あんさんぶるスターズ!

キンプリオタクの『あんスタ』ミリしら感想 アプリ編⑧「晩夏 サマーレッスン」

2020年4月25日

引用元:『あんさんぶるスターズ!!Basic』「晩夏 サマーレッスン」

今回取り上げるのは「晩夏 サマーレッスン」
前回に引続き日常的な一幕を取り上げた物語の執筆ですが、メインライターである日日日先生以外の方が書いているシナリオを扱うのは今回が初めてですね。

ゲーム内で担当ライターが明確に開示されている作品はかなり珍しいと思います。どちらかと言えば物語への没入感を削ぎがちな情報で、知りたい人だけ後から調べたり考察すれば良い要素だからです。

それをあえて公開することによってイベントごとの質感の違いを明示している側面もあるでしょう。今回はそういったところも踏まえて読み取れたら良いと思います。

それでは今回も書いて行きましょう。お付き合いくださいませ。

既存ストを尊重した語り口

「晩夏 サマーレッスン」は主にTrickstarの日常を切り取った物語。

⑦で執筆した「夜の怪談」と比較してもさらにライトな仕上がり。キャラクターについて初めて判明することや理解が深まるところはほぼなく、ここまでで分かった彼らのキャラクター性を改めて楽しめるような内容でした。

会話の感じも「メインストーリー 一部」序盤を彷彿とさせるやり取りであったり、何となく少し懐かしくなるような空気感に包まれています。

このストーリー自体にはあまり発展性はないのですが、会話の端々に過去のエピソードを踏まえた台詞が見受けられます。前のストーリーを読んでいればより状況が掴みやすく、読んでいなければ興味を煽るような工夫が施されているようですね。

これはやはりメインライターが書いた物語こそが本筋であり、それ以外のストーリーはあくまでその内容を補完し、引き立てるものであることを意識した結果なのでしょう。

キャラの掘り下げに余念がない『あんスタ』では(序盤は特に)それぞれの物語が独立しており、メインストーリーさえ見ていれば前後の繋がりはあまりないものが多い印象。

今のところ読んでいて「この台詞で言っている内容は読んでいないな」と思うことがありません。日常回である「夜の怪談」もその他のストーリーを引っ張ってくる必要はない内容でした。

そんな中でこの「サマーレッスン」は、僕の読んだ中では初めて明確に過去の物語の内容を取り入れたお話として描かれています。

前だけ向いて突っ走っているとどうしても疲れてしまうもの。1つ1つの物語が粒だっているからこそ、こういう何も起きない物語もまた重要。緩急を用意することには、受け手が感じている以上に「作品を飽きさせない努力」が眠っていたりするものです。

感覚だけで言えば「二次創作的な観点で創られている」ことになりますが、作品の看板を背負っている以上はその物語もまた「彼ら自身」でなくてはならない。断章のような物語を専門に書くことは、好き勝手できる創造主とは違った生みの苦労があるのは間違いありません。

客観的に全体を見て作劇される箸休め回でホッと一息つきながら、少しばかり過去の"おさらい"を。それもまた一興と言えるでしょう。

あんずとアイドル達の距離感

「サマーレッスン」で個人的に取り上げておきたいと思ったのは、転校生のあんずちゃん。

Trickstarがメインの物語であることもあってか、彼女を中心に置いた物語となっていたのが印象的でした。気持ち乙女向けの要素が強めの内容になっているからそう感じたのもあるかもしれません。

去るDDDにおいてTrickstarの勝利を牽引し、プロデューサーとしてその他のイベントやドリフェスでも力を付けているあんず。それ故に彼女を求めるアイドル達の存在も無視できなくなっています。

ユーザーの分身である彼女は立場上、全アイドルを等しくプロデュースする権利を持ちます。「推しのアイドルをプロデュースする」というゲーム性上それは当然のことで、この手の作品では改めて疑う余地のない必須条件のようなものです。

ですが彼女はメインストーリーで便宜上"Trickstarのプロデューサー"という肩書でデビューを飾った存在で、その経緯は揺るがないものだと思います。

その彼女がTrickstarの面々から「あんずは皆のプロデューサーだから」と言われるのは、何となく物寂しい感じがしてしまう。

他のアイドルからそう言われるのは、率直に言えば「お前が欲しい」の言い換えであり、それは彼らが持つ欲求として当然のものです。けれどTrickstarには別に「あんずは俺達のプロデューサーだ!」と言う権利はあるし、そこまで言い切ってしまっても不自然ではありません。

そんな彼らからも"皆のプロデューサー"と言われてしまうと、「そうでなければならない」と強制されてしまうような気さえするのです。

「それはお前の自由だから」と言われることで、「自由でなければならない」「特定の誰かを選んではならない」といった強制力が発生する。その価値観の中で分け隔てなく接することを求められているような、そんな気がして、全然"自由"ではない。

彼女はそう感じてもおかしくない状況下にいます。もちろん彼女がそこまで悪意的にそれを捉えることはないでしょうが、何となく微妙な窮屈さくらいは感じているかもしれません。

