あらたなかたち
1つの大きな分岐点。
そこで正しいコミュニケーションが取れたことで、一織と紡も"アイドル"と"マネージャー"として改めて深い交流ができるようになったと感じます。
最大の争点は「それを陸が受け入れられるかどうか」でしたが、陸自身も気持ちだけでどうにかなる現状にないことを、しっかりと意識できていたようです。とりあえずは円満にセンターの交代が行われることになりました。
とは言うものの、一織の「夢」が無くなったわけではなく、陸もただ「ホッとした」だけなわけがありません。この事実を踏まえて、陸がごまかし続けてきた自分の体調とどう向き合うのか。その答えが得られた時、今までにない輝きを彼らは見せてくれるはず。その瞬間に期待したいと思います。
「…しんどいな」
「やめてください。あの人多分、気付いてませんから」
大事のように伝えれば、陸はセンター交代を受け入れないかもしれない。だから瑣事のように振る舞って「大したことではない」と言わなければならない。それを色々と"分かった上で"騙ることは、凄まじい心労を伴う行動です。
ですがそのことを知っているメンバーもいれば、分かって察してくれるメンバーもいる。それだけでも「臨時のセンター」である和泉一織の心は、幾何か軽くなるでしょう。
センター 和泉一織の在り方
センター交代の憂き目を受けるのは決して陸だけではありません。
未来を考えれば陸の処遇を案じるべきですが、現在に着目すれば一織にこそ甚大な負担がかかります。
「センターを交代してからアイナナは駄目になった」「どうして陸が下ろされたのか」など否定的な意見を浴びせられることは(劇中で描かれないとは言え)必至で在り、一織はその矢面に立たされることになります。
それを少しでも回避するためには、「センターを替えてからも良い」と言う人たちを少しでも増やさなけばならない。それは一織のセンターとしての振る舞いと実力によって決まると言わざるを得ませんでした。
しかしそんな心配もどこ吹く風。新センターは、センターとして最良の仕事をしっかりとやってのけるのです。
陸はその歌声と存在感で皆を"引っ張る"センターでした。ですが、一織は決してその後を追うことはしません。
彼の武器は、アイナナをプロデュースする過程で培った「全員への圧倒的理解度」です。その知識とノウハウを遺憾なく発揮し、皆を"まとめる"センターとして新しいIDOLiSH7を創り上げることに成功しました。
それはアイドルとしての彼の成長を感じさせるものでもあったし、決してセンター七瀬陸のお株を奪わない理知的なセンターとしての振る舞いでもありました。
「もうアイナナのセンターは一織で良いんじゃない?」そう言われることがないように。自分の夢と自分たちの理想を未来で実現するために。
必ず陸をセンターに戻す。その意志を感じることができる活躍を見せてくれました。
迫りくる脅威
センター交代成功を1つの契機に、アイナナはさらに勢いをつけ始めます。
バラエティという"人に認められる居場所"を見つけた三月は、今まで以上にそのステージで貢献することを意識し始めます。
人気の番組をチェックしては立ち回りを勉強し、そのおかげで彼らの冠番組は大好評でスタートを切ることができました。
アイナナの人気上昇によってMEZZO”も活動の幅を拡大。
こちらはこちらで新曲をリリースしたりと相乗効果で成功するチャンスを掴みました。
しかしながら、全てがトントン拍子で進むわけではありません。頭角を現し始めれば上から打たれるのが芸能界。ライバルたちもアイナナに対抗するのにより大きな力を込める段階に入ったのです。
家を捨ててアイドル業界に飛び込んだ壮五を目の敵にする彼の父は、裏番組に巨額の投資を行って彼らに襲いかかります。またMEZZO”も良い話が舞い込んで来れば、下積み時代に犯した失態やイメージが障害になることも。それが軋轢の原因となり、2人の関係をギクシャクさせてしまいます。
1話2話同様に、良い話があれば悪い話も顔を出す。そんな表裏一体の現実が、やはり当たり前のように彼らの眼の前に体現されます。
1つの問題を乗り越えれば、必ず新しい問題がその先で待っている。芸能界で生き抜いて行くというのは、この終わることのない連鎖と永久に付き合い続けることを意味するのかもしれません。
アイナナの7人と紡は、それらにどう立ち向かって活動を続けて行くのか。今後の展開を左右する要素は、本当に細かくちりばめられていて。どれがどのタイミングで爆発するか分からない。そんな危うさを孕んだ物語が展開されています。
大和の過去 千の目線
諸々の問題に直面するアイナナには、1つの切り札がありました。それは役者として成功を収めている二階堂大和が受けていた、人気映画続編での大役のオファーでした。
しかし大和は何故かそのオファーを拒否。
銀幕の世界には行かないと、一考すらせずに頑なに退けたのです。
基本的にグループの年長者として全体の調整役に回る大和ですが、演技の仕事と向き合う時だけは露骨に私情を露わにします。1期で語られた「大物役者の隠し子」というゴシップは恐らく大筋本当で、演技というフィールドに確執があるのでしょう(ただ親と暮らしていた時期があるようなので隠し子ではないのかも…?)
