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【超感想】『ヒプノシスマイク(ヒプアニ)』第11話 最終決戦「MTC VS 麻天狼」ぶつかり合う力と絆

2020年12月18日

 

引用元:https://hypnosismic-anime.com/story/?id=11

ディビジョンバトルの準決勝が終了し、興奮冷めやらぬ中王区。会場には耳を劈くほどの大歓声が響き渡っています。

残すは勝ち残ったヨコハマ「MAD TRIGGER CREW」とシンジュク「麻天狼」がぶつかる決勝戦のみ。ボルテージを上げている両チームによる、今まで以上に熱い戦いへの期待が高まります。

ただ勝つだけではなく、それぞれに果たすべき目的がある。見据えるは勝利の先、ここはその通過点に過ぎない。

だからこそ手を抜かず、目の前の相手を全身全霊を持って打倒する。甘えも容赦も介在せず、2つの意志がまっすぐとぶつかる最終決戦。

「No pain, no gain.」
その一部始終を読み解いて参りましょう。

Fling Posseの"絆"

第2回戦にて、観音坂独歩のリーサルスキルに煮え湯を飲まされたFling Posse。その敗北とはまた関係のないところで、飴村乱数には葛藤がありました。

無花果をはじめとする上層部は、2回戦での彼の命令無視を看過しないはず。乱数の言い方的に、彼が命に関わる罰を受けることはほぼ間違いありません。

もはや覚悟を決めているとは言え、そうならない方が良いという思いは彼の中にもあるはずです。

そこで彼は初めて、「逃げる」という選択肢があることに気付きます。

これは乱数と中王区の関係を理解する上で大きな歪みでしょう。「どうせ逃げられないから」と思っているのと、最初から逃げるという発想がなかったでは大きく違います。

つまり乱数は少なくとも「絶対に中王区の庇護下にいなければならない」と思い込んでいたということです。そしてそう思わざるを得ないような事情が、彼らの間には存在していると考えられます。

Fling Posseの飴村乱数としての"生"を選んだことで、やっと彼は人並みの感覚を得ることができました。仲間を犠牲にし1人だけでも生き永らえる。そう決意して動き出しかけた時、乱数は2回戦での出来事を想い返すのです。

自分を飴村乱数でいることを選ばせてくれたのは、あの時の仲間の気遣いでした。

彼らの声がけがなければ、きっと彼は真正ヒプノシスマイクを使用してしまっていたことでしょう。

夢野幻太郎は在りもしない嘘の物語をでっちあげて、乱数をあの場における主人公に仕立て上げました。

幻太郎らしくない真っ直ぐで分かりやすいストーリー。それは「飴村乱数がならそうあるべきだろう」と彼が思い描いた道標です。

一方の有栖川帝統は、「俺の10万ラッキー」を乱数に渡しました。普段は自分から金を借りてばかりのロクデナシで、何かを贈るなんてことはほとんどない。手元に金が在れば全て自分のギャンブルのために使う。そんな彼が、あろうことか乱数に持ち金を託したという事実。

架空の存在とは言え、帝統が自分で賭けに勝って手に入れた軍資金です。それを受け渡すことが何を意味するのか、気付けない乱数ではありませんでした。

「はいはーい!2人ともちゅうもーく!」

だから飴村乱数は1人で逃げることをやめました。
自分を引き留め、大切なものを授けてくれた2人の仲間。彼らと共にこれからの人生を歩むことに決めたのです。

「僕と一緒に!一刻も早く!ここを出るの!」

決勝戦が終わるまでの間は、中王区含め全ての人間がディビジョンバトルに釘付けになる。ならばこそこれは時間を稼ぐチャンス。何かと理由を付けた乱数と共に、Fling Posseは会場を後にします。

中王区の捨て駒でしかなかった彼を「飴村乱数」として受け入れ、愛してくれた2人の青年。

彼らと共にいるから乱数は乱数でいられる。きっとそれに気付いたはずです。彼がその幸せを、安堵の中で実感できる日が来るのを祈っています。

左馬刻と寂雷

妹の合歓が中王区にいる。その姿を確認して我を失った碧棺左馬刻は、トラブルを起こす寸前でこれから戦う神宮寺寂雷にその手を取られました。

かつて同じチームで共に戦い、相応に恩と敬意がある"先生"を前にして、左馬刻も何とか平静を取り戻したようです。MTCの2人にはきっとできなかったであろうこの止め方。ここから寂雷に対する左馬刻の感情は、また1つ異質なものであることが見て取れます。

