2021年1月クールより始まった新フィギュアスケートアニメ『スケートリーディング☆スターズ』。
スケートリーディングという架空の競技スタイルをモチーフにしており、既存の知識やセオリーだけでは想像できない可能性を秘めた作品です。
オリジナルアニメにしては登場予定キャラクターも非常に多く、どのような作風になるのかも全くの未知数。フィギュアスケートという日本人に馴染み深いスポーツの中で展開される、全く新しい物語。
その第1話を読み解いて行こうと思います。よろしければお付き合いくださいませ。
前島絢晴の人生
『スケスタ』の物語は赤髪の主人公 前島絢晴の人生にスポットが当てられるところから始まりました。
幼い頃に指導者であった両親を急に亡くし、どうしても勝てなかったライバル 篠崎怜鳳に勝つこともできない。その篠崎からはライバルとして認められることさえなく、幼き頃の前島は心折れてスケートの道を諦めてしまいます。
開幕から目を背けたくなるような映像と情報の応酬。あまりにも人生ハードモード。そんな痛烈すぎる挫折を10年そこそこの人生で味わった少年が、本作の主人公です。
彼自身は天才少年であった篠崎に肉薄するほどの実力者で、幼少期よりスケートに勤しむサラブレッドでもありました。決して実力不足が要因となった諦めではなく、あくまで心の問題による挫折だったというのがポイントです。
亡くなった両親に報いるために全力で努力したにも関わらず、冒頭シーンのような地獄を経験したのです。10人いたら10人がそこで心折れると言っても過言ではないような状況だと思います。
むしろ両親を亡くしてもスケートの練習を続けて大会に出場し、好成績を収めたことこそを見てあげるべきです。表彰台ではギリギリまで篠崎に食らいつこうとする諦めの悪さも披露していますし、控えめに言っても当時の彼は小学生のメンタリティではありません。
それだけ頑張っていた故に、折られた時の衝撃も半端なものではなくなってしまうもの。強く大きな存在ほど、倒れてから起き上がるのには時間も労力も消費します。
その背景を知らない者から見れば、前島絢晴は尻尾を巻いて逃げ出した敗北者になってしまう。
才能を持っていながら、どうしても勝てなかったから諦めた。元ライバルの話は完全なタブーであり、視界に入れることさえ許されない。
それを持って周りから「メンタル弱すぎ」と評されてしまうのはあまりにも理不尽なことです。しかし彼はその評価を受け入れて、自分なりに人生を納得して歩もうとしている少年でした。
その姿が痛々しくもあり、力強くも見える。そんな主人公の出で立ちを見るところから、『スケートリーディング☆スターズ』は始まりました。
恵まれた素質 折れた心
高校生になった前島は、自分の才能を活用して数々の部活動で助っ人として活躍していました。
どこかに所属するのではなく、必要とされるタイミングで美味しいところだけを持って行く。それが今の彼が自分を満たすために取っている選択です。
彼に備わっていたのは、「頭の中のイメージをそのまま身体の動きに反映させられる」という稀有な才能でした。それがその助っ人活動を成立させている大きな要因となっています。
一般人にとってのスポーツの練習は、まず頭と身体の齟齬を埋めることから始まるもの。自分的にはこう動いているつもりだったが、実際には違っている。その思い込みを取り外し、正しい認識を持てるまで反復するのが第一段階。素振りなどの単純練習は、そのためのものでしょう。
前島は言うなれば、その基礎練習をすっ飛ばして実践に移れる身体を持っているということです。自分の身体能力が追いつく限りの動作は、全て「見ただけでコピーできる」のです。
そして彼は小学生にしてフィギュアスケートで好成績を残せるほどに、恵まれたセンスとしなやかな筋肉までも持っています。そういった才覚により、高校生レベルであれば何でも卒なくこなせてしまうようです。
その才能を中途半端に振りかざし、何かに使い切るわけでもなく埋もれさせている。そんな前島は人によって妬ましく疎ましい相手になり得ますし、特に昔を知るスケート部の面々が彼を快く思わないのは自明でしょう。
抱えてきたもの、抱えているものの大きさは、本人にしか分からない。そして彼らは他人のそれに思いを馳せられるほど、まだ成熟した年齢ではありません。
過去の苦心惨憺を見せることなく、腐った自分を受け入れて今を生きる前島絢晴。ですが一生懸命に前を向いている限り、彼の生き方が周りに受け入れられる日がきっといつか訪れるはず。『スケスタ』は、彼自身とそれを取り巻く周りの変化を見届けるアニメになるのかもしれないと感じています。
焚き付ける流石井隼人
突如として前島の前に現れた1人の少年。流石井隼人と名乗った彼は、自分を篠崎怜鳳の腹違いの弟(同い年)だと宣言します。設定が重いな。飄々とした態度でありながら、彼もまたかなり暗い過去を抱えているようです。
感情的で自分の思惑を叶えるためには手段は選ばない少年ですが、見る目と道筋を考える力は本物といった印象。前島が肉体を感覚で操れるタイプだとしたら、彼はスポーツにおいても考え抜いて正解を導き出すタイプと言ったところでしょうか。
しかしセオリーを重視して論理的に物事を解釈するようには見えておらず、果たすべきゴールに向かってしっかり自分の頭で考える能力に長けている印象です。勉強ができると言うよりは、地頭が良いと言われるようなイメージです。
