2016年下半期に突入。
夏の一発目は「リメンバー 真夏の夜の夢」です。いわゆる「スターマイン」。
TrickstarとKnightsがフルメンバーで集合するのは「白と黒のデュエル」以来でしょうか。時系列的に考えると、割と短いスパンに一緒に仕事をする機会が多かったとも言えますね。
しかし今回はユニット同士の物語と言うよりも、複雑な想いが交錯する人間関係の深掘りがメイン。アニメ視聴時から長らく謎だった、瀬名泉の心中が少しばかり紐解かれるミステリアスな(?)展開に。
「こうである」と断定するには難しい、様々な解釈が可能であろう心の動き。その1つの可能性を、僕なりにしたためて行こうと思います。よろしければお付き合い下さいませ。
目次
「一方通行の愛」の在り方
この「真夏の夜の夢」は、主題に「一方通行の愛」が据えられていると思っています。
中心となる「瀬名泉→遊木真」はもちろんのこと、教師枠として椚先生が同行したことにより、「鳴上嵐→椚章臣」の関係も対比的に考えて行くことが可能になっています。
また「朔間凛月→衣更真緒」も話にしっかりと絡んできていますが、彼らは事前に「バンドアンサンブル」にて一定の歩み寄りを果たしています。そのため、どちらかと言うと真緒と凛月は「関係を一歩進めた者」として物語に奥行きを持たせる役割に徹した形でした。
特に凛月が真に言い放った「いつまでも拒絶して、見ないふりして逃げ回って……。なのに完全に縁をたつこともしないって、いちばん残酷だよねぇ」という台詞。真緒と"変わって行く現状"についての交流が済んでいるからこそ出たものだと思います。
この台詞が真緒と凛月が関係性の安定を取り戻したことを示すと共に、この物語(主に真と瀬名)を動かす大きなキッカケにもなりました。
"中途半端"を強いる関係
実際のところ瀬名→真に対して行われている行動は、監禁を除けば全てが彼のプラスになると言って良いことばかりです(監禁を除けば)態度と勢いがとにかく"気持ち悪い"ですが、真が受け入れさえすれば基本的には「遊木真は瀬名泉といることで得をする」のです。
特に真は、あれだけのことをされても「瀬名泉のことが嫌いではない」と言い切れる人間性を持っています。だからこそ彼は瀬名を邪険にしすぎず、付かず離れずの距離を取って接することを選んでいます。
それは真にとって気持ちの良い選択ではありますが、同時に施す側である瀬名には"中途半端"を強いることになります。
嫌うなら嫌ってあげた方が相手も踏ん切りが付く。受け入れるなら受け入れて、ちゃんと相手の施しにお返しをする。それが相手の気持ちに応えるということです。どちらもしないまま引きずれば、最後には「相手を弄んでいる」ことと同意義になってしまいます。
まして相手が「自分を大切に想ってくれている」ことが明白であるならば、どっち付かずは「その気持ちを都合よく使っている」と取られても仕方がない行いだと言えるでしょう。
これについて「いやいやどう見たって真は困らせられている側で、迷惑なのは瀬名の方だよ」と捉えることも間違いではないと思います。むしろTrickstar目線で見れば、それこそが正論になり得ます。相応の仕打ちを真は受けているし、ユニットとして迷惑もかけられているからです。
ただそれならば、真はビシッと「もう関わらないでほしい」と強く本気で言えば良いだけのこと。それをしないで瀬名の"善意"を無意識に利用し続けるならば、凛月のような意見が出てくるのも仕方がありません。
Trickstarも「本人が良いと言うならば…」と言わざるを得ませんし、今後の関係性の処遇は真の判断に委ねられているのは紛れもない事実でした。
一方通行でも幸せな形
しかしながら「与える側の気持ち次第では、一方通行の愛も"幸せ"として成立し得るものである」のも1つの真理です。例えばそれは「憧れの人を応援する」「アイドルのファンになる」ことに近しい感情とも言えるでしょう。
今回のストーリーでは、その点を嵐が引き受けてくれています。