心を落ち着けるために場所を移動して、そのまま2人で歓談(?)と洒落込みます。これから戦うチームのリーダーが、直前でのどかに顔を突き合わせるとはまた因果なものです。

ある目的のために行動する両者でしたが、それはあくまで内々の話。当然、お互いに相手は純粋にディビジョンバトルに勝ちに来たと思っており、また戦いの中にその事情が介在することを望んではいません。

「俺がここにいることと厄介事とは関係ねぇ」

だからこそ確認は「互いに事情がある」程度に留めておく。決勝戦は決勝戦。その先に求めるものがあるとしても、行われる戦いはフェアなものであるべきだ。

「MAD TRIGGER CREWが…
奴らと俺がここの扉を開いた」

「えぇ、そうですね。私がここにいるのも、
麻天狼というチームの結束あってのことでしょう」

多くを語らず私情を挟まず、彼らが口にするのはあくまでもこれから臨むラップバトルの内容その物です。

信じる今 異なる未来

数多のラッパーチームを打破し、頂点を決める決勝へと歩みを進めた2つのチーム。そんな彼らにはそれぞれ、全く異なるカラーがありました。

片や圧倒的"個"の力によって、全てを一網打尽にしてきたMAD TRIGGER CREW。

決勝に進んだ4チームを見てみても、彼らは正に「戦うために集まった」と言うのが相応しい最強の布陣です。

経験力、知識力、戦闘力、果ては権力まで。あらゆる"力"を手中に収める彼らに、小手先の技術など通用しない。別々の得意分野の持つ彼らのコンビネーションは、ただ打ち付けるだけで他を寄せ付けない波状攻撃となり、目の前の相手を爆発四散させます。

「イカれてるが、だからこそ背中を預けられる」

彼らが胸に秘めたる信頼は、血の繋がりでもなければ相手の人間性に依存した不確かなものでもありません。

確固たる実績と結果。誰の目から見ても明らかなそれが、3人をチームとして引き合わせて結び付けました。

故に彼らは情に流されない。これ以上ないと自信を持って言える最強のメンバーが集まった。だから後ろを心配して省みる必要も、誰かを気遣ってフォローする必要もない。

強引だろうと何だろうとテメェの力を武器に前に突き進む。MTCはそんな利害の一致だけで結成された過不足のないチームであると、今の左馬刻は思っているようでした。

一方の麻天狼は、MTCは真逆を行くチームです。

左馬刻から見れば、一二三と独歩の2人は明らかな戦闘力不足。寂雷の実力とラップアビリティでここまで伸し上がって来れたとしても、最終的にはその個人力の無さが仇になると彼は言いました。

「いいえ、彼ら…いえ、私たちの弱さこそ、
麻天狼が勝ち残って来られた理由です」

その左馬刻の言葉に怯むことなく、むしろそれが当然であると言わんばかりに、寂雷は自分たちの存在軸を彼に突き付けるのです。

「それぞれが弱さを晒し、認め、補って繋がっている。
その絆があるから、チームとしてやって来られたのです」

彼の言う通り麻天狼は、客観的に見れば比較的に色の薄いメンバー、覇気のないチームです。勢いや力強さで言えば他の3チームより見劣りしますし、持っている属性・要素もどちらかと言えば一般人寄りです。

特別な"力"を持たない2人を率いて、その人格と性格を武器へと昇華させる。それによって彼らは勝利を掴み取り、果てはこの決勝の舞台にまでやってきました。

だからこそ彼らの一心不乱のパフォーマンスは、強烈な印象を伴って見る者の心に突き刺さる。

弱い自分たちにできるわずかな可能性を見つけ出し、その1点だけを実直に全うすることが彼らが持つ唯一の勝機。その個性に100%集中できるよう全てを慈愛で包み込み、自信と覇気をもたらすのが神宮寺寂雷の人間性です。

