遂に来ましたこのストーリーの感想記事を書く日が。
アニメ視聴時から幾度となく名前を聞いてきたKnightsの「追憶*モノクロのチェックメイト」です。
『あんスタ』において最も重要なストーリーの1つであり、僕にとって大きな到達目標に設定されていた「チェックメイト」。アニメ視聴開始から1年10ヶ月程の時を経て、いよいよ実現です。なげぇ。
ここまで感想記事を書いてきて『あんさんぶるスターズ!』への理解も深まっているし、何だかんだ今までの延長で楽しめるだろう。そんな余裕をかましながら読み始めたのが、もう遠い昔のような気がしています(その様子はYouTubeに残されています)
実際読んでみて受けた衝撃や変わった認識。それらをできる限り詳細に感想記事に残そうと思います。是非とも、今回もお付き合いくださいませ。
プロローグ
「追憶*モノクロのチェックメイト」はKnightsのメンバーの過去がフィーチャーされるストーリー。
その中でも取り分け強いスポットを浴びることになったのが、リーダーである月永レオと瀬名泉の2人です。1年前の時点では嵐や凛月はKnights(旧バックギャモン)と関係自体を持っていなかったため、終盤までほとんど出番はありません。学院生ではなかった司も、現代軸でわずかに登場するのみです。
ですのでKnightsの追憶と言いつつも、物語の大半は月永レオ個人を取り巻く物語に。しかし彼は心情吐露や自分語りをするシーンが極めて少ないキャラ(『あんスタ』では珍しい)なため、実質的に主人公に座したのは瀬名泉という形に落ち着いていました。
ここまでは『あんスタ』きっての問題児として他キャラ(と読み手)を振り回すことに終始していた瀬名が、一転して周りに振り回されながら奮闘する立場へと変貌する。開幕からそんな壮絶な違和感を植え付けられながら、「チェックメイト」の歩みは始まりました。
そして1年前の動乱の時代において欠かすことができない人物、天祥院英智もまた物語のキーマンです。彼に付随する形で、旧fineを取りまとめていた青葉つむぎも顔を出しています。
今までのストーリーではKnightsは古豪とされており、目まぐるしく変わる夢ノ咲学院を生き抜いてきたユニットであることが語られていました。
しかし実際にどのような足跡を辿り、どうして今の形に行き着いたのかは明確にされていないまま。加えてKnightsは英智やつむぎとはほぼ接点を持っておらず、レオの話が彼らから出ることもほぼない印象でした。動乱の時代におけるKnightsの在り方は、完全なブラックボックス状態だったのです。
そのせいでこの「チェックメイト」は全く知り得ない過去を垣間見ながら、今まで全く触れられていなかった関係性を巡り、最低最悪な結末(※相対的に見た印象)に行き着くという、受け手の脳内を揺さぶり尽くす内容に仕上がっています(※しかもママまでいる)
僕はこの追憶が存在していることを知った状態で楽しんでいるので半ば心の準備ができていましたが、当時のファンはこれを斜め上からいきなり落とされてしまったわけです。伏せられていた情報が開示されるのを楽しみにしていた人の受けた衝撃は、本当に計り知れないとしか言えません。
一体、誰が駒鳥を殺してしまったのか。各々が信念と想いをバラバラに持ち続けた結果巻き起こった、あってはならない悲痛な"友達"の物語。次項からはいよいよその内容へと入り込んで行きます。
人殺しの歌
遡ること1年前、まだ英智の革命が始まるよりも昔の出来事。動乱の時代に関係するストーリーの中では、「エレメント」を塗り替えて最も過去に当たります。
現代のKnightsは様々な過去を経て、バックギャモンというユニット名を名乗っている頃合いでした。瀬名泉と月永レオはそのユニットに所属する、同学年の友達です。
レオが瀬名を"セナ"と呼ぶのは今と変わらずですが、瀬名はレオのことを"れおくん"と呼んでいます。現代でもわずかに登場し、2人の親密さを匂わせていた情報です。それがこの「チェックメイト」で大きな意味を持ちました。
瀬名が平仮名+くん付けで呼ぶ相手は(記憶の限りでは)Knightsの面々と遊木真だけであり、彼なりの親愛の念の表れだと思っています。その中でも、本名を略すことなく呼ばれているのはレオのみです。それがわざわざ平仮名で表記されることには、1つ大きな意味を感じます。
