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『カメラを止めるな!』感想&解説「こんなところに感想が…ツイてるわ」

2018年8月30日

『カメラを止めるな!』キービジュアル

 

観て参りました。
シナリオライティングに勤しみ、数々の作品を見てきた僕のような捻じ曲がった見方をする人間をして

これは面白い!!

と手放しに絶賛できてしまう映画でした!むしろ僕達のようなクリエイティブな人間ほど絶賛してしまう映画という感じ。

卓越されたその"創りの上手さ"から国内外で絶賛されている今作。

僕が見て感じた面白いところを、クリエイティブな観点を交えながら解説して行こうと思います!よろしければお付き合いくださいませ!

※ご注意※
以下は作品の多大なネタバレを含みます。
この作品はできる限り予備知識を入れないまま観た方が楽しめる作品です。
以上を理解した上で、ここから先は自己判断でお読み進めくださいませ。

作品あらすじ

とある自主映画の撮影隊が山奥の廃墟でゾンビ映画を撮影していた。
​本物を求める監督は中々OKを出さずテイクは42テイクに達する。
そんな中、撮影隊に本物のゾンビが襲いかかる!​
大喜びで撮影を続ける監督、次々とゾンビ化していく撮影隊の面々。

”37分ワンシーン・ワンカットで描くノンストップ・ゾンビサバイバル!”

……を撮ったヤツらの話。

(※公式サイトより抜粋)

映画を撮る映画を撮る映画という感じの今作。

正直この情報も知らないまま観た方が楽しめると思う。僕はなーんも知らずに観に行きましたが、余計こんがらがって最高でした。

「気になるポイント」が見つけられるほど楽しめる

この映画は基本的にマニア&業界人ウケが半端ではない作品だと思います。

そもそも、こういう低予算で創られる映画を最初に観るのはそういう人達だけ。その人達の絶賛があっての配給拡大ですので、映画やドラマを沢山見ている人ほど楽しみが拡がる映画です。もう少し具体的に言うと、「作品がどうやって作られているのか」を気にする人ほど楽しめます。

「あるあるw」とか「そういうことかー!w」という部分が後半に溢れ返ってしまい本当に面白い。そこの部分のリアリティが素晴らしい作品です。

逆にあまりそういう部分に関心が無い人が見ると「何て言って良いのやら…」となりがちだとも思います。舞台裏の知識があるかないかで、後半の見え方がまるで違うでしょうし。

僕もクリエイティブな世界に属す一端の人間です。なので、前半のどういうところが気になったのかを挙げながら解説して行こうと思います。

それは誰でも気になるだろ。
気にはなったが何が気になったか分からなかった。
そもそも気にしてなかった。

様々あると思いますが、そのモヤッと感の回答に繋がるように心がけて書いて参ります。そうやって観る人もいるということを感じてもらえたら嬉しいです。

監督の罵声が具体的すぎる

いきなり監督役の監督の罵声から始まる映画なんですが。

役者に対する恫喝がやけに具体的なんですよ。
もう開幕この時点で気になりました。

「背景を何も知らんのに、いきなりそんなこと言われてもこっちは分からんぞ…」くらいに思っていました。

しかも女優役の子が怒られてガチでビビってるのを見て「そうだそれだよ!なんでそれが本番でできない!?」くらい言わないのか?という難癖まがいなことまで想像していたんですが。

そりゃそんなこと言えるわけがない。
だって恫喝自体が熱が入って出ちゃったアドリブなんだから。

「あの子芝居に嘘がないねん」
(普段は嘘しかないけど今は)嘘じゃないぜ。

もうこの時点で既に「してやられてる」というのが恥ずかしくもあり楽しくもあり…。

カメラが1つのみでやたら手ブレする

大分前の方で見てたので酔うかと思った。

開幕5分くらいで、カメラが1台しかないなということに気付く人も多いと思います。

ちなみに僕は上述した通り、この映画が「映画を撮る映画を撮る映画」(ややこしい)ということを知らずに観に行ったので、これが何を意味しているのか後半始まるまで明確になっていませんでした。

カメラマンも登場人物の1人なのか…はたまた、観覧者がカメラマンという体の参加型映画なのか…

だいたいこの2択だろうとは思いながら観てました。ゾンビ映画のまま終わる可能性も考えていたので、展開についてはいささか疑心暗鬼でしたね。監督の超カメラ目線の「カメラはそのまま!」でやっぱ撮ってる奴がいるなとは思ってたんですが…(笑)

手ブレについても、この手作り感自体がそもそもこういう低予算映画だとよくあることなのか、それとも敢えてやっていることなのか、自分の中で定めかねているところはありました。

