IDOLiSH7の未来
九条という大きな壁に直面したIDOLiSH7。しかし彼らの心は決してそれで後ろを向くことはありませんでした。
「私たち、良いコンビだと思いませんか?」
ここまでアイナナをマネジメントしてきた和泉一織は、一連の騒動を受けて初めてマネージャーの紡と自分をコンビだと言いました。
今までの彼らは、あくまでマネージャーとそれをサポートするブレインという関係性。最初期の時点から一織はマネジメントの手腕に自信を持っており、紡よりも「自分の方が上手く展開できる」と思っているような節もありました。
共にここまで歩んできて、そのやり取りも最早当たり前となりつつある現在。気付けば2人は対等に意見を交わし合い、紡の選択や言葉がアイナナを救ったことも少なくないほどに彼女も成長しました。よって一織が今この関係をどう解釈しているかには、モヤがかかった状態だったと言えます。
それがここに来て「ゼロのマネージャー」という明確な仇敵が生まれたことで、意識に変化が訪れたのでしょう。彼らもまた適切なコミュニケーションを取ることで現状を確認し合い、今までと、これからの目標を共有していました。
「2人なら超えられると思いませんか?
――あの男を…ゼロを」
ここまでの物語で、一織が提案した策や方針がアイナナを導いてきたシーンは数え切れないほどにたくさんあります。そしてそれとは違った角度から、気持ちと実行力でアイナナを窮地から救ってきたのが小鳥遊紡です。
彼女の活躍無くして自分たちが歩んでくることができなかった。そのことは、一織もしっかりと実感しているようでした。
「好きですよ。貴女が"私のIDOLiSH7"と言う響き」
それを持って、彼女が"私のIDOLiSH7"と言うことには何の後ろ暗さもない。自分がブレインとして機能しているのは、それを皆に信頼される形で実現させてきた彼女のおかげなのだから。
自分を誇示することなく、あくまで彼女の存在が必要なものだったという態度を崩さない。その姿はここまでの経験で確かに視野を大きく拡げた、和泉一織の成長を強く感じさせるものでした。
「貴女のものになって…貴女の武器になって
貴女の夢を、叶えてみたくなります」
コンビであると言いながらも、尊重するのは目の前にいるマネージャー。自分が中心となったマネジメントではなく、自分を武器として彼女に振るってもらうことを願う。それが今の彼の考え方でした。
彼女に芽生えた信愛と親愛。そして何より、彼女の行動力と手腕を誰よりも身近で見て知っている、そんな彼だからこそ言える励ましの言葉。自信に満ち溢れた表情と振る舞いは、それが決して気休めでも暴論でもないことを明示しているようです。
「ゼロも九条もサクラハルキも…
辿り着けなかった夢を」
彼らはいつだって決して1人ではありません。ステージに立つのも7人で、マネジメントも2人で高め合ってここまでやってきました。
多くの困難を乗り越えて、それでもなお"そのまま"でいようと決意した掛け替えのない仲間たち。その夢を背負って立つ唯一無二のマネージャーに寄せる、最大級の信頼の気持ち。それは巡り巡って彼ら全員を新たなステージへと進めるための、大きな原動力となることでしょう。
見てくれる者たちへ
彼らを支えるのは内部の仲間たちだけではありません。TRIGGERのライブを見た帰り道に声をかけてくれたのは、アイナナの歴史を知る旧来のファンたちでした。
多くのものに否定され、ファンの"好き"という気持ちに翻弄される彼らに胸を痛めた『アイナナ2nd』の物語。「大勢のファン」という概念が彼らに勇気を与える描写は盛り込まれてきましたが、個人単位では心ない攻撃をするファンの方がまだまだ印象的だったように思います。
今回はそのやり残しを回収するかのように、アイドル1人1人に"好き"の感情を向けて全力で応援するファンの姿が描かれました。
「あの、色んなこと気に病まないで下さいね。だって私…MCやる前から三月さんのファンだったんですから!」
1人のために誰かを傷つける者がいるのなら、1人を愛することに全力を注ぐ者もいる。嫌いに比べるとどうしても可視化されづらい存在が、今正に実態を持って彼らの周りを取り巻いています。
「ゼロの騒ぎなんかに負けないで!」
「うちは家族全員、IDOLiSH7の味方だよ」
ライブで受ける声援とはまた違う、直接彼らに贈られる温かい言葉の数々。それは確実に彼らの肯定感情を大きく強くしてくれるものでした。
「1回目のライブの時から、ずっと…ずっとファンなの!」
どうせ誰も見ていない、どうせ誰も覚えていない。もしかしたら本人たちさえも曖昧な記憶の中の話。無駄だったかもしれないとさえ思っていたものが、確かに今に息づいているその感覚は、どれだけの勇気と力をIDOLiSH7に与えたことでしょうか。
「…ありがとう。明日は全力で頑張ります!」
そんな彼らがファンたちにお返しできるのは、最高のライブをして、最高の時間を届けること。たった1つ変わらないその事実だけが、彼らを"アイドル"と"ファン"として結び付けてくれているとてもとても強固な絆です。
友人でも仲間でも身内でもない。だからこそ、彼らの良いところだけを知って見てくれる大切な存在。最後の最後は彼女たちに支えられる形で、アイドルたちは前を向きます。大歓声と拍手に応えながら、まだ見ぬ未来へと思いを馳せて。
惑うRe:vale
TRIGGERとアイナナのライブを終えて、ゼロアリーナのこけら落とし公演も大トリRe:valeを残すのみとなりました。
しかし百の声は未だに調子を取り戻してはおらず。結局彼らは最も大きな問題を乗り越えられないままに、大舞台の本番当日を迎えるしかない状況に追い込まれています。
元相方の行方も掴めていないため、新たな解決策を講じることはできなかったのでしょう。元々精神的に不安定な状態が続いているところに九条が追い討ちをかけたことも、百の気持ちを憔悴させたに違いありません。
