互いを想い合える本当の仲間
前項を踏まえて中盤以降を見て行くと、彼らの頑張りが見えてきます。
ユウのために企画した合宿で、ユウの心配を他所にひたすら遊び呆けてしまう仲間達。その姿を見て、ユウの怒りは頂点に達します。
「俺はもう本当に知らないからな!!」
何も考えてくれていない仲間達を見捨て、1人高いところを目指して山を登ります。その先、広がった平地で独り物思いに耽ったユウは、寂しさからか見捨てた仲間達のことをつい思い出す。早く迎えに来てほしいと子供らしい感情を見せてきます。
そんな折に姉のいとからかかってきた一本の電話。このタイミングの良い電話はミナト辺りがコウジに連絡して、コウジからいとに連絡が行った…という感じでしょうか。
それにもひたすら強がりで返してしまうユウくん。何としてでも自分の力で作曲をやり遂げたい。もっと言えば、自分達の力で成し遂げたかったのかもしれません。自分達の前を行くスタァの身内に頼るのではなく、今いる仲間達と皆でステージを創り上げたいと思っていたのでしょう。そして姉に心配をかけまいとした優しい性格もあったはず。
でもその仲間達は、本当は全然自分に協力してくれていなかった。この時のユウはきっと本当にそう思ってしまっていました。
「俺には…できないのかな…」
「姉ちゃん達みたいな…同い年の仲間が…」
1人で落ち込むユウの目に映ったのは、星座になった『RL』のキャラクター達。欲しいと願って届かない存在への羨望が彼の心を苦しめます。
そんな彼を目覚めさせたのは、エーデルローズの仲間達の輝きでした。同い年ではないけれど、自分のそばにいてくれる大好きな人達。そんな彼らのことを思い浮かべながらユウは歌います。
この時に流れた楽しい合宿風景の映像は、妄想や願望ではなく回想だったと僕は思っています。エデロ生達は合宿中もユウに負担をかけまいと努めて普段通りの彼らを維持しながら、その実、気を張ったユウがリラックスして楽しめるように導いてあげていたのだと思います。
それは前記した通り、気の遣い方としてはあまり良いものではありません。そういう時だからこそ、彼らはユウに直接的に寄り添って話を聞いてあげるべきでした。それがズレていたからこそ、ユウは怒って去って行ってしまったし、彼らはその「良かれと思った失敗」に悩んだのです。
ユウの怒りを知り、過去を知り、あんなにきつく当たられてもユウのことを本気で考えていた彼らは、そこに来てついに「ユウのSOS」や本当に言いたかったことを理解します。そしてそこで自分達が本当にすべきだったことに辿り着くことができました。本当に、本当に仲間想いの優しい少年達でした。
ユウは独り歌を生み出し歌うことで、彼らが自分に向けてくれていた優しさの存在を初めて実感していました。何もしてくれていないと思っていた仲間達は、本当にすごく沢山の気持ちを自分に届けてくれていた。それを受け取っていなかったのは自分の方だったと気付いたはずです。
「自分にも仲間はいたんだ」
自分を探しに来てくれた仲間達を見てユウは大きく泣き喚きます。
やっと皆の前で泣けました。弱いところや苦しんでいるところを見せて、受け入れてもらったこの瞬間に、初めてユウにとってエデロ生のことを年齢を超えた仲間だと認識できたのでしょう。あれくらいの歳の子供にとって、1つ2つの年齢の違いは本当に大きく感じるものですから。
だからこそあのシーンをユウの願望が見せた幻想であるというように解釈するのは、物寂しい感じがしてしまいます。僕は8話は彼らが自分達だけで苦悩して解決に辿り着いた話だと思っていますし、そこに辿り着くのには彼らの「実際にユウに向けた優しさ」が絶対に必要だったと思うからです。
(Q.風呂は流石に辻褄が合わないのでは?
A.風呂は別の日に入っていたんだと思う)
もちろんこれは僕がクリエイティブな側面に注視した解釈をしているからで、ユウ回は人によって受け取り方が変わるような創りになっていると思います。ですから年齢や『RL』からの繋がりから考えていくと、もしかしたら全く違った解釈も出てくるかもしれません。これも1つの解釈としてお楽しみ下さい。
余談ですが皆が「どうしたんだ?」「大丈夫か?」と声をかける中、1人だけ「独りにしてごめんな」と言えるミナトさんマジでママ。毎回1ヶ所は株を上げる台詞がある気がする。
迷いを吹っ切り、曲を完成させたユウはいよいよPRISM.1のステージに立ちます。今度はクリエイターではなく、スタァとして輝きます!
