輝ける地上の星 皆を照らす灯台の光へ
「どうしてこんなに美味しい料理が作れるんですか?」
今までに食べたことがないほど心と胃袋を鷲掴みにする料理を作り、その料理を活かしたショーをするコウジの存在に心を打たれまくってしまったミナトは、涙を流しながらコウジに問います。
「…それは君が今まで、とてもとても心の籠った料理を沢山食べてきたからだね。そしてきっと君も、そんな料理を作ってる」
「君はきっと、素晴らしいプリズムスタァになれるよ」
プリズムショーは心の煌めき。他人が心を込めて作った料理の美味しさを細部まで感じ取り涙を流せるミナトの心は、スタァとして十分な素質がある。同じ料理で人を喜ばせることができるコウジには、それが分かったのだと思います。
「凄い人なんだ!あんな人に初めて会ったんだよ!」
コウジからの話に感銘を受けたミナトは「凄い人」の後を追って、エーデルローズでプリズムスタァを目指すことを決意。それを見越して願書を出していたお母さんは、もちろんそれを快諾したのでした。進研ゼミの漫画に出てくる中学生みたいに見えてしまったのはここだけの秘密だ。
人前に立つことでなく、あくまで料理が全ての導入だったというのが実にミナトらしいアプローチ。この話があることで新入生の料理担当を引き受けることになったのも、ミナトにとっては「憧れのコウジさんの後ろを追いかけること」だったのかもしれないと思えるんですよね。
ですが、実際に入ってみるとそこに待っていたのは本当に才能溢れるスタァの卵たち。人前に立つことを得意とせず、動機もショーその物にはなかった田舎育ちのミナトからすれば、ギラギラした彼らは想像以上に異次元の存在だったのかもしれません。
人に憧れてエーデルローズに入ったという点ではタイガも状況を同じくしていますが、常にプリズムショーと憧れの人がセットだったとタイガと違い、ミナトは最終的な決断の理由がコウジの作った料理にありました。
つまり彼はプリズムショーその物に惹かれたのではなく、あくまで神浜コウジという人間に惹かれてスタァを目指し始めたということ。その分、ショーと向き合う志に他のメンバーとの差異があったと見ることもできます。決して彼が本気でないとは言いませんが、その本気度に差が出てしまうことはどうしても避けられないと考えます。
そしてそうだからこそ、彼はショーと自身の才覚について誰よりも冷静に見ることができる立場にありました。それが更に彼の劣等感を加速させてしまったし、自信をより失墜させる原因となってしまった。
他人の才能を認め、自分の才能のなさに絶望し、コウジの後を追いかける目標を捨てて実家に戻ることを考えていたミナト。母親の体調不良というのは、体の良い出戻りのキッカケになると踏んで帰省したのでしょう。
「地上の星」という選択肢
「ミナト、家に戻ってくるつもりなのかい?」
プリズムスタァとして"頑張っている"。そう顔に影を落としながら父に告げたミナトのことを、母親は決して見逃しませんでした。察しがいい。母と言いコウジと言い、この話の登場人物は揃いも揃って察しが良すぎる。
ミナトの本心を見透かしたかのように話しかける母には、流石のミナトも嘘をつくことができません。親の前で、誰にも言えなかった本音が、つい漏れ出してしまいます。
「皆、凄い才能の持ち主なんだ…僕なんか足元にも及ばない…」
「憧れていつか追い付きたいと思っていた人の背中を見ることすら、できなかった」
自分の力量を的確に見積もれるというのは、それだけで生きる才能だと思います。ミナトはそれを若くして持っているのでしょうが、それを持つにはあまりに若すぎる。努力で切り拓いて行ける道があることを、彼は知ることなく、知ろうとすることもなく人生のゴールを決めようとしていたのです。
それを感じた彼の父はミナトに大事な大事な話を始めます。
「お前は俺と母さんの子だ。才能はないかもしれない。空で輝く星にはなれないかもしれない」
「けんど、船達が目指す港の灯台の光、地上の星になることはできるはずだ」