麻天狼のリーダーは、誰がどう見ても絶対的な上位存在。2人はそれに付き従う信奉者であり崇拝者です。その神にも等しい存在が「私たちは横並びで共に歩んでいる」と言ってくれている。それがどれだけ彼らの心に余裕を与えることでしょう。

宣戦布告

全く異なる方法でチームを生み出し、王座の手前までやってきたMTCと麻天狼。

自分の持つ理念は、彼らがそうしたいと願った形。そして相手の持つ理念は、彼らがそうしたくてもできなかった形でもある。そんな側面もあるのだと思います。

もし、自分が彼のような意志を持った人間だったのなら…。あるいは今の現実とは違う未来を、掴めていたのかもしれない。そんな一抹の可能性に思いを馳せる彼らは、自分が絶対に正しいとは言い切れない。

「先生。わりぃがアンタらを…ぶっ潰すぜ」

「…受けて立ちましょう」

相手の在り方を否定せずに飲み込んで。それでもなお自分たちが"強い"と宣言する。

それが今の彼らが交わすべきたった1つのコミュニケーション。

MAD TRIGGER CREW VS 麻天狼。各々の想いを胸に抱え、ディビジョンバトル最終決戦の幕が今開きます。

最終決戦

大歓声に包まれる中、火蓋が切られた彼らのラストバトル。

先攻はMAD TRIGGER CREW。
圧倒的攻撃力を持つ彼らが純然たるアドバンテージを持って、麻天狼に襲いかかります。

職務質問一問一答
即、衝突-Friction-

望まんと言っとく
その汗、震え 泳ぐ視線
視線を越える覚悟が見えません

決勝戦の舞台に用意された楽曲は、準決勝のものよりBPM高めでスピード感のあるナンバー。短い時間に多くの言葉を押し込む必要があり、相応に高いスキルとリズム感が求められます。

先陣を切った入間銃兎は全く動じることなく、流れるようなリリックで観音坂独歩を圧倒して行きます。語気の強い銃兎には速度のある今回の楽曲がよく似合う。先手必勝の一撃は、確実に対戦相手の精神を圧迫して行きます。

駄目な俺だけど舐めんな
勝利が行動計画-アジェンダ-
負けちゃ名折れだ もうしない土下座
仲間の期待とTogether

返す独歩も今回は最初からしっかりと本調子。乗り遅れることなくしっかりと自分らしいラップを披露して行きます。短い時間で確実に韻を踏み抜く。そんな力強さが今の彼にはありました。

直前に耳に入ってきた寂雷の言葉が、彼の胸をなで下ろしたのでしょうか。格上相手にも物怖じせず、自分の意志を感じさせるヴァイブスを響かせています。

「……!?」
「ノーダメージです」

しかしその全力の攻撃も銃兎に届くことはありません。

ただ打ち付けるだけの攻撃など、彼はきっと見飽きるほどに経験している。まっすぐな"力"で独歩が銃兎を上回れるわけがなく、独歩のファーストアタックは「攻撃は成立したのに傷1つつけることができない」という結果に終わりました。

堕落した夜に 浸かりきる奴の
日々ヒビ割れた夢想状態
指導教官 名乗り出る小官
選ばれたお前に送るスパルタ

間髪入れずにMTC 毒島メイソン理鶯の攻撃が始まります。戦場に立った彼らは、一切の情を介在させない洗練されたプロのソルジャー。相手が誰であろうと容赦せずに、虎視眈々と目の前の相手を撃破するのみです。

圧倒的攻撃力を持つ理鶯が、最も理想的な状態で受けた仲間からのバトンパス。先攻の勢いそのままに、その"力"を存分に振るい尽くせば確実に相手の戦力を削ぐことができます。その攻撃を受けた伊弉冉一二三は、一度の行動も許されることなく地に膝をつくことになりました。

