百の声が出なくなった理由。
それはIDOLiSH7の二階堂大和が百のドリンクに毒を盛っていたからでした。
復讐を理由に芸能界に入った大和は、旧知の仲であるRe:valeの千を苦しめるために一連の凶行に打って出たようでした。
可愛い後輩の一員で、子供の頃を知っている少年でもある。本人にどう思われていようが情が移りやすく、心を許しやすい相手なのは間違いない。それが千が彼に疑念を抱くことができなかった理由でしょう。
「これで百は一生歌えない。
なぁ、最高の5周年だろ?」
信じたくない現実でも、突きつけられてしまえば無視することはできなくなります。そして真実を受け入れて考えるだけの時間を与えられなかった時、人は感情を爆発させて対応することしかできません。
「――ふざけるなッ!
百の声が潰れることがあったら、君を一生許さない!」
目の前の犯人に煽りに煽られ続ければ、いくら冷静で慈悲深い千であろうが激情を露わにせざるを得ないでしょう。声を荒げて大和に掴みかかり、見せたことがないような怒りに表情を歪めて彼は言葉を発しました。
「あいつが隣りにいてくれたから…
僕は音楽を続けて行くことができたんだ」
それは千が思っていてもなかなか口に出せなかった言葉。Re:valeを知る大和に裏切られたことで、その全てを怒りに変えて吐き出したくなったのだと思います。
自分たちのことを近くで見てきた相手には、ちゃんとそれを知っていてほしいという願い。Re:valeの努力や苦労を知っていながら、嫌がらせを続けることができた彼への悲しみ。信頼していた者が相手だったからこそ、口をついて出る感情がたくさんあるはずです。
「僕にとって百はゼロ以上のシンガーだ!!」
奇しくもそれらが、百が最も求めてきた千の姿でした。百のために動こうとするのではなく、自分のために百を必要とする千。百が抱いていた不安を払拭できるものは、彼を完全に失いかけるその瞬間に抱いた、激情の中に眠っていたのです。
先日、九条鷹匡に百が二流だと言われたことも気にかけていたのでしょう。誰かを慮ることなく、自分を封印することなく。ただただ自分の感情だけを優先して叫ぶ千の振る舞いは、今のRe:valeへの凄まじい想いを感じさせるものでした。
「千…今のホント…?」
その想いはしっかりと扉越しに百の元に届き。ずっと欠けていた彼の心の穴を、確かに埋めて行きました。
スタッフの意地が詰まった映像
「「ドッキリ 大成功~!!」」
ふざけんなよガキども。
おっといけませんね、つい言葉が悪くなってしまいます。ボクは彼らより大人なんだから、努めて冷静に振る舞わなければなりません。気持ちはCV:津田健次郎です。
いやちゃんと予想してましたからね。話の辻褄は合ってないし、大和の演技派というステータスを活かすには絶好の機会ですから。これくらいのことは当然、予想しておりました。だから特に問題はありません。
さすがに演技でしょ。話の辻褄合ってないしね。合ってないよな?ちょっと驚いただけだから。分かってるから。分かってるよ俺は。
— はつ@HatsuLog (@HatsuLog) December 24, 2020
見てくださいこれが証拠です。必死に見えますか?大人は汚いのです。ところでこのツイートを見て「残念ながら本当です。次回をお楽しみに」などの反応をくれた数人の方、なんでそんな嘘をついた?(※ちなみに「予想通りなので安心してください」などの反応は"ゼロ")このコンテンツには悪魔がいるな。良くないぞ。楽しませてくれてありがとうございました。
正直なところ今までのストーリーをちゃんと追ってきていれば、ドッキリだと断定するのは難しくはないと思います。少なくとも頭の中の90%は、演技だと考えて1週間を過ごしました。
しかし心はと言うと必ずしもそうではありません。
このシーンは前話の引きや大和の真に迫った演技力、それを全力で描き切ったアニメの作画や演出力を持って"本当"が表現されていました。
伏線や展開と関係なく、その一瞬だけで意地でも受け手に「大和が犯人だった」と"感じさせる"映像になっていて、スタッフのこだわりと執念を感じます。
そしてそれを「なんだやればできるじゃん」みたいなカッコイイ展開に持って行かず、「ドッキリ大成功~!」で切り裂くのが実ににくい。少しでも翻弄されていた僕のような視聴者は、「へぇおもしれぇアニメ(半ギレ)」とならざるを得ないわけです。
