ディビジョンバトルの予選大会がスタートし、新たなフェイズを迎えた『ヒプアニ』。
ストリートフォトグラファーの3人もいよいよ本格参戦。全く見たことがないアニメならではの『ヒプノシスマイク』で視聴者を興奮の渦へと巻き込みます。
イケブクロ「Buster Bros!!!」とトムの新たな絆を見届けた先、次にやってきたのはシンジュク「麻天狼」!2話→3話と同じ並びであり、このままもう1周各ディビジョンの当番回がやってくると予想されます。
1つのチームを中心としながら、並行して他のチームの物語も進行する2周目のエピソード。
「The darkest hour is just before the dawn.」
最も暗い時が夜明けの始まりである。災い転じて福となす。麻天狼の2つ目の物語を、紐解いて行きましょう。
フォトグラファーと代表チーム
4つのブロックに分かれて行われる予選大会。
当日はタイムテーブルが細かく区切られており、期間も数日間に渡ります。しかし自分たちの出番までは各々の仕事などを優先できる、ラフな体制のイベントでもあるようです。
まず真っ先に予選を迎えたBuster Bros!!!は第6話からの流れでしっかりと勢いづき、破竹の勢いで勝ち進んで行きました。第6話にて共にトラブルを乗り越えたフォトグラファーの3人も一緒です。
それを3人で見守るヨコハマのMAD TRIGGER CREWは、未だ左馬刻の事務室に揃い踏み。他のチームと比べて、予選出場まで時間的猶予があることが分かります。ちなみに今回の映像の範囲で言うと、予選会場外から理由もなく3人揃っている姿が見られたのはMTCのみとなっています。仲良しですね。
開催自体は同日に並行して行われているものもあるらしく、全てを1人で回るのはなかなか至難の業。よってフォトグラファーの3人は、それぞれの会場の注目チームを写真に収めるために別行動を開始します。何気に彼らが単独行動を取るのも、今回が初めてとなりました。
太郎丸と乱数
恐竜の遺伝子を持つ男 ティラノ剣…太郎丸・レックスが向かったのはシブヤディビジョン。彼にとっては初めてとなる個人での撮影の様子。今までの行動や言動から不安感が残りまくっていた通りに、とりあえず舞台裏に侵入して当人の前に躍り出るという離れ技を披露してくれました。
彼が撮るのは、1人舞台裏に残された飴村乱数です。
幻太郎と帝統はディビジョンバトルで高まった情動をそれぞれの活動にぶつけようと、意気揚々とその場を去ってしまいました。そんなチームメイトを多少寂しそうな顔で見送る乱数は、確かに画にはなっています。
自由人の集団と言えど、せっかく3人で集まったら3人の時間を過ごしたい。そうやって仲間を大切にする一面も、乱数の中にはあるのですよね。そんな乱数のことを、あとの2人もまた大事にしている印象です。
乱数はトムの影響力に目をつけ太郎丸の懐柔を試みます。相手の懐に潜り込むのは乱数の得意分野ですし、太郎丸としても撮影対象と良好な関係を作っておくのはメリットしかありません。奇しくも2人の関係性はwin-winなものになったと言えるでしょう。
乱数は第5話でもSNSを活用しての広報や情報収集を行っており、WEBなどの情報ツールの使い方やそれを利用したブランディング手法に長けているようです。
ネットを武器とするイケブクロの三郎と比較すると、一般人の"心"を掴む方向を意識しているイメージ。ここからも、彼の独自性を見ることができますね。
トムと寂雷
シンジュクへ向かったトム・ウィスパー・ウェザコックは、寂雷と関係性を持ったキャラクターでした。
トムは寂雷が以前に奉仕していた紛争地帯の野戦病院で、彼の治療を受けて生還した一庶民だったとのこと。危うく命を落とすところを助けられていたのです。
紛争地帯にいた理由がトムの出自にまつわることなのか、取材と撮影の一環で巻き込まれてしまったのかは定かではありません。しかしここで彼が洋名のキャラクターである理由が1つ繋がってはきましたね。
寂雷は寂雷で、トムの名前を見ただけで「自分たちの写真を撮った人物だ」と把握できていたのがポイント。彼もまた、身の回りのことやものをよく観察している人間であることが分かります。
