目次
"愛"を与えるプリズムショー
目覚めたシンは仲間達に囲まれ、医務室で現状の確認を行います。その中で自身が何をしていたのか全く覚えていないこと、どうしてこんな結果が生まれてしまったのか、思い当たる節が全くないことを改めて伝えます。
あまりのことに戸惑いの態度を隠せない仲間達でしたが、彼の発言を疑おうとする者は誰もいませんでした。今までシンと積み上げてきた関係性から、シンがこういう場面で嘘をつくような人間ではないことを知っているからでしょう。そして"あのプリズムショー"をシンがやったこと自体信じられていなかった。
「僕は一体…何をしたんですか…?」
カケルが手に取ったタブレットを利用する形で、録画されていたシンのプリズムショーの確認が始まります。そこに映し出されたのは身の毛もよだつあの光景です。
「僕なら…もっともっと煌めきを放つことができる!」
見せつける滑走中心の演技
「愛してる ただ」
「愛してる いま」
「生きてる以上の幸せあげたいのさ」
深淵を思わせる暗黒の背景
流れ落ちる汚泥と血液を混合したような水柱
「愛してる ほら」
「愛すればいい」
「君の目には僕しか映せない」
かつてない演出で幕を開けた"彼"のプリズムショーは、非常に不安定なマイソングも相まって「煌めき」とはほど遠い脅威と恐怖に包まれたものでした。
当然衣装もレオがデザインしたものではなく、曲もユウが作曲したものではありません。完全に全く誰も見たこともないものだけで彩られ、一条シンのステージは始まってしまいました。
(追記)
このショーの恐怖を煽る演出として効果的に用いられているのが、楽曲よりも映像が先行しているという点でしょう。
プリズムショーは基本的に映像と音楽が同時か、何かしらの音演出を先行させることでキャラの空気感を創ってからショーが始まります。ところが今回の"彼"のショーでは、曲が始まる前に一瞬だけ自信に満ち溢れた"彼"の顔が挿入されるようになっているのです。
恐らくシリーズ内で唯一の完全に音よりも映像が先行しているショーであり、その特異性がより際立っています。無音で急に挿入される顔面と同時に、そのおどろおどろしい背景が強烈に印象付けられます。
そしてそのまま、不協和音全開のシンフォニックサウンドである恐怖ソング「プラトニックソード」が流れ出し、開幕から気持ちの整理が付かせないまま"彼"の空気に飲み込まれてしまうという凄まじい映像作り。
しかも背景には巨大なシャインの影が眼を光らせていて、それに気付いてしまうともう恐いとかいうレベルでは無くなってしまいます。背景にシャインがいるのではなく、背景がシャインなので、全体をよく見てみて下さいね…。
(ここまで)
今まで何かに取り憑かれて行うショーや性根が悪に染まった者が行うショーもあり、辛く厳しい展開も決して少なくなかったこの『プリティーリズムシリーズ』ですが、それでもプリズムショーだけは常に明るく前向きな内容を貫いてここまで来たと思います。それが逆に不気味であるという演出はありましたが、直接的に人に恐怖を与える映像が流れたことはありません。
だからこそ"満を持して"流れたこのプリズムショーは、関連シリーズを見ていれば見ているほど「ありえない」ことが伝わってくる幕開けだったと思います。
紛れもなく一条シンの姿でありながら、そこに立っているのが一条シンではないことが伝わってくる3Dモデルのこだわりは凄まじい。特に見開いた目から伝わってくる冷酷さと、形式的に固められてしまったような無機質な笑顔は、それだけで見る者を磔にする力がありました。
それだけ闇に振り切った演出にも関わらず、彼の身体からは常に煌めきが放出されているのを確認することができます。キラキラと輝きながら、見せつけるように自分のショーを行います。
普段は展開やキャラやショーの内容も煌めきに包まれているので、その身体から輝きが出ていることは演出上の1スパイスでしかありません。ですが今回はその全てが煌めいていないせいで、彼の身体からだけ煌めきが放出されていることにどうしても目が行ってしまうし、それがとにかく不気味で恐ろしい。
彼のショーはどちらかと言うとダンスよりもフィギュアスケートの滑走に近い動きが多めに取り入れられており、個性のあるダンスで魅せるというより「形式的な美しさ」を追求した形に収まっているように感じられます。正にショーの内容ではなく「自分を見せる」ことに重きを置いた構成です。
他のキャラよりも長く見せつけるように展開される滑走パートは永遠にも感じられ、その後に飛ぶであろうプリズムジャンプがどのようなものであるかの期待感と共に、何が飛び出すか分からない恐怖心も同時に煽られます。ゾクゾクと…観る者の心を掴んで放さないシャインの悪魔的魅力に囚われて行くようです。