「僕の番だ…行くよ…!」

ですが一二三とて、たった一度の攻撃でノックアウトされるほど柔ではない。彼もまたシンジュク麻天狼の一員。チームのスタイルを存分に発揮し、目の前の敵を威圧します。

伝票の裏 書き溜めたリリック
真人間示すこのサインペン
試運転なしで挑む一途な日々だ
リビドーの意味問う

「相手をdisろうとしない…。これが彼らの…」

一二三は理鶯の"力"に真っ向から挑もうとはせず、その言葉をかわしてあくまでも自分たちのフィールドで振る舞うリリックで戦いました。

弱いと言っても、彼らはディビジョンバトルの決勝に上がったチーム。並みの相手であれば、麻天狼側から攻撃を仕掛けて圧倒するという方法も取れるでしょう。

しかし今回の相手は常軌を逸した総合力を持つMTC。直球で競い合っても振り落とされてしまうのが明白だからこそ、彼らは"弱さ"を受け入れた戦術で相手の喉元に食らいつくことを試みたのだと思います。

「独歩くん、一二三くん(※1回目)」
「どうですか。イケてますか、先生?」
「良いと思いますよ」

戦いを見守る三郎が彼らの攻撃を"大人しめ"と評価したことを見るに、公的評価では「麻天狼が本気を出せばもう少し拮抗した戦いを送れたはず」ということでしょう。一二三と寂雷のやり取りの内容的にも、今回はいつもと少しやり方を変えていると見るのが妥当のように思われます。

「僕たちは弱い。でもその弱さを曝け出して、
僕たちは先生と繋がっていきます!」

彼らは自分たちが相手より劣っていることを認めた上で、チームとして勝つための道筋を考えています。全ては自分たちに光を与えてくれる神宮寺寂雷のために。彼が「良い」と言うのなら、きっと今のやり方が正しいはずだ。そう信じて目の前の敵対者と向き合います。

「だったら俺たちは――」
「あくまで言葉の弾丸で粉砕する!」

それに相対するMTCは、そんな麻天狼のやり方如きで揺るぐことはない。策士は策に溺れるもの。想定外と言わしめるほど大きな力をぶつければ、彼らの"絆"など跡形もなく雲散霧消できる。

掃き溜め育ちのKids 歪な傷舐め合う絆
Listen up 敗者の帰路はギスギスさ
ついでに外してもらいな首輪

火力不足だぬるま湯のミスター
仲間に媚び売るはYouKnow?ミスだ
戦いの火蓋 切る前に
その駄弁る喉笛を掻っ切るか

銃兎と理鶯が繰り出したのは、麻天狼の2人にまとめて大ダメージを与える強烈な連携攻撃。何とか受け切ることができたものの、ダメージの大きさは隠し切れません。

「独歩くん...!一二三くん…!(※2回目)」

心配する寂雷を尻目に、彼らはまだ前線に出て戦います。相手もまだリーダーを温存している状況で、切札の寂雷先生を先に表に出すわけには行かない。勝つためには、2人の絆の力でまず目の前の2人を攻略する必要があります。

力不足は合点承知
内から湧き出す熱情を発射-ローンチ-
本気も本気 絆と絆
ボルトで固くしめるモンキーレンチ

寂雷先生は鎹-かすがい-
カスみたいな俺らが良い
仰ってくれた確かに
恩に報いる果し合い

軽快なノリでマイペースに敵を翻弄する一二三が先陣を切り、後半に入り徐々にエンジンが入ってきた独歩がMTCに襲いかかります。

個々の力では敵わずとも、彼らは唯一無二の幼なじみ。そして後ろに控えるのは全幅の信頼を置くチームリーダー。信頼と信頼の相乗効果により、彼らはいつも以上に強い力でMTCを圧倒できる。そのはずでした。

グゥの音も出ん下らん寓話
仰々しい阿呆の教条主義だ

協調性偏重 調整ミス
「思考停止を肯定」
死ぬことを意味する!

