涙と絆の返礼祭
迎えた返礼祭当日。その場に居合わせたのは南雲鉄虎と仙石忍の2名のみでした。
しかしそれはあくまで暫定の話です。彼らは「翠はもう来ない」と決めつけることなく、3人でパフォーマンスする準備を進めてくれていました。
そしてここに来て仙石忍の存在が際立ちます。
一連の騒動は過程において傷つく者しか生み出さず、物語はバッチリ完全な鬱展開を迎えました。「て、鉄虎くんまで暗澹としてたらマジで鬱展開でござるよ~?」なんだこの台詞は。
ただそもそもにおいて、何の憂いも雑念もなく流星隊を愛している1年生がこの仙石忍です。彼にとって流星隊は何よりも大きな居場所であり、自分にとってかけがえのない存在でした。
その100%の前向きさを持ってメンバーと接してきた彼は、今回のことで流星隊が崩壊してしまうという認識があまりないように見えました。誰よりも流星隊の強い絆を信じ、共に歩む者としてリスペクトしている。そんな彼に周りの人たちは救われています。
鉄虎も忍がいなかったら冷静に考えることはできなかったでしょうし、翠も忍の存在がなければ鉄虎ともう一度向き合おうとは思えなかったかもしれません。
彼らのぶつかり合いは1対1の喧嘩ではなく、他の仲間も関係するやり取りです。その中で翌年以降も同じユニットの仲間として共に在る忍が、これほどまでに邪気なく明るい少年であったこと。それが間違いなく、今回の件で流星隊の在り様が変化しなかった要因に他なりません。
もちろん彼とて全く心労がないわけではありません。下手をすれば簡単に崩壊しかねない現状を認識した上で、そうではない可能性を掴み取れる。彼はただそれを信じているのです。
(いつだって『ぼく』だけは、そう信じてる)
それこそが仙石忍の胸に宿る希望。皆が絶望に打ちひしがれる瞬間であっても、乗り越えられる確率を0%にしない。それが彼の在り方です。
(これは、最終回なんかじゃない)
そこにいるだけで光を差し込み続ける目映い心。
暗闇の中でも明るく存在感を放ち続けるその姿にこそ、その色彩はふさわしい。
「黄色い炎は、希望の証! 闇に差しこむ、一筋の奇跡!」
誰よりも強く明るい、屈託のない輝きを放つ心優しき少年。その想いが実を結び、ひび割れた関係を修復してくれました。
あおいほのおは、しんぴのあかし
いつもは一番に飛び込むその仙石を尻目に、今回先陣を切って名乗りを挙げたのが深海奏汰でした。
のらりくらりゆらゆらと漂っているように見えて、彼も今回の件を静観しているのはやはり辛かったようです。
しかしそんな彼の心配を他所に、後輩は自分たちの力だけでこの苦難を乗り越えました。先輩として彼らをそばで見守り続けてきた奏汰も、はやる想いを抑え切れません。
「『おわかれ』は、さびしいですけど。もっと『りっぱ』にそだったみんなと『さいかい』するのが、いまから『たのしみ』になっちゃってます」
次に会う時は、自分の知らない大きなものを持った彼らになっているのだろう。自分の知っているようで、全く知らない新しい後輩たち。そんな明るい未来への想像が、マイペースな深海奏汰を奮い立たせてくれました。
「あおいほのおは、しんぴのあかし! あおいうみからやってきた~♪」
世間的には夢ノ咲が誇る三奇人が1人。ですがこの場においては彼もまたユニットに光る1つの色彩。
「りゅうせいぶるう! しんかいかなた……☆」
今は1人の共に並び立つ者として、深海奏汰は高らかに名乗りを挙げました。
黒い炎は、努力の証
渦中の南雲鉄虎は思います。
彼にとって今回の一件は、自分の新たな弱さを知る大きな機会となりました。自分はやはりリーダーに、"レッド"に相応しくないのではないか。そう本気で考えて落ち込む場面もありました。
しかしやはり、それでめげる鉄虎ではないのです。
彼はいつだって弱い自分と向き合い、その度に弱さを克服して強い自分を手に入れてきました。どれだけ乗り越えても研鑽の道に果てはなく、より大きな苦悩は待ったなしで目の前に襲いかかってきます。
それでも彼は前を向きます。できないことがあったなら、できるようになるまで努力する。分からないことがあったなら、分かるようになるまで努力する。駄目なところがあったなら1つ1つ改善して行って、より良い場所を目指す。それができるからこそ、彼はリーダーとして見初められました。
「俺には、隊長みたいに上手にできるかわかんないけど……。受け継いだ正義の炎を限界まで燃やして、全力でがんばってみるッス」
最初から全てできる人間なんていない。皆がそうやって、できるか分からないながらも1歩ずつ前に進んできた。後ろを歩む者は、その結果だけを見ているに過ぎません。
だからこそその過程に思いを馳せられる南雲鉄虎には、人の前を歩く資格があります。
「黒い炎は、努力の証! 泥で汚れた、燃える闘魂!」
この日この瞬間、確かにバトンは南雲鉄虎に渡された。
まだ見ぬ煌めきの先で。自分自身を本当の意味で認められるその日まで。彼はこれからも努力を続けていく。その未来を見せてくれたと感じています。
緑の炎は、慈愛の証
慣れない喧嘩を経て、今までにないほど大きな力が必要な交流を果たし。高峯翠の気持ちは、紛れもない転換点を迎えていました。