空に輝く星を目指さなくても、今いる場所で光り輝くことはできる。目立たないかもしれないけど、世の中にはそうやって眩い光を放っている人が沢山いる。沢山の人達が地上の星となって光を放っているから、この世界は美しいんだとミナトに伝えます。
「若い内にしかできないことがある。"お前にしかできないこと"もある。最後まで諦めずに、頑張ってみたらどうだ?」
「ここにはいつでも帰ってこられるから」
両親は決して「上手く行く」とはミナトに言いませんでした。「私たちの息子なんだから」というありきたりな励ましをせず、凡人は凡人のままであるという残酷さを孕ませながら、現実感のあるアドバイスを彼に向けたのです。親子なんだなと思わされる瞬間でした。
けれども絶対に彼の在り方や選択を否定しようとはしない両親の姿がそこにはありました。ただ、他の選択肢もある。その選択は今しかできないことだから、挑戦してみてもいいはず。後からでもできることは、後に残しておけばいい。そのために家族という場所があるんだよ。という想いやり溢れる熱い会話だったと思います。涙が止まらない。
待ってくれてる人達がいる
そんな時にエーデルローズ生から届く連絡。コウジのカレーを食べてミナトの味を思い出し「ミナトのカレーが食べたくなった!」というものでした。これは前作『キンプラ』で、ミナトのカレーに見向きもしなかったヒロが、コウジのカレーをキッカケにして復活したのと全く逆の状況です。
ミナトはこのことに大変悔しい思いをしていたことが分かっており(冒頭で泣いていたのはそのため)、6話を通して描かれた彼の大きな挫折の主たる原因の1つになったと考えられます。
見ようによっては、ご飯事情や家事事情に困ったエデロ生達が身勝手にミナトを求めてしまっていると取ることもできます(って言うか今の山田さんの管轄って風呂以外どこ…?)しかし彼らはまだまだ子供ですし、むしろ失って初めて気付くという経験から周りのありがたみや大切さを学んでいくお年頃。今は、これで全然良いのだと思います。
何より「求められている場所がある」「自分に帰るべき場所がある」とミナト本人が感じられたこと以上に、この話において重要なことはないと思っています。
家だけが帰る場所だと思っていた、「港」になるべきは家族の元だとばかり思っていたミナトが、親の言葉と仲間たちからの連絡によって、エーデルローズもまた自分にとって帰るべき場所になっていることに気付きます。
「俺…東京に戻るよ」
決意を新たに目指すのはPRISM.1の大舞台。
自分の立場を割り切った彼だけができるプリズムショーが始まります。
母なる大地その物になるプリズムショー
「僕は皆を受け入れ送り出す…大きな"港"でありたい!」
父親から聞いた自身の名前の由来を自らの信念に掲げ直し、決意に満ち溢れた表情でミナトのショーはスタート。曲が良すぎるんだ曲が。曲が良い(語彙力の喪失)
幻想的な曲の入りと共に目に飛び込んでくる彼の吹っ切れたような真っ直ぐな顔と笑顔は、それだけで見る者の心を動かす力があると思います。この話の最大の魅力は、精神的挫折を乗り越えた彼が見せるこの温かみ溢れるダンスパートだと言っても過言ではありません。僕はここを見るだけで毎回号泣しています。
「俺のキッチンへようこそ!」
しかしジャンプ演出も決して負けず劣らずの凄まじさ!プリズム魚群を乗りこなし、肉も魚も野菜も何かも飛び出す海を渡る「俺のロマン、太平洋キッチン ミナトのお・ま・か・せ!アラカルト」は、コウジの「グルメ街道 東海道五十三次」をリスペクトした地元アピールの優しさに溢れるジャンプ!カツオを一突きにする豪快さはおじいちゃん譲りか!?
事前におじいちゃんから生ガツオを受け取るシーンが存在していることで、ショーの中にプリズムカツオが登場することもスッスッスッと受け入れることができるようになっており、細かいところで話の違和感がないような画面作りが為されているのもお見事です!
