前編はこちら
→『キンプリSSS』マイソング感想&レビュー 「ベストテン」に合わせて音楽の魅力を振り返ろう(前編)
後編です!
「三章」と「四章」のマイソングを振り返って行きましょう!
目次
Twinkle☆Twinkle/西園寺レオ
ここは Twinkle Twinkle
きらめく 夢のステージ
他の誰でもない私らしく!
本当の自分で胸を張っていこう
「劇場編集版 三章」のトップバッター、7話を務めた西園寺レオの「Twinkle☆Twinkle」は、愛らしさに溢れながらも前向きさを感じさせる力強い一曲。
使用されているのは少女的な色を強く出すファンタジックなサウンドではあるものの、曲の進行は男性ポップスを感じさせる仕上がり。キーも滅茶苦茶高いということはなく、一般男性でもしっかり歌い切れるレベルの音域の楽曲です。
過去の楽曲では全体的に可愛らしく歌い上げることが多かったレオがかなり男性寄りの勇ましい歌唱をしているのも特徴的で、総じて男性的とも言えるし女性的とも言える楽曲に。こういう時「どちらでもない」と表現したくなるものですが、今の彼の場合は「どちらでもある」というのがベターでしょう。
曲調の割にベース音が強めに響いてくる調整が施されているおかげで、美しい曲と言うよりもしっかりとした曲のように感じられます。レオが物語中で確立した芯の強さを表現してのことだと思っています。
序盤はどちらかと言えば可愛らしく。後半に向けてどんどんと勢いが付いて行き、ギターの音がより強く耳に届くように。最後はカッコいい曲という印象もしっかり持つことができます。「他の誰でもない私らしく」が音で表現されていると言えるでしょう。
プリズムショーでは、曲が穏やかな序盤では勇者の装い。激しくなる中盤以降では花開き妖精になるという構成で、楽曲とショーの展開が真反対になっているのが面白い。映像と音楽を通して「どちらでもある」というのが感覚的に伝わってくるように練られているようです。
歌詞は実直に今のレオの気持ちが謳われたもの。比喩や例え話のような詩的な表現が非常に少なく、心の中にある言葉をそのまま歌にあてがったような内容で、全曲通して最もストレートに感情が伝わってくる歌詞になっていると思います。
少女達が活躍する『プリティーシリーズ』の原点を感じさせる音楽でありながら、男性としても在るレオだからこそカッコ良く歌い切れる絶妙なテイスティング。
様々な経験と葛藤を経た西園寺レオが至った「私らしく」が貫かれた、聴いていて元気が湧いてくるマイソングです。
Shiny Stellar/涼野ユウ
ながれ星が すすむべき道となり
まえを見て またあるきだした
8話でクリエイターとしての葛藤、年齢差での葛藤といった繊細な物語を見せてくれた涼野ユウが生み出した「Shiny Stellar」は空に輝く星々を歌ったロックナンバー。
劇中歌として披露された弾き語りバージョンから一転したゴリゴリの曲調は、それだけで彼らしさを感じさせてくれるもの。それでいて退廃的なハードロックではなく、天を開くような明るい曲調なのがポイントです。アンニュイな気持ちから解放されて仕上げた楽曲であることが伝わってきます。
全曲で最も空間的な拡がりを感じられる一曲で、一ヶ所にまとまることもなければ包み込んでくることもない。空に向かってどこまでも高く伸びて行くような音が、非常に印象的に耳に届きます。
音楽としてはもう少しキュッとさせるのが耳馴染みが良くセオリーだと思うのですが、あえてその仕上げを抑えめにすることで、ユウの持つ前のめりな気持ちや未完成な才能を強く感じさせる曲になっていると感じます。
実際に高音質環境で聴き比べてみると、この「Shiny Stellar」は他の曲とかなり聞こえ方が違っていて、シビアなミックスやマスタリングが行わているのを感じます。楽器の種類が多く、響きのある音が多用されているのも関係しているでしょう。
ここまで音を豪華にするならもっと音を激しく強く足して行っても良いだろうし、逆に引き算をしてカッチリまとめてしまっても良い。でもどちらにも振り切れていないところにすごく彼の等身大さを感じる一曲で、そこまで含めてこの曲に惹きつけられてしまうのです。
美しいメロディと曲調の中に、どこか音が喧嘩しているような荒々しさがある。そこはかとなく感じられるロックの色味が独特の味わいを生み出しています。
本作のエーデルローズ生の楽曲は全てユウが作曲している設定であることを考えると、自分の曲だけが滅茶苦茶に挑戦的な創りなところもまた愛すべきポイントです。
歌詞は自分の気持ちに少しの比喩表現をプラスして、ちょっと背伸びしたい感が見える内容に。また、非常にひらがな表記になっているフレーズが多く、細かいところからユウらしさを感じられる工夫も見られます。にも関わらず難しい言葉がしっかり漢字なのも"そういうこと"なんだろう。
自身がリスペクトし姉が所属するハッピーレイン♪のプリズムライブを取り入れたフレーズの存在など、とにかく涼野ユウの軌跡が詰まったマイソング。全ての物語と合わせて聴くと、特別感も大きいですね。
survival dAnce ~no no cry more~/大和アレクサンダー
No,no cry more 泣かない
想い出 作ったら?
