目次
The GENESIS
さぁさぁ皆さんご注目!
混沌の坩堝へようこそ!
ここは神に見放された、無法の楽園!
愛と欲望の渦巻く…快楽の都!
堕落しましょう!
皆さんで一緒に…至高のアンサンブルを響かせましょう!
突撃!
侵略!!
制覇!!!
そこでしか見られない景色を
最終話にして初となるEden4人が揃ったステージは、もちろんアニメでは最初で最後となる彼らの3Dライブです。
全体的にバンドサウンドを基調とした疾走感溢れる曲が多い夢ノ咲学院のアイドルと対比的に、4人揃った彼らの楽曲「The GENESIS」はエレクトロサウンドをメインに扱った近代的な楽曲に。規律と統率を重んじるコズプロらしい空気感を醸しています。
円形のステージを最大限利用した、全てのメンバーが違った角度見せ場を持つ演出のダンス。どの席の人にも等しく「そこでしか見られない景色」があるように演出が練られているのは、このSSならではの魅せ方ですね。
それらを余すことなく楽しめるよう、様々な角度の映像をクロスオーバーさせる疾走感あるカメラワークが今回の3Dライブ最大の特徴です。目まぐるしく変化する視点が、彼らのライブに大きな特別感を付与しているように感じられます。
また個人個人がセンターを張るソロパートがあるのもポイント。実力主義でまとまった彼らの在り方を象徴しているようです。AdamとEveがそれぞれでセットで振り分けされているのが印象的に見えるのも、Edenというユニットの独自性ならではでしょう。
AdamとEveの邂逅は、新たなEdenの創生を意味する。中心に据えられた天球は彼らだけが生み出せる新しい世界。
禁断の果実に手を伸ばした彼らは、それぞれが生の責め苦の中で"人"として生きる道を模索する4人。それらへの渇望こそが、ステージに立つ彼らに魔性の煌めきを与える所以である、そう言いたげな演出です。
"人"として生きること
「ざまぁみろだ!これから先、"漣"って呼ばれたら…それは俺のことだ!」
一時はアイドルとして名を馳せた父親。その存在に身も心も縛られた漣ジュンは、自らがアイドルになることでその障害を乗り越えようとしていました。
同じステージに立つ同じアイドルとして、かつての"漣"の記憶を塗り替えること。そういった誰にも依存しない"個"としての自立こそが、ジュンが掲げる"人"としての生き方、その理想なのでしょう。
「頑張れ…漣」
その父親と肩を並べて競い合った佐賀美陣が、彼のその後を見守ります。旧知の存在の息子としてではなく、他でもない1人の"漣"として。
巴日和
「――この調子でゆっくりとでも、世界中に笑顔と愛を振り撒こうね」
同じEveの日和は、巴財団の直系の子息という立場に縛られた人間です。財団の跡取りとしての責務は兄弟に任せているものの、彼もまたその範疇で生きることを余儀なくされているのに変わりはありません。
しかし日和は決してその立場を憂いているわけではない。その中で自分のやりたいこととやるべきことのバランスを考えて、自分にしか為し得ないより深いところでの成功を目指して歩みを進めています。
「それがかつて英智くんと目指した理想の――」
旧fineとして夢ノ咲学院で活動したことは彼にとってあまり良い思い出ではないはずですが、英智の持つ本質的な望みへの共感はあった様子。
彼らは全く異なるところを見ていたわけではなかったけれど、やり方と立場は決して相容れないものだった。お互いにそれが分かっているからこそ、「サマーライブ」では英智も過去の自分達を想起したのかもしれません。
昔の同胞とは決別を果たすも、今も昔も隣りにいる友と目指した"アイドル"という夢は忘れていない。