トムは雑談の中で、当時の寂雷の元で働いていた助手の"よつつじ"と呼ばれた青年が、現在昏睡状態にあることを聞き出しました。そしてその"よつつじ"が寂雷にとって、ディビジョンバトルを勝ち進まなければならない理由になっていることも。
それは的確な情報と写真を求めるトムにとって、今後の方針を決める大きなヒントになり得るものでしょう。わずかな情報から大きな感情を読み取って、"命の恩人"のために奔走するトムを見ることもできるのかもしれません。
ちなみに寂雷がトムの素性を読み取れたのは、首にかけられた通行証があったから。ちゃんと彼は交渉と許可を取った上で取材をに入っています。バイクで颯爽とヨコハマに向かったアイリスも、しっかりと通行証をつけていました。
一方でTレックスくんの胸元には見当たりませんでした。何と言うことでしょう。まぁつまりそういうことですね。
"似た者同士"故に
予選を迎えた麻天狼の独歩は、寂雷から指摘を受けるほどに珍しく上向いている様子です。
それは彼が勤め先にて、自分を応援してくれている同僚 瑠璃川一葉に出会ったからでした。彼の話によると、他にも独歩を応援してくれている人が社内にはいるようです。
会場に行けば自分たちを応援してくれているファンの歓声を聞くことができますが、トリオチームである以上は歓声が誰に向けられているものか確かめる術はありません。独歩のような性格だと、「自分を見ている人なんて1人もいない」と考えてしまうでしょう。
だからこそ身近にいるたった1人の確実な声援。それが独歩の心に、途轍もなく大きな安心感と自信を与えるものだと思います。応援してくれるあの人のために頑張ろうという気持ちは、人の表情をすべからく明るくしてくれますよね。
その後も一葉は独歩が絶対にディビジョンバトルに出場できるように何かと取り計らってくれますし、励ましの声もかけてくれるように。そんな実直で物腰が柔らかい"お人好し"な一葉に、独歩も次第に心開いて行きました。
「よぉ独歩!…と見知らぬ青年!」
互いに互いについて「少し自分と似ているかも」と、そう思い合える2人が惹かれ合うのは必然的なことだったのかもしれません。
「いやぁ、嬉しいぜ俺っちは!独歩ちんにようやく"友達"ができたんだな!」
後ろ姿でそのやり取りを見ていた幼なじみが、一瞬の印象で"友達"だと感じ取れる間柄。
それがこの時の2人の間に芽生えていたのは、確かなことなのでしょうから。
瑠璃川一葉の抱える闇
一二三を交えて3人で飲むことになった一葉の口からは、独歩に対する本音が吐露されました。
自分と同じような冴えない人間がいる。
その印象から勝手に仲間だと思い込んでいた存在は、ある日急に良い仲間を見つけて一躍シンジュクの有名人と化しました。
夢追い人としてシンジュクに降り立った一葉は、きっとどこかで夢破れて現実を見た青年です。過去の失敗経験のせいで、自分の劣等感を埋める相手を手近に追い求めてしまったのでしょう。付かず離れずの距離を保って、彼を眺めることで鬱積した感情との折り合いを付けていたはずです。
「人の心には誰でもドロドロしたものが溜まってく。その淀んだものはどこかで吐き出すしかない」
しかしその観音坂独歩が大成功を収める過程を目の当たりにして、いても立ってもいられなくなってしまった。何とか彼に追いつこうと同じことを初めて見たものの、結果を残すことはできず。感情を発散する先を、瑠璃川一葉は完全に失いました。
「独歩くんはその場所を見つけたんだ」
それは性質の違う一二三はもちろん、"見つけることができた"独歩でさえピンと来ない話。下に落ちて行ったものにしか分からない心の闇の深淵。それを一葉は見て知って経験してしまった。だからこそ実感を伴って話をすることができてしまいます。
「実はね、もう見つかったんだ。僕の溜まったものを吐き出せる場所が」
「いつか話せる時が来たら話すよ」
"話せる時"など来るはずがない場所に、自分の感情の在り処を見出して。それでも彼はそう言って笑顔に独歩に話しました。
まるでこの場自体が、彼の溜まったものを吐き出す場所かのように。本当は吐き出してしまいたいそんな気持ちを感じさせるかのように。
裏切り
程なくして、ハゲ課長が階段から突き落とされる事件が発生。彼がシンジュク中央病院に搬送されたことで、寂雷の中で1つの疑惑が浮かび上がります。
