約3ヶ月ぶりの執筆。お待ちどおさまでございます。
他事が忙しかったり何だったりしていますが、別に終わったわけではありません。個人活動なので打ち切りはありません。ゴールに向けて、今後ともマイペースにしっかりと1記事ずつ書き連ねていこうと思います。
さて、再開1発目で取り扱うのは「ドロップ*遠い海とアクアリウム」です。
深海奏汰が表題キャラを飾るイベントストーリー。流星隊の中では唯一、表面的なキャラ理解が進んでいなかった3年生です。
3年目に入ってから新たに三毛縞斑との関係性が登場し、ようやく顔を覗かせてくれた彼の本音。その内容に迫って参ります。よろしければお付き合い下さい。
全体像
「遠い海とアクアリウム」は海洋生物部の面々が主役に据わるストーリー。3年目はユニットではないキャラの組み合わせがフィーチャーされることが増えているため、今回もその例に漏れずと言ったところでした。
部活動を中心に、奏汰と接点のある三毛縞斑や三奇人の朔間零と日々樹渉も登場。そこに舞台となった水族館に"たまたま遊びに来ていた"春川宙と葵ひなたが加わるなど、かなりのごちゃ混ぜ感です。
その中心。話の主題その物と言っていい位置に鎮座していたのが深海奏汰です。今回は各キャラクターの視点から、ある理由で失踪してしまった奏汰を巡る物語が展開されました。
過去の記憶を辿っても、奏汰は誰かのサポート側に回っていることばかりが思い出されます。作品の要である「返礼祭」でも(卒業する3年生の身で)1年生に限定スチル枠を譲っていたり、あくまで自己主張が薄いキャラとして位置付けられていたように思います。
実質的に100%完全に彼個人がメインとなった話(※日日日先生執筆のもの)は、この「アクアリウム」が初めてなのではないでしょうか。
これまでの奏汰は奇人に位置付けられているものの目立った活躍がなく、個人的に特別な威光を放つと言った描写もほぼありませんでした。存在自体のインパクト・特異性は他の追随を許さないとは言え、アイドルとしては「奇人に選ばれた理由がイマイチ伝わっていない」というのが本音といったところです。
ただ他キャラの会話の中ではやはり一目置かれている空気感はあり、「情報として実力が伝わってきてはいる」と言った状況。それ故に彼個人がその本領を発揮するストーリーの存在を、現状の僕は待ち望んできたという状態でした。
今回はその片鱗、そこに行き着くまでの最初の一幕を見せてもらえたような気がします。
3年目中盤戦にしてようやく現れた深海奏汰のためのストーリーは、彼が元来持っていた優しさを尊重する温かみのある内容で、我々の前に姿を現してくれました。
肩の力が抜けている故に
今回のストーリーで一貫しているのは、奏汰のことを気に掛けて水族館にやってきた面々は、みな彼のことを心から心配していたということです。
物語の開幕から終わりまで常に誰もが奏汰のことを考えており、ほぼほぼアイドル間では他の関係性が進展しません。特筆すべきは、ひなたが渉に敬意を向けていることが判明した…くらいでしょうか。
そのおかげで全体的にわちゃわちゃとした空気感で物語が進み、まるで舞台である水族館その物かのような"癒される"雰囲気で物語が進行して行くのです。
直近のイベストは一部のキャラが異常なほど拗れたりとか、喧嘩から始まっていたりとか、学院代表がボロ負けした原因が私ということになり説教されたりとか、まぁとにかく心が重くなる話ばかりだったことを思うと、相対的にこのストーリーの質感はより際立ったものになったと言えるのではないでしょうか。まったく『あんスタ』まったく。
そういった空気の中で、薫と神崎の2人は今までにないほど長時間の会話が実現。海洋生物部では犬猿の仲(?)である彼らも、「深海奏汰」という共通の目的を持ったことで対話をせざるを得ない状況となりました。
そして彼らが共有したのは単純な問題解決意識ではなく、元を辿れば「奏汰への心配」それに連なった想いです。当然「自分の大切な人のことを、同じように大切だと思っている人」相手に、悪意を向ける人間はいないでしょう(※恋愛感情を除く)