本作はショーも全体的に豪華な演出にこだわっているところがあり、何となく絵面と場の勢いで気持ちを持って行かれてしまうショーが多かった中で、純粋に頭がおかしいとしか思えない演出が多分に盛り込まれていたのがこのミナトでした。魚群から謎プリズムカツオに騎乗して滑走の衝撃!
プリズムカツオの登場により、一気に『プリティーリズム』感溢れるプリズムショーに。ああいうよく分からないものが出てくると「今プリズムショーを見ているな」という気持ちになりますね。冷静に見ていると絵面が面白すぎるのですが、感動しすぎていて冷静に見れていないことの方が多いです(初回は見入りすぎててカツオに乗ってること自体全然気づいてなかった…)
2連続目のジャンプは本作初となる宇宙ジャンプ(?)!高難易度技(??)でまとめてきました!シリーズ通して見ると宇宙に飛び出すことと太陽が絡むシーンには特別な意味や価値があるのが『プリティーリズム』です。彼のジャンプにもきっと意味があるでしょう。
「僕は、皆を照らす光になりたい」
「お腹が空いたら、僕のところに戻っておいで」
地上の星となったミナトの元にエデロ生もオバレも俺達を朝帰りさせた電車も何もかも帰って行くだけでなく、全てを包み込む愛の化身となったミナトが地球を包むのです。
「心の荷物をいっぱい積んで、また世界に飛び出そう!僕は皆の"港"!」
伝説級のプリズムジャンプ「無限ハグ・エターナル」を彷彿とさせるその演出は涙なしでは語れない。ミナト…お前ちゃんと地球に…宇宙に輝く星になってるぞ…。
「旅に出るなら☎3710」
「電話はミナト よろしくな!」
今作で初めて泣きながら笑ったかもしれない。
地球は黄色かった以来の衝撃。
この感情がぐちゃぐちゃになる感じこそプリズムショーの真骨頂とも言えると思うし、スタァの道を諦めようとしていたミナトが『スッスッス』で最も狂気的にこの流れを成立させてくれたのにも、何だか嬉しさがこみ上げてくるものがありますね…。ごちそうさまでしたー!!
ミナトのプリズムショーは全体構成で見ればオーソドックスな2連続ジャンプと控えめになっており、話の内容通り他のスタァ達と実力の差を感じられる内容にまとまっていると言えました。
競技としてはジャンプ回数が物を言うプリズムショーでは、どうしても大きな得点には結びつきにくい内容。しかし演出は決して誰かに見劣りしていることなどなく、彼の心の煌めきを体現した凄まじいジャンプを飛んでくれました。最後にしっかり「自己ベストを更新しましたァー!」という彼だけの基準を入れてきてくれたのがまたにくい!
誰かと自分を比べ続ける弱さを捨て、個人として戦った今回の鷹梁ミナトにとってこれ以上の誉れがあるだろうか。自己ベストという概念を持ってくるなら正にここ。最高のプリズムショーを見せてくれたと思います。ありがとうミナト本当にありがとう。
思い出の味
PRISM.1の前、寮に戻ったミナトを待っていたのは、ぐちゃぐちゃになった台所でした。誰か片付けくらいできるだろと思わないことはないが、どうもここに積まれているのは食器だけではなく、大きな鍋やフライパンなどの調理器具も複数あるようです。
コウジが調理をして台所をそのまま汚して帰って行くとは思えないので、もしかするとエデロ生皆でカレー作りに挑戦した残骸だったりするのかもしれません。彼らなりにミナトの苦労を知ろうと頑張っていたのかも。でも片付けはちゃんとしような。料理で一番嫌な部分だからこそしっかりやることを覚えてほしい。
冷蔵庫に入っていたコウジのカレーには、ミナトへの書き置きが残されていました。
「思い出に勝つのは難しい。でも君にはここにいるメンバーと思い出を作っていく時間がたくさんあるってことを忘れないで❤」
コウジ良いこと言うな…❤ヒロにはミナトのカレーで元気を出してもらうことはできなかったけど、エーデルローズの皆は逆に、コウジのカレーを食べてミナトのカレーを思い出しました。そして求めたのは、ミナトの味の方だった。それが彼にとってどれだけの救いになったことでしょう。
