初めて抱いた自分だけの感情
そんな一男がプリズムショーと出会い、カケルとしての人生を歩み始めたのもまた自身がP.R.I.S.M.システム開発の統括になったからというもの、つまり仕事の一環でした。プリズムショーが持つ愛に近い項目のデータを数値化すると途方もない大きさを叩き出すことに驚愕し、興味を持ったのです。
「もしかするとこれは…"愛"なのか…?」
様々な経験から本当の「愛」を理解できずにいた一男にとって「パラメータが高い」ということは、絶対に信頼できる価値観になっていたのでしょう。愛があるなら確かめてみたい…そう思わせるほどに、彼にとってそのデータは興味深いものだった。
「そして――俺も翔びたい…!」
しかし彼がエーデルローズの扉を叩いた理由は、数値の高さでも仕事の延長でもありませんでした。そこにあったのは「自分も翔びたい」という強く大きな感情のみ。幼少期以降、きっと彼は初めて自分の感情の動きを実感したのではないでしょうか。
感情を数値化することにこだわる彼こそが「やりたい」という最も数値化できない自分の感情でスタァとして在るのは大変な皮肉でありながら、本当に喜ばしいことこの上ないものです。
出会いは仕事だったけれど、挑戦を選んだのは自分の心。決してしがらみから逃げるわけでもなく、仕事のための研究として向かったのでもなく、ただ自分の心の動きに正直になった結果が十王院"翔"のスタートだった。これを知れたことが今回の話で最も重要な部分だったと僕は思いました。
どうでもいい話なんですが、ここで流れたのが「ハート イロ トリドリ~ム」だったのは6話でアレがアレする伏線(※ご新規さん向け)だったんだろうなと…。こ、構成の巧み…(超好意的解釈②)
そして惹かれ合うように、自分と同じく背負う看板を持つユキノジョウの存在を知り、声をかけます(どこかで見たようないきなり呼び捨ての構図だった)
カケルとユキノジョウの関係性
カケルが彼と大きく違うのは「逃げようと思えば逃げられる」というところでしょう。
別に自分が背負いたくなければ背負う必要はない(失脚させられても好きに生きることはできる)にも関わらず、自ら看板を背負うことを受け入れ、そのために最大限の努力をすることを選んでいる。それが自発的なものであるにしろないにしろ、その苦痛は計り知れないものだと言えます。
厳しくはされるものの常に愛される立場にあり、身の安全は保障されているユキノジョウには、だからこその「自分の道を自分で探し当てなければならない」重圧がより重く重くのしかかっていました。
逆に、先代から敷かれたレール(努力の方向性)は確実なものながらも、世襲制を良しとしない役員連中から常に自分の首を狙われているような環境で、独自の選択を強いられて生き抜いているのがカケルです。あの歳で「ハニートラップなんて日常茶飯事」と軽く言い捨てるような人生…。誰も信頼できなくなってオタクになるのも無理はない…。
広義では似ているようで、狭義で見るとカケルとユキノジョウの2人は、実は対極の存在であるとすら言えるかもしれません。
だからこそ、同じ境遇に身を置きながらも互いの違いを理解し「あいつの苦痛は俺達には分からない」と尊重し合う2人の関係性には心動かされるところがありますね。言葉だけ見ると一見冷たいように見えて、決して知ったかぶることも軽んじることもなく、本人だけの戦いの厳しさを理解しようとしている。男の友情。エモ&エモ。
その後一度はプリズムショー界にはびこる、既視感のあるしがらみの強さに辟易し失望しながらも、一条シンくんの登場により彼は再び立ち上がります。数値化できない「愛」を確かめるために、彼はまだ答えのない答えを求めて戦い続けているのです。
愛と共に翔けた自由なプリズムショー
カケルの本当の心を知ったメリナとリビングストンは「ここでプリズムショーを見せてくれ」とせがみます。そりゃ見たくなるさ。プリズムの煌めきは国境を超える。驚きながらもそれに応えるようにカケルのプリズムショーがスタート!
正直言ってストーリー的には唐突感がありましたが、決意のスタートではなく、なし崩し的なスタートというのが今のカケルの不完全さを象徴しているようで良かったなぁと。彼はまだ自分探しの途中なんですよね。
厳かなイントロからアゲアゲなテンションへの曲調変化が印象的なマイソング「Orange Flamingo」をバックに十王院カケルは愛と共に翔ける!今作は1シーン用に楽曲が製作されているため、長めのイントロを利用したショー演出が行える強みを最大限活かしています!
そして特徴的なのはそのプリズムジャンプ!札束に包まれたカケルが卵から再誕するように飛び出すトンチキ映像から衝撃のサイリウムチェーンジ!
特別なものではなく「過去に登場している演出」感全開でナチュラルに投入されたこともあり、監督からの「まぁお前ら当然見てから来たとは思うけど」という挑戦的なメッセージが込められているとしか思えない流れ(プリパラ未履修の俺無事死亡。チョロいオタクなのでこれを機に見ようと思う)
他の誰にもない演出に挑戦できたのは、彼が数多のプリズムショーを研究してきた知識人だからなのか、プリパラおじさんだから(劇場版おまけ映像参照)なのかは分かりかねるところですが、どちらであっても面白いからまぁ良いか!
他のキャラから特に「なんだあれは!?」という反応がなかったので、あの世界線でもサイリウムチェンジが既存の演出として存在している可能性もありますし、あくまでカケルの「プリズムジャンプ演出の一環」という位置付けで処理された可能性もあります。微妙なところですね。
七色のアゲアゲなサイリウムコーデを身に纏ったカケルの踊りは会場とその周辺のボルテージを最高潮に押し上げ、奇跡を起こす!