結果として彼らの関係性は"良くなった"とまでは言えないながらも、どこか通じ合えるものを獲得できたように思いました。表面的な変化は無くとも、互いの良いところをより深く認識できるようにはなったはずです。
また薫は今回が「登場キャラが多いのに全員が同じ方向を向いている」というレアケースであることをフル活用し、不埒にもあんずちゃんと距離を詰めることに成功します。けしからん。アイドル同士のゴタゴタがないことで生まれた尺の余裕は、このような功罪まで生み出すことになりました。
今まではどちらかと言わずとも薫に塩気味の対応をすることが多かったあんずちゃんですが、今回は意外とフランクに彼と接し、その言動に翻弄されるシーンが目立ちます。
突然の乙女ゲーの空気感に困惑が隠せませんが、恐らく「サマーライブ」の心労がまだ癒えていないのでしょう。そうでなければ俺たちのあんずちゃんがあんな顔をするはずがありません(※顔は一瞬も登場しません)
その他、朔間零と渉もほぼオフモードですし、本当に遊びに来ていただけのひなたと宙に関しては実際にオフ。特に後者2人は、結局状況がよく分かっていないまま終了する始末です。
不真面目な顔をして真面目なことをしている斑を除けば、確かな問題意識を持って真面目な顔でこの場にいるのは、恐らく神崎だけでしょう。あとは全員どこかしらで肩の力が抜けています。こういったストーリーは、他に類がなかったかもしれません。
それでも彼ら全員が「深海奏汰を心配している」ことに変わりはありません。むしろそういうラフな空気感の中にあってこそ、彼らの奏汰への想いが反映されている気がするのです。
まるで皆が皆、奏汰がその振る舞いを望んでいると知っているかのように。これが彼の望んだ形であると言わんばかりに。優しさと温かさに溢れた空間を、それぞれの想いの中で創り上げって行ってくれました。
深海奏汰と2人の旧友
ストーリー中で判明した新しい事柄。それは深海奏汰が夢ノ咲学院を有する地域において、絶大な力を持つ一族の血統であるということでした。
詳細な理由は分かりませんが、その地場の特殊な起こり故に、土地に属する如何なる権力者も深海家にはを遣う必要があるようです。れ、歴史…。
その権能は夢ノ咲学院の運営にも波及している様子で、天祥院英智の革命においてもその領域に触れることは避けられたとのこと。奏汰が五奇人の枠組みに入れられたことも、少なからずこれが関係しているのでしょう。
そんな中、同じ"権力者"として奏汰と古くから交流を持っていたのが、地場で名士の家柄である羽風薫。そして警察官の父を持つ三毛縞斑でした(母親は反社らしい…)彼らが奏汰に取り分け気を回すのは、過去に連なる人生単位の理由が存在していました。
彼らは過去に奏汰が何に苦しんでいたか、それを知る立場にあります。そして今、奏汰が何に苦しんでいるかを理解してあげられる立場でもあります。
さらにそれらは斑と薫、それぞれの過去を追想する意味も孕んでいます。奏汰の苦しみと向き合うことは、薫と斑にとって自分自身の苦しみやわだかまりに目を向けることにも等しい。そのように言えるのかもしれません。
まず薫は表向きにはダルそうにしていながらも、心から奏汰を窮地から救い出したいと思っていたようでした。彼の口から度々出た「お母さん」というワード、「人間ってさ、本当に死んじゃうんだよ」という台詞などから、彼が何か過去に辛い経験をしているのは間違いなさそうです。
であれば薫にとって幼少期から連なった思い出は、一際大切なものだと言えるはず。そしてその中に存在している深海奏汰という少年も、彼にとっては特別な感情を発露する相手だと考えるのが自然ではないでしょうか。
羽風薫という1人の人間として自分の価値観を発言に反映させながら、その行動は相手の心に、身体にしっかり寄り添っている。そんな薫の在り方が奏汰とのやり取りが見られたような気がしました。
