最後の戦い
邪魂化した女王に背く素振りを見せながらも、何故か女王を護りチルカを退けようとする蘭丸(※彼だけが女王に弾き飛ばされなかったのは、豊穣の力を使って鍵を具現化したからだと解釈している)
チルカもその対応は解せない様子でしたが、どちらにせよベテルギウスが「かつて女王を護り自身の邪魔をした」ことに変わりはありません。女王を邪魂化させても彼に向ける愛憎が無くなるわけではなく、やはりチルカにとって蘭丸はケジメをつけるべき相手にはなってしまうようです。
彼らは共に多くを歩んできた唯一無二のバディである故に、その力は表裏一体で拮抗しています。かつては心が壊れるほどに激情を燃やしたベテルギウスがシリウスを圧倒したものの、現在では長きに渡って怨讐を煮詰まらせたチルカに僅かながら分があります。
「久しぶりにお前と遊べて楽しかったよ…ベテルギウス…」
女王の前で殺し合いを披露し、後れを取った蘭丸は羽交い絞めに(※チルカ流独特すぎる拘束の仕方)チルカはそのまま彼にトドメを刺さんと首に刃を突きつけました。
「愛してる…!」
その時でした。蘭丸は近付いてきたチルカに突如接吻し、彼の中に1つの記憶を流し込みます。
それは暗闇の中で蘭丸が見つけた、在りし日のシリウスの想い人――白百合が心に秘めていた「別れを切り出した本当の理由」でした。
白百合は病に身体を侵されてもう長くはない身。そんな自分と添い遂げるために堕天し、全てを捨てて人間となってしまったら。きっとシリウスはその選択を後悔し、失意の中で人として生きざるを得なくなるだろう。
そう考えた彼女は、あえてシリウスに辛く当たることで彼の選択を否定。彼が自分にそうしてくれたように、夭聖としてより多くの人を救ってもらうために。白百合は自身の心をも傷付け、悲痛な別れを選んだのです。
「俺は愛されていた…だと…?」
しかし死因は不慮の事故。もしかすると彼女もその行動の先で呆然自失となり、周囲に目を配ることを疎かにしてしまったのかもしれません。その不注意が事故死に繋がったとしたら、彼女にとってもきっと大きな後悔が残る最期ととなってしまったことでしょう。
それを示すかのように、「彼女の魂はまだ昇天できずにいる」ことが蘭丸の口から告げられました。チルカもその全てを急に飲み込むことはできないながらも、胸に宿った憎悪が萎んで行ったのは明らかでした。
全ての誤解が晴れて行くところを見届けた女王も、殺し合いを見遣っていた時とは全く違った感情を顔から滲ませます。
まるでその瞬間を見届けることこそが真の願いであったかのように。表出した邪念とは違った想いの存在を、その態度と表情は視聴者に伝えてくるのです。
五行の役割
空間内の全ての負の感情が収まりかけたところに、各々の「捨てられた国」から帰還した4人の夭聖たち、そして快復した豊穣が合流します。
女王はもう、彼らの姿を見ても絶対服従の力を使おうとはしませんでした。
むしろ全く反撃の素振りを見せることなく、全てを受け入れたかのような表情で成長した彼らと向き合います。
「さぁ皆さん、参りますぞぉ!」
産土族の若き首長となった豊穣は、就任したばかりの頃の女王の優しさに触れました。
あの日あの時、差し伸べてくれた手。与えてもらった役割。それを1つの拠り所にして、彼は今まで女王の最も近くで彼女の心に寄り添ってきました。
時が経ち、彼女が邪念を持ってしまっても、その心の距離が変わることはありません。最も深きところでは女王が崇高な優しさと慈悲を持っている女性だということを、誰よりも分かっていたからです。
「オン マヤルタ ハリキラ」
「焔…お前は正義を背負い、悪しき者に愛ある制裁を与える覚悟はあるのか?」
火焔族の歩照瀬焔は、捨てられた国で亡き父の想いに触れることになりました。
"悪"を断じ、誤ったものを裁くこと。それは処断して終わりというわけではなく、過ちを犯した者の新しい未来を照らし出す優しさまでが備わっている必要があります。
より多くの者の心に寄り添い、同情し、救い出そうとする心。
それを持たない者の体現する正義は、偏ったものになってしまうでしょう。そんな夭聖では、強き力を正しく奮うことはきっとできません。
