久々の「スカウト!」シリーズの単発執筆。
取り上げるのは「スカウト!荒野のガンマン」です。
アニメ視聴中に「英智がゲーセンで遊ぶ話があるんです」や「英智と宗は同じクラスでゲーセンで遊んだことがあります」などのメッセージを頂き「?」となったストーリーです。ついに辿り着いた。
当時は「どういう設定のゲームやねん」と思っていた内容ですが、今となっては「まぁそういうこともあるか」程度に受け入れられるようになりました(本当にそうか?)
コミカル色強めの今回も、いつも通り(※)に紐解いて行きましょう。よろしければお付き合いくださいませ。
目次
クラスメイトという存在
彼らは何故ゲームを求めるのか。
何故に皆で揃ってゲーセンに向かうのか。
その答えはただ1つ。彼らが高校生だからだ。男子高校生とはいつの時代も群れてゲーセンに行くものである。
空虚な時間を過ごし、冗費の限りを尽くす。酔生夢死。終わってから気付く何の意味もない日常。しかしそこに残る一抹の充実感、享楽の輝きは、時として人の心を救うこともある。
あーあ何してたんだろ俺。でもまぁ良いか楽しかったから。だから何度でも行くよゲームセンター。それが青春。それも青春。響かせよう僕らだけのアンサンブルを。
(※筆者は学生時代ゲーセンに通ったことはありません)
というわけで(?)楽しくゲーセン。
原作を読んできて部活動などユニット外の関係性に目を向ける機会はありましたが、ここに来て「クラス」のみをフィーチャーしたイベントを初めて読んでいます。
歴史もののような重厚な世界観の上に立っている『あんスタ』ですが、あくまで舞台は「学院」であり彼らは学生です。クラスメイトという概念から完全に逃れることはできません。
そこで仲良くなった友達もいれば、嫌いな奴と共同生活を強いられることもある。別段興味のない存在が片隅にいたりしながら、完全に切り離すことはできない縁のようなものがある。
そのような、大人によって無作為に決められた理不尽の中で育まれる関係性。それもまた彼らの人格形成において捨て置けない要素として存在しています。
だからと言ってクラスメイトで揃ってゲーセンに行くなんてことは、学祭などの打ち上げでもない限り基本的にあり得ない現象であり。1人の個人的な誘い、お願いに全員がついてくるというあまりにも異様な光景が展開されました。
つまりまぁ仲良しかよ。
和気藹々(※この場合"サツバツ"と読む)としていてとても良いと思いますよ。えぇ。えぇ。
今回活躍したキャラクター達
それでは、今回はキャラクター1人1人に着目しながらストーリーを読み解きます。
瀬名泉
なんでついてきた?マン1号。
悪態をつきながらガチる人。
特に理由なく気まぐれでついてきた割に、全力でゲームを楽しむ。「たかがゲーム…」と唾棄したりせず、千秋とも真っ向から競い合って明確な勝敗を決めたがる。良い意味で負けず嫌いな一面がよく見て取れました。
Knightsにいる時もそうですが、基本的にノリが良いと言うか他人の提案を邪険にしないタイプ。常に悪態をつきながら、付き合ってくれる。意外と良い奴。
ただ恐らく口から出ている悪態も本音だろうと思わされるタイミングが多いのが面倒臭い。口で言っている割に…というわけではなく、口から出ていることも本音。行動も本音。
どちらも正であり、何かを隠しているというわけではない。決してスタンダードなツンデレではない。正に文字通りの言行不一致。そんな印象。
ゲーセンについてきた理由の1つに「月永レオが付近で出没している」ことを挙げており、やはりレオへの個人的な執着の強さを感じさせます。時間軸的には「ジャッジメント」の前に当たることを意識しておきたいところ。
個人的に探し回るのは癪だが、「何かのついで」に会えるなら会ってやっても良い。むしろ会いたい。
そんな甘酸っぱい(?)気持ちを感じさせてくれる一幕です。女子かな。だんだん可愛く見えてきた。
守沢千秋
「スーパーノヴァ」の余韻に浸る流星レッド。
皆でゲーセンに行くと言っても何かしらの"別の理由"を持っている人ばかりな中で、唯一純粋に「ゲーセンに遊びに来た」人。