「――良い日和♪」
その存在に魅了された巴日和は、立場や生まれに縛られない、1人の"人"として今日もステージに上がっています。
乱凪砂
「皆笑顔で楽しそう…」
ゴッドファーザーに匿われ、彼に与えられた"アイドル"という存在を拠り所にしてステージに上がる乱凪砂。
人生を「赦されざる原罪」と揶揄しながらも、自らもまた"人"として生きることから逃れることができない矛盾を抱えて苦悩する彼も、ステージ上ではその生き方を楽しんでいるように感じられます。
「見ていると、私の中にもあったかいものが湧き出してくる…!」
心の動きや情動、それらを伴った行動こそが、人が人として生きられる理由。普段は厭戦的で世界を憂いている彼もまた、"アイドル"であるうちは枷を外してただまっすぐに熱くなれるのでしょう。
幼い頃から全てを与えられて生きてきた彼だからこそ、何かを与えることに喜びを見出せるのかもしれません。
七種茨
「あぁ、まるで自分が良いことをしている感じになっちゃいますねぇ。悪人の方が楽なのに」
手に入れたものを活かし切るのには、アイドルとしてステージに上がるのが都合が良い。そんな合理的判断でアイドルを選んだ七種茨もまた、Edenとしてステージに立つことを楽しんでいます。
自らの意志と関係なく壮絶な生き方を強いられた彼は、自分の人生を「他人から蔑まれて当然のものである」と思っていることでしょう。だからこそ彼は、自分には失うものがないかのような立ち回りを徹底することができている。
ただいざ始めてみたアイドルは、今まで見たことがないほど輝きに満ち溢れていて。軍事施設で育った彼は、これほど血を流さずに人を喜ばせられる世界があるのかと衝撃を受けたと想像しています。
だから"アイドル"でいることは満更でもないし、この輝かしいはずの芸能界を腐敗させていく輩が許せない。それは、ゴッドファーザーの遺志とは関係ない、彼個人の中に生まれた"人"としての意志なのでしょう。
「弓弦…今の俺を見て笑いますか?それとも褒めてくれますか?」
奇しくも同じ施設で育った伏見弓弦と彼は、また同じ世界で同じ景色を見ようとしている。2人の間に確かな絆があったことを感じさせます。
袂を分かった旧知の友と、今はまた一時の共同戦線。あの時を思い出すかのように、茨の敬礼は勇ましく作戦の進行を伝えます。
姫宮桃李の信頼
「相変わらずですね…あの男は」
茨から受け取った作戦進行の合図。
それを英智に伝達するのが今回の伏見弓弦の役目でした。
「ねぇねぇあれってお前の知り合い?」
主である姫宮桃李はその2人のやり取りから何を感じ取って彼に問います。この距離感で2人がアイコンタクトを交わしていることに気付けるのもまた、姫宮と伏見の関係性の深さ故でしょうか。
伏見は過去に茨と同じ施設にいたことを姫宮には話していないようでした。この2人は幼少から関係があったことが示唆されていますが、ブラックボックスにされている空白の期間が存在するということですね。
伏見も話せない理由があるのか、話したくない理由があるのか、それは定かではありません。
「まいっか。お前がいつか話す気になったら聞いてやらなくもないけど」
しかし姫宮もまたそれを強く詮索することはしないのです。
これだけ自分のことを考えてくれる伏見がどうしても話せないことなのなら、それなりの理由があるのだろう。だったら、自分はその時が来るまで待ってやってもいい。そう思える反応でした。
「主の務めとして!」
「…はい!」
その隠し事が自分に不利益を与えるものではないと確信できるからこそのやり取りで、姫宮と伏見の間の信頼関係を伺わせる一幕でした。
Amazing!