父からの教えを心に留めて、焔は今一度信じる道を歩き出します。今向き合うべき相手に、愛ある制裁を与えるために。
「「「「オン マヤルタ ハリキラ」」」」
「うるう…お前は法の支配の下、無垢な民衆を」「愛を持って」「導く覚悟がありますか?」
清怜うるうは両親から、水潤族が歩むべき根源的な想いを継承します。
法を牛耳るとは、人々の生活を支配することに他なりません。その力の使い方次第で、人を苦しめることも救い出すことも自由にできる。水潤族はそんな権限を与えられた一族です。
だからこそ、そこには人を思いやる気持ちが無ければなりません。ただ必要な論理だけに縛られた冷たい法では、誰かの助けになることはできないでしょう。
広い視野と正しき愛を持って、世界を理解すること。
1人1人に手を差し伸べて、強きを挫き弱きを助けるその日まで。うるうは今すべきことを果たします。
「「「「「心根解錠!」」」」」
「樹果…お前はたとえ自然に背かれたとしても、自然を敬い、愛し続ける覚悟はあるのか?」
陸岡樹果は卉樹族として生まれ、自分にしかできないことを突き詰める喜びを知りました。
ですが世の中は、全てのものがその意志に応えてくれるわけではありません。時にはその想いを反故にされ、裏切られ、傷付けられることもあるでしょう。
それでも相手を信じ続ける限り、きっといつかは自分の心に気付いてくれる。そして正しく評価してくれる者も現れるに違いありません。
長きを卉樹族として生きた両親の優しい思いに触れながら、樹果は改めて自分の生きる意味を噛み締めます。自分だけができる救いを、目の前の相手に届けるために。
「「「「「聖母被昇天!!」」」」」
「寶よ…お前は不正を律し、平等に施し、愛の下に国家を建て直す覚悟があるのか?」
雅楽代寶は出逢ったこともない父と亡き母に、初めてまっすぐで対等な感情を向けてもらえる機会を得ました。
私利私欲に溺れたうつけ者のせいで、金鋼族は衰退し見るも無残な状況へとなり果てました。財務を司ることは、それだけ富を自由に扱える権利を持つということです。欲に目が眩めば、それだけ全てを腐敗させてしまうリスクを孕むのです。
寶はその欲のせいで憂き目に遭い、今なお苦しみの最中に追いやられています。
何故そうなったのか、何がいけなかったのか、どうしたら回避できたのか。その全ての答えは、きっと彼の胸の中に宿っているはずです。
両親の想いでその意志を再確認し、寶は1歩1歩着実にできることと向き合います。努めてドライに、それでいて情熱的に。それこそが彼の生き様だからです。
大団円
「すまぬシリウス…すまぬベテルギウス…」
五行の力を用いて心の封印を解かれた女王は、夭聖としての本来の姿を取り戻しました。
王国を築き上げ、多くの人たちを取り仕切る立場になった彼女は、自分のキャパシティを超えた雑務に苛まれる日々を送っていました。
頂点に立つとは孤独なものです。
できることが当たり前で、できなければ非難される。王は常に完璧を目指して努力し続ける義務を背負うことになります。
その気持ちを分かってくれる人はおらず、影の努力を認めてくれる者もごく僅かです。誰にも肩代わりさせられない仕事をこなし続けているうちに、純粋だった心はどんどんと穢れを帯びて行くでしょう。
これだけ頑張っているのだから、自分には下々の者に強く出る権利がある。誰も認めてくれないのだから、その努力を自分から誇示する必要がある。そう言った1つ1つの悪しき積み重ねが圧政を正当化し、多くの王が暴君・暗君と呼ばれる存在に変わり果てて行くのです。
プロキオンもまた、治世を敷く中で王としての威厳と暴威を悪用するようになってしまった1人です。最初に持っていた「シリウスとベテルギウスと3人で仲良く過ごす」「より多くの人間を笑顔にする」といった目的は、だんだんと自分の中で薄まってしまったとのことでした。
彼女は恐れていたのでしょう。自分が誰かに責められることに。自分から人が離れて行ってしまうことに。その寂しさは彼女の中で反転し、相手に圧をかけてでも自分の近くに留めておこうと働きかけました。
しかしそのようなやり方では人の心がついてくることはありません。