事前に警察から聞き込んでいたシンジュクで起きている連続強盗事件の情報。独歩の会社で扱っているような医療機器が犯行に利用されていたことから、一連の事件が無関係とは思えないと結論付けたのです。
何故か常に寂雷を疑う出枯氏警部によって、事前に「寂雷にはアリバイがある→ディビジョンバトルに出場している日に事件が起きている」と判明していたのもその結論をアシストしました。見ようによっては、麻天狼が犯罪に利用されているようでもあり、気分の良い話ではありません。
さらに独歩は最近起こったこと・話したことを総合し、一葉がその事件に絡んでいるのではないかと思い至ります。
急に自分に近付いてきたのも、自分がディビジョンバトルに出場することにやたらとこだわっていたことも、事件を起こすための下準備であるのなら辻褄が合う。そしてハゲ課長が独歩の障害になっていることを知っている人も、さほど多くはありません。
せっかくできた"友達"と呼べる相手を疑わなければならない。それが独歩の精神をどれだけ圧迫したことでしょうか。
いくら状況証拠が揃っているとは言え、一葉が独歩に向けていた言葉の全てが偽物であるとは限りません。解釈は主観に委ねられるもの。ほとんどを独歩が本心だと解釈して受け止めているとしたら、その負担は計り知れないものがあるはずです。一葉は独歩が「全力で応援する」とまで言った相手でもあるのですから。
匂わせられる不安の中、決して平静とは言い切れない中でパフォーマンスをしっかりとやり遂げた麻天狼。彼らを迎え入れたのはやはり、強盗によって荒らされた宝石店の惨状でした。
そして独歩に届いた一通のメール。
「最後に君に会えてよかった」
一葉が強盗に関与している可能性を確実なものとするそれは、同時に彼の今の居場所を指し示す重要なヒントを孕むものでした。
Fallin'
麻天狼が向かったのは晴海埠頭。
そこは一葉が「明日世界が亡ぶとしたらここに訪れたい」と漏らした場所。彼が初めて東京に降り立った時に見た東京の景色がある場所でした。
独歩の読み通り、一葉は仲間と共に盗んだ宝石を持ってそこから国外逃亡を図ろうとしていました。寸でのところでその場に居合わせ、彼らは最後の最後で相対することになったのです。
一葉があそこでメールをしたのは迂闊だったという他ないでしょう。船に乗り込んでからメールすれば、少なくとも彼らに追いつかれることはきっとありませんでした。
だから、彼はきっとどこかで望んでいたのだと思います。自分と同じ性質を持ち、自分よりも優れた存在へと進化した独歩に見つけてもらうことを。彼と直接自分をぶつけ合う、この瞬間が来ることを。
「どうして…俺を利用してたのか!?」
一葉は(いつの間にか呼び捨てで呼び合う関係になっていた)独歩の悲痛な叫びを受けても動じることなく、強盗に手を染めた理由を彼にぶつけ続けます。自分と同じ弱者だと思っていた存在が、誰もに認められる存在になっていく敗北感。それは過去の劣等感を遥かに上回り、ついには彼の心を破壊してしまいました。
ですがそれは独歩とは関係ない。これは瑠璃川一葉が勝手に観音坂独歩に共通点を見出し、勝手に独りで苦悩していただけのこと。同情する余地を探すことはできても、理解を及ぼさなければならない相手ではありません。
「独歩は、友達ができたことを心の底から喜んでいたんだぞ!」
それでも独歩はきっと一葉のことを想って傷ついてしまう。
理不尽な感情をぶつけてくる目の前の相手にNOを突きつけることができない。そんな彼の代わりに、唯一無二の幼なじみが叫びます。
「その気持ちを弄びやがって…!」
あくまで独歩は100%の被害者側です。
他人の在り方を自身のはけ口に利用し、成功を妬み嫉む愚かな犯罪者。それに目を付けられてしまっただけの、"いつも通り"の苦労人でしかありません。
「独歩…君とは戦いたいと思っていたんだ…!」
ただ、もし出会い方が違っていれば。
何か違うキッカケで交流する場が設けられていたのなら、違う形もあったのかもしれない。
そんなかりそめの友人に手向けるラップバトル。麻天狼の"心"を伝える一戦が、幕を開きます。
堕ち行く者への救済
弱い自分も 音に乗せblow
さらけ出し brother for rewrite up
アイツに期待したいって
もう一度さすumbrela
黄泉がえる想いは
who are you?