『キンプリ』と『RL』を結んだ糸
プリズムショーの前に全体の話を少しだけ。
ユウ回はゲストキャラ0人という点から予想された『RL』のキャラの登場は一切なく、それどころかオバレすら登場せず、結果的に『スッスッス』で唯一のエデロ生しか登場しないシナリオになっていました(※ラストカットは除く)
どういう形でもキャラを絡ませられる回だったのに、「あえて」としか言いようがないストーリー構成で攻めてきました。ユウくんといとちゃんの電話も、別にいとちゃんの声を付けることはできただろうに、それをしない選択を取ってきました。
これは「この作品は『KING OF PRISM -Shiny Seven Stars-』なんだ」という製作側の強いメッセージが込められた創りであると言え、今後の『キンプリ』という作品の在り方をしっかり決定付けてくれたと思います。男の子達の物語はまだまだ続きます。
その中で登場したユウくんのこの台詞
「パパとママによろしく」
「……ばいばーい」
これは本当に見事でした。
このいとちゃんに向けた「ばいばい」は明らかに作品間の決別を意識して書かれたものだったと思います。それなのに、この台詞をあの柔らかい言い方で演じてもらったというのが本当に素晴らしかった。
内田雄馬さんの芝居によって、あの瞬間の涼野ユウは、紛れもなく『RL』に登場した涼野ユウ本人になっていました。『キンプリ』という作品の在り方を明確に決定付ける展開だったにも関わらず、そこには明らかに『RL』のキャラクターとして立つ彼がいたのです。
言わば『キンプリ』と『RL』は別作品であるということを明示しながらも、涼野ユウという存在によって「結」ばれているということを一瞬で分からせる演出。何てにくいことができるんだろうと思わずにはいられませんでした。
8話をこのスタンスでまとめてくれたのは、『キンプリ』からこの世界に入った身としては大変喜ばしいものであったし、本当にグッと来ました。しかし「女の子達が登場するのも見たかった…」という気持ちがないと言ったら嘘になります。期待はしていました。
いつかこの結びつきが形となり、全てのキャラが活躍する『レインボーライブ』が見れる日を願って、もっと応援して行こうと思いました。闘いましょう!諦めなければきっと夢は叶います!俺達はここでそう学んだんですから!
全知全能 全てを超えたその先の輝き
ユウのプリズムショーはゴリゴリの厨二衣装に身を包んだところからスタート。背中には十字架(クロス)を背負い、姉へのリスペクトを忘れない。衣装が物理的に浮いているのはもう今更突っ込んだら駄目なんだろうな。
劇中ではあんなにシャレオツバラードを歌い上げていたのに同じメロディラインを使ってゴリゴリのロックに仕上げてくる辺り、心境は変化してもキャラクターはブレてないぜ。ゼウス降臨!!
たった1人で立つステージで堂々と決めるユウ。そんな彼が呼び寄せたかのように中空から舞い飛んでくるのは煌めくギター!
ファンはきっと何度も夢に見たであろう、既視感のあるポーズでそれを掴み取りユウは高らかに叫びます!
「プリズムラーイブ!!」
この瞬間を待っていた。そう思っている人がどれだけ沢山いたことか。やるだろうやるだろうと思っていても、実際やってくれた時の感動はやっぱり格別なものでした。
プリズムライブはペアともの力がないとできませんが、今回のユウのライブはギターが物理的なアイテムではなく煌めきで象られていたことから、ユウ個人のサービス演出のようなものだったのではないか(※現に補助による連続ジャンプを跳ばなかった)というのが個人的所見です。
彩瀬なるの得意としたギターによるプリズムライブ…ロックスターのユウならではの激しい魅せプレイでそれをアレンジ!
即座にギターをスティックに持ち替え、圧巻のドラムプレイ!福原あんのプリズムライブを自分に寄せて!
こうなったら最後はもちろんキーボード!自らの姉 涼野いとをリスペクトした速弾きで会場(劇場)を湧かせます!
「ユウがプリズムライブをするなら、どんな楽器を使うんだろう?」そんな妄想を膨らませた我々の目の前に体現されたのは、想像を超えた3連続演奏でした。
北海道で家族と離れ離れになっていた時、自分を支えてくれたプリズムショー。大好きな姉が所属していた大好きなハッピーレイン♪の3人のプリズムライブをブーストにして、ユウは飛びます!プリズムジャンプは心の飛躍!
邪神ゼウス♂と化し、オッドアイでリアル厨二ソウルを爆発させたユウは空を翔ける!