この夏こそは! この夜こそは!
この街きっと見つかる
「三章」のラストで珠玉のエンターテインメントを体現した大和アレクサンダーの「survival dAnce ~no no cry more~」は、本作のマイソングでは唯一のTRFのカバーナンバー。元祖ストリートのカリスマ 黒川冷をリスペクトしたアレクの気持ちが詰まった選曲です。
原曲があまりにも有名な一曲で「yeh,yeh,yeh,yeh~」のフレーズはどこかで1回は耳にしたことがある人が多いはず。その楽曲をアレクらしいメロディアスで攻撃的なアレンジで届けてくれました。
原曲はメインボーカルがメロディアスに歌うフレーズと「yeh,yeh,yeh,yeh~」の多人数録音でメリハリと緩急をつける斬新な構成が大きなセンセーショナルを生みましたが、『キンプリ』では全てをアレクが単独で歌唱するため、かなり聴き応えに差があります。
また男性キーの中でも低めのキー設定になっているため、突き抜けた盛り上がりよりも歌手の歌唱を楽しむ面が強調された独自性の高いアレンジに仕上がっています。総じて「皆で盛り上がる」のではなく、「アレクが皆を楽しませる」ことに重きを置いた楽曲に。
今までのアレクの振る舞いを考えれば、いきなり全ての人を巻き込んで盛り上げるということはどだい不可能なこと。しかしこの楽曲をチョイスしたこと自体は、彼の「盛り上げたい」という意志を多分に感じさせるものです。
その方向性として、まず1人のスタァとして煌めきを届けることを重視するのは当然と言え、楽曲の魅力とアレクの持ち味や立場を内包した一曲になっていると思います。
曲後半では薄っすらと歓声が挿入されることで曲からもボルテージ上昇やライブ感を感じられるようになっているなど、あくまでステージ演出を前提にした楽曲であることが意識されています。
歌詞については、このアニメのために書き下ろされたものではありませんが、制作段階で菱田監督が「アレクはsurvival dAnceで行きたい」と強く主張したことで実現したプリズムショーであることが語られています(※公式設定資料集情報)
そのためか物語と歌詞の内容にも一定のリンクが見られ、また(TRFカバーがあの世界でもカバー扱いであるならば)黒川冷リスペクトの彼が「自身のショーに既存曲の中からこの曲を選んだ」こと自体に彼の想いが込められていると解釈することもできます。
黒川冷だけの後を追う、元祖ストリート系の寵児として。今の彼にしかできない魅力が詰まったマイソングでした。
I know Shangri-La/如月ルヰ
I know 忘れそうだった気持ち
騒ぎ始めて Sing'I love you'
あなたがくれたときめき
いろんな色 Like a Sweet Rainbow
問題の「四章」の皮切りとなった如月ルヰのプリズムショーは、いっぱいの明るさに包まれた楽曲「I know Shangri-La」です。
キャラクターとしての立ち位置や『キンプラ』の「ルナティックDEStiNy」で確立された妖艶でミステリアスなイメージから一転、『スッスッス』ではスキップを踏むような軽快なリズムが印象的な一曲に。
音程の動きが極端に少なく一定のメロディラインが維持されているのが特徴で、メロ~サビまで全体を通して曲に大きな変化が感じられない創り。その上に乗る表現力豊かでリズミカルな歌声まで含めて、如月ルヰの心中をストレートに伝えてくれる音楽に仕上がっています。
創り手と歌手、双方に技術と信頼があって初めて成立する楽曲で、その完成度はどことなくBGMを思わせます。歌声すらも楽器であることを感じさせてくる耳馴染みの良さ。全てが溶け込み混ざり合って1つの楽曲が出来上がっていると言えるでしょう。
メロディラインが平坦である故に散りばめられた音の配置には緻密な工夫が見られ、どのタイミングにおいても一片の隙間なく美しい音が耳に入り込んでくるのが本当に心地良い。音が過剰に入っているわけではなく、パズルを組み上げるように過不足なく詰め込まれているのです。