そんなものに引っ掛けられた千の気持ちに感情移入しつつも、それはここでは一旦不問としておきましょう。何せアイドルたちの作戦が、しっかりと状況を好転させたのは事実なのですから。
これもまた、彼らが個別に培ってきた能力とRe:valeとの関係性が成立させた技に違いなく。馬鹿馬鹿しいテンションとやり取りの中に、ここまで歩んできた軌跡が詰まっている。可愛くもあり、微笑ましくもある。そんな胸を撫で下ろす一幕でした。
百と千と万
アイドルたちが持ってきたもう1つのサプライズ。
それは元Re:vale、千の相方を探し出して2人に会わせることでした。
その正体は小鳥遊プロダクション事務員 大神万理。IDOLiSH7とそのマネージャーを見守り続けてきた彼こそが、千の元相方「万」本人だったのです。
この感想記事群のどこかでは「百」「千」「万」なので…という点は早い段階で記載していましたね。ここまで匂わせぶりなカットも多かったことから、この展開を確実視はしていました。とは言え、「確定する」というのには大きな意味があるものです。
万理については、事務員なのにアイドル並みのルックス(キャラデザ)をしていてキャストにも恵まれているなど、存在軸に疑問があるキャラクターでした。1期ではさほど出番もなく「結局この人は何だったんだ?」という思いを抱えたまま終了。2期でRe:valeが登場し、徐々に存在感を放ち始めた印象です。
千が探し回っても見つからなかったのは、やはり「万が芸能界にいるわけがない」という固定観念のせいでしょうか。灯台下暗しとは正にこのこと。まさか彼が芸能事務所の事務員になって意外と身近にいたなんて、想像が及ぶはずがありませんから。
そして万理もまた、別に理由があって彼らを避けていたというわけではないようでした。
前回にRe:valeの現状を伝えられた際、「元相方が見つかれば良いんだよね?」とかなり軽めに回答。現場での対応からも、今のRe:valeと会うことに葛藤があったようには見えていません。
行方不明者とは「見つからないようにしている」ことが1つのヒントとなって探り当てられるもの。万理に隠れようとする意図がなかったことが、逆にその足取りが掴めない理由になっていたのかもしれませんね。
大神万理の考え
しかし過去の判断を思うと、大神万理もなかなかどうして罪な男だと思わせられます。
恐らく彼が積極的に千とコンタクトを取ろうとしなかったのは、今のRe:valeが千にとって最適な関係だと感じ取っているからだと思います。
千は新しい相方の百と仲良くやっているようだし、アイドルとしての名声もしっかりと残している。自分と組んでいた頃のRe:valeを思えば、今の方が確実に「成功している」のは間違いない。
客観的事実だけを見れば、万理が千の元を離れた時に抱いていた想いは成就された形です。万理が千に近付く理由はなく、むしろ「今のRe:valeのことを思えば自分が出る幕はない」と自然に考えるでしょう。そういう人だからこそ、あの日突然に千の元を離れてしまったわけですから。
にも関わらず、感動の再会時のこの軽さ。まるで「自分は最高の選択をしてきた」と言わんばかりのこの態度。おいおい、それはちょっと自己完結が過ぎるぜ万さんよ。と言いたくもなる展開ではあります。
さらに言えば、三月たちにRe:valeの実情を聞くまで内部のことは一切知らなかった割に、事情を知ったら「自分が会いに行った方が良いな」と即断できてしまうのが興味深い。
つまり、今の万理にはRe:valeの幸せを守りたいという意思だけがあり、感情的な執着などはまるで持っていないということです。結果としてベストを選び取っているのは間違いないですが、そこに行き着くまでのプロセスは割とドライというイメージです。
もちろん彼の中にも様々な葛藤と決断があって、ここまでの道を歩んできたと思います。Re:valeを吹っ切れているのも、今に連なる数々の経験と思い出があってのことでしょう。
ただ、それを知り得ない千と百には分からないことがたくさんある。今の万理のことも、抱えている想いも、それを自分たちがどう解釈すれば良いのかも。彼の口から聞かなければいけないことは、語り尽くせないほどに2人の胸に渦巻いているのです。
呪縛の解決