スピンと共に彼の周りに集まるのは七色の煌めき。それらから祝福を受けず自ら吸収して行く様は、過去に速水ヒロや彩瀬なるらが成し遂げた煌めきの具現とは全く異なる異様な光景でした。
悲しき孤独な飛翔
「プリズム――アクセル!!」
その観客(鑑賞者)の気持ちを知ってか知らずか、彼が繰り出したジャンプは「プリズムアクセル」と呼ばれるシリーズ初登場の大技でした。7人に分身したシンの身体にはプリズムフェザーが生え、その全てが宙を舞います。
『RL』を見ているファンにとってプリズムフェザーを用いた連続ジャンプ演出は、ストーリー後半で真の煌めきを得た女の子達が行った感動の具現。極めてポジティブな存在です。その思い出を上書きするかのように、シャインは真反対の印象を我々に植え付けていくのです。
「シャイニング・無限ハグ!」
1つ目のジャンプからシンの十八番「シン・無限ハグ」ほぼその物を飛んで魅せます。反転演出により、そのジャンプが同じ演出でありながら全く別のものであることを伝えてきます。
「ヘブンリー・キーッス!」
続いてはコウジが使用する「はちみつキッス」のレベルアップジャンプ。演出はほぼコウジのものと同様ですが、襲ってくる唇の質感がクオリティアップしているので最早何と言って良いか分からない、文字通りヘブンリーなプリズムジャンプに。
「ひらひら開け! 愛の花!」
3連続目はルヰの使用する「ひらひら開く恋の花」のレベルアップジャンプ。波のように押し寄せる薔薇の花は、観客を飲み込むように覆っていきます。7話で見せたレオのプリズムジャンプを見てからこれを見ると、いかに彼の拡げ方が暴力的なものであるかが伝わってきます。
「愛してるよ…」
「君の中には僕がいる…」
「気付いているかい?」
「アンリミテッドラブシャワー!」
4連続目は『RL』でりんねの使う「スターダストシャワー」のレベルアップジャンプ。ですが、この技は元々『オーロラドリーム』に登場する天宮りずむのジャンプであり、「アンリミテッド」は『ディアマイフューチャー』で彼女が飛んだ到達点的の1つです。
『RL』では過去作に登場したジャンプの多くは演出の短縮化が行われており「スターダストシャワー」も例に漏れませんが、シャインが飛んだ「アンリミテッド」の演出は『DMF』でりずむが飛んだものに揃えられています。
ここで過去作を見ている人の一部が感付いたと思いますが、「無限ハグ」「ひらひら開く恋の花」「はちみつキッス」も初登場は『AD』であり、それぞれメインキャラクターのショウ、あいら、みおんが得意技として使用したジャンプです。
そこまでは全て『キンプリ』でも使用されたジャンプだったので「他のスタァが飛んだジャンプをレベルアップさせて使っている」と判断できましたが、この「アンリミテッドラブシャワー」の存在によって「シャインは『AD』のキャラのジャンプを飛んでいる」が正解だったことが分かります。それが脳内で一瞬で切り替えられるように、過去の演出をそのまま引用してきているのがにくい。
「いとしい…」
「傷をつけてあげる…」
「デンジャラスベイビーフェイス!」
響ワタルの名前の由来にもなっていると考えられる、『AD』の男性スタァ ワタルのプリズムジャンプをそのままの形で披露。『AD』には男性スタァの3Dプリズムショーは存在しないため、この技は2019年になって初めて3D映像になりました。
顔や表情を強調したこのジャンプは、まるでシンとシャインの狭間を突き詰めて行くような内容。直前の威圧的な滑走パートと相まって、我々に強烈な印象を与えて行ったのは言うまでもありません。
「君のハートに…マ・ナ・ザ・シ!」
再び『AD』ショウのプリズムジャンプ。
「目で殺す」と言わんばかりの謎ラブビームで観客を攻撃。歓声なのか悲鳴なのか分からなかった観客の声が、だんだんと悲鳴に寄ってきているように感じられます。こちらも初めての3D化映像の披露となりました。
「すげぇ…!」
「何て技だ!?」
「連続ジャンプ…!」
「いや同時に放っている!」
「メーター振り切っちゃってるよん!?」
ここで「プリズムアクセル」が連続ジャンプではなく、分身したシャインによる「プリズムジャンプの同時発動」を行う技であったことが明言されます。これらの技全てを、観客が同時に受けていると考えるとその威圧度は計り知れません。
「駄目だシン!」
「オーバードーズを起こすぞ!」
もうこっちは10話の時点で起こしてるよ!