"幸せ"と"愛"で胸がいっぱいになっているルヰの心を、変化の少ないメロディと敷き詰められたハッピーな音の数々で存分に表現されています。全てを包み込むように彩られた世界観は、聴いているだけでこちらの胸に滂沱の温かい感情を宿してくれるほど。
その上に乗る歌詞は、劇中で展開されたシンとのテーマパークデートを彷彿とさせるルヰの透明な感情が謳われたもの。一条シンへの「I Love you」をまっすぐに歌い上げています。
個人的に「まるで今日の私たち 映画のよう」というフレーズが物凄く好きで。ルヰ自身、異邦の地で神々に生み出された存在であり、おとぎ話の登場人物とさえ言える立場です。その彼が自分達の出会いと感情を創作物になぞらえて表現するというのに、得も言われぬ美しさがあります。
自分の出生や立場、置かれた環境、シャインへの想い、一条シンとの出会いと生活。複雑な感情と想いを内包してがんじがらめになっていたルヰが辿り着いた、たった1つの穏やかで安らかな気持ちと結論。
それを最後まで安定した曲調と慈愛に満ち満ちた表現で精一杯に語り切るマイソング。それがこの「I know Shangri-La」です。
プラトニックソード/一条シン&シャイン
愛してる ただ 愛してる いま
生きてる以上の幸せ あげたいのさ
愛してる ほら 愛すればいい
君の目には僕しか映せない
どんな局面でも常に元気の出る音楽で展開されていたプリズムショーにおいて、初となる楽曲その物が恐怖を体現した11話の一条シン(シャイン)の「プラトニックソード」には、鮮烈な衝撃を受けた方ばかりだったことでしょう。
センセーショナルに開幕するイントロ、不協和音に彩られた伴奏に不釣り合いな美しい主旋律。明と暗が緻密に混同されたこの楽曲は、聴き手の感情を的確に揺さぶることで恐怖と魅力を同時に体験させます。時にはそれは純粋な感動にもなるし、また逆に大きな嫌悪にもなることでしょう。
シンフォニックサウンドを主として展開する楽曲ですが、ところどころ耳に入ってくるエレキギターの音が心をかき回し不快感を煽ります。またアコースティックギターのカッティング音やマラカス(のような音)など一部民族的なサウンドを用いられているのも、曲全体の不気味さを強調する意味を持っていると思われます。
その上に乗るのは透き通るような美しい歌声。楽曲と正反対の響きを持つシンの声が、楽曲に適合するような無機質な表現をもって耳に届きます。音楽としては美しいですが、歌としては恐ろしい。何を優先して聴くかで総合的な印象が異なる楽曲です。
またマイソングコレクションに収録されているシン個人バージョンと、サントラに収録されているシン&シャインバージョンでは楽曲のミックスが異なっています。
前者はメインの美しい旋律が前に強く出るようになっていて、後者はくぐもった音やノイジーなサウンドが強く聞こえるアレンジ。シン&シャインの方が遥かにおぞましい楽曲に聞こえますね。同じ曲でしっかり聴かないと分からない程度の違いなのに、こんなにも感覚的に受ける印象が異なるのかと感嘆させられます。
シンのソロは単一の曲として耳馴染みが良い仕上がりですが、後からシャインが徐々に迫ってくるデュオ版はこの曲だけが持つ唯一性がより底上げされており、アニメで受けた衝撃がフラッシュバックする面妖さに。
意外とメロの低いところはシンとシャインで声が違うんですよね。ただサビの高音部に近付くにつれ、2人の歌声がしっかりと親和する。それがまた恐ろしさを助長します。
歌詞はアニメで披露した「愛の押し付け」を思わせる内容に留まらず、2番では「愛してよ」「愛してほしい」と逆に愛を渇望する内容が入り混じった、感情の複雑さを感じさせる内容。
表面的なキャラクター性しか見えておらず、まだ真の内面が描写されていないシャインというキャラクターを捉えるヒントと言えるもので、今後の展開を想起するのにも一役買う一曲であると言えるでしょう。
彼は何ゆえに愛を与えるのか。
そして何ゆえに愛を求めるのか。
この曲を聴いて彼のプリズムショーを思い出しながら、"純粋"な"刃"を持つ彼の今後について想いを馳せるのも一興でしょう。