「…幸せにやってるのか」
数多の想いを抱えながら、突然目の前に現れた元相方を見て。千がまず感じ取ったのは、「今の万が幸せそうである」というその事実でした。
察するに、千が万のことを死に物狂いで探していた最も大きな理由は、自分のエゴで「Re:vale」を再始動させてしまったことへの罪悪感だったのでしょう。
万が望んだこととは言え、結果として彼を捨てて新しい相方と共に「Re:vale」を成功させた。そのことを万がどう思っているかは千には知る術がなく、自分のせいで元相方が今苦しんでいるかもしれない不安が拭えなかったのだと思います。
今のRe:valeを見て知ってほしいという気持ちも本物なのは間違いないはずです。しかし彼本人を目の前にした時に出た言葉は、「自分の選択のせいで万が傷付いているのではないか」その不安から来る確認ばかりでした。
それは千の自己保身と言うよりも、「元相方にも幸せでいてほしい」という彼の優しさから来る気持ちで。万理と千は、今でも互いの幸せを祈り合う尊い関係性を維持していることが見て取れます。
そしてその想いのせいで万理と千は距離を縮められず、転じて現在のRe:valeを崩壊を招きかねない因子となった。表面的な態度と関係性には何ら問題なくとも、やはり深いところで百の心を苦しめていたのが"2人の関係性"だったというのは、言葉にし難いものを感じます。
「百くんのこともずっと応援してたよ」
だからこそ、百にはもう1つ。
元相方からの直接の言葉が必要でした。
「君のおかげで、千は音楽を続けてくれたんだ。
ありがとう、百くん」
自分が無理を言って再始動させた「Re:vale」で、自分は万さんの"代わり"に歌って踊っている。自分はあくまで「万」と「千」の後ろを走る「百」。「千」の前で彼を導く者になることはできない。
そのコンプレックスを抱えたまま5年間を懸命に走り続けた百が、それを払拭できる唯一の道標。それが消えた万から声を直接かけてもらって、自身の在り方を肯定してもらうことだったのでしょう。
「もうRe:valeは君と百くんのものだよ」
千が守り続けたいと思った「Re:vale」というグループ。百を大切な相方だと想うその裏で、万の存在もまた捨てられない。万がいた時のまま名前を引き継ぎ、彼がいた事実を消さんとするその優しさが、この複雑な状況を招きました。
どちらが上でどちらが下という話ではありません。けれどそれは、後から来た者にとってはどうしても超えられない、塗り替えられない想いがあることの証左。どんなに頑張っても相方の全てにはなれない、その無念と劣等感を増幅させてしまうものでした。
「今が"本物のRe:vale"だ。
胸を張って、もう迷わないで」
消えてしまった者に、今在る者は絶対に勝てない。想い合う2人の別れは、さながら死別のような呪縛です。その思い出は神格化され、当事者の心を苦しめ続けました。
ですが彼らは再び出会うことができました。今の想いを確認し合い、過去を払拭して前に進む。そのための時間を共有することができる居場所を、5年という歳月の中で2人は手に入れて。昔とは全く異なる自分自身を、昔と変わらない想いの中で見せ合いました。
「誰より大きな声で、2人に声援を送るよ」
今の2人を肯定し、抱き止めて。
真なる決別を促す元相方は、1人のファンとしてRe:valeを応援することを誓います。
もう彼は失われたRe:valeの万ではなく、小鳥遊プロダクションの事務員 大神万理である。
何の躊躇もなく、万理はそう宣言したように見えました。
彼らの後輩を傍で支えることに幸せを見出す、ステージから降りた者。そこに何の憂いもなければ、過去への妄執も存在しない。今の自分に納得し、そこでの幸せを謳歌する1人の青年です。
「だから、君たちも自信を持って、
君たちの声を聞かせてくれ」
その事実を持って、今のRe:valeは完全なるRe:valeへとなり得ます。
決して万の存在を否定しない、千と百だけのグループ。歩んできた歴史の中で、変化を受け入れて実現した2人の世界。今のRe:valeは、一切のわだかまりがない真実へと昇華したのです。
「楽しみにしてるよ」
今日この日が彼らの再出発。
万と千が築いた5年を乗り越えて、千と百だけが見える5年後の世界。その最初の1ページが、この日この瞬間に刻まれようとしています。