レオは夢ノ咲学院の生徒としては、最も早く瀬名からの親愛を向けられた人物となるようです。
瀬名泉は現代軸でもやたらと世話焼きで、毒づきながらも周りの人をサポートしている印象。その情愛を早い段階から半ば独占していたのが月永レオでした。
そして当時の瀬名は、現代よりも輪をかけて世話焼きに見えました。人を放っておくということがあまり得意ではなさそうな雰囲気で、とにかく人に干渉したがります。さらにアイドルとしてのやる気にも満ち満ちていて、その気持ちに他人を巻き込もうと勢いまである始末。
瀬名は基本的に「面倒臭がりで悪態をつきまくるが、何だかんだやるべきことはやる」というイメージのキャラでしたが、過去の彼は「悪態はつくものの、100%真面目で善良」というイメージ。表出しているものにさほど変化はないよう見えて、実は奥底の人間性はかなり違ってしまっています。
となると瀬名泉は、現代に至るまでに「人間性が壊れるほどではないが、考え方を大きく捻じ曲げられる経験をした」と考えるのが妥当。そしてこういったものは、何かしらの大きな後悔に起因することが多いのです。
正直「チェックメイト」でここまで瀬名が主人公らしく振る舞うことは予想していなかったので、序盤の彼の立ち回りには物凄い違和感がありました。"ほぼ変わっていないようで中身がまるで違う"彼を見るのは、ある意味で恐怖体験でした。
そしてそれはその後に控えた「英智が悪いことになっている」事件に、瀬名が良い関わり方をしてないことの証明でもある。この時点で、既にそう感じざるを得ませんでした。
月永レオと瀬名泉
一方の月永レオは、想像以上に瀬名にべったりです。
出会いの経緯までは今回判明していないものの、レオにとって夢ノ咲で瀬名と出会ったことは、それだけ大きなことだったのでしょう。そしてそこまで自分を頼りにしてくれるレオだからこそ、瀬名は誰よりも放っておくことができなかった。そう思います。
瀬名泉は、望まれれば望まれた分だけ返したくなってしまうタイプなのかもしれません。まだ学院内で深い関係性が少なかったこともあり、とにかくレオの面倒を見るのが瀬名の生活の一部となっているようでした。それに口で悪態をつきながらも、決して嫌そうな空気を出さないのが瀬名らしいところです。
しかし現代ではレオと瀬名の間にはもう少し距離があり、積極的に会話をしようとする気配はありません。瀬名はレオを"王さま"と呼んで少し遠くに置いているし、レオも「セナはそういう奴だった」と言って彼の内側に立ち入ろうとしていませんでした。
現在のKnightsのメンバーの中でもレオとの関係性は希薄な方で、それでいて時折見せる「長い付き合い」感がいじらしい2人という感じ。その2人が、僕の見てきた『あんスタ』のどの関係性よりもべったりねちゃねちゃなやり取りをしている。これがとにかく気持ち悪くて堪りませんでした(良い意味で)
そもそもレオは学院を長期間離れてしまっている事実があることで、「少なくとも追憶で良い思いはしない」のが確定しているキャラクター。その彼と親密な関係性を持つキャラも、同様に何かしらのダメージを負うのは確実です。
これだけディープな関係性が現代では変容しているわけですから、相応のものは覚悟しなければなりません。瀬名については上述したキャラ変化のことも相まって、「チェックメイト」は最序盤からとにかく不穏極まりないストーリーと化しています。
さらにここに加わる、秘匿された月永レオのもう1つの関係性。まだ事を一切起こす前の天祥院英智の姿が、彼のそばにはありました。
月永レオと天祥院英智
レオと英智の出会いは、学院内ではありません。
乱闘騒ぎに巻き込まれた(暫定)レオが腕を骨折し、その治療のために入院した病院で彼らは出会うことになります。
まだ何の行動も起こしておらず、学院に属する一般人ですらない英智。病院に半ば幽閉されている彼の元にやってきた、活力の塊のような元気すぎる少年。その存在に、英智はすぐに惹かれて行きました。
一方のレオも、入院中は英智と時間を共にすることが多くなります。入院して自由を奪われ、頼りにしているセナにも満足に会えなくなってしまった彼にとって、境遇を同じくする同級生の存在は、大きな心の支えとなったことでしょう。
同じ鳥籠に囚われた存在になったことで、レオが英智の気持ちや在り方を敏感に捉えられるようになったのも僥倖でした。レオは感受性が豊かで人の才覚を見極める目もあります。英智という稀有な実力者が病によって抑圧されている苦しみに、強く揺さぶられたに違いありません。
