信条とするアイドル。結果としてその精神性は実に気高く、美しく、誉れ高い。
そして彼は自身を実質監禁していたゴッドファーザーについて、嫌悪するどころかむしろ崇拝し、今でも慕っているという驚きの事実も。
これ自体かなり異様なことだと言って良い。
そうにも関わらず、彼はなんとアイドルを目指しステージに立ってさえいるのです。
隔絶された環境に置かれていた一方で、明星父が凪砂に歌を教えたというエピソードも語られました。ということは、凪砂は幼少期にアイドルとしての教育のみは受けていたと考えるべきで、それだけが彼の生きる意味だったのかもしれません。
意思を持たず他人に従う方が楽であると考える彼は、「アイドルになりたい」ということにかけては一際に強い意志を見せていたようでした。それはたまたま同じ屋根の下で生活するようになった巴日和に、同じ夢を見せるほどに強く、光り輝くものだったわけです。
アイドルが彼が幼少から唯一与えられていた正なる概念だとしたら、それを大事にする正当性はあるように思います。それは見ようによっては洗脳教育によって植え付けられた思想なのかもしれないけれど、多くを知って今なおそう思えるのであれば彼個人の思想になったと言って良いのではないでしょうか。
だから、どこかの一室に匿われていた期間は彼にとって決してネガティブなものではない。むしろ今彼が生きる上での大きな救いとなっているのが見て取れます。
運命に翻弄される少年
しかしながら凪砂は現在、秀越学園のトップアイドルとして、本人が望むことのない争いの道具として使われてしまっている現実に直面しています。
秀越に入る前は夢ノ咲にいて旧fineとして利用され、転校先の秀越ではまた学園の道具として使役される。どう足掻いても行き着く先には絶望しか存在しない。
個を尊重する精神性ながらも、真に対しては「個人で動いても運命は変えられない」と諦観した様子を見せたのもその経験のせいでしょう。
「羨ましいな…。君達はまだ夢を見ていられるんだね…」
夢や理想など、求めたところで手に入ることはない。ただ、あるべきところにあるべきものがあるだけ。人間はそれに従って生きるしかないんだと、そう言いたげに彼は語りました。
だからこそ前編で彼は「そこから解き放たれたいと、自由になりたいと"願う"のはいけないこと?」と言ったのだと思いました。
”求める”、"信じる"、"祈る"、"願う"は全て違う感情です。その中で、あるかも分からない。ないかもしれない。寧ろない可能性の方が高い。そうだと分かっていてもそれに縋ろうとする。それこそが"願い"の本質です。
何かを願わずにはいられないほど、今の彼の心は追い詰められてしまっているのだと僕は解釈しました。
彼のその感情の先に、救いが存在することを今は願いましょう。