何言ってんだ聖!
「何もいらない 愛すればいい」
「幸せに委ねて過去も捨てよう」
ここまではシャインの分身が飛んできたプリズムジャンプ。最後のジャンプは、いよいよシャイン本体が飛ぶジャンプです。ここまで『AD』のジャンプで揃えてきたシャインが魅せるのはもちろん…
「オーロラライジング――」
ジュネやルヰなどプリズムの使者が魅せてくれたこの大技も『RL』では前半の飛翔演出がカットされているという特徴がありました。シャインは当然のように「カットされていないオリジナル」を引用し、構えます。
「ミラージュ!!」
「彼女達のジャンプじゃなくて本当に良かった」
そう思ったのは僕だけじゃなかったはず…。「オーロラライジング」は『AD』という作品の到達点であり、その進化には様々な心の煌めきが込められています。
シャインの飛んだ「オーロラライジング・ミラージュ」は彼だけのオリジナルジャンプです。「蜃気楼」「叶わない夢」という意味がある「ミラージュ」は、『AD』であいら達が辿り着いたそれとはまるで正反対の価値観の具現。「僕だけが煌めきを広められる」悲しく孤独なジャンプであったと思います。
「分かったかい?」
「僕が一番…皆を"愛する"ことができるってことを!」
愛(恐怖)の込められたジャンプ
この一連の「プリズムアクセル」ですが、前半の滑走パートとは打って変わって「他人に届けるジャンプしか飛んでいない」のが本当に滅茶苦茶恐ろしいと思っています。彼は急に見せつけるのをやめ、ただひたすらに観客のことを想ったジャンプを飛び始めるのです。
そのせいかジャンプになった瞬間から、彼が「一条シンに見え出す」ことへの嫌悪感が我々を襲い始めます。これはそもそも、シンのジャンプがシャイン由来の煌めきによって齎されているものだから「同じ傾向のジャンプを飛んでいるのは当たり前」と言われればそうなのですが、それ自体受け入れ難い現実に違いありません。
前半、どう見ても一条シンにしか見えない人間が「一条シンではない何か」と分かる形で、絶対に彼がやらないプリズムショーを始める。にも関わらず、後半では「一条シンがジャンプを飛んでいるように見える」。でもそれが一条シンではないことは確実に分かっている。
歌も声も、最初はシン個人の声でシャインの言葉を喋っていたはずなのに、徐々にシャインとシンの声が混ざり合い、最後にはどちらがどちらの声か完全に分からなくなってしまうレベルで同化してしまいます。似ていると思ってはいたものの…寺島くんと斎賀さんの声がここまで親和性が高いとは…。
裏の裏の裏の裏まで「シンとシャイン」の感覚的な差を綿密に練り込んだそのプリズムショーは、鑑賞者たる我々に全く感じたことのない悪感情を与えるように創られており、シリーズファンであればあるほど、そしてシンを愛していればいるほど、そのダメージは大きくなります。
結果として恐怖に震えるPRISM.1の観客達と鑑賞者を高次元で同化させることに成功していると言えます。「飲まれる」とはこういうことを言うのかと思わずにはいられません。
四章鑑賞後、結局彼のプリズムショーが一番頭から焼き付いて離れないという方は多いと思います。それほどまでに、彼のショーは良くも悪くも衝撃的で恐ろしい内容だった。そう断言できるものでした。
性差による感じ方の違い
全てを魅了し尽くし、満足げにショーを終えたシャインを待っていたのは観客からの大歓声ではありませんでした。それどころか、声を上げる人間は1人としていません。
そして大会上の判定は「0カラット」
シャインのショーは凄いだけで、誰の心も動かすことができなかったと判断されたのです。
「次はもっと、もーっと"愛して"あげるね」
それでも全くそんなことを意に介していないかのように、まるで自分のショーは大成功を収めたと言わんばかりに彼は独り達成感を噛み締めるスタァとなっていました。
「Ver.2.01アップデート」の文字が表示されると同時に、シャインの意識は落ちシンは倒れ、物語の冒頭に繋がります。彼はあれだけのショーをしていながら、まだVer.1だったことが判明。ルヰが「りんね」Ver.4.11であることを考えると、彼がどれだけおかしな能力を持っているかが分かります。