「明日、これだけのお客さんの前で
歌えなかったら…。俺、もう終わりだよね…」
解決しない問題に、差し迫る本番。得も言われぬ不安はピークに達しているのは間違いなく、平常時でも歌えない百がその状態で歌えるかなど考えるまでもないことです。
「そしたら…新しい相方探して良いからね」
「馬鹿なこと言うな!」
現実的に考えて諦めを選択しようとする百と、それでも相方を信じて否定するしかない千。同じ焦燥感を感じ取っていながらも、描き出している結論は全く異なったものになってしまっている。それがまた彼らの悲痛さを掻き立てます。
「5年間…"千さん"と一緒に歌えて、
死ぬほどハッピーでした」
その感情によって、Re:valeの百はずっと被り続けてきたアイドルの皮を脱ぎ、あの日、泣き縋って千を引き留めた青年へと彼を逆戻りさせました。
彼とてそうしたくてそうしているわけでは、当然ないはずです。できればそうしたくないと思いながらも、もう、そうするしか方法がない。その負の感情が余計に彼の心を鬱屈させ、逃れられない袋小路の中に落とし込んでいます。
「やめろ"百"!…必ず歌える…!」
そう、彼はずっとそう言ってくれている。無理をして自分の願いを聞き入れて、声が出なくなった自分さえ見捨てないで。そこまでして自分が必要としている言葉を、いつもかけてくれている。
そう思ってしまうから、百はきっと余計に苦しくなってしまう。その千の想いが正しく伝わっているからこそ、百は千の気持ちに応えることができないのでしょう。
「…ありがとう」
千はジェントルマンだから、こうでもしないと自分を捨てられない。もっと強く大きく輝けるはずの彼が、自分という枷によって埋没してしまうなら、自分は潔く「期限切れ」で去った方が良い。
その優しさが嬉しくて、嬉しすぎるからこそ果てしなく辛い。千と一緒にいたい気持ちと、一緒にいてはいけないという気持ちが身体の中でせめぎ合う。心の奥底にある百のそんな想いが、彼の意思に反して身体を縛り上げている。今までのRe:valeを見ていて、僕は何となくそう思っています。
(――嫌だ…。二度もパートナーを失うのは…)
でも百のその認識は間違っています。何故なら千は「百と一緒にいたい」と思っているのではなく、「百にいなくならないでほしい」と思っていたからです。
言っていることはほとんど同じでも、その本質は異なっているもの。この言い方の差で、他人への気遣いと執着が大きく分離します。千が百を気遣って言っているのか、千が百に執着して言っているのかには、この場においてあまりにも大きすぎる差があるでしょう。
(声が出なくなった原因…)
そして転じてそれは、百ではなく自分自身を守ろうとしているとも言えるのです。
千の独白を見ていると、彼が見ているのは百ではなく"相方"という概念そのものでしかない可能性が浮かび上がります。つまり百が今の相方というだけで、千が本当に失いたくないのは"相方"という存在でしかないかもしれないということです。
そうだとすれば千がここまで百に向けてきた気遣いは、百にとっては途方もなく空虚なものだったとしても無理はありません。百がそれを感じ取っているとしたら、事態が好転することは絶対にあり得ないと言って良いでしょう。
(毒でもストレスでもないなら…僕しか…)
上記した可能性のどれかが正解であるとは、僕は思っていません。ただ千はそのどれもを混同して持ってしまっているのではないかと感じています。
「百と一緒にいたい」「百と離れたくない」「"相方"を失いたくない」
論理的に考えれば全て同様の意味合いでありながら、それを向ける相手に与えるものは大きく異なっている。
千がそれらの感情に折り合いをつけられた時、Re:valeは真の絆を結ぶことができるのではないでしょうか。
残された時間はあとわずか。しかし、まだどうにもできないと決まったわけではありません。ステージに立ち歓声を浴びるその瞬間の1秒前まで、正解を掴み取ろうともがき苦しみ彼らの戦いを見届けさせてもらおうと思います。歌える。きっと歌えるぞ百。
おわりに
「Get Back My Song…
ゼロの領域を侵す者は、赦さない」
いよいよクライマックス。…と言うにはまだ何かやらないといけないことが沢山あるのではないか?という印象。本当に終わるこれ?
ED明けのCパートでは「は?」以外の言葉を失うトンデモ展開が訪れて、もう100%予想もしてなかったから何が何だか分からねぇというのが正直な思いです。演技でしょ?
率直に言って「毒を盛られてたから声が出ませんでした」はあり得ないと思っている(あり得たら申し訳ない)ので、こうなんか色々あるんでしょうね次回に。まぁ見てみるまで分かんない。本当分かんないってことでよろしくお願いします。
Re:valeについてはある程度彼らの心情がクリアになってから書こうと思っていたのですが、結局セミファイナルになってもあまり進展がないという状況に。さすがに最終回までノータッチはないだろうと思い、現時点での印象をかなり頭を捻らせて解釈してみました。
大きく違えていないと良いなと思いつつ、全然ちげーぞというお叱りを受けそうな気配も感じつつ、ビクビクしながらもいつも通りに言い切りました。最終回でRe:valeについて全然違うことを言っていてもどうか許してください。
アイナナとの付き合いも早いもので3ヶ月。「2期からの執筆とはいかがなものか…」と悩んでいたあの日が遠い昔のようです。あの時決断した俺、偉かった。これも何かの縁ですので、最後まで存分に楽しませてもらえたら嬉しいです。
是非この感想記事も最後までお付き合い下さい。ラストの感動を皆様と分かち合えれば幸いです。それではまた。
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