それでも、現実はそこまでしてもMTCの牙城には届きません。

「独歩くん…!一二三くん…!(※3回目)」

銃兎と理鶯の精神は、独歩と一二三の決意と勢いを持ってしても微動だにしない。むしろ彼らのその在り方を過ちだと言わんばかりに強くdisり、トドメの一撃を加えるカウンターとして利用さえしてしまいます。

何かを盲信して寄りかかる。それは即ち、自分1人での解決を放棄するということ。

戦場において単独行動と自主判断の重要性を何よりも知るMTCからすれば、麻天狼の言う"絆"など致命的ミスの引き金となるお荷物に過ぎないのです。

「独歩くん…一二三くん…(※4回目)大丈夫ですか…!」

完膚なきまでに叩きのめされた2人は、為す術なく戦闘不能。しかしギリギリのところで失格だけは免れ、何もできないながらもフィールドに生き永らえることには成功しました。

生きとし生ける全ての生命
そこから君らを選んだ証明
少年みたく無垢なその眼
だがその眼差しは至極聡明

寂雷は攻撃に転ずることを選ばず、自身のスキルである回復を用いて2人を戦線へ復帰させることを試みます。

幾ら百戦錬磨の寂雷とて、強者揃いのMTC3人を1人で相手にするのは得策ではありません。それに独歩が復帰できれば、彼によるリーサルアタックを仕掛けることも可能。Fling Posseの3人を一撃で沈めたその威力は、彼らが勝利を掴むためには必要不可欠です。

戦況をわきまえて、分の悪い賭けだとしても勝利に近しい方を選ぶ。

過酷な状況でも寂雷はその冷静さを失うことはありません。

オピオイドみてーな 蜘蛛の糸垂らす
人誑しが過ぎるぜ センセ?
お遊戯みたいな淀んだ空気で
死んだ哀れな 幼稚園-Kindergarten-

ですがたった一度の回復で復活できるほど、2人が受けたダメージは小さいものではない。

寂雷の選択は無防備に次の攻撃を受けることに他ならず、満を持して登場した左馬刻のライムを真っ向から浴びてしまいます。

もしこのままMTCの圧倒的パワーの前に屈し、2人が復帰することもなかったら。麻天狼は事実上のワンサイドゲームによる大敗を喫することになります。いくら決勝まで上がってきた実力者とは言え、最も盛り上げるべき場面でその失態を侵しては、彼らに払拭できない汚名がのしかかることでしょう。

確かにまるで鎮痛剤
悲痛な原罪 できないよ弁解
しかし私は信じてる
麻天狼が切り開く新時代

それでも寂雷は焦らず動じず。あくまでも2人の仲間たちを救い出すことに全力を注ぎます。どこまで追い詰められても、彼は決して諦めることはない。麻天狼の絆を信じ、共に戦い抜くことで勝利を掴む。そのビジョンが曇ることは断じてないのです。

「寂雷先生よぉ。アンタの…
いやアンタらのスタイルは分かったよ」

しかし、それはMTCから見れば哀れな固執に過ぎません。
目の前で零れ落ちたものを救い出そうとするあまり、取れるはずだったものまでずり落とす羽目になる。そのことを彼らは痛いほどによく分かっています。

「でもな…それじゃ掴めねぇんだよ
取り戻せねぇんだよ力じゃなくちゃなぁ!」

理想と情で上手く行くのなら、自分たちはこんなことをする必要はなかった。立ちはだかる脅威を全て乗り越えて行くためには、結局"強い力"が必要で。彼らはそのために結束した最強のチーム。軟弱なことを言う輩には、決して遅れを取るわけには行きません。

「行くぜ!MAD TRIGGER CREW!」

人誑しの唄に Hasta La Vista
明日から絆 何たらは無しだ

僅かな望みすら
断つなら身も蓋も無いくらいに
断固断つこの実弾

MTCが放つ RPG-対戦車擲弾-
薄ぺらい装甲 甘い脇狙う

"力"を持った3人による連続攻撃は、それぞれが自分の仕事をこなすだけで既に一繋がりの最大攻撃になり得るもの。

甘い願いも 全て力で奪る!
絆の濃さも 韻で絡め取る!