最後には、憧れのコウジからの「今度レシピを教えてネ!」という嬉しい言葉まで。ミナトにとって、今までコウジは「自分よりクオリティの高い料理を作る人」だったのかもしれません。だからヒロの心に彼のカレーが響かなかったと思っていた。でも実際は、ヒロにとっての思い出が、コウジのカレーというだけで、彼が劣っているわけではなかったのです。
「帰るべき場所」「待ってくれてる人」から求められているのは、その人にしか出せない味ということにも、彼はきっと改めて気付けたのではないでしょうか。
コウジはそれも知った上で、より優れた料理を作れるスタァです。ミナトの前を走っているには違いありませんが、思い出の味に上下関係はありません。憧れの人と対等な関係で自分達の料理を語り合い、高め合う。そんな未来もきっとそう遠くない未来に訪れることでしょう。
おわりに
ミナト回は他にも色々語るべきところがありますが…ツバサちゃんとウシオくんの話とか…。恐らく倍の文章量が必要になる上に、今回は核心に触れることができないため割愛させて頂きました。
特にツバサちゃんの生い立ちについては様々な考察が巡っていることも確認しているのですが、僕個人がそういう世界設定のようなものの考察をあまり得意としないタイプのオタク(キャラの掘り下げの方が好き)なのでそっちはそっちが得意な人に一旦任せた!というところ。
TV放送版EDでは極めて意味深な構成の映像が付け加えられており、この関係性は後に続いて行くことがほぼ確定的に。続編が創られればこの辺りは改めて掘り下げられるでしょうから、その時にまとめて語りたいですね。
他にもミナトがいなかった時のエデロ組の話とかもしてみたいところではありますが、今回はあくまでミナトをフィーチャーした記事にしてみました。自分のお当番回であるにも関わらず、ミナト本人だけでなくそれの周りを取り巻く人達のことも語りたくなってしまうというのが、如何にもミナトらしい構成と言うか…。
ユキノジョウに続く、本作で個人としての完全な割り切りを迎えたキャラの1人ではありますが、スタァという点ではまだまだ伸びしろだらけの彼。より彼なりの自己主張を極めていく姿が今後も見てみたいと思わされるキャラに成長してくれました。2期が楽しみですね~。
6話は設定的な爆弾をぶん投げて行ったり、話がいささか強引に進んだりと、他と比べてなかなかザックリとした創りになっていたなという印象があるのですが、その分1つ1つの要素の強さが半端じゃなかったと思っています。個人的にはここまでの中でもかなりお気に入りの1話になりました。こういうところが青葉譲脚本の強さかなぁと。
第二章はカケル回で「天から見上げる者の話」ジョージ回で「天に昇ろうとする者の話」ミナト回で「地上で輝くことを選んだ者の話」をそれぞれ扱っているのが特徴的。テーマも「多くの人に向ける愛」「個人に向ける愛」「多くの人を受け止める愛」とそれぞれ異なった観点から「愛を語っている」という共通点があります。
1話1話の強さで勝負した一章から、3話で1つの映画として成立させる方向で勝負してきているのが二章。単純にTVアニメシリーズを映画で流しているわけではなく、「映画としての面白さ」まで織り込んだ展開と話順が意識されているのには脱帽です。
映画としては起承転結の承に当たる部分だけでなく、TVアニメとしては視聴層を固めるのに繋がるのが4話~6話という数字。どのような話を展開すべきか悩ましい話数だと思います。そこをしっかり土台作りされたドラマ力の高い話で堅実に固めてくれたのはとても良かったと思います。
一章二章と最オブの高という感じで、テレビシリーズも始まって毎日が楽しいです。煌めきをありがとう。7話以降はいよいよ「転」に突入。前作までの過去を含め、濃密な設定を盛り込まれたキャラクターが目白押しです。
自分への挑戦として始めたこの感想記事も、想像以上にたくさんの方に受け入れてもらえて本当にありがたいです。お読み頂きありがとうございました。次の話の感想でお会い致しましょう。
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