彼が『AD』のジャンプを中心に飛んだこと及び滑走を中心とした演技になったのは、彼がこのVer.1=そなたプログラムの直後に作られた存在であることを示していると思われます。彼のショーは単純なオマージュではなく、ストーリーに沿った演出であり情報と捉えておく必要がありそうです。
加えてここでチェックしておきたいのは、男性陣の反応です。
観客である女性を恐怖に震え上がらせてしまったものの、エーデルローズの仲間達や仁やジョージは0カラットという得点に驚きの表情を作りました。仁に至ってはシステムエラーの可能性を考え、真田を糾弾するに及んでいます。
つまり男性陣は「あのショーに得点がつかないのはおかしい」という気持ちがあり、女性とは違った価値観でシャインのショーを観ていたことが分かります。女性的な側面を持つレオがダメージを受けていたことを考えると、性差にこだわった演出なのは間違いなさそうです。
ここで1人の男性ファンとして僕の価値観でこの状況を解説しておくと、確かに僕はシャインのショーを観た時に「恐怖に震え上がる」という感情はありませんでした。どちらかと言えば「威圧された」という感覚が適切で、その理由に「恐ろしさ」というものが一部含まれているといったイメージです。
男性として『キンプリ』を応援するということは、同性のキャラを応援するということになりますが、こういった場合キャラと自身の同一視が少なからず評価に影響します。「自分と比べてどうなのか」という価値観が必ずキャラやストーリーを見る時の評価軸に存在するのです。
個人的な感覚ですが、僕はその比較の際に「自分より凄いものを見ることに感動を覚える」タイプで、これが困難に立ち向かう同性キャラの物語を好むことに繋がっています。ですので、シャインのショーについてもやはり「凄いものを見せられている」ことへの感動はありました。
あれは酷い内容であると分かっていながらも、心を動かされている自分の存在を否定することはできない。だから、0点という評価がつくことには納得が行かない。自分がその場にいる人間の1人だったら、僕はそう思ったと思います。
彼らの驚きはそういった感情によるものだったと僕は捉えています。ですが女性からすれば、異性からの行き過ぎたアプローチは純粋すぎる恐怖の対象であるのは紛れもない事実。
その男女の感覚の違いまで内包してストーリーが練られていることには脱帽です。『スッスッス』が全編通して性別問わず魅力を感じるストーリーになっているのは、こういった部分への創り込みの強さもあるのかもしれませんね。
その中でジョージだけが「何でもやりすぎは良くねぇんだよ」と0カラットである理由を理解しているのが面白いです。彼はパフォーマーである前にアイドルとして、他人に何かを届けることの本質性をよく捉えているのだろうと思います。この点、仁を既に超えています。だからモテるんだろうな。仁とか聖ってモテるタイプには見えないし。
困難を分かち合える仲間達
全てを見終わり、自身が行った(ことになっている)プリズムショーの現実を知ったシン。
記憶にないばかりか、自分が歌った曲を「映像を見て初めて知った」と言い、またも仲間達を驚かせてしまいます。ショーが記憶にないことは何らかのショックによる記憶喪失でまだ説明がつきますが、曲を知らないというのは流石にありえない現象だからでしょう。
「僕、大会の人にショーをやり直せるか、聞いてきます…!」
「んなもん無理に決まってるだろ!?」
シンからすれば「絶対に自分がするはずもできるはずもないショー」が映っているのですから、この発想に至るのは当然です。しかし、シン以外の全ての人間は「一条シンがステージでショーをした」事実を知っているし、理解しています。仲間達はシンを信じているとしても、その申し出に正当性がゼロなことは分かってしまいます。
そしてその間にシュワルツローズのユニットショーが終了。THEシャッフルの獲得したスコアにより、エーデルローズとの得点差が20,010カラットになってしまいました。これではシン達がユニットショーでフルマークを獲得しても逆転は不可能。シュワルツローズの勝利が確定です。
エーデルローズの敗北=エーデルローズの解散。
シン達はユニットショーを披露することもなく、自分達の居場所が失われることが決まってしまったのです。
シンはどれだけ自分を責めたことでしょう。