程なくして彼らは、立場やしがらみと一切関係がない、その性質と在り方だけで強い絆を結んだ2人になりました。
ただ一緒にいて心地良いだけの、本当の意味での友人関係がそこに結実したのです。
『あんスタ』は幼馴染などの関係を除くと、何かの立場やコミュニティを介して結びついている人がほとんどです。特に意味のない友人同士というキャラは意外と少なく、レオと英智は極めてレアな関係性を持つ2人となりました。
さらにその観点で言うと、レオと瀬名もほぼ同様の関係性を持っていると言えます。
しかし、レオと瀬名は友達でレオと英智も友達であっても、瀬名と英智は別に友達ではない。これが少し厄介です。レオの入院というイレギュラーな出来事によって、彼らは数奇な運命で結ばれることとなってしまいました。
大切な友達の大切な友達という関係性は、互いにとって何とも言えない居心地の悪さを孕むものです。
仲良くすべきなのだろうが、そうできるとは限らない。妙な腹の探り合いをしながら、間合いを詰める必要がある。そのどことないヒリつきが、他のキャラでは感じられない緊張感を我々に届けてくれます。
全ては月永レオが骨折したことによって始まった物語。
何故彼が乱闘騒ぎなど起こして怪我をしたのか、序盤の瀬名は全くその事情を知り得ません。
ただし人生万事塞翁が馬。不幸な出来事が新たな出会いを生み出して、それぞれに新しい歩みをもたらして行きます。それがその先でどのような結果をもたらそうとも、良き出会いには相応の意味と価値があるはずです。
錆びゆく心
時は進み、天祥院英智が夢ノ咲学院で革命の準備を始めた時分。
五奇人の選定・旧fine結成の裏事情など、「エレメント」では畳まれていた部分がKnightsの前身たる「バックギャモン」を絡めながら明かされました。
何かともっともらしい理屈をこねる英智でしたが、あらゆる事情において「月永くんに嫌われるかもしれない」「月永くんとは普通に仲良くしたい」という結論で結んでいるのが見て取れます。
人間が他人に理由を説明する際、スッと出てくる内容は建前で、2つ目以降に出てくるものが本心であることが多いと言われています。その法則に則っても、英智はレオへの私情を前提とした論理を構築していると考えるのが自然です。
問題と言えるのは、そのことを英智自身が全く自覚していないように見えることです。
自分は完璧にベストな選択をしていると思っているものの、実はそのベースには個人的な感情を覆い隠しています。しかもこの頃の英智は自己肯定感の低さを埋めるために、必要以上に理論武装を行なっている時期。その武装が仇となって、自分の身体の状態を把握できなくなってしまっていると言った感じです。
そして得てして論理の中に入り混じった私情こそが、大きなトラブルの引き金になるものです。
一見筋が通っているように見える内容でも、どこか中途半端になってしまっているところがある。やるならやる、やらないならやらない。そのどちらかに寄せなければならないところが曖昧になっている。その綻びが、やがて大きな穴となって当人たちに襲いかかるのです。
英智はレオを巻き込みたくないのなら、彼としっかりコミュニケーションを取って懐柔しておくべきだったと思います。レオから同意を取れないリスクはあっても、友達としてレオと向き合うのならそこに一歩踏み込むべきでした。
もしくは情を捨てて完全に作戦の一部とし、他の者同様にコマとして使い切る。そうすれば英智との関係は崩れても、少なくともレオが最大の犠牲者になる未来は避けられました。
レオとは友達でいたいし巻き込みたくないが、革命のためにバックギャモンは解体しなければならない。だからレオを泳がせる形で利用し、目的を果たしながら関係も維持しようとした。
レオの才能を信じたと言えば聞こえは良いですが、実際は英智は身勝手な都合を彼に押し付け、苦難の道を歩ませるように仕向けただけです。
もちろん当時の英智に悪意はなく、純粋に友達を友達のまま大事にする方法を、無意識下で検討した結果に過ぎないのでしょう。
しかしそれ故に性質が悪い。先導者が悪意を持たないからこそ、それによって向けられる有象無象の悪意は全て月永レオに向けられます。統率の取れない無法状態のまま、あらゆるものが彼に襲い掛かるのです。