堕ち行く者に贈る麻天狼の新曲「Fallin'」は、退廃的なメロディラインに彼らの抱擁するような感情が乗る美しい一曲。
今回の件で麻天狼の活動は犯罪の片棒を担わされ、独歩はあろうことか犯人に直接利用される仕打ちを受けました。普通に考えれば、彼らは怒りに身を任せて攻撃的なフロウを炸裂させてもおかしくない状況です。
ですが麻天狼は――先陣を切った独歩はそれを選びませんでした。
彼らにも察するべき事情がある。慮ってあげるべき感情がある。それを考えずに唾棄してしまっても、きっと何の解決にもならない。彼らの心に届くような優しいアプローチとリリックで、そんな想いを体現するかのように言葉をぶつけて行きます。
罪を犯した者にも救済を。
それが彼らの掲げる慈悲深き理念その物でした。
それは少し遅すぎたかもしれないけれど、最も暗き闇から彼らを救い出す礎となって響き渡りました。
「ここに最初に来た時、ここからの景色は輝いていた」
きっと彼らもこうなりたくてなったわけじゃない。同情する余地があるのなら、どんな状況であってもそれに寄り添ってあげたって良い。まして自分がまき込まれた張本人であるのなら尚更のことである。
独歩は酷くネガティブで自己否定的で、見ようによっては純粋に情けない奴に見えるでしょう。しかし裏を返せばそれは、周りのことをよく見て考えている、想像力豊かな人間であるとも言えるのです。
「だけど…今日の景色はくすんでたな。汚れちゃったんだね…」
だからこそ彼は神宮寺寂雷に見込まれて、シンジュク麻天狼の一員として堂々とステージに立つことができている。どうしようもなくなった時にも決して理不尽に他人を貶めたりせず。最後まで自分の力で何とかしようとする、そんな強い意志を持っている。
「ありがとう独歩…僕を救ってくれて…」
それが観音坂独歩と瑠璃川一葉の間にある違い。ほんの僅かな選択の瑕疵。けれどそれこそが絶対に覆すことができない、決定的な彼らの差。
一葉はそれを感じ取っていなかったわけではないのでしょう。むしろ感じていたから、後戻りができなくなる寸前で独歩に近付いたはずです。
「…馬鹿野郎」
だからこの結果は彼の望んだ通りのものだった。最初からこうなる未来を予期して彼は動き、自分での心では処理できなかった贖罪を他者に求め、身勝手にも独歩の心を利用した。その結果は変わっていません。
それもまた、独歩の心に傷を負わせる理不尽で。結局独歩はまた、激しい自己嫌悪に苛まれることになってしまいます。
けれど、そんな優しい彼だからこそ、その本質を見てくれる者も現れる。
「勝手なことばかりやってたら誰かが傷つくこともあるけど、独歩ちんはそんなことしないっしょ?」
それは今も身近で彼を見守ってくれている仲間たち。麻天狼は彼にとってそんな心の拠り所。彼らと一緒に行動しているから、観音坂独歩はほんの少しだけ自信を発揮できる。そしてその自信に伴った独歩の魅力こそが、他者を惹きつけて止まないのです。
「一二三…先生…」
彼らの持つ圧倒的な輝きの根源。信頼と慈悲。それらを併せ持つ麻天狼は、また1つ大きな苦難を乗り越えて。より結束を強めて本戦へと歩みを進めるのでした。
おわりに
『ヒプアニ』ディビジョンバトル予選回は、敵対するラッパーチームと向き合っていく各ディビジョン代表の感情が、前4話よりも激しく濃密に描かれているのが特徴的。
今回も独歩を中心に、麻天狼を取り巻く感情の機微がしっかりと描写されていました。
イケブクロ→シンジュクと、相手が予選の影に隠れる"弱さ"を持ったチームであることも気になります。残るヨコハマとシブヤに関しても、彼らに嫉妬や劣等感を当てつける輩との対峙が中心となって行くのではないでしょうか。
Hip Hopはアンダーグラウンドや反体制と常に隣り合わせで発展してきた文化。光り輝くものばかりが重要ではなく、陰に潜む鬱屈した感情の存在こそがその骨子となっている。そんなメッセージ性を感じさせてくれるような気がします。
さぁ次回は恐らくヨコハマ回。入間銃兎に襲いかかる同僚の負の感情は、彼らの活躍にどのような影響を及ぼすのでしょうか。楽しんで見届けたいと思います。
また次回の記事でお会いできれば幸いです。それではまた。
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