キセキ
「明星!」
「スバル!」
「明星くん!」
様々な感情からか、強く目を瞑り頭をなかなか上げることができないスバルに、Trickstarの3人は優しく声をかけました。
「……?」
「ほら、顔を上げる!」
眼の前に拡がる光景を、彼に見てもらいたかったからです。
「…………!」
"軌跡"が積み重なった"奇跡"
ステージを取り囲む観客が出した答えは、七色のサイリウムで一面を満たすこと。キラキラと輝いている彼に、同じ煌めきを持って応えることでした。
顔を上げた彼に届けるよう場内に鳴り響く拍手と歓声は、言葉にするまでもなく彼の許容と歓迎を意味します。
それもそのはず。
そもそも観客達がTrickstarのパフォーマンスを見たいと思ったからこそ、彼らは今決勝の舞台に立てているのですから。
予選までと同じく、観客達はTrickstarを求めた。
そこに明星父の過去の暴露やくだらない大人の事情がつけ入る余地などなかっただけのこと。
だからこれは客観的に見れば分かり切っていた結果であり、可能性の高い方に着地しただけと取ることもできると思います。多くの人がこの結末を迎えられると思っていたと感じます。
でもスバルにとってはそうではなかったこともまた紛れもない事実。幾ら可能性が高い勝負とは言え、当事者であるスバルは僅かな可能性の方を気にして心を揺さぶられる立場です。
実際、周りの仲間達には「決勝に上がったんだから、きっと大丈夫だろう」と、分の良い賭けに甘んじて一旦お茶を濁す選択肢もありました。特に対戦相手であり所属も異なるEdenは、殊更に身を引いても問題なかったはず。この場ではなく、後に上層部を糾弾することもできたでしょう。
それでも彼らがこの場での完全解決にこだわったのは、ひとえに「明星スバルを救うため」だったと僕は思います。
ここに集った全てのアイドルと彼らを取り囲む仲間達が、一切の落ち度なく貶められたスバルを…同じ煌めきを体現するアイドルを救おうと尽力した。
「HaHa~、綺麗な色な~!」
「おめでとう、スバルくん。君の未来は今…大きな流れに繋がったヨ」
「えぇ、未来は変えることができる!」
ユニットも所属も立場も年齢も全てを超えて、ただその目的のために1つになって大きな悪意に立ち向かった。
全ては皆が納得できるSSを完遂するために。アイドル達が集う神聖な場を汚されないために。その決勝の場に立つ代表に"光"を届けるために。アイドル達は全力でこの状況を作り出したのです。
「良いものを魅せてもらったぞぉ!情意投合!アイドルとアイドルを輝かせるお客さん全てに幸あれ!」
Trickstarの眼の前に拡がる光景は、ここにいる誰かが欠けたら決して為し得なかったものだったでしょう。
過去も現在も内包して、彼らの辿った"軌跡"の全てが折り重なって生まれた"奇跡"。そのアンサンブルがここにある。
「ありがとう…本当に…」
誰もが辿り付ける-舞台-じゃない。
だからこそ、ここにいることを"キセキ"と呼ぼう。
ありがとう皆!
聞いてください!"奇跡"が作る未来へ!
「Infinite Star」!!
Infinite Star
本作最後のライブシーン。
Trickstarの「Infinite Star」も、もちろん3Dライブシーンです。
今まで快活でアップテンポの曲ばかりを見せてくれていたTrickstarが届ける、初めてのバラードソング。それはここまでの仲間達との歩みを象徴するような、優しい歌詞に包まれた一曲でした。
何者でもなかった4人が、暗闇の中を手探りで歩いていたあの頃。革命を決意して集まった身の程知らずとも言える4人の新星は、数々の"奇跡"を体現してこの夢のステージにやってきた。
全ての困難を乗り越えて、今最も清々しい気持ちでパフォーマンスできているのは仲間達のおかげ。無限に輝く星々のその中心に今、彼らTrickstarが立っている。
Edenと異なり、この円形のステージでも4人揃って前を向くことにこだわった彼らのステージは、それでいて全ての人に自分達の姿を届けられる動きが意識されています。
4人それぞれではなく、4人揃っているからこそTrickstar。それはどんな場所であっても変わらないということでしょう。
後半、空中を舞う彼らは、夜空に輝く恒星そのものようで。眩しく煌めく存在でした。そんな彼らが見詰めるのは、サイリウムを振る全ての観客――地上で輝く星々達です。
最後には彼らもまた地上に戻ってきて、空ではなく皆の目の前で誰よりも強く光り輝く無限大の星になる。それこそが彼らが"アイドル"である理由だから。
――奇跡は終わらない。
希望で光るTrickstarはここまでの"奇跡"を胸に抱き、新たなキセキを辿るのでしょう。
SSは到達点であっても終着点ではない。ここから始まる可能性の光は、未来をまた革えていくはずだからです。