また、斑はいつも通り飄々としていながらも、裏で奏汰の希望が通るように"圧力"をかけていたようです。さすがは夢ノ咲学院の裏の立役者、ダークヒーローとも言える存在です。
彼は個人に寄り添う形で誰かを救い出す場面はあまりないですが、より深く他の誰にもできない方法で直接的に人を救い出そうとしています。
あくまで自分にしかできないことを考えて動き出し、それ以外のことは他の誰かに任せながら職務を遂行する。一番に賞賛される立場ではないけれど、「彼が動かなければ解決することはなかった」と言える結果を必ず残す。それが三毛縞斑の在り方です。
幼き頃からの友人である奏汰の望みを叶えるために、彼は彼なりのお節介を焼きました。それは奏汰から100%肯定されることではなかったとは言え、その想いと行動の真価はしっかりと彼にも伝わっていると思います。「ごろつき」ではなく「まま」と斑のことを呼ぶ程度には、です。
奏汰の心に寄り添って行動を起こした羽風薫と、状況に寄り添って行動した三毛縞斑。この「遠い海とアクアリウム」では、異なった視点から奏汰をサポートした旧友2人が解決に至るキーマンとなっていました。
あまり直接的な接点を持たない2人が、「深海奏汰」という人間を通じて密かにサポートし合ったこと。これもまた、人間関係の魅せる妙であると思いました。
『かみさま』から『にんげん』へ
此度の奏汰が奇行に及んだ理由には、「思い出の水族館を守りたい」という想いがありました。水族館が土地の権利ごと買い取られ、もっと収益の上がる施設に造り替えられる恐れがある。それを防ぐために、水族館のチケットを自腹で購入して配り歩くなど、抵抗を続けていました。
奏汰本人によれば昔の自分であれば、そんなことは決してしなかったとのこと。特殊な家に生まれながらもそれを"普通"と受け入れ、不満を感じなかった奏汰。自分が我慢していれば平和であると考え、周りが決めたことに抵抗することなど考えたこともなかったようです。
自分が不幸を感じていない状況を、他人から勝手に不幸なことにされるのには、誰しも大きな不快感を覚えるものです。しかし外を知らずに小さな幸福で自身を納得させることと、知った上でなお現状に幸福を感じているのには大きな違いがあるでしょう。
奏汰の人生は、恐らくこの前者で在り続けたのだと思います。そして夢ノ咲学院で様々な人に出会ったことで、徐々にその外側の存在を知ったのです。
今でも奏汰は自分の生まれや家族に、負の感情を向けている気配はありません。"知った"ことで彼が持つ家族への想いが変容することはなかった。それは確かなようです。
ですが外側を知れば新たな欲求は絶対に顔を出すもの。今まで自然と我慢を強いられていた奏汰も、夢ノ咲の他のアイドルたちと同じように、自分の幸せを追求する権利があります。それは人として生まれた以上、万人が等しく享受すべき人生の可能性です。
「わがままでも……だから、ぼくも『おなじように』したかったんです」
中には、それを求められない人もいます。求めることを悪と断じる人もいます。もし奏汰が夢ノ咲で皆と出会わなければ、そのような人生を送っていたのかもしれません。しかしそうはなりませんでした。
奏汰の心は確実に友人や後輩たちの優しさに触れ、周りを取り巻くアイドルたちの輝きに触れ。自分だけの欲求を求められるように、彼の心は変化しました。
「なれてなくて、うまくできませんけど。こんかいは、ちゃんと『さいご』まで『じぶんのきもち』にしたがって……どうにかできそうで、ちょっと『うれしい』です」
ワガママを言えば、当然処罰されます。『おしおき』を受けて、奏汰は我慢を強いられる。その状況は今も変わっていません。
そして極限状態に追い込まれれば、人の決意とは簡単に揺らいでしまうもの。故にもし独りであったなら、その欲求は果たされなかったのだと思います。
「みんなが、きてくれました。それで、ぜんりょくで『たすけて』くれました」
だからこそ、ここに集った全ての人の力が必要だった。
古くから彼を知る友人の2人 羽風薫と三毛縞斑は、今回の騒動の解決に全力をもって当たりました。2人の行動は最も強く大きく、奏汰の心を動かす要因となったことでしょう。