そのせいか人の心に訴えかけるやり口を得意としているようで、前島も今回それにまんまと焚き付けられた形となりました。
人の感性に訴えかけることを旨とするフィギュアスケートという競技において、彼の持つ才覚は非常に優秀と言えるのではないでしょうか。チーム競技であるスケートリーディングではブレインの重要性も高いはずですし、感情と論理の両方を持ち合わせる彼の活躍幅は広そうです。
対して本人の弁ではスポーツの才能は持っていないらしく、彼の弁を借りるなら「自分のイメージ通りに身体を動かすことができない」のでしょう。どれだけ考えても、煮詰めても、自分はその"自分のイメージ"を実行することができない。それはスポーツを愛する者としては、きっとあまりにも辛い現実です。
だからそれを自分の代わりに実現してくれる存在を探している。そして見つけたのが「イメージ通りに身体を動かせる」前島絢晴だった。そうできない流石井だからこそ、前島の才能に大きな価値を見出したのかもしれません。
埋もれている彼の才能を今一度掘り起こし、リンクの上に引きずり戻す。そのために必要な準備を、彼は入念に(?)揃えていました。そのどこまでが思い通りで、どこからが感情に起因する行動だったのか。それが流石井隼人を見守る上でのポイントとなりそうです。
言葉にした目的は篠崎への復讐。ただしそれはスケートリーディングという協議を愛するが故の翻り。
心に灯る激情を、思い通りにならない自分の身体と抱き合わせて。彼の見る未来が何を思い描いているのか。それを見られる時が来るのが楽しみです。
スケートリーディング
前島絢晴がどこの部活にも入らず、その才能をそんざいに振るっていた理由。それは前島自身の捨て切れないスケートへの想いにありました。
やはり彼が本気でやりたいと思っていたのは、フィギュアスケートだけだった。幼少期に経験した挫折、その大元はあくまでも心の問題。完全に折れたと周りから思われていた彼の心は、実はギリギリのところで踏み止まっていたのです。
誰にも見つからない公園の土の上でスケートの練習に励み、実は篠崎怜鳳の動きも人知れずコピーしようと研究を続けていました。にも関わらず過去の話がタブーであるかのように振る舞い、周りにはそう思わせて生活している。これは彼が「周りにそう思っていてほしい」と思っているのではないかと解釈しています。
前島はどこかで過去の自分を恥じていて、それに固執している今の自分を恥じていた。その気持ちがフィギュアスケートから彼を遠ざけ、同時にフィギュアスケートへの執着も生んでしまっていました。
そして流石井の語りを見るに、今彼を育ててくれている祖母は、前島がスケートをやることに否定的な面があるようです。両親が亡くなったことと、無関係ではないのかもしれません。
そういった他人への慮りも含まれてしまっているとすると、前島の持つフィギュアスケートへの気持ちは混迷を極めていると言う他ありません。単純なものではない故に、周りには単純な理由で見てもらえていた方が気が楽だ。そういった側面もあるでしょう。
相反する気持ちが無数に存在する心を、自分独りで正当化して折り合いをつけようしていた前島絢晴。ただし、やはりそこから漏れ出る本当の感情は、見る者が見ればしっかりと見抜かれる。目の前に現れた流石井隼人は、彼の隠した心に可能性を見出しました。
それは望んだタイミング、望んだ形で訪れたものではなかったことでしょう。
しかしチャンスの女神は前髪しかない。
100%自分の思い通りの出来事が起きることなど、奇跡でも起きない限りあり得ない。
「――ふざけんな…チクショウ!
俺はあんな奴に馬鹿にされるために諦めたんじゃないんだ!」
初対面のいけ好かない野郎の言うことではあったものの、その物言いは十分に彼を焚き付ける"力"を持つものでした。
「俺は、俺は――」
自分の感情に従った前島が向かったのは、流石井が用意したという復活の狼煙を上げる舞台。篠崎怜鳳が行うシングル最後のエキシビジョン。そして彼らがスケートリーディングの舞台へと歩み入れる、全ての始まりのステージ。
「――俺はまだ飛べる!もっと滑れる!」
今一度、かつて自分の心を折った仇敵と同じフィールドへ。自分自身に嘘をつかず、燻らせた本心を燃え上がらせて。前島絢晴と共に描く『スケートリーディング☆スターズ』の物語。戦いの火蓋はここから切って落とされます。
おわりに
怒涛のスピード展開で一気に話を進めた第1話「盟約」。殻を突き破った前島絢晴は晴れて再びスケートの世界へ
…と言いたいものの、それでここまで傍若無人に振る舞ってきたのが無かったことになるわけではありません。
心変わりしたからと言う理由でスケートリーディング部の面々が彼を受け入れてくれることなどあるわけがなく、前島の本当のスタートは周りへの清算を行ったところからと言った感じでしょう。
スケートという絵的な疾走感が魅力のスポーツを題材にしている通り、スピード感ある展開でしっかり1話目を演出してくれたTVアニメ『スケスタ』。まだまだルール以外はどのような競技かも分かっていない状態ですが、フィギュアでチーム競技という独自性をどう表現してくれるのかが楽しみです。
今後とも最終回までこの作品は追いかけさせて頂きます。好評であれば2話目以降も感想記事の公開が続きますので、続きを読んでみたいという方は、是非ともシェアして頂けると幸いです。
『超感想エンタミア』のはつでした。またその他の記事でお会いできれば幸いです。