与えられたポジションや責任で抑圧していた想いを、解放してみても良いのではないか。今ある仲間たちのために、その情熱を優先してみても良いのではないか。そんな気持ちを見透かしていたかのように、2人の先輩たちは翠に道を指し示してくれました。
親や兄弟にまで勝手に話を聞きに行ってしまうお節介。自分では聞くに聞けないような込み入った話に、ズケズケと土足で踏み込む軽薄さ。普段は「ウザい」「気持ち悪い」はずのそれに、この時の翠は大きく救われたのは間違いありません。
そう、思えばいつもこうやって助けられてきた1年だった。どんなに邪険にあしらっても、懲りずに同じテンションでやってくるヒーロー然とした謎の先輩。何だかんだ言いつつも、彼が引っ張ってくれたからこそ自分は夢ノ咲学院でアイドルをやれているのだろう。
「あんたにもらった恩を、やっぱり一生かけても返せない気がするけど。せめて、あんたの一年間が無駄じゃなかったんだって証明します」
そんな実感のようなものを、態度と言葉から彼は感じさせてくれました。
「あんたのお陰で、俺もちょっとは変われたんだって……。それを、見せてやります」
今まで一度として前向きに"ヒーロー"を演じてこなかった翠は、ここに来て初めて自分がそこにいる意味を理解したのだと思います。
「緑の炎は、慈愛の証」
恥ずかしくて言えなかった名乗り口上を声高に言い放ち、仲間と共に全力で"今"を生きる選択を果たします。
この時この場では、彼もまた夢ノ咲のアイドル。出した答えは会場中を響き渡り、目の前の先輩の心をも確かに強く打ち鳴らしました。
赤い炎は、正義の証!
成長した後輩たちの姿を見て、守沢千秋はようやく安堵の言葉を漏らします。
彼にとって自分がヒーローである理由と、後輩たちの成長はほぼイコールだったのだと思います。共に歩んできた彼らが1人として"ヒーロー"になれなかったのなら、千秋は大きな心残りを残したままに学院を去ることになったのでしょう。
自分がそう在りたいと願うだけで、ヒーローになれるわけではありません。
自分がしてきたことの意味を考え、果たすべきだった責任を意識し、その全てを体現できる者だけがヒーローを名乗る資格があります。
物語の中にしか存在しない理想、絵空事の中でだけ輝きを放つ希望の存在。それを現実で代行しようと思うのなら、相応の覚悟と行動力が必要です。
そしてそう在れるように戦い続けてきた彼の元には、それに報いる結果が舞い降りてきて然るべきでしょう。
「報われた。見返りを求めないのがヒーローだが、愛されて、感謝されて、泣き顔だった誰かを笑わせられたのなら……必死に戦ってきた、意義もある」
最後の最後、目の前で心残りの清算を果たしてくれた後輩の姿は、彼の目にどのように映ったのでしょうか。
「赤い炎は、正義の証! 真っ赤に燃える、生命の太陽! 流星レッド! 守沢千秋!」
流星隊という夢ノ咲の古き名を受け継ぎ、再興し、栄えある形に仕立て上げた。その道程の到達点で、想像以上の結末が訪れました。
1人でだってヒーローにはなれる。そこに決まりはないけれど、守沢千秋はそれを選びませんでした。彼が目指したのは、あくまで5人で1つのヒーローだったからです。
であるのなら、"5人揃って"が望ましい。
少なくともこの時この場においては。
変化していく世界の中で、この"5人"に残されたわずかな時間。いつかは失われてしまうのが必定だからこそ、目の前の1回を大切に。その認識を共有できた彼ら流星隊の輝きはこの日、多くの人の心に勇気と希望をもたらした。そう思うのです。
おわりに
激突と成長と発展と。
それに伴った1つのフィナーレと。
流星隊だけでもドッサリと詰め込まれた話になっていて、心温まる大団円的なストーリーのみを期待していた僕は頭がおかしくなりそうでした。詳しい反応については、動画をご覧頂けると分かりやすいかと思います。
記事の方はとりあえず、完全に流星隊に重点を置いた内容で執筆しました。それでもこの文章量がありますから、大変に密度のあるストーリーだなぁ…と言う他ありません。
ただ物語としての面白さはより拡張傾向にあり、流星隊の到達点としては大変に満足度の高いストーリーとなりました。事前にあった「拳闘の四獣」の内容もかなり加味されていて、「スカウト!」ありきでこの内容は(当時で考えると)攻めまくっているなという印象です。
「スカウト!」は1記事で取り扱っているもの以外は後からまとめて読んでいるので、今回のような特別「このスカウトはこのストーリーを読む前に読んでおいた方が良い」というのがあれば、お伝え頂けると嬉しいです。
今後も年度をまたいで大物が続いて行きます。追憶→新キャラ→追憶か。執筆的にはしんどいですが、=面白いということも事実でしょう。気合い入れつつ楽しんで行こうと思います。お付き合い頂けると幸いです。
それでは今回はこの辺りで失礼します。超感想エンタミアのはつでした。動画の方もよろしくお願い致します!
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