その全てが残った寂雷個人に全て直撃し、彼の身体を後方へと吹き飛ばしました。

決勝トーナメントは、強攻撃を受けて場外に吹き飛ばされても敗北のルール。勢いからして、本来なら寂雷もそのまま場外に吹き飛び、ノックアウトとなる流れだったことでしょう。ですが、その状況は寸でのところで回避されました。

「独歩くん…!一二三くん…!(※5回目)」

寂雷が懸命に治療を続けた独歩と一二三が戦線復帰を果たし、吹き飛び行く彼の身体を優しく受け止めたのです。

「待っていましたよ…お帰りなさい」

神宮寺寂雷がかけた慈悲は、しっかりと2人の仲間に伝わって。考え得る最良の形で彼の元へと還ってくることになりました。

状況や相手の言葉に惑わされず、最後まで仲間を信じ続けた結果がしっかりと報われる。これが麻天狼の描いた未来の形。結果論と言われたらそうかもしれません。それでもこれを実現できたことがきっと、彼らの言う麻天狼の"絆"が存在する証でしょう。

「見せてやりましょう!」
「僕たちの全力を!」

イキり過ぎだろMTC
露悪的なドヤ顔痛々しい

イライラしすぎまるで乳幼児
つまり暴力へすがる依頼心

採算度外視で病める者迎えし
問診に等しき我がMC

復活した2人を加えた3人による麻天狼のチームパフォーマンス。鬱屈した感情を溜め込んだ独歩のキレラップを皮切りに、ここぞとばかりに相手へのdisを解放。能ある鷹は爪を隠すと言いたげなその波状攻撃は、元々高火力な独歩の攻撃をさらに補完して実現するワンショットキリングです。

滅私で寄り添う先生の世直し

利己主義根こそぎドミノ倒し

麻天狼が照準を合わせ撃ち抜こうとするのは、MTCが首魁 碧棺左馬刻ただ1人。

彼はそのラップアビリティによって、攻撃を受ければ受けるほどに攻撃力を上げてしまう厄介な相手。誰よりも早く左馬刻を確実に一撃で仕留めることが、MTCの最大戦力を削ぐに最も効果的です。

全ては麻天狼の狙い通り。いくら銃兎と理鶯が強いとは言え、3対2に落とし込んでしまえばバーサーカー独歩を含む麻天狼に分があります。それにこの攻撃を受ければ、彼らとて無傷では済まないのは間違いない。

そんなことは、誰よりも"彼ら"が一番よく分かっている。

「銃兎…理鶯…!?」

「左馬刻…!お前なら絶対に――!」
「信じ抜け!己の力を!」

そんな"銃兎と理鶯"が取った選択。それは左馬刻に全てを託し、自分たちが身代わりとなって散ることでした。

彼らは力こそが全ての戦闘集団。故に窮地を迎えた際に残すべきは、最も強い者であるべきだという信念があるはずです。

だからこれは必然的な選択。勝つために最も確率の高い可能性を取っただけのこと。

「ぶちのめす…ぶっ殺してやんよォ!!」

MTCの碧棺左馬刻は誰よりも強い。

その絶対的指標が彼らの中にある故に、パートナーたちは迷いなく自分の身を投げ打てる。逆襲の炎に燃える左馬刻を止められる者など、この世に誰一人として存在するわけがない。その信頼こそが彼らの胸に宿る、麻天狼とは異なる"絆"なのです。

依頼心だぁ? 死んだなテメェ!
まずへし折る 両端の避雷針

やけに急に息をふきかえし たが
水差すなよ こっちゃ焼け石

仲間2人を討たれた怒りと憎悪は、左馬刻の攻撃力を最大限まで上昇させました。

たった1人で3人を同時に巻き込む範囲攻撃を展開。特に生き返った2人については、確実に息の根を止める勢いで襲い掛かります。

セオリー通りに考えれば回復役の寂雷を真っ先に打倒すべきですが、そんなこと今の彼には関係ない。回復など行わせずに一撃で葬り去ってしまえば、ただそこに骸が無様に横たわるのみ。

はなからこっちゃあ人命軽視
雑魚気遣った加減とかウゼえし

生死分けんのに愛なんて迷信
あるのはただ
心停止

ちょこまかと動き回る雑魚を圧倒的な力で排除し、状況はイーブン。先の攻撃によって決して無傷ではない麻天狼 寂雷と、同じく手負いのMTC 左馬刻。勝負の行方はこの2人の手に委ねられました。