憧れる女王が立つ山の頂を超え…
欲した幸せの雨が降る空を超え…
目指した虹の先の楽園を超え…
星座に刻まれたスタァ達を超えて…
辿り着いたのは彼らだけの新しい場所
「まだ見ぬ星座を与えよう…」
7つの輝く星はエーデルローズの仲間達。憧れでも心の支えでも目標でもない、自分だけが手に入れた新しい仲間達の星を、ユウは「結」びます。
「その名はエーデルローズ…」
「Shiny Seven Stars!」
ここでお前が…こんな形で…
「-Septentrion-!!」
タイトルを…北斗七星を回収するのか…。
あまりにも全ての想像を超えた盛り込みまくり完全燃焼演出に、どれだけの人が涙を流したのか想像もつきません。ですが、彼はやり遂げた。『プリティーリズム・レインボーライブ』と『KING OF PRISM』を完璧な形で結んでくれました。
女の子達をあえて登場させずにエデロ生7人だけの物語を紡いだ上で、プリズムショーで彼女達とOver The Rainbowの存在をしっかりと演出する。プリズムショーという飛び道具に全振りすることができるこの作品だからこそできた、圧倒的な展開と演出だったと思います。
得点は、全体で見ても決して高い数字が出ませんでした。それは男子プリズムショーにまだプリズムライブを加点対象にする仕組みがなかったせいかもしれないし、連続ジャンプを跳べなかったからかもしれません。でも、彼は彼にしかできない最高のジャンプで魅せてくれましたね。
「見たか!俺にも最高の仲間がいるぞ!」
ユウを見守っていたのは、オバレを含む『RL』に登場したキャラクター達。全員が彼のお兄ちゃんお姉ちゃん的存在で、皆にとってユウは特別な存在です(ところでいとちゃんさん美しすぎませんか…)
けれど最も近くで彼のショーの成功を喜んでくれたのは、PRISM.1に共に挑んだエーデルローズの仲間達「Shiny Seven Stars」の面々です。横に連なった、一直線に繋がった仲間達はより近くにいたのです。
「みーんな俺より年上だけどなッ!」
その時のユウくんの顔は今までよりずっと清々しい笑顔に見えました。お前が全知全能のゼウスだ。
おわりに
9話がアレク回、10話11話のルヰ回シン回がストーリーの根幹に触れる話が展開されることを考えると、この8話は事実上エーデルローズ生達の総括として位置付けられた回であったと思います。
その回に涼野ユウくんを持ってきてくれたことはやはり嬉しかったですし、その話が全てのキャラクターにとって完璧なラストを迎えてくれるものであったこと、本当に感動という他ありません。ありがとう菱田監督本当にありがとう…。
ユウ回は前半で書いた通り、クリエイティブな苦悩やそれを軸にした関係性を主題に置いた話なため、0から1を生み出すということを全くしない人や、好きで得意なものについてスランプに陥るような過酷な状況に身を置いたことがない人の中には、ユウの情緒不安定な態度を上手く解釈できない人もいると思います(※私的解釈です)
結構、複雑で面倒臭い話だと思うのです。友情や親愛と言った要素で構成された話にしてはまっすぐではないですし、表現という世界の歪さがリアルに反映された「分かる人向けの構成」であったことは否めません。
表現が社会的に特別におかしな世界という線引きをしたいわけではありませんが、この話が表現の世界の「一般的ではない部分」を感覚的にフィーチャーしているのは確かです。どんな世界にでもある「当事者しか分からないこと」を描いたものではないでしょうか。
今回は元々『RL』を見ていないと100%は理解できない内容なので、主題も『RL』のヒロコウジを彷彿とさせる葛藤をモチーフにして、少し人を選ぶ方向で振り切った話を描いてみたのではないかという印象です。
僕は3年前『キンプリ』を見て一番興味が湧いた設定がヒロコウジから見えたクリエイターとエンターテイナーのわだかまりであり、この作品を追いかける大きな1つのキッカケになった部分でした。
ユウ回はそういう部分をエデロ生達を中心にして改めて描いてくれたものだと思っており、すごく楽しめました。この感想が、1人でも多くの人にその解釈の楽しみに気付いてもらえるものになっていたら幸いです。ユウはただのクソガキだったんじゃないんです…。
そしてその難しい話やモヤッとした部分を上書きして行くように創られた、プリズムショーからラストまでの怒涛の展開。「プリズムショーが熱かったら細かいところは何とかなる」「ハートで感じろ」というまとめ方ができるのはシリーズ全体の強みです。ユウ回は特にそれが色濃く表れた1話でした。
8話が終わり暗転した後、劇場中からすすり泣く声と嗚咽が一斉に聞こえてきたあの一瞬を僕は決して忘れないと思います。
素晴らしい一体感。劇場中の人達が、ユウくんを応援していて『KING OF PRISM』が好きなんだということが本当によく伝わってくる時間でした。こんなに愛されている作品、そうはありませんよ。
3章は「最高の『KING OF PRISM』」というまとまりを見せた75分だったと思います。7話8話は本当に素晴らしい流れでしたね。
そして残すは9話、俺達の大和アレクサンダー。『キンプリ』を語る上で最早欠かすことのできない男の登場です。彼が3章のトリをどう語ってくれるかは次の記事で。よろしくお願いします。
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