「うれしかったです。だから、ぼくはこんかいは『がまん』しません」
そしてもちろん、奏汰を救ったのはそれだけではありません。
夢ノ咲学院に入学してから交流を持った他の登場人物たち。その感情の1つ1つが、奏汰にとって今まで感じ取ったことがない輝きへと繋がるものでした。
後輩として無邪気に彼を想う神崎颯馬をはじめ、動乱の最中で苦楽を共にした"友人"朔間零と日々樹渉は柄にもなく水族館を楽しんでいます。
偶然居合わせただけの葵ひなたと春川宙は、奏汰の大切な場所である水族館を100%何も背負わずに楽しみ切っています。
皆が皆、深海奏汰という人間の想いを汲み、思い出を尊重し、その場に居合わせてくれた大切な仲間たちです。
物語の裏側にはこの場に来られなかった多くの人たちが奏汰の身を案じています。流星隊の守沢千秋は、その最たる例でしょう。彼をここに呼べなかったことには、何か大きな理由があるようですが…それは追い追い知って行くことと致しましょう。
「こどもの『ワガママ』みたいな『はずかしい』ものでも、ぼくはぼくの『ゆめ』をかなえます。みんなと、おなじように」
なるべく人と関わらずに生きてきたはずが、気付けばこんなにも多くの人が自分の為に動いてくれる状況になっていた。その実感が、また1つ深海奏汰の心に自信と喜びを与えてくれたのではないでしょうか。
それは奏汰が向ける優しさが齎したものなのか、それともアイドルたる彼らが"与える"ことに特化した存在だからなのか。はたまたその両方か。
「ぼくは『かみさま』じゃなくて、みんなとおなじ『にんげん』になれたんですから」
けれどきっと、そうやって儘ならぬ想いを交わし合うことが、人間が人間である由縁なのだと僕は思います。だからその感情を交わし合ったことを持って、深海奏汰は1つ大きな呪縛から逃れることができたのでしょう。
"自分"という新たな尺度を手に入れたことで、より深く見えてくる"仲間"や"友"という人たち。それが深海奏汰の新しい人生を彩ってくれること、そこで得た輝きが違う誰かを元気付けることを願ってやみません。
どんな夢を見よう
1つ吹っ切れた思いで上がるイルカショーのステージ。
海洋生物部を中心とした混合ユニットによるライブは、この水族館の賑わいを象徴する新たな煌めきを放っています。多くの人たちが釘付けになるそのライブイベントには、奏汰を縛り付けた家の人の姿もあったようです。
家の人間が彼を縛るのは、彼が大切であるが故。『神さま』である奏汰の存在に配慮するからこそ、周りは彼に厳しく当たるのでしょう。その在り様が端から見て幸福であるかとは関係なく、その想い自体は、また尊重されるべき対象です。
"人間"で在ることを望み始めた奏汰と、あくまで"神"を求める親族。双方の間に生まれた壁は、簡単に埋まるものではないのかもしれません。
「みんな~、あつまって! いっしょに、げんきよく『うたい』ましょう! こえをそろえて、ぼくたちの『あんさんぶる』を……♪」
だからこそ、今は今の幸せを求めたい。
それがきっと、家族を含めた全ての人を安心させることに繋がるからです。
「ここは、やさしい『みずのわくせい』! ぼくたちは、そこでうまれた『かぞく』です!」
想いを交わし合った友や仲間と共に、深海奏汰はその場にいる全ての人にその幸福を届けます。
人生は険しく、長い。すれ違うことも、分かり合えないこともきっとある。でもきっと、その感情に折り合いをつけていくことはできるはず。このステージは、彼にとってそのための第一歩です。
「あいしあってたすけあって、しあわせな『うた』をうたいましょう!」
自身の思い出の場所を守るために戦った、1人の少年の物語。その終幕は、彼の最高の笑顔と歌声と共にありました。深海奏汰の"人生"は、今ここから始まったばかりです。
より細かい点への言及は、
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