ナナイロノチカイ! -Brilliant oath-/Edel Rose セブンスターズ
何より素晴らしい 何より楽しいのは
みんなの愛が溢れているから
一緒に生きて行こう バージンロードの先へ
ハピネス・セヴンス・ハネムーン
最終話で披露された「ナナイロノチカイ! -Brilliant oath-」は、エーデルローズ生7人が届ける珠玉のユニットソング。
11話の衝撃から一転して、幸せと光と煌めきに満ち溢れた音使いが心を躍らせる『KING OF PRISM』の本懐を詰め込んだような一曲です。
ひたすらに明るい音だけを詰め込んだ力強いサウンドのこの曲は、直球勝負で100%の前向きさを体現。ウェディングをモチーフにした響き渡る鐘の音が印象深く耳に残ります。
ウェディングソングではなく「ウェディング色のあるショーソング」というのがポイントで、それがこの曲の唯一性ではないかと思います。アニメの最終回を盛り上げる疾走感を持つメロディ、それに結婚を感じさせる美しく壮大な音遣いが加わることで、他にはない感動を生み出しています。
彼らはまだ結婚するような年齢ではなく、経験があるわけでもありません。まだまだ子供の身でありながら壮大な「誓いの歌」を歌っているのです。その勢いと突き抜けた気持ちを表現するのに、上手な感情表現は不要と言わんばかりに、ひたすらに強い音がぶつかってくる。
だからこんなにも幸せに包まれた音楽なのに、どこか圧倒されて何も言えなくなってしまう感覚があります。「プラトニックソード」と同じような体験でありながら、受け手が宿す感情は全く異なっているというのが実に面白い体験です。
伝えるのではなく、分からせてくる感覚。見ようによっては暴力的に見えるそのやり口は、それを受け入れる準備をしている受け手への信頼に他なりません。ただの良い曲ではなく、過剰とも言える"光"の音遣いに彩られたこの曲は、『キンプリ』でしか体現できないと言っても過言ではないでしょう。
その音楽を成立させるのが7人の歌声です。
7人の歌声の親和性が高いのは最早語るに及ばずですが、彼らが揃った時の包み込まれるような優しい響きが、この曲の攻撃力をマイルドな感情にして我々の耳に届けてくれている。彼らのおかげで最終的に感じられるのが、強さ以上に大きな温かさや優しさになるのです。
歌詞で謳われている彼らの誓いの言葉とファンに伝えたいまっすぐな気持ち。マイソングシリーズとは違い「個人的ではないが、皆が同じくそう思っている」少し抽象的な表現が、逆に彼ら7人の物語を総括して届かせる熱量に繋がっています。
「生まれ変わっても22世紀でハグしよう」というインパクトのあるフレーズは、『スッスッス』で生み出されたこの作品の新たな象徴になり得るものです。
"ナナイロノチカイ"を受け取る8人目は私達。プリズムの煌めきはいつもそばに!
おわりに
2記事に分けてマイソングコレクションを振り返りました。合計で10,000文字以上!今回も頑張りました!
プリズムショーはあらゆる成分を複合して楽しむことができる珠玉のエンターテインメントショーですが、音楽によって煽られる感情は我々が想像しているより物凄く大きなものであると考えます。
何となく聴いていても胸に届くのには、それだけ大きな創り手のこだわりが存在するから。それをつまびらかにする必要が必ずしもないのが音楽ですが、その想いをできるだけ汲み取ろうと意識して聴くのも凄く楽しいと思っています。
僕は音楽的知識が豊富なわけではありませんが、言語では言い表せない感情を表現してくれる音楽というジャンルが本当に大好きです。今回はそれらの良いところを可能な限り言語化させて頂きました。
ですので、この記事が『スッスッス』の楽曲を何となく「良い曲だなぁ」と思っていた人達に、何かしらの気付きをもたらすものになっていたら幸いです。
さぁいよいよ始まった最新作の『プリズムショー ベストテン』!2020年!また皆でプリズムの煌めきを浴びる毎日を始めましょう!
『キンプリSSS』全話感想まとめ