この辺りは逆に僕に知識がないから混乱してしまったところだと思います。元々よくインディーズ映画などを見ている人は「明らかにおかしい作品だ」と思えたんだろうなぁと思います。

謎のリアリティを醸す会話シーン

「趣味は?」
「護身術とか」

意味不明なんですが謎のリアリティがあって面白かったあの会話。前半を見ている時は「おぉ、ここの緊迫感は真に迫る感じがあるな」と普通に楽しんでたのですが…。

まさか撮影(放送)トラブルを埋めるためのアドリブだったとは!!(笑)

映画としては、筋書きになかった「謎の異音とカンペ」にマジでビビるシーン。キャラとしてではなく役者として(どうにかこの場を切り抜けないと…)と3人が焦っていただけでした。

それが劇中劇としてあれを見ていた我々にとっては「ゾンビが本当にいるかもしれない」という空気感に見えていたというミラクルムーブ。やはりリアルな緊張こそがリアリティある緊迫感を生み出すという好例です。ハッハァー!そうだァー!これがリアルだァ!!

この現場のトラブルを切り抜けるために役者が身を挺して行ったことが、結果的に(その場限りの)最良の結果を生み出すというのが実に舞台的。

舞台関係者的には「あるある」な話ではないでしょうか。でもできれば遭遇したくないやつですね。それが楽しいところでもあるんですけど。

ここは本当に「マジかよ!!wあのシーン良かったじゃん!!w」という突っ込みしか出てこず、もうひたすら笑ってしまった。

素晴らしいのは、それすらも計算に入れて『カメラを止めるな!』という作品は撮られているということ。つまりこれは「リアルな緊張が生み出すリアリティを意図的に再現して撮影された」映画なのです。

創りに着目すればするほどに「してやられて」しまうんですよねぇ…。

何かと謎の多いカメラワークやシーン展開

これは恐らく観ている人の9割以上が気になる部分だと思います。

やたらと冗長だったり、意図的としか思えない役者を隠す動きとか。場当たり的で役者が動き出してからカメラが動くシーンも多く、特に(劇中劇の)後半に連れて雑。いつまでヒロインの泣き顔映すんだ?あと執拗な尻。

割と「何してる映画これ???」と思ってしまうところも多くあり、疑問の嵐だったのではないでしょうか。

しかしこれも全て作為的に行われているものであったというのが面白い。

トラブルばかりでカメラマンが動きについて行けていないのも納得。しかも後半でカメラマンが入れ替わっているからより雑になっているという、完璧な回答も用意されている。

観覧者のほぼ全員がなるほどそういうことだったのかと共感できるのがこの辺り。

モヤッとしていた部分に回答が返ってくる面白さ。テレビ番組などで登壇者に自分の言いたいことを言ってもらえている時のような爽快感がありますよね。

悦に入りすぎてるメイク担当の女性

上手いんですけどね。
1人だけ浮いてるんですよ。上手すぎて。

これは何とも言えない違和感でした。役者が作品から浮いているというのはどういう理由であっても良いことではないんですが。この作品に関しては変ではなかったです。だから不思議でした。

気になってないと言ったら嘘ですが、特に何か言いたいわけでもない。ただ「やたらと演技が上手だなこの人」という感想だけが残る。

恐らく劇中劇が違和感だらけなのにも関わらず、この人だけが「完璧に演じ切っている」ように見えたからでしょう。他の人達が「トラブルをクリアする」という目的で動いている中、彼女だけが100%演技し続けていたわけです。

これも映画後半で「役に入り込みすぎて大変なことになるタイプの役者」であることが明言されたことによりバチッとハマります。「あーだからか!」と思ってしまう。笑っちゃいますよ本当に。

それが確定したところから、流れるように彼女がゾンビの死体を踏み付ける姿を俯瞰で流す。これで「ね?彼女ってすっごいでしょ?」というのを分かりやすく映画鑑賞者に見せてくるところまでセットでお見事でした。

「こんなところに斧が…ツイてるわ」

爆笑www

個人的にこの映画で最も好きな台詞!
記事のタイトルにもしてしまう!