その大和の気持ちを変えるために動いたのは、あのRe:valeの千でした。なんと彼は大和と以前から知り合いで、察するに大和の父親の弟子(?)として売れない時期を過ごしたことがあるようです。
昔に見下していた相手が、自分より目上となって目の前に立っている。大和にとってこれほどにばつの悪い状況はありません。ですが千の話ぶりを見ると、彼は大和のことがそれほど嫌いではないのだと感じます。
下積み時代に苦労したらしい千からすれば、生まれ持った才能で最初から評価されている大和は羨望の対象です。しかも(立場が違うとは言え)過去にゴミを見るような目で自分を見てきた相手、恨めしく思ってもおかしくありません。
それなのに千は大和に突っかかるどころか、彼がより高みへと昇るべきだと助言します。そして彼が所属するアイナナのことも含めて、彼は本気で大和に「成功してほしい」と感じているように見えるのです。
彼らのやり取りから大和の過去は荒んだものであったことが想像されます。ですが千の発言によってその態度には何か理由があり、少なくとも大和は近親者全てに疎まれるような人間ではなかったことも何となく想像できます。
大和についてはもちろんのこと、千というまだまだ底の知れないキャラクターのことを想像する上でも重要な会話シーンに。「言われたくない相手」から受けた真っ当な助言を、果たして大和はどう解釈して今度の活動に繋げて行くのでしょうか。
百の想い アイドルの苦悩
一方でRe:valeの片翼、百は紡と2人でアイナナの今後について話す機会を設けていました。
数多のアイドルの頂点に立ち王者として君臨するRe:valeは、それだけ多くのアイドルたちを蹴落としてきた存在でもあります。本人たちにその気は無くとも、彼らに前を行かれたことで涙を飲んだ人たちはいる。その事実を、強く受け止めているように見えました。
決して彼らが悪いのではありません。道半ばで敗れた者のほとんどは、他人との競争に敗れた結果「自分との向き合い方」を誤って、そのせいで身と心を滅ぼすに過ぎない。そこに他者が介入する余地などあるはずもないのです。
だから百は将来有望なアイドルたちに、競い高め合うライバルたちに、ここを去ってほしくないと思っている。彼の振る舞いは、そのような想いを感じさせるものでした。
「アイドルを苦しめるのは、いつだって"好き"の感情なんだよ」
そんな彼だからできる、先を行く者として最良のアドバイス。それが多様化するファンからの好意の受け止め方の是非でした。
多くのファンを抱えるようになれば、その1人1人と同じようには向き合えなくなるものです。"ファン"という大きな括りをまとめ上げて、1つの存在として向き合わなければならない場面も増えて行きます。
ですがあくまで彼女たちは意思を持った1人の人間の集まり。アイドルたちのどこに惚れ込んで、何を望むのか。それは1人1人違っていて当たり前。そしてそれら全てが彼らの耳には届くようになります。
ドライに言えば最優先するものは明白です。彼らの最大の目的は「より多くの人を喜ばせる」こと。あらゆる観点から見てそれは絶対条件で、アイドルの活動の指針となるものです。
しかし多数派に一本槍になりすぎることは、やがて少ない希望を切り捨てることと同意義になっていく。当然、切り捨てられる側に回った人たちからは不満が出ます。
でも、それを全て満たすことは物理的に不可能で。その声の存在は多数派と同じ”1つの意見"となって、アイドルたちを苦しめるのです。
「期待があるから不満が生まれて…
好きがあるから、嫌いが生まれてくる」
その声に耳を傾けすぎると、彼らの心は絶対に壊れてしまう。けれど、その声が存在する限り彼らはきっと耳を傾け続けてしまう。それこそがアイドルがアイドル足り得る由縁であり、何より彼らがそう在りたいと望む形だからです。
「だーれも悪くない。解決方法もない――」
応援したいという気持ちは、誰しも変わらない。それに応えたいと思う気持ちも、等しくて変わらない。ただ"できること"には限界がある。
「――でも…本人たちは苦しくてしょうがない」
そのジレンマの先で心を壊してしまう者もいれば、逆にファンを壊してしまう者もいる。そうやって乗り越えられなかった者が、売れ始めのアイドルのままに潰れて忘れ去られて行く。
そんな想いをRe:valeの2人は、何度も何度も経験して見送ってきたのでしょう。もしかすると、過去にもアイナナと同じくらい目にかけて、駄目になった後輩が何組もいるのかもしれません。
だからIDOLiSH7にはそうなってほしくない。その気持ちを、百は紡に精一杯伝えているようでした。
願わくば最も辛い時期を乗り越えたTRIGGERと同じように、自分たちと並び立てるライバルになってほしい。そんな先輩からの強い熱意を、小鳥遊紡が感じ取る1シーン。
アイナナの7人と共に歩みながらも、少し離れたところから客観視してきたマネージャー。『アイドリッシュセブン』の物語で、重要な選択の場には常に彼女の存在がありました。
そんな紡だからこそ、この話を受け止める意味と資格があるのでしょう。
彼女がこの話を受けることで、どうアイナナの7人を導いて行くのか。より強く注目して行きたいポイントとなりました。
おわりに
はてさて。2話で1記事という話が、2話を1つにまとめて1.8記事分の文量を書いたら意味ないだろと今これを書きながら自分に言い聞かせています。
最近のこういった感想記事は1話当たり5,000~6,000字程度を目安に執筆しており、終盤に向けて熱が入ってくると文字数が限界を超えるというスタンスでやっております。
今回の記事は2話で9,000字近く書いているので、実質ほぼ2記事分。というわけでページを跨がせました。
このような結果になるのはひとえに『アイナナ 2nd』が序盤から熱い展開を続けてくれているということに他ならないわけです。最初から熱量MAXで、売れっ子アイドルとなった彼らの物語が展開されています。
1期で下積みしたものをそのまま活用し、1話目から十分に密度の濃い内容で突っ走る。2期ならではのスピード感で、一気にその魅力を爆発させつつあります。
終盤では唐突に陸の元に現れた九条天の存在が、不穏な影を落としています。プロ意識の高い彼のことです。とんでもない爆弾を落とす気しかしないので、5話は頭から固唾を飲んで見守ろうと思います。
2期は特に毎回想像を超えるペースで魅せてくれている印象。今後とも何が起こるのか楽しみです。最後まで熱量込めて書けて行けたらと思っています。それではまた次回で。
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