そんな2人の会話に割って入る日々樹渉の掛け声と共に終演を迎えるEdenのステージ。
次はいよいよTrickstarの登場です。
集った人達のために
暗転したステージの上にTrickstarの4人は現れました。
「ありがとう…頑張ってみ…るよ…」
明星スバルは1人で立っていられないほどに憔悴し切っていました。直前の状況を鑑みるに、肉体的な疲労によるものではないはず。
もしかするとこれから、会場中にいる観客に非難されるかもしれない。否定されるかもしれない。罵声を浴びせられるかもしれない。そんな負の可能性が1つ1つ大きな重圧となり、ステージの上に立つ彼の身と心を震え上がらせてしまっているのでしょう。
それでもスバルは前へと歩きます。
自分がしなければならないことを果たすために。
普段は自分達をスターにしてくれるスポットライトでさえ、この時ばかりは彼の心に大きな負荷をかけたと思います。
1人で立てない彼を支えた北斗。恣意的に彼を映そうとするカメラの前に立ちはだかった真。最後に必要なマイクを彼に手渡した真緒。ここでもTrickstar全員がそれぞれのサポートで、スバルをステージの中心へと誘います。
定位置に移動したスバルは真緒の助言通りしっかりと深呼吸。これからどんな結末を迎えるか分からない釈明の場に立ちました。
「皆さん…どうも、明星スバルです…」
悲劇の真実
「本当に…今日はごめんなさい」
本来であれば、君が謝る必要なんてどこにもないのにね。
彼は何もしていない。
ただ実直にアイドルを目指して努力を続けてきた明るい少年で。父親の過去なんて背負う必要もない。
今回のことだって、悪い大人に貶められただけのこと。彼は何一つ悪くないのだから。
それでもスバルは、何よりも先に観客への謝罪の言葉を口にしました。この場に集った観客に深々と頭を下げて、真摯に彼女達に向き合います。
SSはアイドルの祭典。
ここに来た人は皆がキラキラしたものを浴びて、何も考えることなくただ目の前のパフォーマンスに夢中になれる。その日その瞬間だけは、皆が同じ夢を見ていられる。そんなイベントのはずでした。
それが自身の存在のせいで不穏なものに変わってしまった。夢は一時だけ悪夢への変貌した。裏にどんな理由があったとしても、アイドルであるスバルにとってそれは、決してあってはならないことだったのだと思います。
「ごめんなさい」と口にする彼を嘲笑っていたコズプロ上層部の連中に、その意志の意味は分からなかったことでしょう。彼がどれだけのものを抱えて、背負って頭を下げていたのかは。
「父は…冤罪です」
そして彼は毅然と話を続けて行きます。
当時の父親に起こった悲劇の顛末。
その真実はしっかりと保存されていたからです。
北斗の父――誠矢が秘匿したUSBメモリには、その証拠の全てが残ってたとのこと。
そのデータが不正にもみ消されないように、スバルの周りにいる天祥院財閥や巴財団といった権力者達が結託。データを残した誠矢の協力もあって、警察などの国家権力を動かすことに成功しました。
これで明星父についた汚名は返上され、家族もまた憂き目に遭うことはなくなるはず。
スバルの立場であれば素直に喜んで良いことですが、彼は決して真剣な表情を崩さず「その結果どうなるかは分からない」と続けました。自分のことよりも、その場に集っている人達の感情を優先したからでしょう。
「でも…罪が晴れたとしても――」
そして何より…
父親
「――父は戻ってきません」
冤罪で釈明の機会さえ与えられずに獄中死した父親。隠された真実がその時に明るみに出ていたら、今もまだ幸せな生活が送れていたかもしれない。
失ったものは取り戻せても、失った命は帰ってこない。無念を晴らすことができても、空いた穴が塞がるわけではないのです。
壮絶な歴史的事実が展開される中、神妙な面持ちで話を聞くKnights。しかし彼ら――特にレオと鳴上は決して「想像を絶する」といった態度ではありません。彼らにもまた「色々あった」ことが伺えます。
「父さん――父に…憧れていました」
真実が明らかになったのはこの日この瞬間が初めて。スバルも本当のことはずっと知らないままでした。
でもスバルにとってはそんなことは関係なかった。
「大好きでした」
頬に伝う涙を意に介さず、思いの丈を彼は叫びます。
どんな人も煌めく笑顔にするために歌う父親は幼い頃からずっと憧れで、何があってもそれは変わらない。あの時に見た輝く父親の姿を目指してずっと一生懸命に歩んできた。それだけが自分にとっての父親だった。
その中で最高のTrickstarに出会い、プロデューサーに出会い、自分達を支えてくれる夢ノ咲の仲間に出会えた。だから自分はここに立つことができている。
「この人生に…今日まで紡いだ物語に…」
その過程のどこに、恥ずべきものがあるだろうか。
「後ろ暗いところはありません!」
皆と共に描いた夢のステージ。
学院のアイドルの代表として立つSSは、全ての到達点。この日この時この瞬間のために努力した、全ての人の想いを結実させなければならない大舞台。
スターライトフェスティバルで自分達を送り出してくれた仲間のために、この場を作り出すために協力してくれたライバルのために、ここまで苦楽を共にしてきた親友のために。
「だから、心からの笑顔で…皆の前で歌わせてください!!」
そしてそれを笑顔で見届けるために来てくれた観客のために。明星スバルは今一度、下げる必要がない頭を深々と下げました。