前半でヒロインがこの台詞を言った時からちょっと笑ってました。「なんだよ今の説明台詞は!www」と(笑)

こういうなんか困った時に出てしまう説明的な台詞に突っ込まざるにはいられない性質なので、そもそも好きなんです。「きみは、ゆくえふめいになっていた マックじゃないか」(※『カメラを止めるな!』とは一切関係ありません)

クスッとしていた僕を見た周りの人は「なんだこいつ」と思ったかもしれません。あの時点ではゾンビ映画として見入ってる人も多かったと思うので(すんません)

だから「ヒロインに斧を持たせないと」という流れが公判で登場した時点で「あああwww」という感じ(日本語の崩壊)「ということはあの謎の足だけ見えてた謎ゾンビもしかしてカンペ!?w」→カンペでしたという流れはもう声を抑えられなかった。

そしてこの台詞の最も素晴らしいところは「完全にある必要がない」というところなんですよ。

もちろんあれはトラブルなので、彼女のアドリブという体の台詞です。しかし映画の見映え的には「置いてある斧を取る」というカンペ通りに動けば無言で問題なかったはず。

「都合の良い斧だな」と思う人はいるでしょうけど、ボロ小屋の入り口に使い古した斧があったとしてもまぁ不思議ではない。見入ってる人達にとっては尚更のことだと思います。

なのであの台詞が出てしまったのは、完全に役者である彼女自身の不安の表れ。あまりにも筋書きと違うことが起こっているから、全てが不自然なことだと思えてしまっていたのでしょう。

「これはトラブルだから仕方がない」と自分自身を落ち着けるために出てしまったのがこの台詞。彼女が役者として洗練されておらず、ああいうアドリブが要求される芝居に慣れていないことを一言で示す台詞でもあります。

映画的にも一言で物凄く色々なことを表現しているキラーワードであり、決め所の1つと言って良いと思っています。

映画後半でこの台詞が再登場した時には「言っちゃったw」という笑い声も館内に響いてて良かったですね。そういうことを全部ひっくるめてあの台詞を『カメラを止めるな!』という作品の中に取り入れている。

いやーもう本当最高です。この台詞が個人的にはこの映画で最高です。

違和感に全て回答が返ってくる後半戦

挙げ出したらキリがないので上の範囲に納めさせて頂きました。

『カメラを止めるな!』は劇中劇「ワンカットオブザデッド」でとにかく沢山の違和感を覚える作品です。そして、それに対し後半の製作シーンで全て回答してくるという構造。

本当に"全て"回答してきます。

少なくとも僕が覚えた違和感には全て理想的と言って良い回答が返ってきました。

マニアや業界人というのは、良い映画を絶賛するのも好きですが、悪い映画の悪いところを指摘するのも同じくらい好きです。劇中劇はそういう悪い指摘をしたいところが詰まりまくった作品だったと言えます。

別に粗探しをしていなくとも、自然と悪いところが気になってしまうように目が肥えている人も多い業界。

それを見越して想像して、敢えて気になるように創られたのが前半の劇中劇です。「ここ気になったでしょ~?」とニヤニヤしながら近付いてくる上田慎一郎監督の姿が目に浮かぶようです。

様々な作品を観たり創ったりして、気になってしまうところが多くなればなるほど術中にハマっていく。監督の掌の上にいることを痛感させられる。

「負けた負けた!お前の勝ちだよ」と謎上から目線で言いたくなってしまうほどその部分がよく煮詰められています。

しかも後半戦のリアリティがすごい!
映画を面白くするためのわざとらしい展開は最小限に「実際にありそうな話」だけで笑いを積み重ねて行くのが『カメラを止めるな!』の本当に素晴らしいところ。

実際に舞台や映画を創り上げる際の問題点や物理的トラブルを軸に、起こってもおかしくないことだけで展開。それを冷静に見れば滅茶苦茶な方法、あの場では最良の方法で何とかクリアして行く姿は美しくもあり滑稽でもある。

笑っちゃいけないんだろうけど、つい笑ってしまう。正に「シリアスな笑い」を楽しめる作品です。これほど洗練された"創り"で勝負している映画はなかなか見ることができないのではないでしょうか。

笑いだけじゃない!真に迫った映画制作の在り様

僕は映画撮影はほぼ経験がないんですが、舞台演劇の経験はあります。

『カメラを止めるな!』は映画を撮る映画を撮る映画ですが、リアルタイムワンカットものということで、本質的には演劇の裏側を描いた作品と言っても良いと思っています。しかしながら演劇ではなく映画の撮影ならではの特殊性もストーリーには絡んできます。

中小劇団系の舞台よりも「大人の事情」が絡みやすい映像文化の世界。人間関係のしがらみも大きいもの。そういった物創りの大変さを前面に押し出すこともテーマにされていたと思います。

やり辛い役者を上手く使わないといけない難しさ。クライアントは絶対、あまり強く言って参加者にそっぽを向かれたら最後という雇われ監督の苦悩。

生きて行くのに現実的な選択をした仕事人、映画監督の父。そのうだつの上がらなさに辟易するドリーマー、監督志望の娘。

など、人間関係や家族問題も短い時間の中で取り上げます。遊びと誤解されやすいクリエイティブな仕事の本質的な難しさとも向き合っていると思います。

こういった問題を抱え、全てにおいて険悪な雰囲気を残したまま本番を迎えてしまったことには、大きなドキドキ感がありました。

37分の映画を実質的に2回流す都合上、こういう人間関係などの話に時間を割くことができません。ですが、この映画はこれらの問題を使える時間の中で最大限配置し、懸命に関わった人達の生き様を描き切っています。