いつかはその綻びは致命的な乱れとなり、取り返しのつかない結果を招いてしまいます。今回の場合、それはシリウスの反乱という形で巻き起こりました。
全てを失うことは、責任からの解脱を意味します。女王は一時的にその解放感に浸ることもあったようですが、やはり彼女はその孤独に長い間耐えることはできません。
結局は王国の復興を目指し、自罰的な十訓を定めて臣下たちをより強く縛り上げて操ろうとする。
それが女王に取れるただ1つの選択でした。
強い束縛は同じ過ちを繰り返すリスクがある。それに気付かない、気付こうとしないままに。歪み切った彼女の心は、反省の方向性さえも正しく導けなくなってしまっていました。
ですがきっと、豊穣は彼女がどうしたらやり直せるのか最初から分かっていたのだと思います。表向きは女王に絶対服従の姿勢を見せながら、裏では彼女を正しく救い出す方法を考えていたはずです。
分かっている。本当は優しい女性だと。
信じている。その心は今も奥深くに残されていると。
だから彼はどんな状況にあっても、どんな発言と態度であっても、女王の味方であり続けました。そしてその想いは、正しい形で結実しようとしています。
貴女を笑顔にしたい
「シリウス…ベテルギウス…そして全ての妖精に対して…本当にすまなかった」
自分の恥部を曝け出し、その上で心根解錠されたプロキオンは、ようやく自分の本当の気持ちに素直になることができました。
きっとどこかでずっとこの罪悪感と戦い続けていたのでしょう。
今さら引くに引けないと、意固地になって自分を覆い隠していた側面もあったのでしょう。
だからこそ王国の崩壊による間接的な敗北ではなく、プロキオンという個人が全てを突きつけられた上で敗北することに意味があります。彼女はやっと、全ての邪念を吐露する機会に巡り会えたのですから。
「どうか私を…赦してくれ…この通りじゃ…」
たった1つの謝罪で、全てが無かったことになるわけではありません。平身低頭土下座されたところで、絶対に彼女を赦すことができない者がいても不思議ではないと思います。
「僕はこれからもずっと、貴女を笑顔にしたい」
それでも、その贖罪によって彼女を赦したい、救いたいと思う者は必ず現れます。
胸中に在りし日の想いが残っている限り、何度だってやり直せる。心から懺悔する者には、そのチャンスが与えられても良いはずです。
「俺も」
「僕も」
「僕だって!」
「俺も!」
「私も、仲間に入れてください」
歪んでしまった心は救い出すことができる。新しい未来を紡ぐ手助けをすることができる。
それは今回の使命の中で、彼らが学んだ1つの真実でした。故に彼らは女王の過ちを一方的に糾弾することはせず。その意志を尊重して、心に寄り添うことを選びました。
「お前たち…」
この世は因果応報なれば、きっとこの結末は、女王の行動が導いたものに違いありません。
彼らの愛著集めのやり方までを縛り上げず、1人1人としっかり向き合って救い出すことを否定しなかった。愛著の数よりも救済の質を優先して使命に当たらせたことが、彼らの心を成長させました。
そこに残っていたプロキオンの良心が、最後には自分自身に返ってきたのです。
「ーーありがとう」
1人1人の人間たちを全力で救い出してきた5人のファミリーが、最後には最も身近で苦しんでいた女性の心を解放する。
そこに『Fairy蘭丸』の物語の完成を見たと感じました。
1人でも多くの人を笑顔にしたい。そのプロキオンの穢れなき強い想いは、正しく臣下の元に届いていて。彼女を含めた全員にとって、光ある結末を導きました。
桜、咲く
人間界。思い出の場所に戻ったチルカは、そこで寶から1通の手紙を手渡されました。
それは白百合がシリウスに宛ててしたためたもの。
もし彼が自分の言葉を無視して会いに来た時のために、本当の想いを綴って残しておいたとのことでした。
手紙の文面には「病魔に侵された自分の姿を見せたくない」「思い出の中では綺麗なままでいたい」そういった自身の尊厳を用いて、シリウスを納得させる言葉が並びます。
ですがチルカは先の蘭丸との戦いで、彼女が本当は自分の未来のことを想って別れを選んでくれたことを知ってしまっていました。