嵐は椚に対して尽くしてばかりで、椚はそれを理解していながらも一線を引いたやり取りを心掛けている印象です。そして嵐はその一線があることを理解してなお、椚に敬意と情愛を向け続けているように感じられます。
「マリオネット」で登場した嵐は椚にもっと寄った見た目をしていたことを思うと、その辺りの「憧れ方」の心情にも変化があったのかもしれません。
実際のところ椚は全く気持ちに応えていないわけではない(立場を遵守した上で何かを返そうとしている)ようですし、彼らの関係についても今後また触れられることがあるのでしょう。
全ての感情がどの「愛」に括られるのかを断定する気はありませんが、今回のストーリーは「愛」という概念そのものの多様性を感じさせてくれる物語だと感じました。
そんな「愛」がひしめくストーリーの中で、遊木真と瀬名泉は今後どのような関係を築いて行くべきなのか。築いて行きたいと思っているのか。その新たな始まりを描く物語として、「スターマイン」は位置付けられています。
遊木真と瀬名泉
ではここで「瀬名泉はどうして遊木真に直接的すぎる愛を向けるのか」について、今回のストーリーで予測できることを書いて行こうと思います。
僕はアニメ視聴当時から、「真は本心からTrickstarでいたいと思っているのか」と疑問に思っていた時間が長くありました。自己肯定感が低く他人からの評価を気にしすぎる彼について、なし崩し的に今の立場にある可能性を否定し切れなかったからです。
それは決して嫌々という意味ではなく、遊木真という人間が「自身はそうあること(他人のために動くこと)が自然である」と思い込みすぎているように見えていたという感じです。
アニメにおいては「サマーライブ」にてその疑念が概ね払拭された形ではありましたが、そうなるに至った背景が存在しているのではないかとずっと思っていました。「真夏の夜の夢」は、それらが回収されることを決定付けてくれました。
そしてその事実を最も根本的に理解しているのが、瀬名泉だったということです。
遊木真の抱えるもの
瀬名はモデル時代に真が傷ついて壊れてしまったことの原因が、真の精神的な部分にもあることに気付いているようでした。
誰にでも合わせられ、人の要望に応えることができ、時には限界を超えてまでそれを優先できてしまう。真はそれを続けることで、キッズモデルとしての成功をほしいままにした過去があります。
しかし周りの大人がそれに気付くことはありません。これができるなら、もう1つも上もできるだろう。それもできたなら、さらに上を目指せるに違いない。そうやって常に要求はエスカレートし続け、それは当事者の身と心が破壊し尽くされるまで続きます。
世の中に限界のない人間はおらず、そう見える人はただ「我慢できる範囲」が広いだけに過ぎません。過去の真のようにノーが言えない"お人形"に待っているのは、再起不能なまでの破滅に他ならないのです。
真は恐らく完全に壊れる直前で逃げ出すことに成功したからこそ、Trickstarと出会って新しい自分に目覚めることができました。トラウマを抱えながらも、人前に立つことができています。
ですがそれも時を経て当たり前のものになってしまえば、「合わせるべき存在」へと移り変わって行くものです。「Trickstarのために」「仲間のために」と思えば思うほど、遊木真は過去と同じ轍を踏むリスクを背負い続けることになります。
瀬名泉はそれを見て「昔と同じに"なりかけている"」と言いました。
彼は真を取り巻く全てを理解した上で、今の真を見守ることを選んでいる。そう思わせられる心情の吐露が、「真夏の夜の夢」にはありました。
瀬名泉の論理
思うに瀬名泉は「ゆうくんには本音(本心)を発散できる場所が必要」だと思っているのではないでしょうか。
どんな形であれ、彼は自分の感情に正直な時間がなければならない。それが転じて彼の心を守ることに繋がって行くからと、彼はあえて憎まれ役を買って出ることにした。