比較的"楽しむ側"の人間であった瀬名泉を上手に巻き込んで、ひたすらにゲームセンターを謳歌。普段は上級生として振る舞う機会が多いだけに、横の繋がりの中ではしゃぎ回る姿が見られたのは新鮮です。
Knightsの中でもトップクラスの身体能力を持つ瀬名とガチンコで競い合える能力を持っているところなどは、アイドルの彼としても押さえておきたい情報です。
流星隊は古豪でポテンシャルは高いと言われていましたが、守沢千秋個人がどう優れているかはさほど語られていませんでした。ちょっとした遊び心の中に、確固たる実力が垣間見えるもまたオツなものですね。
羽風薫
今回のキーマン。
ようやくパーソナルな部分に触れられました。
全体的に3Aのメンバーには好意的に見られているようで、女たらしと言うか人たらしのような印象に。残念ながら海洋生物部の後輩には敵意を向けられていますが…。
今回のストーリーで何となく見えたのは、相手から自分に向けられる矢印を受け止めるのは得意だが、自分から矢印を投げるのは実は苦手なのではないかという点。
女性人気が高いので受け身でも常に女友達に事欠かないだけであり、自分から相手に向かって行くことに長けているわけではなさそうです。中盤で挟まった英智とのやり取りもそれを象徴しているようでした(お前が言えた口か感はあるが)
付かず離れずが得意で、最後まで行くことはない。故に「遊ばれた」と思われがちだが、本人に悪気があるわけではない。もしこの読みが当たりだとすれば、ある意味で天性のアイドル気質とも言えるかもしれません。
その性質を鑑みると、あんずとは似た者同士かもしれないのかなと。故に彼女に惹かれる、という面もあるのかもしれません。
今回で彼の魅力が大分増しましたね。その他の点については後述です。
斎宮宗
なんでついてきた?マン2号
マドモアゼルを人質に取られて仕方なく同行。この関係の天祥院英智、完全に人の心がない。
冷静に考えると別に人質に取られたわけでもなく、英智にどうこうできるとは思えないので無視で良いと思うのですが、律儀に受け容れて付いて来てしまうところがお茶目。「やって良いことと悪いことがあるだろうが!」と言っているが、それ今言う?感がすごい。
もちろん「こいつは何をしでかすか分からない」という恐怖や、マドモアゼルが今の斎宮にとって大きな心の支えになっているなどの裏付けはあるのだと思います。それでも色々と面白く可笑しく見えてしまう憎めないお方です。
クレーンゲームに謎の才能を発揮するものの、対人ゲームでは私怨を優先して独断専行を決行。って言うか絶対に対人ゲーム全般が下手クソ。こういう人は何やらせても勝てない。多分今回もこの人のせいで負けている(※想像です)
その他ここまでのストーリーの中では、マドモアゼルが1人の「キャラクター」としてしっかり会話に入ってきた印象。彼女の発言内容を「斎宮宗の本音」と捉えるか「全く関係のない二重人格」として捉えるかが微妙なライン。今のところは保留にしておきましょう。
周りのキャラたちが特にマドモアゼルに触れないところから、基本的には彼女も"個人"として受け入れてもらえている?よう。彼女を絡めた関係性の発展、物語の進行にも注視して行きたいところです。
余談ですが、アニメ勢としては、Valkyrieは「"七夕祭"にて英智に焚き付けられて奇跡の復活を果たし、fineと鍔迫り合いを繰り広げた」というイメージだっただけに、その前のイベントで「ゲーセンで仲良く(?)遊んでいる」というのはあまりにも衝撃的。何してんねん。次回は「ミルキーウェイ」楽しみです。
蓮巳敬人
何故か付いて来させられたマン。
前半のみの登場で目立った活躍はないものの、ここまでの傾向的に「裏で何かが起きている」可能性は高いので、覚えておきましょう。
序盤では異様に英智のことを心配する姿が印象的。「喧嘩祭」のかなり前に当たるので、この頃はまだ過保護モードの蓮巳だったわけですね。