この「サマーレッスン」はあんずが特別な存在として周りから様々な寵愛を受ける一方で、アイドル達との距離感を示唆する物語になっているとも思えます。

それは身も蓋もないことを言ってしまえば「作品展開上どうしようもないこと」なのかもしれませんが、Trickstarに独占してもらえないことをあえて"作品感"として捉えてみようと思いました。

その状況からアイドル達の過去を知り今を知り、先の未来を見ることで、自らの意志で"誰かのプロデューサー"になる彼女を自己投影しても良いでしょうし、物語として"皆のプロデューサー"として輝く彼女の姿を見届けても良い。

そこには『あんスタ』の主人公としての多様性があっても良いのではないかと思います。

今回活躍したキャラクター達

では気になったキャラクターをピックアップして行きましょう。

衣更真緒

アニメを見ている時に「原作だと割とやらかす」というメッセージを頂いており、「あぁこういうことか」とわずかに感じ取れた次第。

そもそも真緒はアニメでは日常的な子供っぽいところがほとんど見られなかったので、Trickstarのメンバーの中では既に意外な一面が多いキャラクター。今後ともどんな姿を見せてくれるのが非常に楽しみです。

メンバーの中で圧倒的に大人だと思っていたのが実はそんなこともなかったし、少し背伸びして頑張っているようにも見えるしで、良い感じにギャップが効いている。アニメで真緒に惹かれた人は落差に落とされるのでは?と感じます。

考え方は大人びていても心が全く追い付いていない男の子ですし、「オータムライブ」はかなり感じ方が変わるのではないかと今から楽しみです。それまでにどんな彼のいたいけな姿が見られるのかしら。ふふふふ。

真白友也

北斗に憧れているということは知っている。
今回ちょっとその片鱗が見られた気がしますが、彼らの関係性についてはとりあえず演劇部のエピソードを待ちましょう。

fineを過剰に恐れていたところを見るに、恐怖の対象をなるべく外側に置いておきたいと考えるタイプでしょうか。石橋を叩くのは悪くないものの、若いうちからその癖を付けすぎると苦手を克服できない大人になってしまうので、頑張ってほしいなぁというところ。

ただアニメの「七夕祭」の内容を鑑みると、直近でfineに潰されそうになったところをValkyrieに助けられた経験などもあるわけなので、致し方ない側面もあるのかも?

蓮巳敬人

説教マン。
英智が最優先。

僕の既読ストーリーにはまだ活躍したものが全くなく、実は「一部」以降では今回が初邂逅。久しぶり。

アニメでは落ち着いたクールインテリ部分に終始したキャラで個人的な活躍も控えめ。しかし原作の端々からオモシロ要素を多分に醸し出してくれているキャラ。

次回の執筆は「喧嘩祭」の予定なので、いよいよ彼の活躍が見られる様子。好きなタイプのキャラではあるので、是非とも色々なものを魅せてほしいところ。

伏見弓弦

アニメではあまりなかったTrickstarとの個人的なやり取りが見られました(仕事上のやり取りはあったが)

冷静に考えると2年生だからTrickstarとも学年的な交流はあるはずなのですが、クラスメイトはかなり見落としやすい情報なので「そう言えばそうだったか」と思わされがち。

特に彼はfineのメンバーで姫宮の側近、生徒会のメンバーで英智にも懇意にされる上に、Edenの茨とも個人的な付き合いがあるなど、立場の数が非常に豊富。アニメではそれらを活かした立ち回りが見受けられ、出番も比較的多めな方ではあったと思います。

その一方で活躍が"立場"に終始したため、存在感の割に中身が全く分からなかったキャラの1人でもあります。謎だけ残して行った印象です。

今回は蓮巳からの信頼を利用してあんずを導くなど、したたかな一面も見られました。

伏見は人から信頼される振る舞いを意識的に行っている(それが自分の立場を有利にすることを知っている)ようにも見えているので、過去の体験なども含めて本音の所在が見えるエピソードを見るのが今後の楽しみです。

おわりに

「晩夏 サマーレッスン」は良い意味で箸休めとなる、ゆるりとした時間の流れが魅力的なストーリーでした。

何も起こらない、何も判明しない、何も発展しない。そういった時間の中でしか描けない関係性やキャラクター性もあるわけで、"深める"という行為のなかではこのようなストーリーをピックアップすることもまた意義あることだと思います。

それに何を隠そう次は兼ねてより執筆依頼の多かった「決別!思い出と喧嘩祭」、そしてそれ以降も「反逆!王の騎行」「開演 ダークナイトハロウィン」とヘビーなストーリーが続きます。そう考えると、このタイミングで挟まるリクエストを頂いておいて良かったなと改めて。

さぁ次回からは少しまた気合いを入れて読んで行きましょう。お待ち頂けますと幸いです。それでは。

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はつ

『超感想エンタミア』運営者。男性。二次元イケメンを好み、男性が活躍する作品を楽しむことが多い。言語化・解説の分かりやすさが評価を受け、現在はYouTubeをメインに様々な活動を行っている。

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