その結果が見えていながらも、英智はレオに助け舟を出そうとはしませんでした。ですが無理もありません。計画の初期段階で英智がレオにポジションを与えるとしたら、奇人に据えるしか方法はない。そしてそれは最終的に学院全体から悪意を受ける立場に貶めることに他ならないのですから。
それならば、彼には生き残る可能性がある道を選んでもらうべきだろう。友達を慮る中途半端なその優しさが、レオをより深く暗い地獄へ導く。そんな皮肉が、英智の発言全てを包み込んでしまっています。
たった1つの欲張り
英智の差金によって始まった動乱の時代。
月永レオは先代から指名を受けたことで、新たに「チェス」のリーダーとなりました。
レオの持つ作曲の才能は、ユニットの武器として便利に活用されている状況下。ユニットの構成員として、力も知名度もある存在だったのは言うまでもないでしょう。
大所帯ユニットのリーダーとして立つ者には、リーダーシップ以上にそういった背景事情が重要である。そう考えれば、新リーダーには彼以上の適任がいないのも事実です。曲を創っている限りは、レオは彼らに尊重される人材なわけですから。
ですがこの点については上記の内容を踏まえながら、一応2つの可能性を考えておかなければなりません。
まず先代リーダーが先の未来を踏まえてレオを指名した可能性。
その場合、レオは彼から相当疎まれていたという可能性も否めません。群れることに意味を見出していたメンバーからすれば、その全員と友達になろうとするレオは、滑稽で鬱陶しい存在だったのかもしれませんから。
もう1つは英智が先代リーダーを追放し、後釜にレオが座るように仕向けた可能性。
善意を利用され続けていたレオを、英智なりに救おうとした故の行動です。会話の流れを見るにこちらが濃厚だと思っていますが、こちらの場合だと「英智の算段があまりにも甘い」ことがどうしても気になります。
と言うのも、この後チェスは英智の謀略によって細かく分断され、実質的な解体状態に陥るからです。そして多くのメンバーはその原因を新リーダーの能力へと転嫁し、正当化するはずです。
環境的な事情での分裂とは言え、古巣を反故にするにはそれなりの理由が必要です。怠惰な人間ほど自己保身だけは上手いのが世の常。ともすればメンバーの多くは、チェスを離れる理由を「新リーダーになってからおかしくなった」などと表現するでしょう。
いかにレオが超優秀なリーダーとして振る舞ったとしても、人の大元の価値観を変えることはできません。致し方ないこと。変えようのない現実。それでも「辻褄が合う」という状況は、堕落した人間たちの武器として良いように使われてしまうのです。
そんなことが分からない英智ではないと思いますし、実際英智はその過程で傷付いたレオを救い出して懐柔する算段まで立てていました。
レオの才能があれば、一定のところまでは奮い立ち戦い続けるだろう。最後には戦いを好まない彼の心は折れるだろう。そこまで考えているにも関わらず、レオが折れずに戦い続けてしまう未来を想定していなかった。これはあまりにも迂闊です。
英智の思い描いていたビジョンは明確です。「エレメント」で描かれた物語は彼(とその協力者)の努力次第で実現可能なことばかりだったし、そこまで這い上がって革命を成し遂げた戦略性と先見性は本物でしょう。
それなのに、レオのことだけは最終的なゴールが英智の手で操作できない内容になってしまっている。これは最終的な目標に、「レオを仲間にすること」が含まれてしまっているが故の事故。天祥院英智の私情がもたらした、唯一にして最大のイレギュラーです。
"友達"や"友情"。そういったものとの向き合い方を理解していない英智が、自分の持つ論理の中で一生懸命考えて導き出した"最良"の結論。しかしそれは、1つ間違えば簡単に"最悪"に発展する机上の空論でした。
何かを得るために何かを捨てる。本当の意味でその覚悟を持った天祥院英智だからこそ革命は成し遂げられた。
そんな彼が秘めていたたった1つの欲張りが、最悪の絶望を引き起こしてしまう。
あまりにも悲劇的で、あまにも救いがない。その業を背負ってこそ皇帝足り得るのだと、ただただ無慈悲な現実が突き付けられている。そう感じてしまうのです。
瀬名泉の見誤り
動乱の時代にて"損"を押し付けられた月永レオのそばには、当然のように彼を支える瀬名泉の存在がありました。