確かにこれだけ神経質に行動に口出しされていたら、英智が「対等な関係になりたい」と強く思うのも無理はないという感じ。普通ならもっと早い段階で割と大き目の喧嘩になっていると思うので、その辺りから2人の関係性の強固さや英智の辛抱強さも感じます。
英智を守ると息巻いている裏では、意外と周りから庇護の対象として見られることが多い印象。ここまでだと極端に体力のないイメージはない(周りが化物)ですが、一応ひ弱眼鏡枠に当たるのでしょうか。
天祥院英智
遺影でいえ~い……♪ わぁ可愛い(怒)
訳アリスト。
いつもだいたいアンタのせい。
お家の事情で任された仕事のため、知識不足であるアミューズメント施設を視察(という名目で遊び)に訪れた英智さん。
この「荒野のガンマン」は、アイドルである彼らが高校生としての日常を過ごす物語ですが、その行動理由の根底には学院の枠にハマらない英智の生き方や使命感が存在しています。
高校生である彼らを意識させると共に、普段はほとんど語られない「学院」の外の事情に意識を向けさせる構成。それを同時に踏まえることで、短編ながら物語の奥行きを一気に増幅させる役割を果たしています。
だからこそ、この物語においてはそういう面よりも「ただただノリノリで楽しそうにしている英智」の方にしっかりと目を向けてあげるべきでしょう。野心家の彼は色々と思うところがあるようですが、それはまた別のお話ということで。
「スーパーノヴァ」から引続き、しがらみの外にある「楽」を謳歌する姿が見られて嬉しい限り。原作的にはまだまだ彼の過去などは隠された段階ですが、だんだんと愛らしいところが見えてきました。今後が楽しみですね。それはそうと小切手って1,000円でも切れるんですね。
あんず
圧倒的アウェイ。
英智に「他のアイドルを輝かせられる存在」として半ば無理やり呼び出され、此度のゲーセン大戦に参加。あまりにもかわいそう。
こうやって一同に介すと、3年生はあまりにも変な人が多いなと気付かされますね。B組はもっと変人の集まりですが、あんず目線ではA組の方が対応に困る人が多い印象。B組は鬼龍と仁兎という逃げ道がいるがA組には誰もいない。
今回は便宜上、斎宮宗の後ろに隠れる選択を取っています。しかし後の台詞で斎宮も「あんずに怖がられている」枠に入れられていて(※天祥院英智評 恣意的な印象操作の可能性あり)「比較的マシ」という認識な模様。ただ実際、この段階では斎宮が一番あんずを大切に扱ってくれそうではあるなと。
英智の言うように彼女は男性同士とは異なった関係性の築き方をしている上に、1人1人に対して個別の関係性を構築している存在です。
特定のグループやコミュニティの中で形成される関係性ではなく、あくまで「あんず⇔誰か」の矢印を全員に対して持っている希少性。アイドルたちが「彼女がいることで見えるところがある」部分を持っているのは事実でしょう。
それを踏まえると彼女がドリフェスの企画運営を任せられるようになった理由にも、より強い説得力が生まれるもの。「荒野のガンマン」は七夕祭の前に彼女の存在感を強める話としても、重要な内容だったと思いました。
姉弟の自由と不自由
今回のキーマンである羽風薫くんは個別の項で扱いましょう。
英智に誘われる形でゲーセンに赴くことになった彼ですが、内情としては最もゲーセンに行く意味を持っていた人物であったと言えます。その心境を英智が完全に察した上で誘ったのかは定かではありませんが、仮にそうだったとしたら彼の株も上がりますね。
パーソナルな部分がかなり不明なままだった彼も、それなりの(?)名家の末っ子であったことが判明。そして末っ子故のジレンマに悩まされていました。
いえ正確には悩まされているという言い方は適切ではないのもしれません。悩まないが故に、彼は袋小路にハマッたのでしょう。一側面において悩む必要がない故に、悩む者の気持ちを完全に理解することができなかったのです。
家柄を背負うとは難しい問題です。早く生まれた者ほどその全てを継承する権利を得られる代わりに、人生の選択肢と自由を失う。生まれながらにして立場が保証される故に、叶えられない願いも出てきてしまうわけです。