亡き父を想う2人
「そうだ…」
Trickstarのステージを目の当たりにして、誰よりも大きな感銘を受ける者。それは…Edenの乱凪砂でした。
「あの人も昔…あんな風に…無数の煌めきに手を差し伸べて…」
かつて自分に歌を教えてくれた張本人。
彼がアイドルになりたいと強く思うようになったキッカケの1つに、明星父の存在はあるのでしょう。
「私も父も…そんなあの人が大好きだった」
凪砂の記憶に残っている明星父の姿もまた、世間が言う"あの明星"とは違っていて。何もなかった幼い自分に、キラキラしたものを教えてくれた人でしかなかった。
だから、凪砂は明星父に対してスバルと同じイメージを共有している人間でもあったのです。
SS直前特番で「お父さんと同じ道を辿るのかな」と言っていたことも、ポジティブな意味での発言だったのかもしれませんね。
その息子である明星スバルは見事"あの人"の汚名を払拭し、公私共に煌めきに溢れる存在だったことを証明した。自分達が信じていた姿が正しかったことを指し示した。
「父を…悪を親玉のように言う人も多いけれど――」
だとしたら…
「――あの人なりの"愛"はあったと思う」
自分も、父親のことをもっと信じてみても良いんじゃないか。
彼がそうしたように、自分を大事にしてくれた父の姿を…世間が言うゴッドファーザーとは違う自分だけの印象を、大事にしてあげたい。凪砂はそう思ったのだと感じました。
「彼らのように、私達も誰かを笑顔にできるかもしれない」
"人"として生きることに悩み、生からの解脱を信条とする凪砂にさえ、前を向く希望を見せることができる。そんな魅力がTrickstarにはありました。
「そのために歌おう。少しでも世界から哀しみを減らせるように…!」
SSはアイドル達の夢のステージ。
夢の先で待っている輝かしい未来へ向かって、彼らは今日も煌めきを放ち続けます。
明星父の選択
決勝2組のパフォーマンスが終了し、結果発表を残すのみ。
ステージ上でその発表を待つTrickstarとEden。
その幕間では、同じ恩人によってここに至ったスバルと凪砂のやり取りがありました。
「スバルくん…」
真実が白日の下に晒され連行された、コズプロ上層部の荒れ果てた根城。その中心に掲げられたゴッドファーザーのシルエットの前で、2人は言葉を交わしています。
「君のお父さんの選択…人によっては、愚かだなって笑うかもね」
ここからは想像になりますが、"選択"という言葉の解釈を拡げて執筆しようと思います。
一部始終が明らかになった今、当時の明星父は釈明しようと思えばできた立場にあったと僕は考えています。
全てが仕組まれた冤罪であったのなら、その証拠を持って世間や芸能界と戦うこともできたはず。実際に誠矢はそのデータを秘匿していたのだから、物理的に不可能であったとは言えないのです。
となると、彼はあえてそうしなかったと考えるべき。
それは何かしらの圧力がかけられることで、誠矢の持っている情報さえ「無根拠なもの」として扱われるリスクがあったからだと考えられます。
さらに、それを行うことでアイドル業界全体が中途半端に引っかき回されることが本意ではなかった。自分のせいでその先の未来が駄目になる(そのまま自身の冤罪も晴らせない可能性が高い)のなら、彼はそのための犠牲として身を引くことを選んでしまったと妄想しています。
誠矢もまたその結末に納得できなかったから、そのデータを破棄せずに来るべき未来のために夢ノ咲学院の裏に秘匿した。その上でコズミックプロダクションの傘下に入ることで、当時裏で交わされていた陰謀の正体を探ろうとしていた…と考えれば辻褄が合います。
「でも…」
自らを時代の犠牲者に落とし込んでまで、アイドルの未来を守ろうとしたスバルの父親。それは自分の人生を基準に考えたら、決して褒められたものではない。
「私は、カッコいいと思うよ」
そこまで分かっていて、凪砂はその在り方を肯定しました。
それは同じ存在に魅了された者として、スバルが何を求めているかを察せたからかもしれません。
「凪砂さん…!」
そして何より、彼の信じた未来には明星スバルが存在していたから。彼の煌めきを最も身近で浴びていた息子が、彼の汚名を晴らして最高のアイドルとしてこの場に立っている。
だから彼の選択は、夢と未来を確かに繋ぐものだった。それを証明できたのは、スバルがここまで心折れることなく立ち向かい続けてきた結果に他なりません。
「頑張ったね…スバルくん」
同じ人に同じものを見て、同じ世界に立つ同志として。乱凪砂は、明星スバルに最大限の賛辞を送ったのです。
そのまま物語は、ステージの上に戻ります。
「優勝は――!」
あんさんぶるスターズ!
「――Trickstar!!」
SS優勝の称号!