その人間関係の解決を、劇中劇のトラブルを解決とリンクさせることで同時に行っていくというのがにくい創りです。

創っている最中に色々トラブルがあっても、最後までやり遂げたその達成感から、人間関係のわだかまりが解決されることもあります。これは参加者が一同に会してリアルタイム進行する舞台ならではの魅力であり、このストーリーの動かし方もまたリアルです。

仕事としての映画創りの難しさをテーマの軸にしながら「舞台の面白さ」も謳っているという、作品創りの面白さを追体験するのにも優れた作品です。

最後に皆が笑い合いながら、やり切った笑顔でエンディングを迎えて行くという清々しさは、他ではなかなか感じることができない独特な一体感かと思われます。

それをこの映画を鑑賞している人達全てが共有することができる。『カメラを止めるな!』はそんな映画なのです。

普通の人が観てどう思うのか…という話

『カメラを止めるな!』は口コミから大きく広まっていった映画です。映画ファンではなく「流行っているから」という理由で観ている人もたくさんいるのではないかと思います。

個人的に気になるのが「そういう人達はどう思っているんだろう」ということ。

作品鑑賞はジャンル問わず、一度その世界に入ってしまうと知らなかった頃には戻れないものです。

新しい見方を身に付けてしまうともう忘れられないのが普通。なので、作品製作にどっぷり浸かれば浸かるほど、それを知らなかった頃の楽しみ方が分からなくなるのです。

例えば「ゾンビ映画なんて1本も観たことないよ」という人は前半を観てどう思うのかなどは、映画好きにはもう全く想像ができません。

他のゾンビものを観たことがある人からすればチープ極まりない創りですが、映画を観ない人はそういうことも分からないでしょう。カメラが1台なことについても、最後まで気付かずに観ている人も一定数いると思っています。

映画創りや舞台裏のことなんて何の興味もなかった人達もいるでしょう。そういう人達は、後半を観ても実感が全く湧かないかもしれません。

マニアや業界人がどう楽しんでいるかは想像に難くない作品です。ですが、そういうことに疎い人、詳しくない人が観た時に果たしてどんな感想になるのか、非常に気になるところです。

しかもこういうブログとかレビューとかを書く人は、概ね「普通じゃない人」ですからね…。詳しく知る手段自体ほぼないと言えるのですが…。

実際のところ「なんかよく分かんないけど面白かった!」で良い作品だとも思います。そして、もしこの記事を読んでいる人の中にそういう方々がいらっしゃったら、これだけは伝えておきたい。

映画はもちろんフィクションですが、その中身は限りなくリアルに近いものです。あれは誇張してあのような面白さになっているのではなく、実際にやっていてもああいう面白いことは頻発します。

『カメラを止めるな!』で感じた面白さと難しさ、大変さをリアルで共有しながら現場の人達は頑張っています。

もし映画を面白いなと感じたのなら、それはその現場の面白さを間違いなく疑似体験できていると言えます。その気持ちは1つ胸に残しておくと、今後の作品鑑賞がまた楽しくなるはずですよ!

まとめ

『カメラを止めるな!』はゾンビホラーの皮を被ったコメディ作品です。

コメディでありながら、作品創りの本質的な部分に切り込んだ意欲作。しかもその練り込み方があまりにも緻密で分かりやすく、素晴らしい。

間違いなく邦画の歴史に名を刻む1作になるでしょう。

中を知っているからこそ存分に楽しめた人もいると思います。中を知らないからこそ革新的な体験になった人もいると思います。

ですがこの作品が面白いという事実は、誰が見ても変わらない。そう断言しても良い作品です。

人の数だけ気になったところがあり、そしてそれに回答が返ってくる楽しみがある。見え方は人それぞれですが、感じるものには共通した面白さがある。そんな作品です。

この記事は創作者としての観点も持つ僕が、どう見たのかという内容を中心に執筆させて頂きました。「なるほど~そういう見方もあるのか」という点が1つでも見つかったのなら嬉しく思います。

この記事を読んでいる人達は、恐らく映画を観て来た人がほとんどかとは思いますが。まだ観ていない方は是非ご家庭などでご鑑賞を!

  • この記事を書いた人

はつ

『超感想エンタミア』運営者。男性。二次元イケメンを好み、男性が活躍する作品を楽しむことが多い。言語化・解説の分かりやすさが評価を受け、現在はYouTubeをメインに様々な活動を行っている。

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