例えば「嫌い」「憎い」という感情を向ける対象がいることで、逆に「好き」「愛しい」の感情が可視化されることもあります。何の感情も覚えなければゼロのままですが、大きな「1」の芽生えは様々な感情のうねりを生み出す可能性を孕みます。
だから瀬名は「どう転んでも良い」ように、真に対して過剰なアプローチをかけていた。そうすることで大好きなゆうくんが同じ過ちを繰り返さないで済むなら、その方が良いと考えて動いていたのです。
ですが現実にはそうはならず。真はそんな瀬名にもやはり気を遣って合わせようと"してくれる"し、愛するTrickstarの中でも彼らのためにと行動"してしまう"。
最初は気持ち悪がられて上手く事が運んでいるように見えていても、結果として歯車の噛み合わせに大きな変化はありません。真はやはり自分で自分を押し殺して、自分を犠牲にしてでも全てを円滑に回そうと努力する。そんな健気な少年で在り続けようとするのです。
それでも瀬名泉はその役から降りるわけには行きません。憎まれ役になり切れずとも、愛されることがなくとも、少しでも真が感情的になれる場を与えてあげなければなりません。でなければ真はきっと壊れてしまうから、彼は「ゆうくんのために」そうすることを選びます。
その役割が必要なくなったと完全に思える日が来るまで、瀬名泉は"中途半端"を甘んじて受け入れ続けなければなりません。彼が言う「きつい仕事」とはそういった状況のことを指すのではと思いました。
瀬名泉の感情
そしてもう1つ大きな問題があります。それは「瀬名泉は決して論理だけで動けるわけではない」ということです。
彼は頭も回るし合理的に物事を考えられる人間ではありますが、その行動指針はほぼ全て感情によって決められていると思います。果たすべき感情のためにのみ、論理を組み上げることができるとでも言いましょうか。
ですから瀬名は論理の上でも感情を動かされる場面があれば、相応に傷つきますし行動にブレも出ます。真に「弄ばれる」ことは、その必要性とは関係なく彼の心に大きなダメージを与えているのです。
ゆうくんのことが好きだから。ゆうくんに傷ついてほしくないから。そう思って始めたことが、巡り巡って自分を傷つけることになっている。それを分かっていて行動しているのだとしたら、瀬名泉もまたとんでもない自己犠牲精神を持っているというものです。
「真夏の夜の夢」は、この瀬名泉の「論理性」と「感情」の狭間がどこにあるのか全く分からないのが相当に厄介で、発言に一貫性が全くなく不可解です。これだけ言っていることがコロコロ変わるのを、情緒不安定という言葉だけで片付けられても困ります(熱いクレーム)
結果としてこの物語は、情報を精査すれば答えを導き出せるものではなく、読み手がこの複雑性をどう解釈するかに物語の内容が委ねられています。仮に正解があるのだとしたら、それは作者の頭の中だけでしょう。
そもそも本当に論理的に行動できるのだとしたら、DDDというあらゆる意味で大事な局面で真を監禁するなんて手段を取るわけがないですし、ドヤ顔で「ゆうくんのため」と語られても「本当にそうか?」と返すことしかできないのです。
結果として今言えるのは「瀬名泉の本心はより分からなくなった」ということだけであり、今回はそれを辿るヒントを得られたに過ぎないと考えています。
匂わせられまくっている月永レオとの関係性がつまびらかになった時こそ、改めてこの辺りを語ることができるのだと思います。先は長いですが、辿り着いた時のカタルシスが楽しみです。
Trickstarがもたらすもの
ここまで語ってきたところで、果たして「遊木真に救いがないのか」と言われればそれは否です。
何故ならば彼が属するTrickstarは、決して彼のことを人形として扱っていないし、1人の仲間であり友人として心から大切に想っているからです。昔、彼の周りにいた大人たちとは全く違う存在が、今の彼の周りには寄り添っています。