『キンプリ』では想定外、『キンプラ』では自身が飛べるか不確定という厳しい環境でしかショーをしてこなかったシンにとって、今回は(作品内で)初めて自信を持って行えるソロショーになるはずでした。それは9話10話で彼が見せた余裕に満ち満ちた態度からも明らかです。
それがどういうわけか、仲間が用意してくれた曲も衣装も使えず、自分が考えていたショーもできず、気付いたら演目は終了。結果は、大好きなプリズムショーで「誰の心も動かせなかった」という痛烈なものだった。しかもその結果のせいで自分達のエーデルローズが潰れることまで確定してしまった。
極度のマイナスが幾重にも重なり合う状況。とても高校一年生のシンが背負い切れる困難ではありません。
「ごめんなさい…僕はとんでもないことを…」
しかしながらエーデルローズの仲間達は、その困難を彼独りに科すことを許しませんでした。それは、10カラットという点差によって齎されていたと思います。
確かに物理的な事情で言えば、判断ミスによる大幅減点を招いたタイガと不測の状況を招いたシンは避けようのないディスアドバンテージを抱えています。その精神的ダメージは想像を絶するでしょう。
でも彼らは誰一人としてそうは考えなかったと思います。「10カラットであれば、誰かがより完璧なショーをすることで可能性を残せた」そちらを重く見ていたと感じました。
彼らは決して仲間を責めることはしません。どんなに普通ではない状況でも、シンのことを想っている。タイガが減点されても「残念」の一言さえ言わない。その分前向きな言葉をかけられる。そして「自分があの時もう少しでも頑張れていれば」と思うスタァ達です。
後悔先に立たず。ベストを尽くさなかった者は誰もいないはず。けれど、それでもあと一歩を突き詰めればエーデルローズを潰さずに済んだのではないか。何か1つでも違えば逆転できたのではないか。あそこにいたのは、その痛みと苦しみだけを全員で分かち合える最高の7人でした。
指導者としての理想
「まだ終わってない」
哀しみに暮れ、自分達を責める彼らを見た聖は彼らに言います。「俺は今まで…」と、エデロ生の前で"俺"という一人称を使って話し始めます。個人的な想いを込めたからでしょう。
「皆がエーデルローズのために創ってくれたショーを、見せてくれないか」
今まで散々強がりを言いながらも、その実エーデルローズが潰れることを誰よりも避けたいと思っていたのは聖のはず。その聖が決して顔を歪ませることなく「この7人なら、より大きなプリズムの煌めきを広めることができる」と、彼らの可能性だけを信じて声をかけた。その姿は有能な指導者の姿そのものでした。
…しかしその感動に水を差すようですが、ここの聖さん、良い感じのことを言っているように見えて「エーデルローズに固執しなくても皆がショーを続けてくれていればそれでいい」といったことを口走っており、イマイチ彼らの想いの本質を理解できていないのでは?と思わされました。こういうところは本当相変わらずだよなぁと思った次第。
でも今は話の内容よりも「氷室主宰が前を向いて自分達に声をかけてくれている」ということが、彼らにとって最高の心の支えになったのは事実だと思います。
「お前達! エーデルローズ史上最高のショーを、魅せようじゃないか!」
最後に彼らを奮い立たせたのは、縁の下に回ってくれている山田さんの鼓舞。彼含め、全員が揃ってエーデルローズは今の形を維持することができていたんだなと感じさせてくれる一幕でした。
「皆を笑顔にするショー」ができる少年
聖の言葉に奮い立ったエーデルローズの7人はその期待に応えるべく、結果よりも大切なものを胸に秘めユニットショーの舞台に立つことを決めます。それは、目覚めたばかりで万全の体調ではないシンも同様です。仲間達が、休んでいればいい、大丈夫だと優しく声をかけても、彼は前を向くことはやめません。
「僕は僕のショーを見て、すごく腹が立ちました」
あんなのは自分のしたかったショーではない。自分ならもっと、"さっきの自分"よりも「皆を笑顔にするショー」ができる。自分の失敗を取り戻せるわけではないけれど、自分はもう一度ステージに上がって、僕は皆を笑顔にしたい。そう言い切ります。
シンは起きた出来事その全てを背負って再び舞台に上がることを決めたのです。それが全く身に覚えがないものであっても、自分がしたことに違いないと。この時のシンくんは、やはり彼がシャインとは別人であると強く思わせてくれる顔をしていました。