「3人まとめてアンタの病院にぶち込んでやるよ!」

どちらも満身創痍のこの状況。故に攻撃権を握った側の持つアドバンテージは絶対的です。

「左馬刻くん…これが最後でしょう。
私の…私たちの全てを出し切ります」

ここまで攻撃する姿勢を見せることなく、常に回復に回っていた神宮寺寂雷。最後の最後で彼が轟かせるヴァイブスは、戦いの終焉を告げる天よりの戒めです。

力夢見る 邯鄲の枕
この声聞くんだ 左馬刻くん

強固な絆に報いる為に
今日この寂雷 餓狼とも成ろう

彼が見せるのは"狼"たるその矜持。
攻撃はできないのではなく、してこなかっただけ。

それを大衆に誇示するかの如く、暴威に奮える低音を響かせて左馬刻にその"力"を打ち付けます。

馬も 兎も 鶯も
火で身を焦がすオオカミへの御供

その肉とくと麻天狼が喰う
甘噛みしない 大口真神-おおくちのまがみ-

寂雷もまた一時代を築き上げたTDDの一柱。アビリティだけが取り柄のラッパーなどではなく、彼個人だけでも十分に戦い得る"力"を保持しています。ただその振るい方が他の者とは異なっているだけのこと。

「嘘だろ…!これが麻天狼の絆か…!?」

常に自分の力を最大限に活用するMTCと違い、寂雷は最も効果的にその"力"を扱えるタイミングを見極めています。

仲間と協力し、励まし合い、最後にはその持てる力の全てをもって目の前の相手を粉砕する。その道筋を描くこと。1人では実現できない結果を導こうとすることが、神宮寺寂雷の持つ根源的な強さです。

「銃兎…理鶯――わりぃ…」

しかし、それは他のチームも変わりありません。

それぞれがそれぞれで別々の"絆"を有しており、そのどれもが尊く意義深いものであるのは違いないでしょう。

「独歩くん…一二三くん(※6回目)
どちらが勝っても、おかしくない戦いでした」

ただ今この場においての勝者が、麻天狼の"絆"だっただけのこと。戦いは無慈悲に勝敗を決定付け、否応なくその裏にある優劣を突きつける。そうして絶望を甘受しなければならない場を作り出すことに、果たして意味があるのか。そう思う人もきっといるはずです。

けれど、それでも彼らは戦うのでしょう。自分たちの目的を果たすために、そして自分の"絆"を確かめ合うために。

「――初代ディビジョンラップバトルチャンピオンは、麻天狼に決した!」

男とは常に闘争を求める愚かで野蛮な生き物。その中でしか紡げない関係性を見る『ヒプノシスマイク』の物語。

その1つの到達点を迎えた第1回ディビジョンラップバトルは、シンジュク麻天狼の勝利で幕を閉じました。

おわりに

終わってしまいましたね。あと2話何をやるんやという気持ちでいっぱいですが、ひとまず疾走感溢れるラップバトルは圧巻の一言でした。

こうして記事に起こしてみると、曲のBPMのおかげか、過去2回に比べてラップパートの情報量が異常に多いのが分かります。同程度の時間で進行したはずなのですが、文章量は1.5倍ほど必要でした。

リアタイ視聴中はとても実況ツイートなどができない超速展開だったため、(結果が分かっているとは言え)本当に手に汗握る戦いを見せてくれたと思います。

"絆"を語る麻天狼に対し、あくまでも"力"で対抗したMTC。
しかしそのMTCの立ち回りの中にこそ、また違った角度の"絆"が垣間見えるという構造が憎らしい1回でした。前半のポッセもまた、しっかりと3人らしい"絆"を見せてくれましたよね。

本戦を終えて、本当に先行きが不透明になった『ヒプアニ』の世界。あと2回もジェットコースターで楽しませてくれることに期待して、今回の記事を終えようと思います。

よろしければあと2回の記事にもお付き合い頂ければ幸いです。それではまた。

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はつ

『超感想エンタミア』運営者。男性。二次元イケメンを好み、男性が活躍する作品を楽しむことが多い。言語化・解説の分かりやすさが評価を受け、現在はYouTubeをメインに様々な活動を行っている。

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