今の真は人付き合いにおいて、「そうすることしかできない」のでしょう。自分のしていることに無自覚と言うのは半ば不正確で、その方法しか知り得ないから同じように行動してしまうと言ってあげるべき。その悪癖は、他の方法を少しずつ理解して学んでいくことでしか解消できません。
そして少なくとも北斗はその違和感に既に気付いていて、真を心配して声をかけました。
その声がけの意味に真は気付くことはできないし、彼が言っていることもよく分からないのだと思います。北斗も完璧な言葉をかけられるタイプではありませんしね。
ただその"想い"が存在する以上、瀬名の心配している結果には決して辿り着かないはずです。
一緒にいた時間の長さではまだまだTrickstarより瀬名の方が上なのは事実。真がどのような変化を経て今の彼となったのか、それを理解しているのも作中では瀬名だけ。Trickstarには、まだまだこれからそれを知っていくための時間と交流が必要です。
けれどそういったプライベートな部分を理解し合い、全てにおいてTrickstarが「本心」を出せる場所になった時、彼らはより強い絆で結ばれた存在になるのでしょう。
そしてその時が来れば瀬名と真の関係性もきっと今とは違うより良いものに変わって行くはず。物語の終盤では真が瀬名に想いを伝えるシーンがあり、その想いの所在に驚く瀬名を見ることができました。
「お兄ちゃんは、ゆうくんが何を考えてるかなんてぜ~んぶ理解しちゃうんだから」と言っていても、本当は大事なところほど分かっていなかったりする。さらに「これからのゆうくん」には、更に図りかねるところが出てくるでしょう。
アニメの終盤では楽しくデート(?)する2人の姿も見られています。今回を1つの契機として、彼らはもっともっと良い"兄弟"になれる日に向かって行くのでしょう。
まだまだ分からないことだらけではありますが、遊木真と瀬名泉の関係、そしてそれに付随した彼らを取り巻く人たちとの関係性。「リメンバー 真夏の夜の夢」は、それらを追うのがより楽しみになるような、そんな要素がたくさん詰まった物語でした。
おわりに
難解…と言うべきか。面倒臭い奴…と言うべきか。
割とストーリー全体に茶目っ気があったりもするし、それぞれに触れてあげたいところがあったりもするのですが、とりあえず一番押さえておきたいところを書くだけでもそこそこの内容量になってしまった。おのれ瀬名泉。
瀬名自身、出番は割と多いキャラクターな印象を持っていますが、その内情については実はほとんど語られていなかったような気がします。
ようやく本心を語り出したと思ったら、余計に何を考えているのかよく分からないことを言い出してしまう。かなり自己完結感のある心情吐露を展開してくれているのに、読んでいるこっちには矛盾しているようにしか見えないような話し方をする。
(登場人物には)誰にも聞こえてない部分なんだからもう少し分かりやすいことを言えと思うし、逆に彼の頭の中であれが一貫しているのだとしたらもう滅茶苦茶であると言う他ないという感じ。
この先を知っている方々からすれば「まぁまぁこの先を…」という部分もあると思いますが、アニメ+公開順に読んでいる僕の「スターマイン」時点での感想は一旦こういうことにさせてください。今回は相当に瀬名泉の心情吐露とにらめっこしました。
これで聞くところによると月永レオとお熱(らしい)から、つくづく食えないキャラクターだなと思っています。「沼が深い」とはこのことか。
再三言っているように、Knights関連は「これを読んでほしい」というメッセージを多く貰っていて、なかなかそちらに辿り着けないのは心苦しい限りです。しかし、順番に読んでいることにやはり意味はあるなと感じています。
今後ともこういったストーリーも踏まえながら、感想を書いて行けたらと思っています。お付き合い頂けたら幸いです。それではまた次回に。
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