手紙に書かれていることももちろん本心なのでしょう。ただシリウスへの本当の想いの全ては、そこに書かれてはいません。そうした方が彼のためになると、最後まで考え抜いて書き残したのだと思います。
「ありがとう。あなたのことを永遠に愛しています」
ただ絶対に偽れない気持ちだけは書き残して。
それは今のチルカにとっては、内容以上に強く優しい愛を感じさせてくれるものになったことでしょう。
「桜…咲く、か」
流した涙は彼に宿った愛着を解放し、散ったはずの桜の木に新たな花を咲かせます。
全ての誤解とわだかまりは晴れ、一連の騒動はこれで完全に幕を閉じました。
しかしそれによって、シリウスがチルカとして生きた時間が否定されるわけではありません。そこで感じ取ったものを胸に、新しい人間との向き合い方を選ぶことも彼にはできるはずです。
未来で再びシリウスを名乗るのか。それとも清濁を併せ呑むチルカとしての道を歩み続けるのか。
彼にはそのどちらをも取る権利があるのだと思います。
「シリウス!」
苦楽を分け合ったパートナーは、かつての名で彼のことを呼びました。そしてあの時告げられなかった本当の想いを、彼に向かって笑顔で告げるのです。
「まさかお前!」
愛の形に正解はなく、人を想う気持ちは無限の形がある。
それをこの使命の中で知った蘭丸は、自分の中の気持ちにもしっかりと答えを出すことができたようです。
「…そういうことか」
シリウスを愛しているのは、決して白百合だけではありません。彼の気持ちに触れて、多くの感情を共にした者は全て、彼に強い情愛を向けています。
思っているよりもずっと、君は愛されている。
そうやって彼の道筋を照らし出すかのように。蘭丸は満足げに今のファミリーの元へと帰って行きます。
一度違えた道を、無理に元の形に戻す必要はありません。それぞれが相手のへの想いを抱えている限り、その気持ちはいつか必ず新しい交わりを生むからです。
これは愛に恨み、愛を知り、愛を巡った物語。先の未来で、彼らが再び正しい交流を果たせることを願っています。
おわりに
夭聖界は復活を遂げ、女王は心を取り戻す。その結末を描けてなお、BAR Fの使命は終わりません。
1人でも多くの人間を笑顔にするというプロキオンの根源的な想いは、愛着集めとはまた別のところにあるものです。
初心に帰り王国の復興はとりあえず後回しに。自分たちが再び統治者として立てる自信と威信を身につけるまで、彼らは昨日も先週も先月も、その先の未来でも一生懸命働きます。
「何かあれば何なりとお申し付けください。お嬢様」
「ふ、2人きりの時だけじゃぞ…」
主君と上官が調子づいてイチャコラし始めてることもいざ知らず、彼らは実直に目の前の仕事に励み続けるのです。
「それじゃあいつもの行くで〜」
食べるのは相も変わらずカレー。
それでもそこに宿る愛は、1日1日深く刻まれて行っているはずです。
「「「「「妖精十訓、我等これを禁ず」」」」」
全てが未知だったあの日とは違い、この流れもまた生活の一部へと。ですが『Fairy蘭丸』は今回で最終回。我々が彼らと過ごす生活は、一旦ここでおしまいです。
未回収の伏線も取りこぼしも一切なく、小さな救済の物語が結びついた1つの大きな物語。ここに堂々たる完結。
清々しい気持ちで見る彼らの始まりの姿に別れの寂しさを感じながら、新しい日常がスタートします。
「あなたの心お助けします」
そのタイトル通り、この作品を通して救われた心が数多あることでしょう。本当にたくさんの愛に満ち溢れた作品だったと思います。
いつの日かその愛が巡り巡って、他の人やこの作品に帰ってくる。そんな夢のような現実が見られる日が来るのではないでしょうか。
そんなことを思いながら、この感想記事を終わりにしたいと思います。この記事が読んで頂いた方々にとって、より『Fairy蘭丸』を愛せる一助となっていたら嬉しいです。
超感想エンタミアのはつでした。ご縁があればまたお会い致しましょう。それでは。
こちらもCHECK
-
【超感想】『Fairy蘭丸』全話まとめ 総計10万字超!あなたの心と時間いただきます!
続きを見る
-
【超感想】『Fairy蘭丸』作品の魅力を徹底解説!もう意味不明なアニメとは言わせない!?
続きを見る