一方で末っ子は責任がない故に、目をかけてもらえない。ある意味で周りから「どうでもいい存在だ」と言われ続けるようなもので、それもまた異なった苦痛を伴う人生には違いありません。
何を幸福とし、何を不幸と言うべきか。
それは生き方によって全く変わってくるでしょう。
少なくとも羽風は今の自分の人生を「良いものだ」と思っているから、兄と姉の生き方を不自由だと感じてしまっていました。それは姉においても同じことだったかもしれません。
彼は自分が人生で培ってきたもので姉の役に立ちたいと思った。ただそれだけです。それだけの行動が、姉の心にある弟への感情を刺激しました。
それがどのようなものだったのか、この話では明確には分かりません。目をかけてもらっていたはずの自分が、弟に助けられたことを不甲斐なく思ったのか。はたまた自分だけが用意されたレールの上で安定を謳歌できることへの申し訳なさだったのか。様々な解釈ができると思います。
同じ家の中にいる血を分け合った姉弟ながら、与えられた生き方はまるで違っている。
その価値観が生み出す、互いに対する申し訳なさ。どちらも「何かを押し付けられる」ことへの感情なのに、心の中で渦巻くものはまるで違った様相を呈します。
だから彼らは泣くのでしょう。
同じ気持ちを共有することは絶対にできないから。けれど互いが互いを想い合っているのは同じだからです。
涙を流すことでしか、その感情を相手に伝えられない。言葉にすれば相手を傷つけてしまうことをきっと何となく分かっている。それは一見すれば不幸なことで、裏を返せばとても幸福なことです。
何故ならば彼らは互いの人生に満足していて、相手の人生を羨んでいるわけではないからです。そうでなければ、姉は「ごめんね」と口にすることはなかったでしょう。
嫉妬や僻みを感じることなく、ただただ互いのことを想い合える関係。身内との間にそれを築けること以上に、幸福なことはないのではないでしょうか。
それを今の羽風はまだ理解できないのだと思います。もっと人生経験を踏んで、お見合いという人生の区切りとなる場に辿り着いたことで、姉もそれを急激に実感させられたのかもしれません。
理解できない感情は、一旦吐き出して外に捨てるしかない。またそれを自分の中に取り入れられるその日まで、心の片隅に置いておくしかありません。
その発散先としてクラスメイトがいてくれたことが、彼にとっての救いとなりました。
深い関係の相手には話しづらい。けれど発散しないわけにもいかない。そんな時、特にしがらみもなく騒げるだけの相手が身近にいてくれることがどれだけ心の支えになることでしょう。
普段は取るに足らない存在が、忘れられない思い出を作ることもあります。薄く浅くとも繋がりには変わりません。
だからこそ1つ1つを軽んじず大切に。そんな一筋の光を感じさせてくれる物語でした。
おわりに
物語を終始包み込むコミカルテイストから、エピローグの急激な落差が魅力的だった「荒野のガンマン」。
しかしプロローグからしっかりと伏線が張られていたため唐突感もなく、『あんスタ』の魅力がギュッと詰まったストーリーだったなぁと感じます。
記事もそういったテイストを意識して執筆してみました。お楽しみ頂けていたら幸いです。
関係性が深まりストーリーの数が増えるほどに、短い尺で多くのことを伝えられるようになります。たった一言の台詞で過去のストーリーを想起させたり、情報を込めることも可能になって行くでしょう。
久々のショートストーリーの執筆でそれを実感しましたね。今後2年目、3年目と進んで行くうちにどれも捨て置けない物語になって行くはず。
「スカウト!」シリーズはまとめて1記事にするものが多いと思いますが、できる限り1つ1つ丁寧に要点を書き込んで行こうと思います。また読みにきてくださいね。
それではまた次回の記事で。
次はいわゆる「ミルキーウェイ」。頑張ります。
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