確かに今の時点では、一条シンに宿った煌めきはシャイン由来のものであるとせざるを得ない状況にあると思います。しかし、それはあくまで力の源泉がそこにあるだけ。それをどう使い、どう挑むのか。どう自分の心を煌めかせてプリズムショーをするのかは、一条シンという個人に100%委ねられているはずです。
シャインが『AD』のプリズムジャンプを参照している使者だとしたら、少なくともシンが飛んだ「サンシャイン」ジャンプはシンにしか飛べないジャンプということになります。「プリズムラッシュ」は、彼が生み出したシャインには使えない必殺技です。
シャインはシンが「オーバーザサンシャイン」を飛んだ時、「りんね…"僕を殺さないでいてくれて"ありがとう」と言いました。これは自分が現世にいた時に見られなかった景色を、シンを通して見ることができたという気持ちの表れではないでしょうか。
一条シンは平凡に育った、ごく普通の男子高校生なのかもしれません。でも彼はその身に宿したシャインの力を正しく使い、誰よりも「皆を笑顔にするショー」ができる少年でした。シンだからこそ、エーデルローズを引っ張ることができたし、7人をまとめることができたのです。
それは力の所在なんかよりも、ずっと大切なことであると僕は思います。
太陽の「輝き」を「超える」のが「オーバー・ザ・サンシャイン」。そしてあの時、「新しい太陽」を登らせたのが「ライジング・サンシャイン」のはず。シャインが離れたとしても、彼は彼の持つ心の煌めきを持って、きっと彼だけのプリズムショーをすることができるでしょう。
「僕、生まれた!」
『AD』から引用されたあの台詞には、絶対に何か大きな意味が存在しているはずです。そして無数のシンが誕生し皆に煌めきを届けたあの技には、シン本人の煌めきが含まれていたと僕は信じたいです。その答えが明かされる日が来ることを願って、応援し続けて行きましょう。
シャインに囚われた10話と対を成す形で、決意に満ち満ちた横顔を見せてくれた一条シン。彼が仲間達と作る、最後のステージが幕を開けます。
「……皆さん、僕に少し、時間を貰えますか?」
おわりに
とんでもない記事になってしまった…。
困難と挫折を乗り越えて成長することが作品の大きなテーマであるこのシリーズにおいて、一条シンが間違いなく最恐最悪の役回りを与えられてしまったのは間違いありません。
そもそもシリーズでこういった立場に回るキャラは何かしら本人にも問題がありましたし、その贖罪を兼ねてキャラとしての成長が描かれることがほとんどでした。シンくんは恐らく別に彼自身は何も悪いことをしていないのに酷い目に遭っている唯一のキャラになってしまいました。
痛めつけられるだけ痛めつけられ、過去の偉業にも全て悪魔たるシャインが絡んでいることを突き付けられ、しかも本人はその理由を現段階では一切把握することができず、『スッスッス』1回しかない担当回であるにも関わらずソロショーまで"他人"に奪われるという、完全すぎる「彼が一体何をしたって言うんだ」状態。
四章丸っと見ればその場でカタルシスを楽しむことができますが、本放送は1週間お預けが確定。この11話だけを見ると本当に闇&闇を煮詰め尽くしたロクでもない展開すぎて「よくそんなことが言えるなッ!?(CV:神浜コウジ)」となってしまいます。邪悪すぎますよ…。
だからこそ、この記事では一条シンや仲間達に寄り添った救いの部分をできるだけ多めに書き込めるように努力してみました。一方で、その他の部分ではあの映像から受けた衝撃的な記憶をフラッシュバックできるよう、邪悪な部分を強調した語り口になるよう意識してみました。
結果10話を上回るどころか、このブログに存在する全記事で最長になってしまいましたが、全て含めて読み物として楽しんで頂けましたら幸いです。これだけ書き込ませてもらえる30分アニメの1話って凄いですよね…。
残すところあと1話になりました。最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
「僕は皆を笑顔にしたい」
そんな気持ちで続けて参ります。
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