「天然ガスが出たァ!!」
ドカーン!
うるせぇ出るんだよ!
これがプリティーリズムだよ!
(※元々そういうシリーズです)
「景気が良いのを頼む」というリビングストンの言葉通り「本当に景気が良くなるプリズムショー」をするのが誰もが羨む跡取りの宿命を背負った御曹司!これが十王院カケルの「クラウド進化 カケルノミクスファンド」!超えてけー!!
すかさず2連続!
黄金都市を降臨させ、マダガスカルの動物達と共にアゲアゲフィーバーナイトを繰り広げる豪快なプリズムジャンプ!
これは劇中でメリナの言った「光で溢れた国」への想いと、カケルの現存するマダガスカルの自然へのリスペクトが融合して生み出されたプリズムジャンプだと考えます!この話の中でカケルが成長し、新たに得た価値観を(マダガスカルでは)たった2人しかいない観客へ、その彼らの気持ちと想いを込めたプリズムショーをPRISM.1の観客達へそのまま届けます!
今はまだムリ、でもいつかは実現したいその光景をたった一夜だけでも彼らの元へ届けたい。そんなカケルの「愛」が込められたプリズムジャンプがこの「砂漠のゴールドラッシュ ワンナイトヘブン」です!技名叫んだところの象さんの鼻が好きすぎて笑ってしまう。
カケルのショーは2連続ジャンプと回数で見れば決して優秀なショーであるとは言えません。しかしここで重要なのは、やはりカケルが他の人が決して挑戦していないスタイルのプリズムショーに挑戦したというところではないかなと。
連続ジャンプの回数よりも、1回のプリズムジャンプの濃さ(長さ)にこだわることで彼らしいプリズムショーを体現し、煌めきを届けてくれました。その結果は、8780カラットというスコアにも反映されているのではないでしょうか。
これは自分にしかできないプリズムの煌めきを体現したいとカケルが思っているということだと思うし、オンリーワンの自分自身「十王院カケル」を目指したいという若さとか感情の強さが乗っかってきているのではないかと解釈しています。
「ここにいる時くらいは、普通の高校生の太刀花ユキノジョウで良いんじゃない?」
あの台詞はきっと、自分に向けられたものでもあったことでしょう。彼もまた、普通の高校生の十王院カケルでいたいという気持ちが強く乗っかったプリズムショーだったと思いました。
「ありがとう!これでこの国を立て直せル!」
マジかよ(※マジです)
事業を大成功させたことで短期間でのダイナミック帰国を果たすことに成功!!すごいぜカケル!!すごい脚本だ!!正にプリティーリズムって感じ(しかし1話の「天然ガスたっか!?」が伏線だったとは…)
補足ですが、『キンプリ』公開中の頃、何かの折に「カケルは札束から裸で羽化するプリズムジャンプを飛ぶ」とか言ってたのを覚えていたので「マジで飛んでる!www」となってましたね。意外とそういうとこ本当にちゃんと拾って来てるんですよね今回…。
おわりに
2章は起承転結で言えば「承」に当たる話数。
全体の繋ぎとしての役割を果たす部分であるため最も盛り上げるのが難しく、安定した展開が求められるところだと言えます。
実際2章の3人は、現段階では「どうとでも動かせるが、どうなるか分からない」キャラ達だったと思っています。そのトップバッターを務めたカケルの話は掴みとして極めて重要になるものです。
謎のゴリ押し横文字攻撃とメリナの喋り口、池井戸ドラマパロにプリズムショー演出(TV放送版ではED映像)「天然ガスが出たァ!!」と、全体的にトンチキ要素強めに仕上げてきたこの4話は、2章の掴みとしてはバッチリですし、TV放送でも3話までとは全く違う『キンプリ』の面白さを体現してくれていたと思います。慣れすぎたシリーズファンよりも、初見さんの感想が気になる回ですね。
カケルは過去作で元々公開されていた設定の時点で複雑さが確定的でした。敵対するシュワルツローズと十王院財閥の結託など短期間で解決できない問題が山積みです。そうであるからこそ、簡単にまとめられない難しさを持ったキャラでした。
今回、彼はストーリー全体の繋ぎとしての役割を与えられたと言えますが、その結果ストーリーの盛り上がりは他のキャラに比べて控えめであったと言わざるを得ないところがあります。シリーズファンからはそういう評価や不満が出ていても不思議ではありません。
しかし『スッスッス』の本質は、彼らの始まりを描く物語だと思っています。
ユキノジョウは自分の生きる道を受け入れ、個人としてのスタートラインに立ちました。タイガは理解できなかったカヅキとの関係性を紐解き、自立への道を歩み始めました。
カケルはプリズムスタァ「十王院カケル」として、一男とは違った一歩を歩み出す物語を紡いでくれたと思います。
実際のところ、彼の人間的な物語の最も熱いところは「十王院一男」とどう向き合うかが本懐です。そして作中でも語られていた通り、彼はまだ一男と向き合うことができていません。ならその時を我々は待とうではありませんか。二期はよ。
物語の盛り上がりが不完全だったのは、彼がまだ不完全な証。全てのことに完全には折り合いを付け切れていない、ただ自分の感情に正直な男の子がやるプリズムショーが見れただけで、僕は今回満足でした。
ここであえて十王院カケルというキャラを描き切ることを選ばず、必要な事だけを重点的に語り、より味わい深いキャラに昇華させる選択をした製作陣の手腕は実にお見事でした。次こそは彼がより強く大きくはばたき、空を翔ける瞬間を我々に見せてください。お願いします。
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