歴戦のアイドル達が集う年末の祭典、その頂点に立ったのは夢ノ咲学院のTrickstar!!
そこを目指して努力を続けてきたことと、実際にそれを取れると思っているかはまた別の話。実際に"優勝"を目の当たりにしたTrickstarの反応は、彼ららしい非常に初々しいものなのでした。謎浮かれポーズのリーダーが印象的です。
「皆、本当にありがとう!」
ステージの端に意気揚々と走り込むスバルは、先ほどまで抱えていた暗闇とは無縁になったかのようにいつものテンションを取り戻していました。
「そしてありがとう!プロデューサー!」
彼の見据えたその先には、ここまで共に歩んできたプロデューサー、あんずの姿が。彼女が"リーダー"として無理矢理ステージに引っ張り上げられていたあの日のことを思うと、全ての人が堂々と成長したなぁと感慨深くなってしまいます。
「「「「ありがとう、あんず!!!!」」」」
一緒にステージに上がることはできなくても、心は共にある。誰よりも先に彼女にその結果を報告する彼らの姿はとても活き活きとしていて、見ていて心地良いものでした。
「ちぇー、おめでとうと言うべきだね」
「GODDAMN!おめでとうございます!」
Edenの面々もまたそれぞれの言葉で彼らを賞賛します。ジュンくんお行儀が良いね。
「残念だったね、茨」
「良いですけどぉ、次は必ず勝ちますからね…Trickstar!」
敬礼!
悔しさを滲ませつつも、その顔は4人ともどこか清々しい。
誰もが誰もをステージ上で貶めない。アイドルとしての矜持を持って、目の前の勝者をまっすぐに祝福する。そんな煌めきに満ち溢れたやり取りが、神聖なステージの上で展開される。アイドル業界の理想の縮図を見ているようです。
1つの終幕
今日は…今年は本当に最高で幸せだったよ!
最後は思いっきり全開の笑顔で歌うよ!
皆も一緒に歌ってね!
ドリフェスで勝者に与えられたアンコールの権利。SSでもそれは健在で、それをどうするかも彼らに委ねられています。
世界中に響かせよう!
これからも俺達のアンサンブルを!!
彼らが選んだステージは、この場に集ったアイドル達全員で送る仲間達の饗宴。1クール目OPテーマ「Stars' Ensemble!」をここでもう一度。夢ノ咲ドリームスターズにEdenを加えたフルメンバーで歌います。
立場や意志、想いが異なればぶつかり合うこともあるけれど、それは決して誰かが"悪い"からではない。
誰もが悪人ではなく、誰もが目の前の現実に一生懸命向き合った結果だけがここにある。前を向いて輝きを放つことだけを胸に、1人1人が気高きアイドルとして在る。
それこそがこの作品『あんさんぶるスターズ!』の本懐。僕が半年間かけて感じてきた彼らの生き方です。
全ての人が納得行く結果を得られるわけじゃない。でも、全ての人が楽しむ場を作ることはできるかもしれない。そんなエンターテインメントの理想が詰まったやり取りを、最後に見せてもらいました。
この作品は決してアニメだけで完結する物語ではなく、既にその先やその間が無数に存在する作品です。
それを理解した上で、今はこの終幕を楽しみます。無限に広がるあんさんぶる、その物語に想いを馳せながら。
あんさんぶるスターズ!
おわりに
終わったー!
半年間ありがとうございましたー!
最終話は終わりに相応しい演出と物語。しっかり1話で奇跡をまとめてくれました。「キンプリオタクの」という冠詞でやってきたこの記事群としては、後半の展開と演出に色々と想起せずにはいられないといったところですが、それはまた別のお話です。
今回はアニメ最後の記事ということで実直に、まっすぐに、全力で、話の最初から最後までの全てを書きました。なるべく構成都合でカットするものが少なくなるようにしましたが、推しユニットやキャラの名前が記事中に登場していない方については、ご期待に沿えず申し訳なく思っています。
思えば遠くまで来たものだ。
監督繋がりだからこのアニメの初見感想を書いてみようと思い至ったあの日、最後までこんなに多くの方に支持されることになるとは思ってもみませんでした。
『あんスタ』という大きな大陸の中では僕の存在など大したものではないと思いますが、それでも僕の人生でこんなにも文章を求められたことはありません。毎回それを励みに一生懸命書いてきました。
アニメも後半に進むにつれて気になるところやエモさが爆発する回が多くなり、自ずと文章量も膨大に。本当に執筆が大変でしたが、それだけこのアニメは記事を書くのが本当に楽しい作品でした。
アニメは終わりましたが、もう少し『あんスタ』については書くことがありますので、そちらもよろしければお付き合いくださいませ。
最後までお付き合い頂けた方々に感謝を。
ありがとう『あんさんぶるスターズ!』。そしてありがとう読者の皆様方。
また次の機会にお会い致しましょう。
Thank you&Good bye 青春 Forever
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