レオはどう考えても運営方面に長けているとは思えないので、それなりのバックアップが必要です。リーダーは前面に立って人を惹きつけるのが仕事。運営力を持つ味方を引き入れれば、本人はひたすら輝いていれば良いだけの状況を生み出せます。
そういう意味ではレオは優れたリーダーに違いなく。その能力を遺憾なく発揮し、アイドルとしてファンから「王さま」と呼ばれて慕われるようにもなっていました。そうなれたのは、裏方仕事をパーフェクトにこなしてきた瀬名の存在あってこそでしょう。
天才的才能から楽曲を生み出し続けるレオと、アイドルとしても堅実かつストイックな実力を持つ瀬名。2人の実力者によって結成された「Knights」は、少人数ながらも確固たる実力を持って動乱の時代を生き抜いています。
ですがレオは、どこかでその状況に納得していないようです。
表向きには普段と変わらないテンションで周りと接しながらも、やはり誰かを打ち倒すために自分の才覚が使われることに引け目がある。この時代における成果はレオにとって、アイドルとしても作曲家としても全く望んでいなかったものだと言えました。
それでも瀬名はそんなレオの本心に思いを馳せることができず、夢ノ咲学院のアイドルとして勝ち続けることを優先してしまっていました。
恐らく瀬名の目から見ても、Knightsとなったレオは「以前より正しく評価されている」と感じる場面が多かったのでしょう。そして瀬名自身もそれが誇らしかったし、彼と共に活躍できることを嬉しく思っていた。そう感じます。
瀬名はレオより好戦的で現状にも100%ネガティブではなかったし、何より学院生である以上は"やらなければならない"事情もあります。その状況でレオが不満を持っていることに気付くことなど、できるわけがありません。
楽曲を"武器"と表現されたことでレオがわずかに嫌悪感を露発した時も、瀬名は必要以上に重く受け止めませんでした。普段のレオを見ていればそれも当然のことだと思います。
しかしそのせいでレオは「セナもそれで良いと思っている」と感じ、友達想いの彼は自分を押し殺してその状況を良しとしてしまいました。自分のためにあれやこれやと世話を焼いてくれるセナのためだったら、傷付きながらも剣を振るうことくらい平気でする。彼はそういう人間でしょう。
残酷な話をすれば、「チェックメイト」において瀬名泉が唯一結果を変えられる地点があそこだったと思います。
と言っても、それを瀬名に感じ取れと言うのは土台無理な話。我々の目線から見ればそう思えますし、そう解釈してあげるべきだとも思います。当の瀬名泉こそが、この時期のやり取りに酷く後悔を残していることは明白なのですから。
その後もひたすらに彼らはアイドルとして戦い続け、作曲家は無数に武器のストックをこしらえます。母数が大きかったチェスの分隊たちと殺し合いをする機会は自ずと多くなり、かつての"友達"を無惨に斬り捨てて行くことがKnightsの日常となって行きました。
本当はこんなことがしたいわけじゃないんだけどなぁ。そう思いながらも、今でも自分の最も近くにいてくれる友達の想いに報い続けること。それを一番に考えて、月永レオは心に深い傷を刻み込み続けて行くのです。
隣りを歩くその友達は、今を「好転した結果」だと誤解しながら、その誤解に気付かぬまま、傷を覆い隠して邁進する"王さま"を守り続けています。
外から降りかかる火の粉を払いながら、立ちはだかる邪魔者を斬り伏せながら。王の剣となり盾となり鎧となり、"最良"のはたらきを演じ続ける瀬名泉に、後ろを振り返る余裕などありません。自身の内側で王が自傷行為を続けていることなど、分かるはずもありません。
彼らは共にいる意味など関係なく、"共にいるために"を考える大切な友達同士。れおくんがそう望み、セナがそう望んだ。そう想い合って動き続けた、ただ純粋に善良な関係性に過ぎません。
にも関わらず彼らの望んだものは全くと言って良いほどすれ違い。そこに残ったのは、月永レオを追い詰めるという結果だけ。それは「瀬名泉が頑張れば何とかできた」ことなのでしょうか?一面だけを見て「瀬名泉は誤った」と言い捨てて良いものなのでしょうか?
そうは思いたくない。そう思ってはいけない。そう考えていたとしても、「先の結果を変えられる人物は瀬名泉以外にはいなかった」。その現実が、読む者の心を締め付けるのです。